World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
533 / 1,646

罪人への慈悲

しおりを挟む
 普段から冷静に物事を判断する彼にとっては、珍しい反応だ。だが一人で行かせるのは危険だ。アンスティスの様子を見たロバーツは、直ぐに彼の後を追わせる者を探した。

 「マズイッ!ウォルターは曲者だ。このままでは・・・。誰かッ・・・」

 そう口にしようとした時、ロバーツの腕を何かが引っ張った。その力はあまりに弱々しく、赤子に袖を掴まれたかのように慎重に扱わなければ、怪我をさせてしまいそうだった。

 「ロバーツ・・・。お前が行ってくれ。誰よりも信頼しているお前が良い・・・。そしてアンスティスを止めてくれ。ウォルターのことは放っておいてやってくれ・・・」

 どんな困難へも立ち向かう力強さに、用意周到に準備を整え作戦を練る叡智に満ちた彼の声が、まるで嘘のように聞こえる。爆煙に喉を焼かれた影響が出て来たのか、それまでよりもデイヴィスの容態は悪化しているように見える。

 そして彼が口にした言葉に、ロバーツは驚きを隠せなかった。自分の海賊団を放棄し、妹の所在を確かめる為に各地を奔走したデイヴィス。その彼に、この世の地獄かのような光景を見せた者を見逃せと言ったのだ。

 ロバーツの中には、そんな考えは毛頭もなかった。仲間達への裏切り行為や、親友にここまでの仕打ちをしたウォルターには、それ相応の対価を支払わせるつもりでいたからだ。

 要するに、ウォルターとそれに追従する者達、手を貸す者達の殲滅だ。ただ殺すのでは物足りない。彼の中に芽生えた煉獄のように燃え盛る怒りの炎は、ウォルター一人の命で鎮めることは出来ない。多くの供物を欲していた。

 「今、なんて言った・・・?奴を見逃せと?お前はそれでいいのか!?目的を奪われ、こんなことまでされて・・・。それでもアイツが憎くないと!?」

 デイヴィスはロバーツの腕の中で、静かにゆっくりと首を横に振る。謎の言葉を残し、消えていったコートの男がくれた猶予は、仲間達にそんなことをさせる為に与えられたものではない。

 海賊として様々な略奪や報復をしてきたからこそよく知っているのだ。憎しみの連鎖はより大きな悲劇を巻き起こし、悲惨な結末へと誘う悪魔の囁きなのだと。今の自身がまさにそうだと、この後に及んで漸く悟りが開けた。

 「ウォルターの怒りの灯火は、俺がつけた地獄への篝火だ・・・。それを手放すことなく、こんなところまでアイツは持ってきた。ならばその火に焼かれるのは、俺でなければならない。俺だけでなければ・・・。唯一の家族を巻き込んでしまったが、奴も大事なものを犠牲にされている・・・。どちらかが折り合いをつけないと・・・」

 「俺はッ・・・!俺は・・・お前の願いなら叶えてやりたいと思ってる。だが奴がしでかした事にはケジメをつけさせなければッ・・・。皆への示しにもならんぞ!」

 次第にヒートアップし、熱くなるロバーツの顔に手を伸ばすデイヴィス。それを掴み、彼の訴えを聞こうとするロバーツ。本来ならその胸元を掴みあげ、殴って目を覚まさせてやりたかった。しかし、身体はもう彼の言うことを聞かない。精一杯伸ばした手も、最も容易く囚われてしまう。

 「ロバーツ!もう行け!間に合わなくなるぞ!」

 側で戦っていたアシュトンが、ロバーツの後ろ髪を引かれるような背中を押す。キングの船団の元へ、幾つもの船が集まってくる。それがシー・ギャングの者達のものであるのか、暗殺計画の下に集まった海賊達のものであるのかは、その中に紛れるウォルターを援護しに来たものなのかは定かではない。

 だがウォルターなら、敵から奪った船をそのまま利用するくらいのことは考えそうなものだ。森に隠れるには草木を利用する。船団の中に隠れるには敵船を利用するのは常套手段だ。

 「あっ・・・あぁ、デイヴィスを頼むッ!」

 「ロバーツッ・・・!」

 ロバーツと代わるようにデイヴィスを引き継いだアシュトンの腕の中で、枯れる声で全力の声をあげるデイヴィス。その声は、走り出そうとしたロバーツの足を止め、アシュトンに言葉を贈る機会を与えるよう訴えた。

 「信頼する我が友よ・・・。約束だぞ・・・」

 まるで、これで最期かのようなデイヴィスの言葉に、ロバーツの握った拳は骨が軋むほど力強く握りしめられ、友を思う清い血を流した。これ以上デイヴィスにかける言葉が見つからなかったロバーツは、振り返ることなくその場を後にし、ウォルターとアンスティスが辿った道を辿っていった。

 「感謝するよ・・・アシュトン。お前が背中を押さなければ、取り返しのつかないことになるところだった・・・」

 「こんなこと、聞くべきではないかもしれないが・・・。ロバーツはアンタとの約束を守ると思うか?」

 「分からない・・・。嘗ての俺が逆の立場なら、決してウォルターを許すことはなかっただろうな・・・。ロバーツならどうするのか・・・。それとも結末はもう・・・決まっているのかな?」

 何か引っかかるような言葉を残し、デイヴィスの表情はどこか安らかになった。ロバーツも、根っこの部分では仲間を思う気持ちは、嘗てのデイヴィスと変わらない。

 そして、デイヴィス海賊団解散後もロバーツと繋がりがあったアシュトンには、ロバーツがデイヴィスとの約束をどうするのか、少しだけ分かっていたような表情を浮かべる。

 「・・・そうだな・・・。アンタが望む結末へ向かうことを祈ってるよ」

 そう言うとアシュトンは、彼の上半身を壁に寄り掛からせ、助けたキングの船員達に彼の面倒を任せた。ロバーツを見送り、再び戦場へ赴くアシュトン。彼らを守りつつ、政府の海賊達の猛攻を仲間達と共に刃を振るう。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

処理中です...