World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
433 / 1,646

勇気のきっかけ

しおりを挟む
 シンとミアが現実世界で抱える悩みは、もしかしたら似ているのかも知れない。シンは今まで以上に、彼女との親近感が増したような気がした。同じ境遇の中にある彼ら。WoFの世界とよく似た、痛みも疲労も空腹すらある世界。

 そこに現実との違いはなく、人が生活しそして生きている。この世界の住人達の死にも直面して来た。それでも、現実の世界で過ごす生きている価値すら見出せない空虚な時間を生きるより、よっぽど居心地が良かったのだ。

 「俺も同じだよ、ミア。過去に俺を迎え入れてくれるようなところなんて何処にもないんだ・・・。そしてそれは今も、この先もきっと・・・。何の為の時間を過ごしているのか分からなかったから、俺はこの異変に巻き込まれて良かったのかもしれない。そう思うようになって来たんだ。怖い思いもたくさんしたけど、ミアやツクヨ、それにメアやアーテム、ツバキ達に会えて充実した時間を過ごせている・・・」

 いろんな生活、いろんなモノに恵まれた環境の中では決して見つけることの出来ないもの。行動を起こし、様々なものに触れる事で、生きていく上で大事なものを学んでいく。自分の世界に閉じこもってしまった彼らに起きた異変。それは再び彼らを立ち上がらせ、新たな世界へ歩ませるきっかけとなったのかもしれない。

 「これが変わるきっかけになるなんて皮肉だな・・・」

 「こんなきっかけでもないと、変われなかっただろうけどね・・・」

 惨めで苦しく、先の見えない時の中でも、同じ境遇の中にある者は必ずいる。それが言葉だけでなく、心や身体で理解できただけでも、行動を起こせる勇気が湧いて来る。それが例え、死の縁を渡る険しい道であっても、彼らはこの世界でなら光に向かって歩みを進められる。

 「少し辛気臭くなってしまったな・・・。そろそろ中に戻らないと、また邪魔者が来るぞ?」

 「そうだな・・・。それじゃぁ先に戻ってるよ、ミア。また時間になったら交代しに来るから」

 船内へ戻ろうとするシンへ、振り向く事なく手を振るミア。いろんな事が立て続けに起こり、身近な仲間の事も聞く暇すらなかった。今度からは、余裕がある時にでももう少し身の上話でもしてみようか。そう思いながらシンは、船内へと戻って行った。

 「おいシンッ!見てみろよコレ!水中でも地上のように腕を動かせるガントレットだ!」

 腕に装着した鉄製のガントレットで、指を広げたり握ったりして、嬉しそうに見せびらかすツバキ。どうやら船の改造改築で余った部品を使い、戦闘用の装備を拵えてくれたようだった。

 「コイツは天才かもな。ちょっと見て触れただけで、余り物を使ってこんな物まで作っちまうとはな・・・。流石、ウィリアム・ダンピアのお弟子様だな」

 「馬鹿言ってんじゃねぇ!俺はじじぃを超えるエンジニアになるんだ。ただの造船技師で終わる気はねぇんだよ」

 「どれ・・・。早速俺が試して来てやろう」

 正直なところ、ボードの時点では彼の才能をそこまで評価していた訳ではなかった。だが、洗礼を受けていた時の操縦といい、船の改造改築や今まさに作り上げた特殊ギミックの装備品を目の前にして、彼の才能を認めざるを得なかった。

 ツバキの腕からガントレットを引き抜き、代わりに装着したアシュトンが甲板の方へと向かう。一緒になって後を追うデイヴィスと、試作品の動作確認をしにいくツバキ。ついて来いと言わんばかりに自分の方へと腕を掻き込む。

 すっかり傷の様子も良くなり、久しぶりに楽しそうな表情を浮かべるツバキと共に、シンは再び甲板へと向かい、アシュトンの入水をみんなで見送る。騒がしく船内から出て来た彼らを、見張りをしていたミアが見つける。

 仲良くやっている様子を見て微笑むミアは、一行に加わることなくそのまま周囲の警戒を続けた。波を割いて進む船から飛び降りても、再び船へ戻る術を持つのだというアシュトンは、ガントレットの装着を確認すると海へと飛び込んで行った。

 ツバキの指示の元、海中で様々な動作確認を行うアシュトン。何も問題なくこなして行く様子を見て、自らの腕前を誇らしげに踏ん反り返る。そんな彼をその気にさせるような言葉で持ち上げるデイヴィスは、あわよくばそのガントレットも頂こうとしているに違いない。

 暫くして、身体に巻き付いたワイヤーを巧みに使い、甲板へと戻って来るアシュトン。何事もなく平然と降り立つアシュトン。近くで見ると、どうやら身体に巻き付いていると思われたワイヤーは、肩や腰の辺りから飛び出したリールに巻かれていたようだ。そしてワイヤーを巻き終えると、そのリールは邪魔にならぬようスーツの中へと収納されていった。コレも魔法の一種なのだろうか。

 「成果は上々だな。コレで水中で剣を振ったり、物を投げても水の抵抗を受けなくなる。地上と変わらず攻撃出来るって訳だ!」

 「なぁおい。コレ、俺にも作ってくれねぇか?部品ならさっきの島でくすねて来たのが沢山あるんだ。なんなら新しい装備を作ってくれても構わねぇ」

 「本当かぁ!?よっしゃぁ!任せておけ!」

 そういうと、アシュトンと合流した島で漁った物品をジャラジャラと展開し、宝の山を見るような目で勢いづくデイヴィスとツバキ。アシュトンはすっかり目的を忘れたようにはしゃぐデイヴィスの代わりに、船を操縦するツクヨの元へ案内するようシンに伝える。

 操縦室へやって来る二人。事前にデイヴィスから指示をもらっていたツクヨは、忠実にそのルートを辿り目的地を目指す。

 「予定通り進んでいる。この調子で行けば、まもなくアンスティスの居るであろう島に着く頃合いだろう」

 「その・・・、あんす・・・アンス・・・ティス?っていう人はどんな人なんです?」

 操縦するツクヨが、次の島で合流する手筈になっているアンスティスについて尋ねる。だがどうやら、アシュトンはその人物をあまり信用していないようだった。デイヴィスの知らない、デイヴィス海賊団のその後、そこでは彼らの中でも様々な心の変化があったのだという。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

処理中です...