World of Fantasia

神代 コウ

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成長と意志の違い

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 すると、船内から小さな爆発音と共に、立ち込める煙の中から鋭い何かが上空のロロネーに向けて飛んで来る。一直線にではなく、空気抵抗を受けて角度を変えながら飛んで来る何かが光を反射させ、その姿を明らかにする。

 それは剣身だけとなった折れた剣。ブーメランのように高速回転しながら空を裂き、ロロネーの身体を跳ね飛ばさんと襲いかかる。だが距離もあってか、ロロネーはそれを手にした剣で軽く弾き飛ばす。

 しかし、その僅かな間にツクヨから目を離してしまい、船の状況が分からなくなってしまう。ツクヨが居るであろう船に空いた穴に、更に別の破損箇所があったり、何かが駆け抜けたかのような煙の動きも見受けられない。

 それでもロロネーの感が、ツクヨへの警戒心を促している。依然変わりなく同じ場所にいるとは思えなかった。状況証拠だけ見れば動いていない筈なのに、どうしてかそれを信用しきることが出来ず、周囲を探すロロネー。

 だが男がいくら船上を探そうと、ツクヨを見つけることなど出来る筈もなかった。何故なら彼は、ロロネーの背後にまで飛び上がっていたのだから。

 ハオランにも劣らぬ跳躍で飛び上がり男の背後へ迫ったツクヨは、布都御魂剣で目にも留まらぬ横薙ぎの一閃を放つ。寸前、気配を感じとったロロネーが防御は間に合わないとふみ、剣が辿るであろう軌道上にある身体の部位を霧化させる。

 船の上で覚醒したかのように、ツクヨの透過の効かない攻撃を避けたロロネー。あの時、実際には透過して彼の斬撃を避けたのではなく、その部位を霧に変え斬撃に当たらぬよう避けていたのだった。

 その僅かな一瞬の動作に、ツクヨ達はあたかも擦り抜けたかのように思い込んでいた。その時と同じ回避でツクヨの一撃を避けながら、後ろを振り返る。ロロネーがその眼に映したのは、ツクヨの妙な行動だった。

 ロロネーがツクヨの姿を視認した時には彼は、宙で前転するように身体を丸め縦に回転し、剣をロロネーの頭部に振り下ろさんとしている途中だった。ロロネーが感じた妙なこととは、ツクヨの体勢にある。

 それは先程の一閃を放った体勢からはあり得ないものだったからだ。無論、地上では可能な動きだが、この宙にいる状態でここまで体勢を変えられるのはおかしい。彼は再び目を閉じた状態で、剣を振り下ろす。

 僅かな疑問を抱いた隙に、霧化して避ける時間を失ったロロネーはその斬撃を剣で受け止めるも、ツクヨの力技に押し負け船の上に叩き落とされた。土煙を上げて、その衝撃を物語る。

 徐々に霧散する煙の中からは、片膝をつき上空から降り立つツクヨへ、刺すように鋭い視線が送られる。互いに相手を上回ろうとする力比べ。だが、双方にこれ以上目新しく隠された能力はない。

 そして今のツクヨとロロネーに圧倒的な戦力の差がなくなった。自我を保ちつつ、デストロイヤー の力の一部を引き出したツクヨ。更にその手には、閉じた瞼の裏側で、自身の創造した世界で戦うことのできる神話の剣、布都御魂剣が握られている。

 ツクヨの思わぬ奮闘に、苦戦を強いられるロロネー。通常の物理攻撃とは明らかに違う彼の斬撃を、一撃一撃タイミングよく霧化し避けるという神経の使う技術が要求される中で、デストロイヤーの攻撃力を相手にしなければならない、謂わば力と繊細さの両方を要求される。

 ツクヨがロロネーを食い止めている間、一方ハオランとの接触を図ろうとするチン・シーは、その力の差が如実に現れ始めていた。いくら彼から教わった武術で、目が肥えているとはいえ、そもそも直接的な近接戦を得意とするハオランとチン・シーでは、根本的に必要なスキルやステータスに差がある。

 故に、戦闘が長引けば長引くほど彼女の目的は遠退いていくことになってしまう。チン・シーの疲労から生じる隙が増える中、ハオランの中にある本能が止めているのか、彼女に攻撃を当てるチャンスが訪れようと、彼はその拳を主人に打ち込もうとはしなかった。

 或いは、打ち込ませないようにしていたのか。ここぞと言う攻め時に、ハオランは頭を抱えて苦しみ出す所作を見せている。彼の中にいる魂がその身体を使い襲い掛かって来ているが、彼の魂もまたその中で共に戦っているのだと、チン・シーは拳を交える中で感じていた。

 そこへ漸く、ロロネーから逃れたシンが姿を現すと、スキル“繋影“を使いハオランの動きを止めようと試みるも、忍び寄る何かを察し彼は距離を空けて避ける。

 「遅かったな・・・待ちわびたぞ」

 「無茶を言う。こっちはロロネーに追われていたんだ。ツクヨが来てくれなかったら、俺は今ここにいない・・・」

 あのままツクヨの援軍もなくロロネーと戦っていたらと思うと、生きた心地がしなかった。それだけあの男と戦うには、攻撃の手段が少な過ぎる。だが恐らく、ツクヨも長くは保たないだろう。

 早急にハオランを正気に戻し、全員で立ち向かわなければ取り返しのつかないことになる。

 「ならば、さっさと事を済ませるとしよう。奴の動きを止められるか?」

 「俺一人では難しい・・・。さっき見た通り、スキルの気配に感づかれて当てることが出来ない・・・。そっちで気を逸らせてくれれば或いは・・・」

 チン・シーが囮りとなりハオランの気を逸らせている内に、シンが“繋影“で彼の動きを止める。そして最後に彼女が彼へのリンクを果たすことが出来れば、勝機が見えてくる。

 「妾に囮りになれと?ふふっ・・・、見上げた男よ。誰にものを言っているのか、心得ていような?」

 「こんな時に何をッ・・・!力不足は認めるよ・・・。俺が一人で抑え込めるだけの力があれば・・・」

 三人がかりで一方的にやられていたシン達に対し、今まさに一人でロロネーを食い止めてくれているツクヨ。いつの間に彼は、あんなに強くなっていたのか。或いは元々彼には素質があり、強かっただけなのだろうか。

 否、答えはもっと単純で明確なものだった。ツクヨにあってシンにないもの。守りたい大事なものや、目的の為に決して死ぬ訳にはいかないという強い意志がツクヨにはある。

 それに対し、シンはどうだろうか。現実から逃れるように縋り付いたWoFの世界。守りたい大切なものもなければ、明確な目標もない。ただ漠然とこの世界に入り浸り、自分の手にした今の世界を脅かす者を探っているだけに過ぎない。
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