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獣を狩る二人の戦士
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爆弾を精製するにあたってよく耳にするのが、ニトロと呼ばれる成分が有名だろう。他にも様々な成分が混合されて作られている。
少し掘り下げると、ニトロ基というものを芳香環に導入し、硝酸条件でニトロ化するのだという。イメージとしては、ニトロ基という孤立したものを、芳香環という組織の中に組み込むことで、ニトロ化するということだろうか。
アンスティスは薬剤の知識を身につけており、ウォルターの作り出す爆弾に含まれるニトロに反応する薬剤を調合していたのだ。これにより、ウォルターの不可視の爆弾をより肉眼で確認しやすくすることが出来るのだという。
「既に伏線は張った。これでウォルターの爆弾を確認出来る様になる筈だ・・・」
「ほう?そいつは助かる。目に見えるのであればこれまで程の脅威ではなくなるな!」
折角アンスティスがウォルターに気取られないように小声で伝えたことを、ダラーヒムはその豪快な体格や性格同様に、大きく口を開けて嬉しそうな表情をする。
「はぁ・・・。君はもう少し手の内を隠す術を身につけた方が良いのでは・・・?」
「性に合わねぇ!こそこそすんのは、俺らのやり方じゃぁねぇんだわ!」
案の定、ウォルターはこちらを伺い何かを観察するように、攻撃の手を休めている。勘の鋭い彼が、アンスティスらの企みを見逃すはずがない。警戒しているのか、通常の目に見える砲弾型の爆弾を彼らに向けて差し向けるウォルター。
両腕を頭上で交差させ、扇状に大きく腕を開く。その動線の上に、次々に砲弾が生成させれていくと、ウォルターは風を巻き起こすように腕を振り払い、砲弾は大筒から放たれたかのように撃ち出されていく。
ダラーヒムはすかさずアンスティスの前に身を乗り出すと、手刀で床に指を突き刺し、板を剥がすように床を持ち上げると同時に、床の素材を錬金術のスキルで別の物体へと変化させる。
木材はバチバチと稲光を纏い、鉄板のように強度の高い性質の板へと姿を変える。砲弾は鉄板に接触すると大きな爆発を起こす。ダラーヒムの作り出した鉄で出来た大きな壁は、爆発を受けるごとにその形を歪ませていく。
長くは持たない。ダラーヒムがウォルターの気を引き付けている内に、素早くアンスティスは物陰へと走り、姿を隠す。ウォルターが一瞬、こちらへ視線を向けたような気がしたが、まるで眼中にないのか、ダラーヒムへの猛攻を続けている。
アンスティスはウォルターに気付かれないように、物陰から身体を一切出さずに、懐に忍ばせた薬剤の入った小瓶を取り出すと、栓を抜き床へこぼした。するとアンスティスは、そのまま迂回するように物陰から物陰へと移動していき、同じことを繰り返していく。
「オラァオラァッ!キングの護衛がこの程度かぁ!?守ってばかりじゃ妻らねぇだろ!」
爆発の隙を伺い、錬金術で遠距離からウォルターへ攻撃を仕掛けるダラーヒムだったが、彼のスキルは物質の変化を表すように稲光を発してしまい、まるで導火線についた炎のように近づいてくるのが分かってしまう。
足元に来るよりも先に、違う場所へと飛び退くウォルター。彼が元いた場所に稲光が到達すると、鋭利に尖った石柱のようなものが生成され、槍のようにウォルター目掛けて突き出した。
空中で身を翻し、突き出る石柱を足場にして飛び上がる方向を変えるウォルター。爆弾で遠距離から戦う戦闘スタイルかと思いきや、素早い身のこなしも可能な、接近戦も行える万能な戦いを見せる。
ウォルターの爆撃を受け、向こう側が覗けるような穴が空いた鉄板を、そのまま円盤投げのように投げるダラーヒム。それがウォルターに命中するなどとは、初めから思っていない。
僅かでも視界から姿を消すことで、ウォルターの緊張感を保ちつつ、別の場所で新たな鉄板を生成し、大盾と石柱の槍で応戦する。一向に戦闘へ参加してこないアンスティスを警戒しつつ、ウォルターは遂に不可視の爆弾を使用する。
爆発から身を守るダラーヒムの背後から、蜘蛛の形をした小型の不可視の爆弾が近づく。爪先をカチカチと小さく鳴らしながら、忍び寄るようにして迫る不可視の爆弾蜘蛛。
爆発の音と鉄を打ち鳴らす衝撃に、爆弾が近づいていることに気がつかないダラーヒム。すると、彼の足元に小瓶が飛んで来て床に落ちる。割れた瓶の中身から飛び出した液体が、不可視の爆弾蜘蛛にかかるとその姿を表す。
爆弾蜘蛛は液体をかけられたことで驚き、直様その場で爆発を試みる。だが、蜘蛛は何も起こらないことに動揺したかのように周囲を見渡す。そこへ音もなく近づいて来たアンスティスが、爆弾蜘蛛を短剣で突き刺し、床に固定する。
もがき苦しむように足をバタつかせる蜘蛛。そのやり取りに、遅れて気がついたダラーヒムが窮地を救ってくれたアンスティスに感謝の言葉を贈る。
「助かったぜぇ!お前がいなけりゃ、要らぬ傷を負っていたかもな」
「死んでいたかもしれないがな・・・」
「この程度で俺様が死ぬ?ハハハッ!こんなの擦り傷程度にしかならんわ!」
やはりこの男は苦手だと、頭を抱えるアンスティスと、豪快に彼の背中を叩くダラーヒム。アンスティスが思う以上に二人は相性がいい。だが決定打にかける。それも時間の問題だろう。
ウォルターの救援が来るのが先か、アンスティスの後を追っているロバーツが先か。
少し掘り下げると、ニトロ基というものを芳香環に導入し、硝酸条件でニトロ化するのだという。イメージとしては、ニトロ基という孤立したものを、芳香環という組織の中に組み込むことで、ニトロ化するということだろうか。
アンスティスは薬剤の知識を身につけており、ウォルターの作り出す爆弾に含まれるニトロに反応する薬剤を調合していたのだ。これにより、ウォルターの不可視の爆弾をより肉眼で確認しやすくすることが出来るのだという。
「既に伏線は張った。これでウォルターの爆弾を確認出来る様になる筈だ・・・」
「ほう?そいつは助かる。目に見えるのであればこれまで程の脅威ではなくなるな!」
折角アンスティスがウォルターに気取られないように小声で伝えたことを、ダラーヒムはその豪快な体格や性格同様に、大きく口を開けて嬉しそうな表情をする。
「はぁ・・・。君はもう少し手の内を隠す術を身につけた方が良いのでは・・・?」
「性に合わねぇ!こそこそすんのは、俺らのやり方じゃぁねぇんだわ!」
案の定、ウォルターはこちらを伺い何かを観察するように、攻撃の手を休めている。勘の鋭い彼が、アンスティスらの企みを見逃すはずがない。警戒しているのか、通常の目に見える砲弾型の爆弾を彼らに向けて差し向けるウォルター。
両腕を頭上で交差させ、扇状に大きく腕を開く。その動線の上に、次々に砲弾が生成させれていくと、ウォルターは風を巻き起こすように腕を振り払い、砲弾は大筒から放たれたかのように撃ち出されていく。
ダラーヒムはすかさずアンスティスの前に身を乗り出すと、手刀で床に指を突き刺し、板を剥がすように床を持ち上げると同時に、床の素材を錬金術のスキルで別の物体へと変化させる。
木材はバチバチと稲光を纏い、鉄板のように強度の高い性質の板へと姿を変える。砲弾は鉄板に接触すると大きな爆発を起こす。ダラーヒムの作り出した鉄で出来た大きな壁は、爆発を受けるごとにその形を歪ませていく。
長くは持たない。ダラーヒムがウォルターの気を引き付けている内に、素早くアンスティスは物陰へと走り、姿を隠す。ウォルターが一瞬、こちらへ視線を向けたような気がしたが、まるで眼中にないのか、ダラーヒムへの猛攻を続けている。
アンスティスはウォルターに気付かれないように、物陰から身体を一切出さずに、懐に忍ばせた薬剤の入った小瓶を取り出すと、栓を抜き床へこぼした。するとアンスティスは、そのまま迂回するように物陰から物陰へと移動していき、同じことを繰り返していく。
「オラァオラァッ!キングの護衛がこの程度かぁ!?守ってばかりじゃ妻らねぇだろ!」
爆発の隙を伺い、錬金術で遠距離からウォルターへ攻撃を仕掛けるダラーヒムだったが、彼のスキルは物質の変化を表すように稲光を発してしまい、まるで導火線についた炎のように近づいてくるのが分かってしまう。
足元に来るよりも先に、違う場所へと飛び退くウォルター。彼が元いた場所に稲光が到達すると、鋭利に尖った石柱のようなものが生成され、槍のようにウォルター目掛けて突き出した。
空中で身を翻し、突き出る石柱を足場にして飛び上がる方向を変えるウォルター。爆弾で遠距離から戦う戦闘スタイルかと思いきや、素早い身のこなしも可能な、接近戦も行える万能な戦いを見せる。
ウォルターの爆撃を受け、向こう側が覗けるような穴が空いた鉄板を、そのまま円盤投げのように投げるダラーヒム。それがウォルターに命中するなどとは、初めから思っていない。
僅かでも視界から姿を消すことで、ウォルターの緊張感を保ちつつ、別の場所で新たな鉄板を生成し、大盾と石柱の槍で応戦する。一向に戦闘へ参加してこないアンスティスを警戒しつつ、ウォルターは遂に不可視の爆弾を使用する。
爆発から身を守るダラーヒムの背後から、蜘蛛の形をした小型の不可視の爆弾が近づく。爪先をカチカチと小さく鳴らしながら、忍び寄るようにして迫る不可視の爆弾蜘蛛。
爆発の音と鉄を打ち鳴らす衝撃に、爆弾が近づいていることに気がつかないダラーヒム。すると、彼の足元に小瓶が飛んで来て床に落ちる。割れた瓶の中身から飛び出した液体が、不可視の爆弾蜘蛛にかかるとその姿を表す。
爆弾蜘蛛は液体をかけられたことで驚き、直様その場で爆発を試みる。だが、蜘蛛は何も起こらないことに動揺したかのように周囲を見渡す。そこへ音もなく近づいて来たアンスティスが、爆弾蜘蛛を短剣で突き刺し、床に固定する。
もがき苦しむように足をバタつかせる蜘蛛。そのやり取りに、遅れて気がついたダラーヒムが窮地を救ってくれたアンスティスに感謝の言葉を贈る。
「助かったぜぇ!お前がいなけりゃ、要らぬ傷を負っていたかもな」
「死んでいたかもしれないがな・・・」
「この程度で俺様が死ぬ?ハハハッ!こんなの擦り傷程度にしかならんわ!」
やはりこの男は苦手だと、頭を抱えるアンスティスと、豪快に彼の背中を叩くダラーヒム。アンスティスが思う以上に二人は相性がいい。だが決定打にかける。それも時間の問題だろう。
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