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迫る影と集う意志
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ロロネーは、瀕死の身体を起こすと再度海賊の亡霊を呼び出し、後を追ってくるハオランとツクヨに差し向ける。船内の音や動きに敏感になっているところへ、亡霊を送り込むことで注意を逸らし、相手の集中力を散漫にさせようとしていた。
静かだった船内に亡霊の声と、刃を打ち付け合うような音が響き渡っている。一先ず追手の足止めを果たしたことに安堵し、大きく息を吐きながら仰向けに倒れるロロネー。
しかし、そんなロロネーの目に映ったのは、休む間も与えぬかのように現れる新たな追手の姿だった。天井に吊るされた照明の影から人の手が飛び出すと、一人の男がロロネーの寝首を討ち取らんと飛び降りて来た。
男の手にしていた刃物が、床に倒れるロロネーの首を狙う。間一髪のところで横に転がり回避したロロネーだったが、上半身を起き上がらせようとしたところに、男が腕を伸ばし掌をロロネーに向けていた。
「ッ・・・!?」
素早い身のこなしと、必死だったとはいえロロネーにすら気配を悟られぬように忍び込み、暗殺しようとする男のその行動は、恐らく直接攻撃ではなく何かしらの能力かスキルを放つ動作と見て、間違いなかった。
思わず両腕で男の腕との間に壁を作るロロネー。しかしその僅かな瞬間に、ロロネーに向かって何か放たれるといった様子は見られず、身体に何も痛みや異変なども起こらない。
不気味な相手の動作に、直ぐ様飛び退き距離を空ける。男はそんなロロネーの動きを追うように手を翳していたが、距離を置かれるとゆっくりその腕を下ろした。漸く男の顔を見てその正体を知ったロロネーは、この男がここにいるということはもう一人の人物も近くに来ているのではないかと警戒する。
「お前は・・・。お前がここにいるということは、奴もここへ・・・?いや、標的がノコノコと現れることもねぇか・・・」
ロロネーが気にしている人物とはチン・シーのことであり、そもそもこの戦闘を始めたのは彼女とその能力を手に入れる為だった。ハオランを正気に戻すことに成功し、亡霊の群れが去ったことで目的と邪魔する者がいなくなり、自由の身となる。
当然ここまで来て加勢しない筈がないが、ロロネーがいくら室内を探そうとチン・シーの姿はなかった。何処かに潜んでいるのだろうか。警戒心を高めるロロネーの前には、影を操りトリッキーなスキルを使用する、招かれざる客人であるシンが片膝をついた体勢から立ち上がる。
「彼女は、仲間にだけ戦わせるような人間じゃぁない。アンタも理解しているだろ・・・」
シンの言葉が真実か偽りか。不意を突く為の嘘とも、真実を惑わせる為のものとも考えられる。自身の能力で確認出来ない今、ロロネーにシンの心の内は読めない。だが彼のいう通り、チン・シーのことを調べていたロロネーは、彼女が仲間を盾にしたり犠牲にするようなことは決してないと知っている。ならば彼女は一体何処へ。
「ここにいるぞ、ロロネー」
何処からかチン・シーの声が聞こえてくる。突然し出した音に驚いたロロネーが、シンから視線をズラす。その隙に数本の投擲ナイフを投げるシン。直ぐ様視線を戻したロロネーは、飛んで来るナイフを全て叩き落とす。傷を追っていようが、その動きのキレは健在だった。
しかし、シンの投げた投擲ナイフを全て叩き落とした筈のロロネーの背中に、一本のナイフが刺さる。見逃す筈などなかった。動きを読んでくるツクヨや、目にも止まらぬ速さで攻撃を仕掛けてくるハオラン達の方が、余程苦労する戦いを強いられて来たのだ。今更投擲攻撃など、捌き切れないロロネーではない。
シンのスキルに翻弄されるも、ダメージはハオランやツクヨに比べれば大した事はない。攻撃を貰うことも顧みず、ロロネーはシンに向かって剣を振るう。身に覚えのある動きで躱すシン。アサシンのクラスの素早い動きと、ロロネーのかつて就いていたクラスである盗賊が類似していることに気づく。
次第にシンの動きが読めるようになって来たロロネーは、シンの回避先を先読みし避けられない一閃を放つ。剣先がシンの首元に近づく。少し目を見開き驚いた様子を見せるも、シンは動揺することはなかった。
ロロネーの攻撃が命中する寸前、男の身体は電流が走ったかのような衝撃が、剣を持つ腕全体に走ると攻撃を途中で止めてしまう。無事に無傷でロロネーの剣から逃れたシンが、何処か余裕を感じる動きで着地から立ち上がると、ロロネーの身に起きた異変と何らかの後ろ盾を得ているシンの、手の内について口を開いた。
「俺にアンタは殺せないだろう。手を合わせて分かった。俺はまだまだ弱い・・・。だから仲間達を頼るしかないんだ」
「そうだな。お前くらいなら、今の俺でも殺せそうだ」
シンに、ハオランやツクヨのようにロロネーを追い詰めるだけの力はない。それはお互いに刃を交えることで理解していた。ただの時間稼ぎだろうと思っていたロロネーだったが、今になって船内の騒がしさが鎮静化したことに気づく。
亡霊を差し向けていた二人がどうなったのか。頭の中に次から次へと不安要素が駆け巡る。何処かに潜むチン・シーと戦闘を終え、再びロロネーの行方を探しているであろうハオランとツクヨ。このままでは全員がこの場に集い、いくらロロネーでも今度こそ逃げ場を失ってしまう。
一刻も早くシンを殺し、立ち去らねばと思った矢先、ロロネーはシンの言葉に疑問を抱いた。仲間達を頼るしかない。今の戦いの中で、シンの他に何者かの介入などあっただろうか。そしてロロネーの頭の中に、ツクヨに言われた台詞が蘇る。
人は、個で真価を発揮する生き物ではない。
シンは己の弱さと、個人で出来ることの限度を弁えている。端から一人でロロネーに立ち向かうことなど考えていなかったのだ。そしてそんな彼の元に、亡霊を薙ぎ払い漸く居場所を突き止めたツクヨと、壁を蹴りで打ち壊し姿をあらわすハオランが合流する。
「くッ・・・!やはり時間稼ぎだったか・・・」
ロロネーの言葉に、未だ本来の目的がバレていないことを悟り、二人が合流したことで安堵と心強い後ろ盾に、口角を上げて笑うシン。
「俺は影から仲間を繋げる・・・。一人一人では勝てなくとも、ここに募ったアンタを倒さんとする意志が、この戦いに終止符を打つ。・・・覚悟しろ、フランソワ・ロロネー」
静かだった船内に亡霊の声と、刃を打ち付け合うような音が響き渡っている。一先ず追手の足止めを果たしたことに安堵し、大きく息を吐きながら仰向けに倒れるロロネー。
しかし、そんなロロネーの目に映ったのは、休む間も与えぬかのように現れる新たな追手の姿だった。天井に吊るされた照明の影から人の手が飛び出すと、一人の男がロロネーの寝首を討ち取らんと飛び降りて来た。
男の手にしていた刃物が、床に倒れるロロネーの首を狙う。間一髪のところで横に転がり回避したロロネーだったが、上半身を起き上がらせようとしたところに、男が腕を伸ばし掌をロロネーに向けていた。
「ッ・・・!?」
素早い身のこなしと、必死だったとはいえロロネーにすら気配を悟られぬように忍び込み、暗殺しようとする男のその行動は、恐らく直接攻撃ではなく何かしらの能力かスキルを放つ動作と見て、間違いなかった。
思わず両腕で男の腕との間に壁を作るロロネー。しかしその僅かな瞬間に、ロロネーに向かって何か放たれるといった様子は見られず、身体に何も痛みや異変なども起こらない。
不気味な相手の動作に、直ぐ様飛び退き距離を空ける。男はそんなロロネーの動きを追うように手を翳していたが、距離を置かれるとゆっくりその腕を下ろした。漸く男の顔を見てその正体を知ったロロネーは、この男がここにいるということはもう一人の人物も近くに来ているのではないかと警戒する。
「お前は・・・。お前がここにいるということは、奴もここへ・・・?いや、標的がノコノコと現れることもねぇか・・・」
ロロネーが気にしている人物とはチン・シーのことであり、そもそもこの戦闘を始めたのは彼女とその能力を手に入れる為だった。ハオランを正気に戻すことに成功し、亡霊の群れが去ったことで目的と邪魔する者がいなくなり、自由の身となる。
当然ここまで来て加勢しない筈がないが、ロロネーがいくら室内を探そうとチン・シーの姿はなかった。何処かに潜んでいるのだろうか。警戒心を高めるロロネーの前には、影を操りトリッキーなスキルを使用する、招かれざる客人であるシンが片膝をついた体勢から立ち上がる。
「彼女は、仲間にだけ戦わせるような人間じゃぁない。アンタも理解しているだろ・・・」
シンの言葉が真実か偽りか。不意を突く為の嘘とも、真実を惑わせる為のものとも考えられる。自身の能力で確認出来ない今、ロロネーにシンの心の内は読めない。だが彼のいう通り、チン・シーのことを調べていたロロネーは、彼女が仲間を盾にしたり犠牲にするようなことは決してないと知っている。ならば彼女は一体何処へ。
「ここにいるぞ、ロロネー」
何処からかチン・シーの声が聞こえてくる。突然し出した音に驚いたロロネーが、シンから視線をズラす。その隙に数本の投擲ナイフを投げるシン。直ぐ様視線を戻したロロネーは、飛んで来るナイフを全て叩き落とす。傷を追っていようが、その動きのキレは健在だった。
しかし、シンの投げた投擲ナイフを全て叩き落とした筈のロロネーの背中に、一本のナイフが刺さる。見逃す筈などなかった。動きを読んでくるツクヨや、目にも止まらぬ速さで攻撃を仕掛けてくるハオラン達の方が、余程苦労する戦いを強いられて来たのだ。今更投擲攻撃など、捌き切れないロロネーではない。
シンのスキルに翻弄されるも、ダメージはハオランやツクヨに比べれば大した事はない。攻撃を貰うことも顧みず、ロロネーはシンに向かって剣を振るう。身に覚えのある動きで躱すシン。アサシンのクラスの素早い動きと、ロロネーのかつて就いていたクラスである盗賊が類似していることに気づく。
次第にシンの動きが読めるようになって来たロロネーは、シンの回避先を先読みし避けられない一閃を放つ。剣先がシンの首元に近づく。少し目を見開き驚いた様子を見せるも、シンは動揺することはなかった。
ロロネーの攻撃が命中する寸前、男の身体は電流が走ったかのような衝撃が、剣を持つ腕全体に走ると攻撃を途中で止めてしまう。無事に無傷でロロネーの剣から逃れたシンが、何処か余裕を感じる動きで着地から立ち上がると、ロロネーの身に起きた異変と何らかの後ろ盾を得ているシンの、手の内について口を開いた。
「俺にアンタは殺せないだろう。手を合わせて分かった。俺はまだまだ弱い・・・。だから仲間達を頼るしかないんだ」
「そうだな。お前くらいなら、今の俺でも殺せそうだ」
シンに、ハオランやツクヨのようにロロネーを追い詰めるだけの力はない。それはお互いに刃を交えることで理解していた。ただの時間稼ぎだろうと思っていたロロネーだったが、今になって船内の騒がしさが鎮静化したことに気づく。
亡霊を差し向けていた二人がどうなったのか。頭の中に次から次へと不安要素が駆け巡る。何処かに潜むチン・シーと戦闘を終え、再びロロネーの行方を探しているであろうハオランとツクヨ。このままでは全員がこの場に集い、いくらロロネーでも今度こそ逃げ場を失ってしまう。
一刻も早くシンを殺し、立ち去らねばと思った矢先、ロロネーはシンの言葉に疑問を抱いた。仲間達を頼るしかない。今の戦いの中で、シンの他に何者かの介入などあっただろうか。そしてロロネーの頭の中に、ツクヨに言われた台詞が蘇る。
人は、個で真価を発揮する生き物ではない。
シンは己の弱さと、個人で出来ることの限度を弁えている。端から一人でロロネーに立ち向かうことなど考えていなかったのだ。そしてそんな彼の元に、亡霊を薙ぎ払い漸く居場所を突き止めたツクヨと、壁を蹴りで打ち壊し姿をあらわすハオランが合流する。
「くッ・・・!やはり時間稼ぎだったか・・・」
ロロネーの言葉に、未だ本来の目的がバレていないことを悟り、二人が合流したことで安堵と心強い後ろ盾に、口角を上げて笑うシン。
「俺は影から仲間を繋げる・・・。一人一人では勝てなくとも、ここに募ったアンタを倒さんとする意志が、この戦いに終止符を打つ。・・・覚悟しろ、フランソワ・ロロネー」
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