266 / 1,646
リンクする武神の片鱗
しおりを挟む
シュユーの話から、別の海賊船があったという言葉はなかった。襲撃を仕掛けて来た海賊船がボロボロであったことから、別の増援が来たのなら直ぐにわかる筈。それを確かめる意味でも、ミアは彼に別部隊の可能性を伺った。
「それだけの数が一海賊団のものであるなら、ロロネー海賊団というものはもっと強大な組織である筈では・・・?別の増援である可能性はないのか?」
しかし、流石にそんなことを見落とすほど冷静さは欠いていないと、シュユーは首を横に振る。霧の中で彼らを襲撃したのは全て一律し、ロロネーの海賊船で間違いないようだ。
「そんな馬鹿な・・・。あれだけ目立つ海賊船だ、レーススタート時にそれだけの数が来ていれば注目を集めない筈はないだろ?何処にそれだけの軍を隠していたんだ・・・」
「えぇ・・・。ですから我々も不意を突かれたのです。ロロネーの襲撃は事前に知り得た情報です。そしてその戦力も、到底我々の数に及ぶものではない筈でした。何かカラクリがあるようにしか思えません・・・」
シュユーの言う通り、何かしらのスキルや魔法などである可能性の方が強くなる。数を多く見せるスキルと言えば、幻術や忍術、彼らの使う妖術など、その手段は様々だ。
聖都ユスティーチを牛耳っていたシュトラールもまた、陰陽師のスキル式神によって無数の鎧を操り、日常生活に溶け込ませるといった芸当をしていた程だ。相当な魔力や準備があれば、相応の数を従えることも出来るのだろう。
「それなら・・・ロロネーのクラスは魔法職や術系統ということか?」
ミアの問いにシュユーは表情を曇らせ、暫く口を開くのを躊躇っていた。その反応から大体の想像がつく。
彼らの知るロロネーという男は、魔法や術を使うような人物ではないということだろう。そしてグラン・ヴァーグの店先で見た彼の言動や粗暴からも、器用な戦い方をするような者とは思えない。
「わかりません・・・。我々だけでは、あの男のカラクリを看破するには至らなかった・・・」
悔しそうに俯くシュユーであったが、直ぐにその表情は希望あるものへと変わり、それを自らの誇りのようにミアへ話し始めた。
「ですが、ハオランが戻ったのなら話は別です。どんな魔法や術であろうと関係ない・・・。彼の力があれば、戦場の盤面を引っくり返すことなど造作も無い。今からそれを、“彼ら”が証明して見せますよ」
何か策があるのか。その自信に溢れた表情をシュユーが浮かべた時、まるでチン・シー海賊団の逆転劇の前説が終わるのを待っていたかのように、船内へ再び号令が下される。
「準備は整った!今こそその武術を身に宿し、眼前に広がる悉くの障害を打ち払えッ!!」
再び高貴な女性の声が聞こえ始めたその時、複数の巨大な大砲でも撃ち放ったかのような衝撃が、ミア達の乗る船に響き渡る。船体は轟音の数と同じだけ大きく揺れ、中にいた彼らは倒れまいとバランスを取るため、身体を大きく揺さぶられた。
「なッ・・・何事だッ!?」
「外へ出てみましょう。直ぐに分かりますよ」
それまでロロネーの能力に悩んでいたのが嘘のように、態度がガラリと変わったシュユーが甲板へミアとツクヨを案内する。ツバキの治療を彼らに任せ、二人はシュユーの自信の訳を確かめに行く。
相も変わらず濃霧が立ち込める外へやって来ると、周りにあるボロボロの海賊船から、大砲でも撃ち込まれたかのような轟音が至る所から聞こえて来る。しかし、周囲に火薬の匂いなどしないことから、その音の正体が大砲や銃火器でないのは確か。なら、一体この音を響かせるものとは何なのか。
何もいわずシュユーが二人へ双眼鏡を手渡す。それで周囲を覗いてみろとでも言うのだろうか。二人は目にレンズを当て、音の鳴る方を覗いてみる。するとそこには、凡そ常識では考えられないような光景が広がっていた。
何と、ロロネーの海賊船を大砲のように轟音を響かせて破壊していたのは、ミアに刃を向けていたチン・シー海賊団の船員達だったのだ。それも、その手に武器も持たず己の拳のみで船体に風穴を空け、敵を一撃の元に葬り去り吹き飛ばしていた。
「お・・・おいおぃ・・・アイツら、あんなに強かったのか・・・?」
「凄い・・・まさに男のロマン!武術も鍛えればここまで強くなるのか!」
見ているだけでも豪快な戦闘に、気持ちが昂ったツクヨが目を輝かせる。だが、ミアは少し疑問に思えた。自分がこの船に乗り込み、刃を向けられた時はこれ程強い者達には、到底見えなかったのだ。
仮にもミアやツクヨ達も、自分達より格上の相手と戦って来たのだ。ある程度の戦力差は、対面すればその肌で感じるというもの。しかし、ミアは彼らにそれを感じなかった。
それが今目の前であれ程の武術を披露しているのが、不思議でならない。あの力は一体何処に隠していたのか。
「いえ、本来の彼らにあれ程の戦闘力はありません。あれはハオランの力の一部を体現しているのです」
「ハオランの力を・・・体現?何故そんな事が・・・!まさか・・・」
ミアはそこである事を思い出していた。船内に流されていた放送で、恐らくチン・シーのものと思われる声が言っていた“リンク”という言葉。あの時は全く意味の分からない言葉だったが、シュユーの言っていた“ハオランの力を体現”という言葉と繋がり、もしやとシュユーの方を見る。
「ええ、これがあの方の・・・我らが船長の“能力”です」
「それだけの数が一海賊団のものであるなら、ロロネー海賊団というものはもっと強大な組織である筈では・・・?別の増援である可能性はないのか?」
しかし、流石にそんなことを見落とすほど冷静さは欠いていないと、シュユーは首を横に振る。霧の中で彼らを襲撃したのは全て一律し、ロロネーの海賊船で間違いないようだ。
「そんな馬鹿な・・・。あれだけ目立つ海賊船だ、レーススタート時にそれだけの数が来ていれば注目を集めない筈はないだろ?何処にそれだけの軍を隠していたんだ・・・」
「えぇ・・・。ですから我々も不意を突かれたのです。ロロネーの襲撃は事前に知り得た情報です。そしてその戦力も、到底我々の数に及ぶものではない筈でした。何かカラクリがあるようにしか思えません・・・」
シュユーの言う通り、何かしらのスキルや魔法などである可能性の方が強くなる。数を多く見せるスキルと言えば、幻術や忍術、彼らの使う妖術など、その手段は様々だ。
聖都ユスティーチを牛耳っていたシュトラールもまた、陰陽師のスキル式神によって無数の鎧を操り、日常生活に溶け込ませるといった芸当をしていた程だ。相当な魔力や準備があれば、相応の数を従えることも出来るのだろう。
「それなら・・・ロロネーのクラスは魔法職や術系統ということか?」
ミアの問いにシュユーは表情を曇らせ、暫く口を開くのを躊躇っていた。その反応から大体の想像がつく。
彼らの知るロロネーという男は、魔法や術を使うような人物ではないということだろう。そしてグラン・ヴァーグの店先で見た彼の言動や粗暴からも、器用な戦い方をするような者とは思えない。
「わかりません・・・。我々だけでは、あの男のカラクリを看破するには至らなかった・・・」
悔しそうに俯くシュユーであったが、直ぐにその表情は希望あるものへと変わり、それを自らの誇りのようにミアへ話し始めた。
「ですが、ハオランが戻ったのなら話は別です。どんな魔法や術であろうと関係ない・・・。彼の力があれば、戦場の盤面を引っくり返すことなど造作も無い。今からそれを、“彼ら”が証明して見せますよ」
何か策があるのか。その自信に溢れた表情をシュユーが浮かべた時、まるでチン・シー海賊団の逆転劇の前説が終わるのを待っていたかのように、船内へ再び号令が下される。
「準備は整った!今こそその武術を身に宿し、眼前に広がる悉くの障害を打ち払えッ!!」
再び高貴な女性の声が聞こえ始めたその時、複数の巨大な大砲でも撃ち放ったかのような衝撃が、ミア達の乗る船に響き渡る。船体は轟音の数と同じだけ大きく揺れ、中にいた彼らは倒れまいとバランスを取るため、身体を大きく揺さぶられた。
「なッ・・・何事だッ!?」
「外へ出てみましょう。直ぐに分かりますよ」
それまでロロネーの能力に悩んでいたのが嘘のように、態度がガラリと変わったシュユーが甲板へミアとツクヨを案内する。ツバキの治療を彼らに任せ、二人はシュユーの自信の訳を確かめに行く。
相も変わらず濃霧が立ち込める外へやって来ると、周りにあるボロボロの海賊船から、大砲でも撃ち込まれたかのような轟音が至る所から聞こえて来る。しかし、周囲に火薬の匂いなどしないことから、その音の正体が大砲や銃火器でないのは確か。なら、一体この音を響かせるものとは何なのか。
何もいわずシュユーが二人へ双眼鏡を手渡す。それで周囲を覗いてみろとでも言うのだろうか。二人は目にレンズを当て、音の鳴る方を覗いてみる。するとそこには、凡そ常識では考えられないような光景が広がっていた。
何と、ロロネーの海賊船を大砲のように轟音を響かせて破壊していたのは、ミアに刃を向けていたチン・シー海賊団の船員達だったのだ。それも、その手に武器も持たず己の拳のみで船体に風穴を空け、敵を一撃の元に葬り去り吹き飛ばしていた。
「お・・・おいおぃ・・・アイツら、あんなに強かったのか・・・?」
「凄い・・・まさに男のロマン!武術も鍛えればここまで強くなるのか!」
見ているだけでも豪快な戦闘に、気持ちが昂ったツクヨが目を輝かせる。だが、ミアは少し疑問に思えた。自分がこの船に乗り込み、刃を向けられた時はこれ程強い者達には、到底見えなかったのだ。
仮にもミアやツクヨ達も、自分達より格上の相手と戦って来たのだ。ある程度の戦力差は、対面すればその肌で感じるというもの。しかし、ミアは彼らにそれを感じなかった。
それが今目の前であれ程の武術を披露しているのが、不思議でならない。あの力は一体何処に隠していたのか。
「いえ、本来の彼らにあれ程の戦闘力はありません。あれはハオランの力の一部を体現しているのです」
「ハオランの力を・・・体現?何故そんな事が・・・!まさか・・・」
ミアはそこである事を思い出していた。船内に流されていた放送で、恐らくチン・シーのものと思われる声が言っていた“リンク”という言葉。あの時は全く意味の分からない言葉だったが、シュユーの言っていた“ハオランの力を体現”という言葉と繋がり、もしやとシュユーの方を見る。
「ええ、これがあの方の・・・我らが船長の“能力”です」
0
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
────────
自筆です。
薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~
黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
─── からの~数年後 ────
俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。
ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。
「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」
そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か?
まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。
この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。
多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。
普通は……。
異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話。ここに開幕!
● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。
● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる