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神代 コウ

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夢に見た再会

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 キングの元へ向かう前に情報を共有していたのか、彼らの手には急遽拵えたであろう武器が握られていた。中には、その腕には似つかわしくない獲物を握っている子供もいた。

 「ボッ・・・ボス!!」

 一人の船員が声を上げた。デイヴィスとキングが同時に声のする方を向く。そこに並ぶのは、デイヴィスの妹であるレイチェルが順調に育っていれば、このくらいになるのだろうという年頃の子ばかりだった。

 そんな、青年から子供までまちまちの純粋な者達の前で、このような光景を見られてしまったことに、心臓が鷲掴みにされる思いだった。全てを聞き出した後で、キングの処遇を決める予定であったが、デイヴィスの想像していた以上に早く気づかれてしまった。

 「止まれッ!それ以上近づくな!」

 思わず脅迫めいた言葉が、デイヴィスの口から飛び出す。それを聞いた者達の中には、彼の声に怯え震え出す者の姿があった。何処にでもいるような大人や、どうしようもない海賊達を相手にするのとは訳が違った。

 曇りのない眼に見つめられる事が、何よりもデイヴィスの心を締め付ける。身体から力が抜ける。闘志に迷いが生まれる。人は何も知らぬ純粋なモノと対峙した時、自分の行いを改めてしまいがちになる。

 だがそれは一瞬。そこからどうするかは当人次第。何とも思わず、信念を貫く者もいれば、手を止めてしまう者もいる。

 デイヴィスは前者だった。無論、全く心を痛めなかった訳ではない。しかし、ここまで辿り着き、長年の計画を実行に移したところで、刹那の迷いに惑わされたりはしない。

 彼らの心にトラウマや恐怖を植え付けようと、止まれない。止まる訳にはいかない。

 「・・・言うことを聞いてちょうだ~い。じゃないと、俺ちゃんの首、飛んで行いちゃうからねぇ・・・」

 キングは何故か、彼らに危害が及ぶのを嫌い、今はデイヴィスの指示に従うように促す。キングにとって彼らは、ただの奴隷という存在ではないのだろうか。人を物のように扱うキングが、その物に感情を抱くだろうか。

 それとも単純に、商品としての価値を失いたくないというだけなのか。何方にせよ、無駄な血を流さずに済むのは、デイヴィスにとっても好都合。ギャラリーが増えてしまったが、デイヴィスは聴きそびれてしまった妹の所在について追及する。

 「知ってることを全て吐け!お前は俺の名を知っている。相手のことを徹底的に調べ上げるのは、お前の常套手段な筈だろ?なら、俺に妹がいたことも知ってる筈だ!」

 「知らねぇな・・・。いちいちそんなこと覚えてらんねぇよ」

 それまでの、人を小馬鹿にしたかのような説明口調とは打って変わり、何かを隠しているかのように喋るキング。デイヴィスはその違和感を逃さない。キングは必ずレイチェルのことを知っている筈。

 「許されることじゃない。認めたくねぇことだが、お前の仕事ぶりは抜かりがない・・・。そんなお前が、奴隷のことについて“覚えていない“筈がねぇ。例え覚えていなくとも、記録が残ってる筈だ。商品のことを記載している帳簿。何かしらあるだろ!?」

 「さぁな・・・。そんな物あったかなぁ?」

 「ふざけてんのか?これ以上時間をかけさせるようなら、指を切り落としていく・・・。お前の組織のことも知ってるし、それに手を出せばタダでは済まないのも知っている。だからこそ、俺には余裕がねぇ・・・。やると言ったら必ず実行する」

 キングも、デイヴィスがはったりやチープな脅しを言っているなどとは思っていない。彼がここまでしたと言うことは、彼のいう通りそれなりの覚悟を持ってやっているということを、キングは理解していた。

 デイヴィスの覚悟に応え、妹のレイチェルという人物について口を開こうとした時、騒ぎを聞きつけた別の船員達がさらに数人、キングの捉えられている現場にやってくる。

 周りの戦禍で足音は聞こえない。船員達の中で、人の動きを捉えたデイヴィスが視線を移すと、そこには思いもしなかった人物がいた。だがそれは、彼が心の何処かで願っていたことでもある。

 無事であるのなら、そこに居るはず。例え自分のことを忘れてしまっていても、無事に生きていてくれればそれだけでよかった。

 デイヴィスの目に、希望の光を見たかのような光が宿る。駆け足とともに甲板へ現れた船員達の中に、どこか自分と似たような魂の波動を感じた。そしてその顔には、当時の面影も窺える。

 それは紛れもなく、デイヴィスの妹のレイチェルだった。

 「ボスッ!」

 「ッ・・・!」

 デイヴィスの記憶に残る幼い彼女とは違う、成長したレイチェルの姿がそこにはあった。だが、兄との再会よりもレイチェルはキングの身の安全を気にしていた。やはり覚えていないのだろうか。

 無理もない話だ。まだ幼かったレイチェルが、長い年月を経て家族の顔を忘れてしまっていても仕方のないことだろう。それでも、身内である自分のことよりも、キングのことを先に気にかけた事が、デイヴィスの心へ重く響いた。

 「・・・貴方は・・・」

 デイヴィスの予想とは裏腹に、レイチェルが彼の顔を見て何かを感じ取った。デイヴィスが彼女を見た時に感じたものを、恐らく彼女も感じ取ったのだろう。

 「レイチェル!俺だ!覚えていないかもしれないが、俺はお前の兄のハウエルだ!ハウエル・デイヴィス!ずっと探してた・・・。助けに来たんだ!」

 「ハウエル・・・兄さん・・・?」

 二人の再会に、キングは邪魔をしようとはしなかった。ただ黙って、デイヴィスに囚われたままでいる。デイヴィスの気の抜けた今なら、いくらでも脱出するチャンスはある。それでも動こうとしなかったことを、デイヴィスは知ることすらなかった。

 そんな余裕はなかったのだ。漸く会えた妹を前に、他の全ての事が頭から抜けてしまった。そして何より、無事でいてくれた事が何よりも彼を安堵させた。

 しかし、そんな感動の一場面は、刹那に訪れる一瞬の出来事によって、儚く消し去られることになる。
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