553 / 1,646
薬の効能と限界
しおりを挟む
ログハウスの中には、ダミアンと同じような症状で踏み止まっている者が多く、まだ動きにはそれ程不自由はしていなかった。早急に病への対策をとっていたからだろうか。寝込んでいるのは、運悪く間接部位や足を中心に、銀色の症状が現れた者達だけのようだ。
「話というのは他でもない、この町に起きている病についてだ。アンタ達は一体何処まで知っている?」
「俺達は病が流行り始めてからは、漁を辞めた。そもそもそんな状態じゃ仕事の邪魔だからな。だがハンクの奴らは納得せず、町の主な食料ともなっている漁を続けるよう言ってきた。テメェらは安全なところに篭ってるっつぅのによ・・・」
確かにそれは納得のいく話ではない。物流が止まり、いくら大事な食料源だとはいえ、何の対策も無しに漁を続けさせるなど、死にに行けと言っているようなものだ。それが、仲の悪い漁師達へ向けたハンクらの皮肉なのか、それともそんなことを本気で言っていたのかは定かではない。
「勿論そんな要求を飲んだ訳じゃないんだろ?何故町長連中はそんなことを・・・」
「病が噂になり始めて、患者が診療所に行き始めていた頃、ウチの連中もスミスんとこに診てもらいに行ってたんだ。でも、初めはスミスも治療法はなんてのは勿論、予防策なんかもわかっちゃいなかった。出来るだけ他者との接触を避けるように、家にいてじっとしてろってのが、奴の診断だった」
どうやらスミスは、早期から病の感染経路を警戒し、外出を控え他者との接触を控えるよう患者達に言っていたようだ。しかし、恐らく病の進行はそれだけでは止まらなかったのだろう。
「それがどう言った訳でこんなところに集まってるんだ?」
「意味がなかったからだ。家でじっとしてようと、病の侵食は止まらねぇ・・・。町長連中は近隣諸国に書簡を送るだけで何もしねぇ。スミスからは意味があるのかも分からねぇ薬だけ出されて、病のことが分かるまで来ないでくれと言われる始末。町の奴らはもう限界だったって訳だ」
一向に病の対策が進展しないまま、住人達は頼るものもなく、ただじっとしていることに疲労していった。
そんな時にできたのが、スミスの開発した病に予防剤だった。だがそれでも、病は治る訳ではなく、感染していない者にしか配られないことに対し、住民達の怒りは爆発した。
「だが、スミスは病にかからない為の薬を作り上げたじゃないか」
「遅かったのさ。不安の中で人が我慢できる時間など、限られている。奴への感謝を抱いている人間など、最早いないだろうな・・・。だが、偶然にも俺や数人の漁師達はまだ、その時病にかかっていなかった。だから俺達はスミスの薬をありがたく貰いに行った」
ダミアンや漁師達が、スミスの薬を貰っていたのなら、病の脅威から逃れられている筈。しかし今のダミアンは、その身体を病に侵されている。ということはつまり、デイヴィスが持っているこの薬は効果がないということなのだろうか。
思わず取り出した薬を見つめるデイヴィス。ダミアンはそれが、自分達が服用していた薬と同じ物であると悟り、使用するに当たっての注意点を教えてくれた。
「あまり過信しねえことだ。スミスも言ってたかもしれねぇが、それさえ飲んでれば病にかからねぇ訳じゃない。薬の効果には、持続時間と活動できる限界の運動量があったさ。それを超えると・・・この通り」
そう言うとダミアンは、袖や裾を捲り、病の症状を見せてくれた。
「アンタらそうまでして、何故外へと出て行ったんだ?町長連中と同じようにじっとしていれば、病にかかることもなかっただろうに・・・」
「性分じゃなかった。それに町長の奴らのやり方じゃ、いつまで経っても事態は好転しねぇよ。奴らは俺らがスミスの薬を受け取っているのを良く思っていなかったようだしな。だから俺達は、漁業で築いた独自の物流ラインや、近づいて来る海賊共から食料を奪いながら、何とかここまでやってきたが・・・。見ての通り、それも限界が近づいてる」
自分の表情を映し出す病に侵された自分の腕を見ながら、ダミアンは暗い表情を浮かべる。何故動けているのか不思議だったが、彼女もまた他の漁師達の為、身体に鞭を打って無理をしていたのだ。
「なるほど。アンタ達の病との奮闘と現在の状況は分かった。次にこの港町のことについて知りたい。何処かに怪しいところや、今はもう使われていない道なんかがあれば教えて欲しい」
「何だってそんなこと・・・ッ!?この病が何者かによる陰謀だとでも言うのかッ!?」
「分からない・・・。それを確かめる為にも、自由に動ける俺がアンタらそれぞれの話を聞いて回ってんだ」
ダミアンは自分の活動限界が近づいていることに焦っていた。だが、この港町に偶然にも迷い込んだデイヴィス達が最後の望みかもしれないと、協力は厭わない姿勢を見せた。非協力的だった町長サイドとは大違いだ。
「話というのは他でもない、この町に起きている病についてだ。アンタ達は一体何処まで知っている?」
「俺達は病が流行り始めてからは、漁を辞めた。そもそもそんな状態じゃ仕事の邪魔だからな。だがハンクの奴らは納得せず、町の主な食料ともなっている漁を続けるよう言ってきた。テメェらは安全なところに篭ってるっつぅのによ・・・」
確かにそれは納得のいく話ではない。物流が止まり、いくら大事な食料源だとはいえ、何の対策も無しに漁を続けさせるなど、死にに行けと言っているようなものだ。それが、仲の悪い漁師達へ向けたハンクらの皮肉なのか、それともそんなことを本気で言っていたのかは定かではない。
「勿論そんな要求を飲んだ訳じゃないんだろ?何故町長連中はそんなことを・・・」
「病が噂になり始めて、患者が診療所に行き始めていた頃、ウチの連中もスミスんとこに診てもらいに行ってたんだ。でも、初めはスミスも治療法はなんてのは勿論、予防策なんかもわかっちゃいなかった。出来るだけ他者との接触を避けるように、家にいてじっとしてろってのが、奴の診断だった」
どうやらスミスは、早期から病の感染経路を警戒し、外出を控え他者との接触を控えるよう患者達に言っていたようだ。しかし、恐らく病の進行はそれだけでは止まらなかったのだろう。
「それがどう言った訳でこんなところに集まってるんだ?」
「意味がなかったからだ。家でじっとしてようと、病の侵食は止まらねぇ・・・。町長連中は近隣諸国に書簡を送るだけで何もしねぇ。スミスからは意味があるのかも分からねぇ薬だけ出されて、病のことが分かるまで来ないでくれと言われる始末。町の奴らはもう限界だったって訳だ」
一向に病の対策が進展しないまま、住人達は頼るものもなく、ただじっとしていることに疲労していった。
そんな時にできたのが、スミスの開発した病に予防剤だった。だがそれでも、病は治る訳ではなく、感染していない者にしか配られないことに対し、住民達の怒りは爆発した。
「だが、スミスは病にかからない為の薬を作り上げたじゃないか」
「遅かったのさ。不安の中で人が我慢できる時間など、限られている。奴への感謝を抱いている人間など、最早いないだろうな・・・。だが、偶然にも俺や数人の漁師達はまだ、その時病にかかっていなかった。だから俺達はスミスの薬をありがたく貰いに行った」
ダミアンや漁師達が、スミスの薬を貰っていたのなら、病の脅威から逃れられている筈。しかし今のダミアンは、その身体を病に侵されている。ということはつまり、デイヴィスが持っているこの薬は効果がないということなのだろうか。
思わず取り出した薬を見つめるデイヴィス。ダミアンはそれが、自分達が服用していた薬と同じ物であると悟り、使用するに当たっての注意点を教えてくれた。
「あまり過信しねえことだ。スミスも言ってたかもしれねぇが、それさえ飲んでれば病にかからねぇ訳じゃない。薬の効果には、持続時間と活動できる限界の運動量があったさ。それを超えると・・・この通り」
そう言うとダミアンは、袖や裾を捲り、病の症状を見せてくれた。
「アンタらそうまでして、何故外へと出て行ったんだ?町長連中と同じようにじっとしていれば、病にかかることもなかっただろうに・・・」
「性分じゃなかった。それに町長の奴らのやり方じゃ、いつまで経っても事態は好転しねぇよ。奴らは俺らがスミスの薬を受け取っているのを良く思っていなかったようだしな。だから俺達は、漁業で築いた独自の物流ラインや、近づいて来る海賊共から食料を奪いながら、何とかここまでやってきたが・・・。見ての通り、それも限界が近づいてる」
自分の表情を映し出す病に侵された自分の腕を見ながら、ダミアンは暗い表情を浮かべる。何故動けているのか不思議だったが、彼女もまた他の漁師達の為、身体に鞭を打って無理をしていたのだ。
「なるほど。アンタ達の病との奮闘と現在の状況は分かった。次にこの港町のことについて知りたい。何処かに怪しいところや、今はもう使われていない道なんかがあれば教えて欲しい」
「何だってそんなこと・・・ッ!?この病が何者かによる陰謀だとでも言うのかッ!?」
「分からない・・・。それを確かめる為にも、自由に動ける俺がアンタらそれぞれの話を聞いて回ってんだ」
ダミアンは自分の活動限界が近づいていることに焦っていた。だが、この港町に偶然にも迷い込んだデイヴィス達が最後の望みかもしれないと、協力は厭わない姿勢を見せた。非協力的だった町長サイドとは大違いだ。
0
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~
黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
─── からの~数年後 ────
俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。
ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。
「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」
そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か?
まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。
この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。
多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。
普通は……。
異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話。ここに開幕!
● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。
● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる