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焼地駆ける竜の火球
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横たわる二人を、ロロネーの様子を恐る恐る伺いながら両手を床につき、再び妖術で床を歪め、下の階層へと下ろすフーファン。ロロネーは少女の動きに気付いてはいるものの、特に止めることもなく視線はチン・シーへ向けたまま、こちらを見ようともしない。
それ程、ロロネーにとって精鋭の救助など取るに足らないことだという証明だ。あの光景を目の当たりにして、彼らが復活したところでどうにかなるとは、到底思えない。数で押し切ろうと言うならば、全てを受け止め突き返す自信がロロネーにはあるのだ。
すっかり静まり返った船長室。男の異形の能力と圧倒的な力を前に、勝機の風がどちらに着くべきかと迷っているように室内を漂う。波に揺られ軋む船の音が反響し、身体をビリビリと震わせる。
僅かな音でさえ、身体が本能的に拾い上げ強調しているかのように他の音がない。互いに出方を伺っているのか、束の間の静寂が訪れる。外で戦っている船員達の声が、妙に耳に入る。
彼らは無事でいるだろうか。目の前にいる元凶を前に、静かな時の流れる空間に思わず意識が他のものへと分散する。それを感じ取ったのか、均衡を破り先に動き出したのはロロネーだった。
罠や策があろうが関係ないといった勢いで、まっすぐチン・シーの元へ走り出す。不意を突かれ、身体よりも先に口が開いたフーファンが主人の名を叫ぶ。どこで手に入れたのか、男の履くブーツがその足取りを示すように床を打ち鳴らす。
ロロネーは床に転がる精鋭達の剣を、走りながら体勢を低くし両の手に一本ずつ拾い上げると、その内の一本を手首を使い、下から掬い上げるようにして回転させながらチン・シーへ放り投げる。
静寂を切り裂くように飛んで行く剣は、まるで鎖で繋がれた鉄球を回しているかのような低い風切り音を発しながら、その鋭い剣身に辺りの風景を写し、光を反射させる。
先手を打って来たロロネーにチン・シーは、少女がその光景を目の当たりにして、余りにも常軌を逸した行動に心臓が止まるのではないかというほど、肝を冷やす反撃に出る。
彼女は向かって来るロロネーに臆することなく向かって行き、回転しながら飛んで来る剣の軌道上に腕を伸ばしたのだ。当然、そんなことをすれば剣に腕を両断され千切れ飛ぶ未来しか想像できない。
その美しく白い細腕では、弾き飛ばすことも出来ないだろう。自分の主人が何をしようとしているのか想像のつかない少女は、何か援護をしなければと咄嗟に妖術を使おうとする。だが、二人がぶつかり合うまで、もう時間がない。それ程僅かな時間。まさに瞬く間とはこう言ったことなのだろう。
フーファンの妖術は二人の間に介入する事は疎か、主人を飛来する剣より守ることすら出来ない。しかし、少女のそんな不安を振り払うかのように、高貴なチン・シーに有るまじき豪傑さでロロネーとぶつかり合う。
何と彼女は、回転しながら飛んで来る剣の握りを見事に掴み取り、そのままロロネーに斬りかかったのだ。チン・シーの振り下ろす斬撃と、ロロネーの振り抜く斬撃が激しくぶつかり合い、二人を取り巻く空間を揺るがす程の金属音と衝撃が弾けた。
ギリギリと鍔迫り合いをする二人が、視線を混じり合わせ睨み合う。
「魔法や術ばかりのお高い女かと思ったら・・・、中々魅せてくれるじゃねぇかッ!」
「戯け。大軍を引き連れる者は、その言葉と行動一つで士気を上げ奮い立たせる者だ。ただふんぞり返って後ろに居るだけが主人・総督・王ではないッ!」
勇しく戦う主人の姿に、フーファンの中から不安や恐怖といった負の感情は消え去り、ただそこに有るのは主人への賛美と、我も続かんとする奮い立つ闘志だけだった。
ロロネーの異様な能力に誰もが意表を突かれ、下手に手を出せばカウンターを貰ってしまうこと警戒するだろう。万全を期した行動を取るのは、部隊存続のためにも重要なことだ。だが、それでは全ての行動が後手に回り、この男の良いように戦いの主導権を握られてしまう。敢えて危険に身を晒すことも、時には必要なのだ。
チン・シーの剣を押し退け、追撃の一撃を振るうロロネーだったが、その刃は彼女を捉えることなく空を切ると、その隙を突いて魔法を唱えるチン・シー。すると彼女の腕から炎のロープのような物が現れ、ロロネーの腕を絡めとる。
空かさず、彼女とリンクで能力の共有をしているフーファンが両手を床につき、周囲に燻る炎から同じく炎のロープを出現させ、ロロネーの足や身体を様々な方向から縛り、動きを封じる。
炎の熱に身体を焼かれるロロネー。身に纏う衣類が燃える臭いと、その下の皮膚を焼く痛々しい音がする。それでも、痛みを感じていないかのように表情一つ変えないロロネー。
しかし、先程の精鋭達による物理的な剣撃の連携とは異なり、魔力の帯びた攻撃はロロネーの身体を擦り抜けることなく命中している。動けなくなった格好の的の男へ送る一撃は、炎のロープと同じ魔力を込めたものでなくてはならない。
ロープを手放すと、そのまま宙に固定され継続してロロネーの腕を縛りあげる。チン・シーの手にしている剣が炎に包まれると、まるで手品のように弓矢へと変わる。狙いを定めゆっくりと力強く弦を引く。矢の先に火が灯り、彼女の顔を明るく照らし出す。
「さぁ、今度はどうだ?我らが炎から逃れられるものなら、逃れて見せよッ!」
男を煽る言葉を添え、チン・シーは弦から指を離す。火のついた弓矢は飛んで行く最中で火力を増し、全体に炎を纏うと竜の口から放たれる火球のようにロロネーの身体へ命中する。
炎に拘束され、身動きの取れないロロネーの身体を貫通していった火矢は、奥の壁を擦り抜け船外へと飛び出していった。チン・シーの渾身の火矢を受けたロロネーは、胸部に大きな風穴を作り、その縁を火矢の残り火が燃やしていた。
それ程、ロロネーにとって精鋭の救助など取るに足らないことだという証明だ。あの光景を目の当たりにして、彼らが復活したところでどうにかなるとは、到底思えない。数で押し切ろうと言うならば、全てを受け止め突き返す自信がロロネーにはあるのだ。
すっかり静まり返った船長室。男の異形の能力と圧倒的な力を前に、勝機の風がどちらに着くべきかと迷っているように室内を漂う。波に揺られ軋む船の音が反響し、身体をビリビリと震わせる。
僅かな音でさえ、身体が本能的に拾い上げ強調しているかのように他の音がない。互いに出方を伺っているのか、束の間の静寂が訪れる。外で戦っている船員達の声が、妙に耳に入る。
彼らは無事でいるだろうか。目の前にいる元凶を前に、静かな時の流れる空間に思わず意識が他のものへと分散する。それを感じ取ったのか、均衡を破り先に動き出したのはロロネーだった。
罠や策があろうが関係ないといった勢いで、まっすぐチン・シーの元へ走り出す。不意を突かれ、身体よりも先に口が開いたフーファンが主人の名を叫ぶ。どこで手に入れたのか、男の履くブーツがその足取りを示すように床を打ち鳴らす。
ロロネーは床に転がる精鋭達の剣を、走りながら体勢を低くし両の手に一本ずつ拾い上げると、その内の一本を手首を使い、下から掬い上げるようにして回転させながらチン・シーへ放り投げる。
静寂を切り裂くように飛んで行く剣は、まるで鎖で繋がれた鉄球を回しているかのような低い風切り音を発しながら、その鋭い剣身に辺りの風景を写し、光を反射させる。
先手を打って来たロロネーにチン・シーは、少女がその光景を目の当たりにして、余りにも常軌を逸した行動に心臓が止まるのではないかというほど、肝を冷やす反撃に出る。
彼女は向かって来るロロネーに臆することなく向かって行き、回転しながら飛んで来る剣の軌道上に腕を伸ばしたのだ。当然、そんなことをすれば剣に腕を両断され千切れ飛ぶ未来しか想像できない。
その美しく白い細腕では、弾き飛ばすことも出来ないだろう。自分の主人が何をしようとしているのか想像のつかない少女は、何か援護をしなければと咄嗟に妖術を使おうとする。だが、二人がぶつかり合うまで、もう時間がない。それ程僅かな時間。まさに瞬く間とはこう言ったことなのだろう。
フーファンの妖術は二人の間に介入する事は疎か、主人を飛来する剣より守ることすら出来ない。しかし、少女のそんな不安を振り払うかのように、高貴なチン・シーに有るまじき豪傑さでロロネーとぶつかり合う。
何と彼女は、回転しながら飛んで来る剣の握りを見事に掴み取り、そのままロロネーに斬りかかったのだ。チン・シーの振り下ろす斬撃と、ロロネーの振り抜く斬撃が激しくぶつかり合い、二人を取り巻く空間を揺るがす程の金属音と衝撃が弾けた。
ギリギリと鍔迫り合いをする二人が、視線を混じり合わせ睨み合う。
「魔法や術ばかりのお高い女かと思ったら・・・、中々魅せてくれるじゃねぇかッ!」
「戯け。大軍を引き連れる者は、その言葉と行動一つで士気を上げ奮い立たせる者だ。ただふんぞり返って後ろに居るだけが主人・総督・王ではないッ!」
勇しく戦う主人の姿に、フーファンの中から不安や恐怖といった負の感情は消え去り、ただそこに有るのは主人への賛美と、我も続かんとする奮い立つ闘志だけだった。
ロロネーの異様な能力に誰もが意表を突かれ、下手に手を出せばカウンターを貰ってしまうこと警戒するだろう。万全を期した行動を取るのは、部隊存続のためにも重要なことだ。だが、それでは全ての行動が後手に回り、この男の良いように戦いの主導権を握られてしまう。敢えて危険に身を晒すことも、時には必要なのだ。
チン・シーの剣を押し退け、追撃の一撃を振るうロロネーだったが、その刃は彼女を捉えることなく空を切ると、その隙を突いて魔法を唱えるチン・シー。すると彼女の腕から炎のロープのような物が現れ、ロロネーの腕を絡めとる。
空かさず、彼女とリンクで能力の共有をしているフーファンが両手を床につき、周囲に燻る炎から同じく炎のロープを出現させ、ロロネーの足や身体を様々な方向から縛り、動きを封じる。
炎の熱に身体を焼かれるロロネー。身に纏う衣類が燃える臭いと、その下の皮膚を焼く痛々しい音がする。それでも、痛みを感じていないかのように表情一つ変えないロロネー。
しかし、先程の精鋭達による物理的な剣撃の連携とは異なり、魔力の帯びた攻撃はロロネーの身体を擦り抜けることなく命中している。動けなくなった格好の的の男へ送る一撃は、炎のロープと同じ魔力を込めたものでなくてはならない。
ロープを手放すと、そのまま宙に固定され継続してロロネーの腕を縛りあげる。チン・シーの手にしている剣が炎に包まれると、まるで手品のように弓矢へと変わる。狙いを定めゆっくりと力強く弦を引く。矢の先に火が灯り、彼女の顔を明るく照らし出す。
「さぁ、今度はどうだ?我らが炎から逃れられるものなら、逃れて見せよッ!」
男を煽る言葉を添え、チン・シーは弦から指を離す。火のついた弓矢は飛んで行く最中で火力を増し、全体に炎を纏うと竜の口から放たれる火球のようにロロネーの身体へ命中する。
炎に拘束され、身動きの取れないロロネーの身体を貫通していった火矢は、奥の壁を擦り抜け船外へと飛び出していった。チン・シーの渾身の火矢を受けたロロネーは、胸部に大きな風穴を作り、その縁を火矢の残り火が燃やしていた。
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