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終着間際の大跳躍
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手数が止んだおかげで、シャーロットの氷の道は複数本作られたままになっている。だが、ジャウカーンにとってもその道は邪魔なものであることに変わりない。
すると彼は、凍った海を溶かしながら進み、速度をキープしたまま船体を回転させる。回転力を得る為に向きを一律に整えていた火を噴く筒が、ドラゴンのブレスのように周囲へ撒き散らされ、海岸まで伸びるシャーロットの氷の道を溶かしていく。
「何もエイヴリー海賊団の砲撃を止めたのは、お嬢様を助ける王子様になろうって訳じゃぁねぇんだぜ?ボスがゴールしてる以上、俺ぁ少しでも順位を上げてゴールするだけだ!」
撒き散らされた炎の熱で、直接命中せずとも生い茂った氷の木の幹が痩せ細るようにみるみる溶けていく。あちこちで木々が倒れ、氷の砕ける音が聞こえる。
その中には、一際大きな木も幾つかあり、まるで丸太の橋を掛けるかのように倒れていく。一見、海に氷の森があるなどという異様な光景ではあるものの、熱で溶ける氷という当たり前の光景だったが、その中にあった異変に気づく者がいた。
「・・・倒れて砕ける木々の中、何故大木だけがガラスのように砕けずに倒れている・・・?」
「えっ・・・?それは・・・、単純に大きさの問題では?」
「体積が多ければ、それだけ耐久度も増す・・・と?」
「はい・・・。え?違いますか?」
「可能性としてはあり得るが、あの状況でそれはない。氷は常に溶かされ耐久力はおろか体積も変わっているんだ。いくら上から氷で塗り固めようと・・・ッ!?」
戦艦の中でアルマンと船員の一人が話をしている。他の木々は倒れると粉々に砕けているが、大きな木々だけはまるで本物の大木のように砕けずに横たわるだけだった。
彼の言うように、溶ける幹を再び氷でコーティングし直そうと体積は減り続けることに変わりない筈。間近で凍らせているのなら話は別かもしれないが、離れた位置からではどうしようもない。
そう、離れた位置からでは・・・。
「離れた位置からでは魔法は間に合わん!あの周辺に女がいるぞ!すぐに砲撃手は攻撃をッ・・・!」
船員が止めに入るよりも先に、自分が今はそれが出来ない状況下にあることに気がついて、思わずアルマンはこの何も出来ない状況に言葉を飲み込む。
「隊長ッ!砲撃は今ッ・・・」
「あぁ・・・そうだったな。私としたことが、みっともなく取り乱した・・・」
甲板の方でも、自ら外に出て砲撃の手伝いをしていたエイヴリーが同じ異変に気づき、新たなクラフトで砲台を別の物へと変える。直接高熱を帯びた砲台に触り、その手からは煙が上がる。
「船長ッ!?一体何を・・・」
「そこを代われ!俺が直接撃つッ!」
そう言うと、ジャウカーンの炎で熱せられた砲台は、セラミックで作られた随分と時代を遡った旧世代の兵器へと姿を変える。陶器などの用いられるセラミックという素材は、個体の中でも熱を伝えにくい。
様々な時代の兵器を目にし触れてきたエイヴリーにしかその砲台を扱ったことのある経験がない。強力な近代兵器に慣れた船員達では、古代の兵器を上手く扱うことが出来ないのだ。
引火した手袋をそのままに、エイヴリーは砲台の方向と角度を調整し、シャーロットが潜んでいるであろう倒れる大木の幹へと合わせる。そして躊躇うことなく砲弾を放つと、海賊船に搭載されているような砲台とは違い、やや乾いた音と共に砲台に僅かなヒビが入る。
砲弾の発射に、砲身が耐えられなかったのだろう。旧時代の兵器は今の兵器や近未来の兵器よりも、圧倒的に耐久度が足りていない。それこそ、数発だけでも撃てれば構わないといった使い捨てのものに近い。
エイヴリーの見事な技術により、砲弾は橋のようにかかる氷の大木に命中し打ち砕く。だがそこにシャーロットの姿はない。橋は一つではない。どこに潜んでいるか分からない以上、片っ端から狙っていくしかない。
すると、やや奥のあたりから何かが木々の間を駆け抜けていくようなものが見えたような気がしたエイヴリー。特に順番など気にする必要もなく、例え不確かなものでも疑わしき場所から潰していこうと、すぐに狙いを定め次の砲弾を放つ。
砲弾が命中するよりも先に、素早く動く影が倒れる大木の上を駆け抜ける。姿を現したのは、氷の馬に跨がるシャーロットだった。砲弾が大木に命中する寸前に、海岸へ向けて大きく跳躍する。
空を舞う彼女の姿に会場の観客も、レースの当事者であるエイヴリーやジャウカーンも思わず顔をあげ、口が開く。
ここで当てなければ確実にゴールされる。歯を食いしばるエイヴリーが砲台を傾ける。シャーロットの降下位置を先読みし、偏差射撃を行う。
狙いは正確。ジャウカーンにとってもシャーロットにゴールされるのは避けたいところ。故に彼は手を出さなかった。エイヴリーの攻撃が命中することに賭け、自身はただひたすらにゴールへと邁進するのみ。
ゴール間際、シャーロットにとって最後の攻防の一瞬が始まる。
すると彼は、凍った海を溶かしながら進み、速度をキープしたまま船体を回転させる。回転力を得る為に向きを一律に整えていた火を噴く筒が、ドラゴンのブレスのように周囲へ撒き散らされ、海岸まで伸びるシャーロットの氷の道を溶かしていく。
「何もエイヴリー海賊団の砲撃を止めたのは、お嬢様を助ける王子様になろうって訳じゃぁねぇんだぜ?ボスがゴールしてる以上、俺ぁ少しでも順位を上げてゴールするだけだ!」
撒き散らされた炎の熱で、直接命中せずとも生い茂った氷の木の幹が痩せ細るようにみるみる溶けていく。あちこちで木々が倒れ、氷の砕ける音が聞こえる。
その中には、一際大きな木も幾つかあり、まるで丸太の橋を掛けるかのように倒れていく。一見、海に氷の森があるなどという異様な光景ではあるものの、熱で溶ける氷という当たり前の光景だったが、その中にあった異変に気づく者がいた。
「・・・倒れて砕ける木々の中、何故大木だけがガラスのように砕けずに倒れている・・・?」
「えっ・・・?それは・・・、単純に大きさの問題では?」
「体積が多ければ、それだけ耐久度も増す・・・と?」
「はい・・・。え?違いますか?」
「可能性としてはあり得るが、あの状況でそれはない。氷は常に溶かされ耐久力はおろか体積も変わっているんだ。いくら上から氷で塗り固めようと・・・ッ!?」
戦艦の中でアルマンと船員の一人が話をしている。他の木々は倒れると粉々に砕けているが、大きな木々だけはまるで本物の大木のように砕けずに横たわるだけだった。
彼の言うように、溶ける幹を再び氷でコーティングし直そうと体積は減り続けることに変わりない筈。間近で凍らせているのなら話は別かもしれないが、離れた位置からではどうしようもない。
そう、離れた位置からでは・・・。
「離れた位置からでは魔法は間に合わん!あの周辺に女がいるぞ!すぐに砲撃手は攻撃をッ・・・!」
船員が止めに入るよりも先に、自分が今はそれが出来ない状況下にあることに気がついて、思わずアルマンはこの何も出来ない状況に言葉を飲み込む。
「隊長ッ!砲撃は今ッ・・・」
「あぁ・・・そうだったな。私としたことが、みっともなく取り乱した・・・」
甲板の方でも、自ら外に出て砲撃の手伝いをしていたエイヴリーが同じ異変に気づき、新たなクラフトで砲台を別の物へと変える。直接高熱を帯びた砲台に触り、その手からは煙が上がる。
「船長ッ!?一体何を・・・」
「そこを代われ!俺が直接撃つッ!」
そう言うと、ジャウカーンの炎で熱せられた砲台は、セラミックで作られた随分と時代を遡った旧世代の兵器へと姿を変える。陶器などの用いられるセラミックという素材は、個体の中でも熱を伝えにくい。
様々な時代の兵器を目にし触れてきたエイヴリーにしかその砲台を扱ったことのある経験がない。強力な近代兵器に慣れた船員達では、古代の兵器を上手く扱うことが出来ないのだ。
引火した手袋をそのままに、エイヴリーは砲台の方向と角度を調整し、シャーロットが潜んでいるであろう倒れる大木の幹へと合わせる。そして躊躇うことなく砲弾を放つと、海賊船に搭載されているような砲台とは違い、やや乾いた音と共に砲台に僅かなヒビが入る。
砲弾の発射に、砲身が耐えられなかったのだろう。旧時代の兵器は今の兵器や近未来の兵器よりも、圧倒的に耐久度が足りていない。それこそ、数発だけでも撃てれば構わないといった使い捨てのものに近い。
エイヴリーの見事な技術により、砲弾は橋のようにかかる氷の大木に命中し打ち砕く。だがそこにシャーロットの姿はない。橋は一つではない。どこに潜んでいるか分からない以上、片っ端から狙っていくしかない。
すると、やや奥のあたりから何かが木々の間を駆け抜けていくようなものが見えたような気がしたエイヴリー。特に順番など気にする必要もなく、例え不確かなものでも疑わしき場所から潰していこうと、すぐに狙いを定め次の砲弾を放つ。
砲弾が命中するよりも先に、素早く動く影が倒れる大木の上を駆け抜ける。姿を現したのは、氷の馬に跨がるシャーロットだった。砲弾が大木に命中する寸前に、海岸へ向けて大きく跳躍する。
空を舞う彼女の姿に会場の観客も、レースの当事者であるエイヴリーやジャウカーンも思わず顔をあげ、口が開く。
ここで当てなければ確実にゴールされる。歯を食いしばるエイヴリーが砲台を傾ける。シャーロットの降下位置を先読みし、偏差射撃を行う。
狙いは正確。ジャウカーンにとってもシャーロットにゴールされるのは避けたいところ。故に彼は手を出さなかった。エイヴリーの攻撃が命中することに賭け、自身はただひたすらにゴールへと邁進するのみ。
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