330 / 1,646
戦士の帰還
しおりを挟む
無事に海面まで浮上することの出来たツクヨは、それが最後の呼吸だと言わんばかりに息を吸い込む。水を欲するように身体が酸素を欲している。海に出てこんなことになるまで思いもせぬことだったが、こんなにも空気が美味いと感じるのはなかった。
血相を変えて酸素を身体に取り込んでいると、そんなツクヨの元に一隻の船が近づいて来る。見覚えの無い小舟だったが、その後方に酷く破損したボロボロの海賊船のようなものが見える。
それはツクヨが、チン・シー海賊団の船員達とクトゥルプスに立ち向かっていた海賊船だった。あちこちに風穴を開けられ、最早操縦すらままならなかった船が、彼を拾いにやって来たのだ。
だが、船員の殆どはクトゥルプスによって殺されてしまっていた筈。特に船を操縦する技術者達は真っ先に狙われ、残されていたのはツクヨとツバキを治療してくれた回復魔法に長けた部隊と、戦闘員達だけだったように聞いていた。
「あの海賊船・・・無事だったのか。しかし一体誰が操縦を・・・?」
彼がそんなことを考えていると、近くにまでやって来た小舟から、聞き覚えのある男の声がする。その男は海賊船内での戦いで彼を励まし、共に戦ったロープアクションっを得意とする船員の男だった。
「大丈夫かッ!?今、助けるッ!」
浮き具を括り付けたロープをツクヨの側に投げ込み、手にしている方のロープを緩めたり手繰り寄せたりしながら調整し、上手く彼の元まで向わせる。自然に起こる波や、彼らの船が起こす波を上手に利用する、海を熟知した彼ならではの巧みの技術。
小舟に引き上げられたツクヨは、船に積んであった大きな布で身体を覆われ、体温を上げるように忙しなく作業をする男。普段、戦闘や船のことに労力を費やして来たのだろう。多くの船員がいれば、作業を分担したり得意分野が違うのは当たり前だ。
男のツクヨに対する所作から、治療や看病に疎いことが伝わってようだ。本船から逸れないよう、小舟と海賊船の間にもロープが括り付けてあり、ツクヨを回収することに成功した今、後は海賊船に引っ張って貰うだけだ。
何に邪魔されることもなくツクヨと男を乗せた小舟は、破損した海賊船によって回収され、無事に帰還する。彼らが到着すると、直ぐにツクヨは回復班によって治療を施される。
海から引き上げられた時のツクヨは、シバリングと呼ばれる身体を激しく震わせる症状や、歯をカチカチと鳴らしていた。それが海賊船に引き上げられるとシバリングが止まり、動作が遅くぎこちなくなっていた。
自分の足でベッドまでいけると言っていたツクヨは、ゆっくりだが慎重とも思える動きで歩き、ベッドに横になる。一見症状が回復してきたように思えるが、冷たい海に長く晒されたことで彼の身体は低体温症となり、その初期症状が止まったに過ぎない。
シバリングが止まったからといって、症状が安全圏に入ったことにはならない。寒冷障害とも言われる低体温症は、極めてゆっくりその症状が現れる為、本人や周りの人間もその症状に気がつかないことがある。
震えが止まることは回復の兆候では無いのだ。その後の動作や反応がますます鈍くなり、大人しくなることは寧ろ症状が悪化し、危険な状態に向かっていることを意味する。
だが、海賊と言うこともありながら、海で長らく生きてきた彼らはツクヨの症状に直ぐに気がつくと、衣類を脱がせ彼の身体を乾燥させると外部からの体温の上昇を図る。
その後、温めた酸素や輸液を体内に投与し、身体の内側からも温めていく。現実の世界と違い、こちらでは魔法による治療がある為、その過程や体温の上昇を早めることができるようで、ツクヨの現在の容態であれば命に関わる心配はなく、後遺症も残らないのだそうだ。
遅れて部屋にやって来たシンが、彼の容態を聞き安堵すると代わりに治療にあたる船員達へ感謝する。そしてゆっくりとベッドに横たわるツクヨに歩み寄るシン。
「無事でよかった・・・。もう、あんな無茶はやめてくれよ」
彼の安堵の表情を見て、ぎこちなく口角を上げて微笑むと、ツクヨはゆっくりと目を閉じ眠りについた。
血相を変えて酸素を身体に取り込んでいると、そんなツクヨの元に一隻の船が近づいて来る。見覚えの無い小舟だったが、その後方に酷く破損したボロボロの海賊船のようなものが見える。
それはツクヨが、チン・シー海賊団の船員達とクトゥルプスに立ち向かっていた海賊船だった。あちこちに風穴を開けられ、最早操縦すらままならなかった船が、彼を拾いにやって来たのだ。
だが、船員の殆どはクトゥルプスによって殺されてしまっていた筈。特に船を操縦する技術者達は真っ先に狙われ、残されていたのはツクヨとツバキを治療してくれた回復魔法に長けた部隊と、戦闘員達だけだったように聞いていた。
「あの海賊船・・・無事だったのか。しかし一体誰が操縦を・・・?」
彼がそんなことを考えていると、近くにまでやって来た小舟から、聞き覚えのある男の声がする。その男は海賊船内での戦いで彼を励まし、共に戦ったロープアクションっを得意とする船員の男だった。
「大丈夫かッ!?今、助けるッ!」
浮き具を括り付けたロープをツクヨの側に投げ込み、手にしている方のロープを緩めたり手繰り寄せたりしながら調整し、上手く彼の元まで向わせる。自然に起こる波や、彼らの船が起こす波を上手に利用する、海を熟知した彼ならではの巧みの技術。
小舟に引き上げられたツクヨは、船に積んであった大きな布で身体を覆われ、体温を上げるように忙しなく作業をする男。普段、戦闘や船のことに労力を費やして来たのだろう。多くの船員がいれば、作業を分担したり得意分野が違うのは当たり前だ。
男のツクヨに対する所作から、治療や看病に疎いことが伝わってようだ。本船から逸れないよう、小舟と海賊船の間にもロープが括り付けてあり、ツクヨを回収することに成功した今、後は海賊船に引っ張って貰うだけだ。
何に邪魔されることもなくツクヨと男を乗せた小舟は、破損した海賊船によって回収され、無事に帰還する。彼らが到着すると、直ぐにツクヨは回復班によって治療を施される。
海から引き上げられた時のツクヨは、シバリングと呼ばれる身体を激しく震わせる症状や、歯をカチカチと鳴らしていた。それが海賊船に引き上げられるとシバリングが止まり、動作が遅くぎこちなくなっていた。
自分の足でベッドまでいけると言っていたツクヨは、ゆっくりだが慎重とも思える動きで歩き、ベッドに横になる。一見症状が回復してきたように思えるが、冷たい海に長く晒されたことで彼の身体は低体温症となり、その初期症状が止まったに過ぎない。
シバリングが止まったからといって、症状が安全圏に入ったことにはならない。寒冷障害とも言われる低体温症は、極めてゆっくりその症状が現れる為、本人や周りの人間もその症状に気がつかないことがある。
震えが止まることは回復の兆候では無いのだ。その後の動作や反応がますます鈍くなり、大人しくなることは寧ろ症状が悪化し、危険な状態に向かっていることを意味する。
だが、海賊と言うこともありながら、海で長らく生きてきた彼らはツクヨの症状に直ぐに気がつくと、衣類を脱がせ彼の身体を乾燥させると外部からの体温の上昇を図る。
その後、温めた酸素や輸液を体内に投与し、身体の内側からも温めていく。現実の世界と違い、こちらでは魔法による治療がある為、その過程や体温の上昇を早めることができるようで、ツクヨの現在の容態であれば命に関わる心配はなく、後遺症も残らないのだそうだ。
遅れて部屋にやって来たシンが、彼の容態を聞き安堵すると代わりに治療にあたる船員達へ感謝する。そしてゆっくりとベッドに横たわるツクヨに歩み寄るシン。
「無事でよかった・・・。もう、あんな無茶はやめてくれよ」
彼の安堵の表情を見て、ぎこちなく口角を上げて微笑むと、ツクヨはゆっくりと目を閉じ眠りについた。
0
あなたにおすすめの小説
レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収
ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。
彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。
だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。
自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。
「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」
契約解除。返還されたレベルは9999。
一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。
対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。
静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。
「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」
これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。
(本作品はAIを活用して構成・執筆しています)
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
異世界に流されて…!?
藤城満定
ファンタジー
東京発沖縄着の船で修学旅行に出港した都立東品川高等学校2年4組の生徒35人は出港して2時間が過ぎた頃に突然の嵐に巻き込まれてしまい、船が転覆してしまって海に投げ出されてしまった。男子生徒の宮間景太郎が目を覚ますと、そこはどこかの森の中だった。海に投げ出されたのに、何で森の中にいるんだ?不思議に思って呆然としていたら、森の奥から聞き覚えのある女子生徒達の悲鳴が聞こえてきた。考えるより先に体が動いた。足元にあった折れて先端が尖った木の枝と石コロを取って森の奥へと駆け出した。そこには3人の女子生徒が5匹の身長160cmくらいの緑色の肌色のバケモノに襲われていた。そのバケモノは異世界アニメやコミックでお馴染みのゴブリン?だった。距離は10mはある。短剣を持ったのと木製の棍棒を持ったゴブリンの内、棍棒を持ったのがソレを振り下ろすのを防ぐのは無理な距離。ならばと、拾っておいた石コロを全力投球投。全くの無警戒だった場所からかならの威力で投げられた石コロが頭に命中して、そのまま倒れてしまったので他のゴブリン共も動揺した。その隙に女子生徒達とゴブリン共の間に立ち塞がり、拾った木の枝(棒?)を振り回して距離を置き、斃したゴブリンから棍棒を拾ってそこからはタコ殴りに殴りまくった。棍棒や短剣を弾くと、頭、首、肩、腕、足と、それはもうフルボッコのボッコボコにして斃してから暫くして女子生徒達に「大丈夫か?」と声をかけると、3人ともポカーンと口を開けて呆然としていた。まあ、無理もない。何故なら景太郎はクラスでは寡黙で、いつも1人で行動しているそれは、ぶっちゃけて言うと、完全な『ボッチくん』だったからだ。そんな景太郎が自分達の命を助けてくれた。それも今まで誰も見た事のない熱く必死な戦い方でだ。これは謂わゆる『吊り橋効果』ではあるが、こうまで男らしい姿を見せられては惚れるなというほうが無理だろう。その瞬間から女子達による景太郎の取り合い合戦が始まった。
【毎週火曜日に投稿します】
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
ドラゴネット興隆記
椎井瑛弥
ファンタジー
ある世界、ある時代、ある国で、一人の若者が領地を取り上げられ、誰も人が住まない僻地に新しい領地を与えられた。その領地をいかに発展させるか。周囲を巻き込みつつ、周囲に巻き込まれつつ、それなりに領地を大きくしていく。
ざまぁっぽく見えて、意外とほのぼのです。『新米エルフとぶらり旅』と世界観は共通していますが、違う時代、違う場所でのお話です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる