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海中のギャング達
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海原に見える煙が近づく。戦禍を連想させる音が響き始める。やはり目的の場所に上がっていた黒煙は、何処かの勢力同士が戦闘を行なっているものと見て間違いないようだ。そしてそれは、彼らを待つアンスティスの海賊団なのだろうか。
「戦闘だ・・・。誰かが戦ってるぞッ!」
「海賊旗は確認出来るか!?」
甲板から双眼鏡を覗くデイヴィスだったが、黒煙を上げる船のマストはへし折れ、何処の海賊の船か判断出来ない程崩壊している。沈没するのも時間の問題だろう。倍率の高いライフルのスコープを持つミアが、目標の周辺を見渡す。
そこには点々と幾つかの海賊船があり、その船体には今まさに燃え盛ろうとしているような炎が見える。デイヴィスに言われた通り、何処の海賊のものか見分けるため、彼らの象徴とも言える海賊旗を探すと、まだ小さく燃える炎の揺らめきの向こうに、一風変わった旗を見つける。
「あったぞッ!」
「どんな旗だ?」
「・・・髑髏を中心に、注射器のようなものが描かれてる・・・」
真っ黒な旗に、海賊を表す髑髏とそれとは正反対の生者に施す治療を連想させる注射器が描かれた海賊旗。死を連想させる髑髏とは真逆の組み合わせ。だがそれを聞いたデイヴィスは、すぐにそれが誰のものであるかを悟る。
「アンスティスの旗だ・・・。何者かの襲撃を受けているのか?」
戦闘が行われているのであれば、相手の姿が何処かにある筈。しかし、アンスティスの海賊船の周辺には、彼の掲げる海賊旗の他に別の船など見当たらなかったのだ。
海上に姿が見えないのであれば、他に考えられるのは上空か、それともアシュトン海賊団と同じように海中を進む相手だ。ツバキの改築により、新たに通信機が取り付けられ、協力者達の周波数を合わせることで通話が可能になっていた。
デイヴィスは海中を先行し、目標地点を囲むように動いていたアシュトンに連絡を取る。だが彼からの返事はない。海中ということもあり、電波の状況が悪いのか通信が繋がるような反応も窺えないようだった。
海中での動きはアシュトン海賊団にとって、得意なフィールド。何かあれば彼の判断に任せて問題ないだろう。
すると突然、海中の方から大きな爆発音と共に、天に上る大きな水柱が打ち上がる。彼らが何者かに襲撃されたのだろうか。繋がらぬ通信機に慌てて呼びかけるデイヴィス。そこで漸く電波が通じたのか、通信機から彼らの潜水艇より報告が入る。
「水深百メートル範囲内に、複数の敵影を確認!現在、船長と数人の精鋭が交戦中。相手はこのエリア一体を縄張りとする、モンスターの群れと見て間違いありません!」
如何やらアンスティス海賊団を襲っていたのは、レース上の海域に生息するモンスターの群れであったようだ。海域を荒らすモンスターの討伐も、レースのポイントとして加算される。
それは貿易等のルート確保や、輸送船などの襲撃被害を抑える活動に繋がるため、レース開催者側としても、物流を行なっている商人達や組織のスポンサー達にとっても、非常に利益のあること。
その手間や危険を、命知らずのレース参加者達にやらせるというのも、運営側の狙いでもあった。邪魔なモンスターを倒し、あわよくば問題を起こす海賊達も共倒れになる、一石二鳥の仕組み。
だが、デイヴィスはその報告を受け、少し妙な感覚を覚えた。島で待つ手筈となっていたアンスティス海賊団が、何故モンスターの襲撃を受けているのか。水深の浅い範囲に生息しているモンスターならまだしも、わざわざ深い海域で生息するモンスター達が彼らを襲うということは、何かしらの刺激を与えたというのだろうか。
魚雷のような小型モンスターを携えた、黒い体表に白い模様の入った鯱のようなモンスターに跨る、魚類の鱗を身に纏ったモンスターが宛ら賊のように海の中を自由自在に動き回り、海上の船やアシュトンらを攻撃して暴れ回っている。
海中からの攻撃に対応し切れていないアンスティス海賊団の船。旋回して小型モンスターの突撃を回避しようとするも、それはただの魚雷ではなく生物兵器のようなもの。目標に向かって突き進み、船の旋回程度ではとても避けられるものではない。
激しい爆発音と共に船底に穴を空けられ、苦戦している。アシュトン一味の精鋭が、小型モンスターの攻撃から船を守るように迎撃し、アシュトンは船長自ら鯱と魚人のモンスターらの数を減らしていく。
思わずツバキが驚きと関心を持った程の、アシュトンが身に纏ったスーツは海中で彼の魔力を使い、様々な形へと変わり彼の動きをサポートする。水中戦を得意とするモンスターらに、一歩も引かない動きで応戦するアシュトン。
更には彼の能力だろうか、島でシンを襲った時のような人形が鮫の姿を型取り、アシュトンと共にモンスターを迎え撃っている。ある程度の数を減らし余裕が出てきたのか、戦闘を人形達に任せたアシュトンからデイヴィスの乗るシン達の船へ通信が入る。
「アシュトンだ。如何やら敵はモンスターの群れだったらしい。俺達にとってそれ程恐ろしい相手ではないが、海中への攻撃手段を持たない連中からすると厄介な相手だな・・・」
「どうにかなりそうか?」
「あぁ、問題ない。だがもう少しだけ時間がかかる。海上のアンスティスの船団を引き連れ、この場から離れておいてくれ」
「分かった、お前も無茶をするなよ・・・」
海の中が戦場では如何しようもない。デイヴィスは彼のいう通りにアンスティスらの船に近づくと、無線を飛ばし当初の合流地点であった島の方へ向かうよう指示を出し、一行はアシュトン一味を残し海域を離れていった。
「戦闘だ・・・。誰かが戦ってるぞッ!」
「海賊旗は確認出来るか!?」
甲板から双眼鏡を覗くデイヴィスだったが、黒煙を上げる船のマストはへし折れ、何処の海賊の船か判断出来ない程崩壊している。沈没するのも時間の問題だろう。倍率の高いライフルのスコープを持つミアが、目標の周辺を見渡す。
そこには点々と幾つかの海賊船があり、その船体には今まさに燃え盛ろうとしているような炎が見える。デイヴィスに言われた通り、何処の海賊のものか見分けるため、彼らの象徴とも言える海賊旗を探すと、まだ小さく燃える炎の揺らめきの向こうに、一風変わった旗を見つける。
「あったぞッ!」
「どんな旗だ?」
「・・・髑髏を中心に、注射器のようなものが描かれてる・・・」
真っ黒な旗に、海賊を表す髑髏とそれとは正反対の生者に施す治療を連想させる注射器が描かれた海賊旗。死を連想させる髑髏とは真逆の組み合わせ。だがそれを聞いたデイヴィスは、すぐにそれが誰のものであるかを悟る。
「アンスティスの旗だ・・・。何者かの襲撃を受けているのか?」
戦闘が行われているのであれば、相手の姿が何処かにある筈。しかし、アンスティスの海賊船の周辺には、彼の掲げる海賊旗の他に別の船など見当たらなかったのだ。
海上に姿が見えないのであれば、他に考えられるのは上空か、それともアシュトン海賊団と同じように海中を進む相手だ。ツバキの改築により、新たに通信機が取り付けられ、協力者達の周波数を合わせることで通話が可能になっていた。
デイヴィスは海中を先行し、目標地点を囲むように動いていたアシュトンに連絡を取る。だが彼からの返事はない。海中ということもあり、電波の状況が悪いのか通信が繋がるような反応も窺えないようだった。
海中での動きはアシュトン海賊団にとって、得意なフィールド。何かあれば彼の判断に任せて問題ないだろう。
すると突然、海中の方から大きな爆発音と共に、天に上る大きな水柱が打ち上がる。彼らが何者かに襲撃されたのだろうか。繋がらぬ通信機に慌てて呼びかけるデイヴィス。そこで漸く電波が通じたのか、通信機から彼らの潜水艇より報告が入る。
「水深百メートル範囲内に、複数の敵影を確認!現在、船長と数人の精鋭が交戦中。相手はこのエリア一体を縄張りとする、モンスターの群れと見て間違いありません!」
如何やらアンスティス海賊団を襲っていたのは、レース上の海域に生息するモンスターの群れであったようだ。海域を荒らすモンスターの討伐も、レースのポイントとして加算される。
それは貿易等のルート確保や、輸送船などの襲撃被害を抑える活動に繋がるため、レース開催者側としても、物流を行なっている商人達や組織のスポンサー達にとっても、非常に利益のあること。
その手間や危険を、命知らずのレース参加者達にやらせるというのも、運営側の狙いでもあった。邪魔なモンスターを倒し、あわよくば問題を起こす海賊達も共倒れになる、一石二鳥の仕組み。
だが、デイヴィスはその報告を受け、少し妙な感覚を覚えた。島で待つ手筈となっていたアンスティス海賊団が、何故モンスターの襲撃を受けているのか。水深の浅い範囲に生息しているモンスターならまだしも、わざわざ深い海域で生息するモンスター達が彼らを襲うということは、何かしらの刺激を与えたというのだろうか。
魚雷のような小型モンスターを携えた、黒い体表に白い模様の入った鯱のようなモンスターに跨る、魚類の鱗を身に纏ったモンスターが宛ら賊のように海の中を自由自在に動き回り、海上の船やアシュトンらを攻撃して暴れ回っている。
海中からの攻撃に対応し切れていないアンスティス海賊団の船。旋回して小型モンスターの突撃を回避しようとするも、それはただの魚雷ではなく生物兵器のようなもの。目標に向かって突き進み、船の旋回程度ではとても避けられるものではない。
激しい爆発音と共に船底に穴を空けられ、苦戦している。アシュトン一味の精鋭が、小型モンスターの攻撃から船を守るように迎撃し、アシュトンは船長自ら鯱と魚人のモンスターらの数を減らしていく。
思わずツバキが驚きと関心を持った程の、アシュトンが身に纏ったスーツは海中で彼の魔力を使い、様々な形へと変わり彼の動きをサポートする。水中戦を得意とするモンスターらに、一歩も引かない動きで応戦するアシュトン。
更には彼の能力だろうか、島でシンを襲った時のような人形が鮫の姿を型取り、アシュトンと共にモンスターを迎え撃っている。ある程度の数を減らし余裕が出てきたのか、戦闘を人形達に任せたアシュトンからデイヴィスの乗るシン達の船へ通信が入る。
「アシュトンだ。如何やら敵はモンスターの群れだったらしい。俺達にとってそれ程恐ろしい相手ではないが、海中への攻撃手段を持たない連中からすると厄介な相手だな・・・」
「どうにかなりそうか?」
「あぁ、問題ない。だがもう少しだけ時間がかかる。海上のアンスティスの船団を引き連れ、この場から離れておいてくれ」
「分かった、お前も無茶をするなよ・・・」
海の中が戦場では如何しようもない。デイヴィスは彼のいう通りにアンスティスらの船に近づくと、無線を飛ばし当初の合流地点であった島の方へ向かうよう指示を出し、一行はアシュトン一味を残し海域を離れていった。
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