World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
577 / 1,646

あらぬ疑い

しおりを挟む
 レールガンから放たれた一撃は、ブレスを溜めるリヴァイアサンの大口に命中し、上空に大きな爆発を巻き起こす。その様子は、まだ戦闘の会場に到着していなかったキングの船からもハッキリと確認でき、余波が彼らの船団を大きく揺らす。

 「何つぅ衝撃波起こしてんのよ、おっさん!船は無事かぃ?どこも壊れてなぁ~い!?」

 「だッ大丈夫です!ただ・・・今の衝撃で生じた波と突風が強く・・・船が押し戻されてますッ!」

 激しい高波を次々に受け、キングの船団は大きく揺らされた。波を乗り越える際、船はその高低差で僅かに浮かぶ。そこへ爆風がやって来ては船を波と共に押し流していた。

 すると、彼らと共に帆を進めていたダラーヒムの船がキングの乗る船へ近づいて来る。何故彼の船だけ、波や突風に流されず移動できているのか。それは、ダラーヒムの錬金術によって改造された船体のおかげだった。

 空気抵抗を受け流すように船首を尖らせ、マストを変形させ船尾の方へ付けると、突風を利用し後方へ噴き出す装置を作り出し、推進力を得ていた。

 異様な形をしたダラーヒムの船がキングの元へやってくると、土色の光と雷を放ち、キングの船を同じように変形させた。

 「ボスッ!これで爆風の中を進めるはずだ!」

 「相変わらずセンスに欠けるぜぇ、お前の造形はよぉ」

 「機能重視なんだ、しばらくの間我慢してくれやぁ」

 「パーティ会場に着く前に、ドレスアップしてくれよぉ~?」

 船と呼ぶには些か奇妙な形に変わった二隻の船は、爆風の中をゆっくり前進していく。他の仲間達へは、後でついて来られる時について来いと指示を出し、キングとダラーヒムの船団は、そのまま徐々に後方へと押し流されていった。

 戦況を伺うように各海賊達の攻勢の手が止まる。そして彼らは、煙の中から姿を現したリヴァイアサンに、再び気を引き締め、次なる一手を模索する。

 これまで見たことがない程の損壊。だが、僅かではあるが徐々にその血肉を再生させ、元の姿へと戻ろうとしている。回復が遅い分、このまま畳み掛ければ、或いは仕留められるかもしれない。

 しかし、期待のレールガンは再装填の準備で暫くは使い物にならない。威力は大きく落ちるが、それでも火力として今期待できるのは、チン・シー海賊団の連繋弓技による炎の鳥しかない。

 当人達もそれをよく理解しているようで、既に次の火矢がリヴァイアサンの傷口を広げんと、飛び立っていた。甲高い鳴き声を上げながらリヴァイアサンの頭部に空いた風穴に命中すると、炎はモリモリと積み上げられていく肉の壁を燃やし尽くすように引火し、首の周りを炎で包んだ。

 「おいおい・・・これじゃぁあの呪術の装置に近づけないんじゃッ・・・」

 「大丈夫よ。貴方一人分くらいなら、炎の熱から身を守れる。それに安心して?登るルートは何もあの大きな身体だけじゃないんだから・・・!」

 焼ける肉体に、声にならないうめき声をあげるリヴァイアサン。首を大きく揺らしながら、引火した炎を消そうとしている。チン・シー海賊団が放った炎の鳥は、リヴァイアサンの再生を妨げる役目を見事に果たしている。

 今の内にと、ウンディーネは両手をガッチリと握る。すると、その小さな身体が青白く光を放ち、周囲の海水を持ち上げ、リヴァイアサンの後頭部辺りへ通じる水の道を作り上げた。

 その身体からは想像もできない所業に、驚きのあまり言葉を失うシン。そして、リヴァイアサンの首元で起きるその現象は、他の前線にいる者達の目にも映っていた。

 「何だ・・・あれは・・・?キングんところの部下の仕業か?」

 「どうだろう・・・。キングの姿も見えないのに、部下だけを送り込むだろうか・・・」

 エイヴリー達は、キング海賊団の内、よく活躍を聞く四人の幹部達については知っていた。だが、アルマンの言う通り、わざわざ危険なリヴァイアサンの首元に部下だけを送り込むだろうか。

 「何だありゃぁ!?」

 「あれは確か、俺の酒場で騒ぎを起こしてた・・・。アイツらも参加してやがったのか。いいねぇ~、なかなか根性あるじゃぁないのぉ~!」

 キングは、その海面から伸びる水の道よりも、リヴァイアサンの首元にいる人影に注視していた。そこには、港町グラン・ヴァーグに着いたばかりの、キングの島である酒場で騒ぎを起こしていた二人組の内の一人がいた。

 彼はシンとミアのことを覚えていた。キングが彼らを忘れるはずがない。キングは聖都ユスティーチでの事件に、シン達が関わっているのではないかと疑っていた。

 裏の仕事をする上で、物流の盛んだったユスティーチ。正義を振りかざすシュトラールが統治していては、思い通りにいかないことも多く、キングの悩みの種の一つだった。

 それを排除してくれた者に素直に感謝したと共に、あのシュトラールを倒した人物ということで警戒していたのだ。新たに自身の障壁になるやもしれぬ者達に。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...