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男に蹴られた身体を起こし立ち上がるシン。不意打ちを食らい、必要以上のダメージを貰ってしまった。今はただ、目の前の男を黙らせるしかない。あわよくばその身柄を拘束し、知っていることを洗いざらい吐かせてやると、シンは薄暗い船室の環境を利用し、影を男の背後へと忍ばせた。
「実力を・・・?アンタの目的は何だ?」
シンは男の気を逸らそうと、言葉を投げかける。しかし、男はシンの思惑には一切乗ろうとはしなかった。彼の動きを読んでのことなのか、はたまたこの男自身の性格の問題なのかは分からない。
「お前には知る必要のねぇことさ。用があるのはこっちなんだ。いいから言われた通りに向かってこいよ!」
全く会話に応じようとしない男に、これ以上の時間稼ぎは不可能と判断したシンは、男の言葉が途切れると同時に、忍ばせていた影を男の影に縛りつける。感づかれる前に、シンは短剣を抜き、低い体制のまま正面から斬りかかる。
男は両腕を横に広げ、かかってこいと言わんばかりに無防備な姿を晒す。シンの方だけを見て、一切デイヴィスのことなど気にかけていなかった男は、迫るシンの影から逃れる退路すら、既に封じられていることなど知る由もなかった。
シンのスキルで動かす影は床を這い回り、例え飛んで避けようとも対象の影が床にあれば捉えることができる。ましてや現状のように薄暗い環境や光の届かぬ闇夜であれば、より僅かな影でも見つけ出し強力な力で押さえ付ける。
二人が会話をしている間にデイヴィスは、男の身長より高い位置の船室の壁に、目を凝らさなければ気づかないような細いピアノ線のようなワイヤーを張り巡らせていた。
男がシンの影を避けようと飛び上がれば、忽ちデイヴィスのワイヤーに絡め取られることになるだろう。全く相手にしない男の態度に、デイヴィスのプライドが傷ついたのだろう。
必ず一泡吹かせてやろうという強い意志を感じる。アサシンと忍者による攻撃は、生身の人間であれば一瞬にして確殺。シンもデイヴィスも、男がどこへ逃げようと確実に捉えられるよう、包囲網を敷く。
すると男は、顔を動かすことなく視線だけを床へ向けた。その視界には、迫るシンの影が捉えられていた。だが、この狭い室内を戦いの場に選んだのがこの男の落ち度だろう。光の限られる室内では、この二人のスキルを見切るのは至難の技だ。
例え技を見切られようと逃れることは出来ない。しかし男は、二人の全く想像していない方法で、この窮地を乗り越えて見せたのだ。
突然動き出した男は、近くにあった机を蹴り飛ばす。そして置かれていた椅子を掴むと、素早くデイヴィスの方へと投げる。机はそのままシンの方へと飛んで行く。
シンもデイヴィスも、一瞬迫る家具に視界を遮られてしまい、男の姿が見えなくなる。だがそれはほんの一瞬の出来事。シンは机を短剣で真っ二つに裂き、デイヴィスも蹴りで椅子を弾き飛ばす。
だが、二人の視線の先に男はいなかった。目の前を物体が通り過ぎるという僅かな一瞬の間に、男は何処かへと姿を消したのだ。デイヴィスの張り巡らせたワイヤーに何かが触れた形跡はない。
シンの影に至っても、薔薇の蔓のように目がらせているため、どこへ逃げよう男の影がシンの影に触れればすぐに分かる筈。しかし、二人の仕掛けた罠に獲物はかかっていない。
逃げ場のない状況から、どうやって姿を消したのか。二人が困惑する中、男はシンが切り裂いた机の片割れから静かに身を乗り出す。床に打ち付けられる寸前、僅かに濃くなる机の物陰から、男の身体が這い出るように現れ、その気配に気づかぬシンに再び重たい蹴りをお見舞いする。
割れた机が床に衝突し、転げる音と共にシンの身体は再び壁に突き刺さるようにして打ち付けられた。男の蹴り事態には、然程の威力はない。だがそれ以上に、シンの精神面へのダメージの方が大きかった。
悉く打ち破られる二人の攻撃。そしてその回避方法も、二人が知り得ない未知なるものであることが、更に二人の心の乱れを誘発していった。
「シンッ!」
「なんッ・・・で・・・?一体どこから・・・?」
上下の動きは完全に封じられていた筈。ならば横の動きしかあり得ないが、視界に映る光景に、男が両サイドに回避する様子など見受けられなかった。ならば一体どこで男を見失ったのか。
考えうる限り、机と椅子を投げてよこした僅かな一瞬しかあり得ない。だがどう考えても、人一人の身体が隠れられる程のスペースなどないのだ。机は二つに裂かれずとも、大人一人の身体を隠し切るには不十分。椅子など以ての外だ。
「スーパーイリュージョンでも見せられているかのような反応だな。全く滑稽だぜ。これなら負ける気がしねぇな・・・」
男は期待外れのものを見せられているように、大きな溜め息と呆れた表情を浮かべる。そして依然として、デイヴィスは眼中にない様子だった。
「余所見してる場合かよッ・・・!」
デイヴィスは風遁のスキルを纏わせた手裏剣を複数、背を向ける男目掛けて投げ放つ。手裏剣は男に命中する手前で、刃の部分が中心部から分裂し、四散する。予測できない方向へ飛び散る、複数の手裏剣の刃部分。
頭上には未だにデイヴィスの張り巡らせたワイヤーがある。上には避けられない。それを利用し、デイヴィスもワイヤーを切らぬよう上には飛んでいかないように調整していた。
しかし男は、避ける避けない已然の方法でデイヴィスの攻撃をやり過ごして見せた。デイヴィスの手裏剣の刃は、男のコートへ刺さる。そのコートには確かに貫かれたような跡を残し、その奥にあるであろう男の身体へ命中した。
だが男は、痛がる素振りも何かが当たったような反応すら示さなかったのだ。同時に、コートに空いた穴はすぐに修復され、何事もなかったかのように元通りになった。
「ッ・・・!? 確かに当たった筈だ!何故ッ?」
次の瞬間、デイヴィスの足に鋭い痛みが走った。下を向き、痛みを感じる箇所へ視線を送ると、そこにはデイヴィスが投げた筈の、手裏剣の刃が深々と突き刺さっていたのだ。
「・・・ッ!?」
膝から崩れ落ちるデイヴィス。大したこともされていない筈なのに、全く歯が立たないまま地に伏せさせられるシンとデイヴィス。男への攻撃の前に、先ずはこの不可解な男の能力を理解しなければ、戦闘の場に立つことさえ許されない。
「実力を・・・?アンタの目的は何だ?」
シンは男の気を逸らそうと、言葉を投げかける。しかし、男はシンの思惑には一切乗ろうとはしなかった。彼の動きを読んでのことなのか、はたまたこの男自身の性格の問題なのかは分からない。
「お前には知る必要のねぇことさ。用があるのはこっちなんだ。いいから言われた通りに向かってこいよ!」
全く会話に応じようとしない男に、これ以上の時間稼ぎは不可能と判断したシンは、男の言葉が途切れると同時に、忍ばせていた影を男の影に縛りつける。感づかれる前に、シンは短剣を抜き、低い体制のまま正面から斬りかかる。
男は両腕を横に広げ、かかってこいと言わんばかりに無防備な姿を晒す。シンの方だけを見て、一切デイヴィスのことなど気にかけていなかった男は、迫るシンの影から逃れる退路すら、既に封じられていることなど知る由もなかった。
シンのスキルで動かす影は床を這い回り、例え飛んで避けようとも対象の影が床にあれば捉えることができる。ましてや現状のように薄暗い環境や光の届かぬ闇夜であれば、より僅かな影でも見つけ出し強力な力で押さえ付ける。
二人が会話をしている間にデイヴィスは、男の身長より高い位置の船室の壁に、目を凝らさなければ気づかないような細いピアノ線のようなワイヤーを張り巡らせていた。
男がシンの影を避けようと飛び上がれば、忽ちデイヴィスのワイヤーに絡め取られることになるだろう。全く相手にしない男の態度に、デイヴィスのプライドが傷ついたのだろう。
必ず一泡吹かせてやろうという強い意志を感じる。アサシンと忍者による攻撃は、生身の人間であれば一瞬にして確殺。シンもデイヴィスも、男がどこへ逃げようと確実に捉えられるよう、包囲網を敷く。
すると男は、顔を動かすことなく視線だけを床へ向けた。その視界には、迫るシンの影が捉えられていた。だが、この狭い室内を戦いの場に選んだのがこの男の落ち度だろう。光の限られる室内では、この二人のスキルを見切るのは至難の技だ。
例え技を見切られようと逃れることは出来ない。しかし男は、二人の全く想像していない方法で、この窮地を乗り越えて見せたのだ。
突然動き出した男は、近くにあった机を蹴り飛ばす。そして置かれていた椅子を掴むと、素早くデイヴィスの方へと投げる。机はそのままシンの方へと飛んで行く。
シンもデイヴィスも、一瞬迫る家具に視界を遮られてしまい、男の姿が見えなくなる。だがそれはほんの一瞬の出来事。シンは机を短剣で真っ二つに裂き、デイヴィスも蹴りで椅子を弾き飛ばす。
だが、二人の視線の先に男はいなかった。目の前を物体が通り過ぎるという僅かな一瞬の間に、男は何処かへと姿を消したのだ。デイヴィスの張り巡らせたワイヤーに何かが触れた形跡はない。
シンの影に至っても、薔薇の蔓のように目がらせているため、どこへ逃げよう男の影がシンの影に触れればすぐに分かる筈。しかし、二人の仕掛けた罠に獲物はかかっていない。
逃げ場のない状況から、どうやって姿を消したのか。二人が困惑する中、男はシンが切り裂いた机の片割れから静かに身を乗り出す。床に打ち付けられる寸前、僅かに濃くなる机の物陰から、男の身体が這い出るように現れ、その気配に気づかぬシンに再び重たい蹴りをお見舞いする。
割れた机が床に衝突し、転げる音と共にシンの身体は再び壁に突き刺さるようにして打ち付けられた。男の蹴り事態には、然程の威力はない。だがそれ以上に、シンの精神面へのダメージの方が大きかった。
悉く打ち破られる二人の攻撃。そしてその回避方法も、二人が知り得ない未知なるものであることが、更に二人の心の乱れを誘発していった。
「シンッ!」
「なんッ・・・で・・・?一体どこから・・・?」
上下の動きは完全に封じられていた筈。ならば横の動きしかあり得ないが、視界に映る光景に、男が両サイドに回避する様子など見受けられなかった。ならば一体どこで男を見失ったのか。
考えうる限り、机と椅子を投げてよこした僅かな一瞬しかあり得ない。だがどう考えても、人一人の身体が隠れられる程のスペースなどないのだ。机は二つに裂かれずとも、大人一人の身体を隠し切るには不十分。椅子など以ての外だ。
「スーパーイリュージョンでも見せられているかのような反応だな。全く滑稽だぜ。これなら負ける気がしねぇな・・・」
男は期待外れのものを見せられているように、大きな溜め息と呆れた表情を浮かべる。そして依然として、デイヴィスは眼中にない様子だった。
「余所見してる場合かよッ・・・!」
デイヴィスは風遁のスキルを纏わせた手裏剣を複数、背を向ける男目掛けて投げ放つ。手裏剣は男に命中する手前で、刃の部分が中心部から分裂し、四散する。予測できない方向へ飛び散る、複数の手裏剣の刃部分。
頭上には未だにデイヴィスの張り巡らせたワイヤーがある。上には避けられない。それを利用し、デイヴィスもワイヤーを切らぬよう上には飛んでいかないように調整していた。
しかし男は、避ける避けない已然の方法でデイヴィスの攻撃をやり過ごして見せた。デイヴィスの手裏剣の刃は、男のコートへ刺さる。そのコートには確かに貫かれたような跡を残し、その奥にあるであろう男の身体へ命中した。
だが男は、痛がる素振りも何かが当たったような反応すら示さなかったのだ。同時に、コートに空いた穴はすぐに修復され、何事もなかったかのように元通りになった。
「ッ・・・!? 確かに当たった筈だ!何故ッ?」
次の瞬間、デイヴィスの足に鋭い痛みが走った。下を向き、痛みを感じる箇所へ視線を送ると、そこにはデイヴィスが投げた筈の、手裏剣の刃が深々と突き刺さっていたのだ。
「・・・ッ!?」
膝から崩れ落ちるデイヴィス。大したこともされていない筈なのに、全く歯が立たないまま地に伏せさせられるシンとデイヴィス。男への攻撃の前に、先ずはこの不可解な男の能力を理解しなければ、戦闘の場に立つことさえ許されない。
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