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ロッシュのクラス
しおりを挟むグレイスの踊りは船員達のステータスを向上させ、それぞれの働きをより効率良く、よりこなしやすくしていった。再度彼女のバフを授かると、もう一度前線で戦う敵船へ乗り込む準備を始めるシルヴィ。
「よっしゃッ!んじゃぁ俺も前線で暴れて来るとするか!」
シンの中に過ったのは、最初にシルヴィを見かけた時の光景だった。元々ロッシュ襲撃を果たしたシンは、倒せるとまでは思っていなかったものの、何か彼の秘密や弱点でも探れれば儲けものくらいの気持ちで挑み、危険となれば直ぐに戦線を離脱するし、グレイスと合流する予定だった。
しかし、ロッシュの執拗な攻撃を受けそれどころではなくなり、逃げ切るのがやっとの状況にまで追い詰められてしまった。やっとの思いで逃げ出す時に、一矢報いようとロッシュを引きずり落とそうとしたのが功を奏し、シンが脱出する時間とグレイスへの合流を果たす為の時間を稼ぐことに成功した。
その途中、通り過ぎようとしていたシルヴィが乗り込んでいる敵船の甲板に、負傷して今にも息絶えそうな彼女の姿を見つけた。それが例えグレイス軍の者であろうとなかろうと、その人物を助け後々事情を聞こうと思ったのだ。
もし仮にも、ロッシュ軍の者だったとなれば何か彼の秘密や作戦の一端を聞き出せるかも知れない。結果的にシルヴィという、グレイスの将であったことが判明。彼女の命を救い、そのことがルシアン救出にも影響してくることとなった。
シルヴィが一人で敵船へ乗り込むことに、否定的な感情を持っていたシンは、勢いづく彼女を静止しようとした。
「まッ・・・待て!戦況はこちらが押しているんだ。このまま様子を見て、ロッシュの介入を待ってからでも遅くないんじゃないか?」
焦った様子で彼女の前に身を乗り出して静止するシン。それを見たシルヴィは、最初は驚いたものの直ぐに自身を心配しての行動であることを悟り、同じ轍は踏まないといった様子で彼を説得する。
「安心しな、今度は姉さんのバフが乗ってんだ。そう簡単にはやられねぇよ。それに一人じゃねぇ・・・前線を押し上げるくらいのところで止まるさ。それともなにかい?俺じゃぁまたやられるとでも言うのか?」
シルヴィのようなタイプの人は、あまり心配し過ぎて行動を静止するとかえってプライドを傷つけてしまうことになる。それに彼女の言葉には、シンを納得させられるだけの説得力がある。
グレイスのバフ効果を受けたのはシンも同じであり、ルシアン救出のためシルヴィと共に彼女のバフを授かっていた。身体は軽くなりスキルの調子は良く、ボードの操縦も心なしか上手くいっていたように思える。
そして彼女は身体を動かして準備を終えると、前に乗り出てきたシンの横を通り過ぎて行く時に彼の肩に手を置いた。
「これ以上お前にみっともないところは見せられねぇしな・・・。言っただろ?グレイス軍の戦い方ってやつを見せてやるって。これからその真髄を味合わせてやるよ」
そう言い残してシルヴィは、前線で敵船と接触し、戦闘を繰り広げている仲間の元へと馳せ参じて行った。
シルヴィを見送り、自分にも何か出来ないかと考えた結果、シンも再びロッシュへの奇襲を仕掛けることを思いつく。彼女の言う通り、今度はシンもグレイスのバフを授かっている。
スキルの能力アップ、距離や範囲の拡大、それに投擲の威力も増しているとあらば相殺されることもまず無いだろう。もう一度乗り込む覚悟を決めたシンは、その前にグレイスへロッシュとの戦闘のことを伝えた。
「グレイス、ここへ来る途中ロッシュと戦ったんだが・・・」
「何だってッ!?ロッシュと・・・?」
シンの思わぬ告白に同様するグレイス。それもその筈、敵軍の総大将と既に一戦交えてきたと聞けば驚くのも無理もないだろう。元々この戦いは、グレイスがロロネーとロッシュの企みを知り、妨害する延長線上で画策したもの。
ロッシュがグレイスのことを知っているのと同じく、グレイスもロッシュのことについて調べており、ある程度の予備知識はある状態で戦いに臨んでいた。だが、シンの語ったロッシュとの戦いは、彼女の知らぬ情報も含まれていた。
「俺は奴の船に潜入して、ロッシュ或いは主戦力になりそうな奴の暗殺を試みようと思ったんだが、その前に奴に見つかって・・・。ロッシュはたんさく能力に長けているのか?それに船内で戦った時に見た、あの光るうねうねとしたモノは一体何だったんだ・・・。壁や床のあちこちを這っていて、俺の位置が直ぐにバレるんだ」
「光るうねうね・・・?何だそれ?奴の新しい仲間か?・・・とにかく奴の感の良さと鋭さは、クラスやスキルの効果ではなく、奴自身のものだ。強いて言うのならばパッシブスキルのようなものだな。ただ、それで探索が出来るかと言われたら・・・甚だ疑問だねぇ・・・」
彼女もロッシュの扱っていた“光”については知らなかったようだ。そしてシンがロッシュに奇襲を仕掛ける上で、最も知っておきたかった情報に触れたのをシンは聞き逃さなかった。
「そうだ!グレイス、ロッシュのクラスについて何か知っているか?奴のクラスが分かれば、もっと警戒のしようもあっただろう。それに対策だって・・・まぁ調べ不足なのは俺が悪いんだが、まさかロッシュと戦うことになろうとは・・・」
「アタシの知っている情報で良いんなら教えてやるよ。ロッシュのクラスは、トレジャーハンターとパイロットだ。珍しいクラスだが、それによって奴は凡ゆる乗り物を乗りこなし、相手から奪ったものを最大限有効活用する奴だったよ。・・・だからその光る何ちゃらって言うのは奴のモンじゃないかも知れないねぇ」
トレジャーハンターのクラスはそこまで珍しくもない、割とメジャーなクラスだ。問題はロッシュのもう一つのクラスだろう。
パイロット。全くもって想像もしなかったクラスだった。グレイスの言う通り、恐らく乗り物系統を自在に操れるようなスキルが用いられるのであろう。そして最も重要で不可解なモノが浮き彫りとなる。
シンは潜入した際、船内を調べて確認している。ある程度の船員こそ乗っていたものの、二人が戦った室内の側に人影はなかった。あの場所にいたのはシンとロッシュのみ。故にグレイスの言う、第三者の介入は考えづらい。
それならばあの“光”は、一体何者の仕業だったのだろうか。
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