World of Fantasia

神代 コウ

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裏舞台での一幕

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 しかし、あれだけ大きな光を放っていてそれに気づかぬ程、蟒蛇も間抜けではなかった。砲身に光が収束し始めた時点で、海中に潜ろうと首をかがめていた。

 「おいおい・・・みんながどんな思いでここまで繋いだと思ってんだ。逃がしゃしねぇよッ!」

 海中へ潜り、退避しようとする蟒蛇の側に一隻の船がやって来る。その男は、海面に聳えるその首を見上げ、鍵フックのように先の尖ったアンカーを撃ち込むと、それに繋がるワイヤーを巻き取る装置で一気に上空へと飛び上がる。

 蟒蛇が海中に頭を潜り込ませたのとは反対の方に飛び越えていくと、振り向き様に蟒蛇の後頭部付近に再び別のアンカーを撃ち込み、その巨大なアーチ状になった蟒蛇の首に降り立つと、精一杯の力でワイヤーを巻き上げた。

 だが、人間一人の力では蟒蛇の潜ろうとする力を止めるなど、できる筈がない。そもそもの問題として、圧倒的な質量差がある為、例え複数人の人間が束になったところで、アンカーなど撃ち込んでしまえば、それこそ海に引き摺り込まれ暗い海底へと連れて行かれてしまう。

 そして何れ水圧に耐え切れなくなり、プレス機で押し潰されたかのように姿を保てなくなることだろう。しかし、その男は誰に気づかれる訳でもなく、人知れず無謀なことを実現させようと一生懸命になっている。

 すると驚くことに、蟒蛇は後ろ髪を引かれるように海中から顔を上げ始めたのだ。その巨体からすれば何ともか細い糸のようなワイヤーが、徐々に蟒蛇の頭部を天へと向けさせていく。

 「な・・・なるほど、これがキングの能力ってやつか。一時的にとはいえ、他人に自分の能力を付与できるなんてな・・・。全く、とんでもねぇ能力してやがるッ!」

 アンカーに繋がれたワイヤーを引く男は、その身にキングの能力を付与され、不可能とされる人智を超えた力で、蟒蛇逃さない。その男は仲間達の努力を知っている。

 ここまで繋いできたのは、全てはエイヴリーの作り出す兵器をお見舞いする為。命懸けで戦った仲間達が海に消えていく中、その射撃の準備が整うのを待ち、死と隣り合わせの戦闘を繰り広げ時間を稼いだ。

 それらを無駄にしない為に。助けられた恩をここで返す為に。男の引く力は、巨大蟒蛇の潜ろうとする力を凌駕し、決して兵器の射線状から逃さない。

 そして、蟒蛇の首が真っ直ぐ天に向けて聳え立ったところで、エイヴリーの兵器が強烈な光を放ち始める。

 「これで・・・何とか致命傷は与えられる筈・・・。無駄死ににならなくて何よりだ・・・」

 男は一人蟒蛇の上で戦った。周囲から見れば、蟒蛇の不自然な行動くらいにしか認知されなかったことだろう。だが、エイヴリーの作り出した兵器の攻撃を当てられるのは、この男の働きがあってこそのものだった。

 キングは彼を利用すると同時に、死に場所を与えてくれたのだ。男に後悔も未練もない。このまま兵器の射撃に巻き込まれれば、苦しむことなく一瞬で消し飛ぶだけだ。

 と、男が自分の役割を終え、満足そうな微笑みの中目を閉じていたところへ、一瞬にして飛び去る何かが男の身体を掴み上げ、蟒蛇の元から飛び去って行った。

 「ッ・・・!?」

 男が何事かと目を見開くと、後方へ吸い込まれていくような景色と、海面スレスレを飛び去る強烈な風が、男の身体を包み込んでいた。

 「死なせるかよッ・・・!生きていたんだな、“マクシム“・・・!」

 海中に逃げようとする蟒蛇を引きずり出していたのは、消息不明となっていたエイヴリー海賊団の幹部マクシムだった。そして彼こそが、キングによって救出された“拾いもの“であり、不測の事態に備えキングによって送り込まれた、重要なファクターだったのだ。

 「ロイクッ!?どうしてここにッ!何の為に俺があそこでッ・・・!」

 マクシムは紛れもなく、エイヴリー海賊団の仲間達の為に尽力した。しかし目の前に居るのは、そんな命掛けで最大級の一撃を入れる為に尽くした仲間の一人。

 自身の命一つで勝利へと前進させられるのであれば本望だったが、その勝手な行動に大切な仲間を巻き込む訳にはいかない。

 だがロイクもまた、生きているかも知れない仲間を見殺しにするような男ではなかった。

 ロイクや彼の竜騎士隊が撤退する際、海上を行くシャーロットを助けていたロイク。自身のドラゴンから彼女に手を伸ばし後ろへ乗せると、兵器の射線上から撤退する。

 その途中でシャーロットが思わぬことを言い出したのだ。

 「さっき、海上で妙な船を見たぞ。見るに耐えんボロ船に一人の男が乗っていた・・・。あのまま朽ちるつもりだろうか・・・?」

 何故、突然彼女がそんな事を伝えて来たのかは分からない。実際、話を聞いた時ロイク自身も、誰かも分からぬ者の為に戻ることは出来ないと思っていた。

 しかし、その後に彼女が口にした男の特徴を聞いて、ロイクは動き出さずにはいられなかった。それは居なくなってしまったとばかりに思っていた仲間の一人、マクシムの特徴と一致していたからだった。

 「何故それを俺に・・・?その男はどんな奴だった?」

 「何やら細いワイヤーのような物と、それを射出する装置を身に付けていたな・・・」
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