629 / 1,646
神速の弓技
しおりを挟む
連続しては放てないものの、ツクヨの斬撃は確実にミア達の手助けになっていた。それほど手に負える数ではなかったのだ
だが、速度を落とすことなく走り続ける、ツバキの見事な操縦捌きによってミア達はゴールへと近づく。ツクヨの加勢を見たシュユーが主人であるチン・シーへ、妨害攻撃から追撃を行うことを提案する。
ミア達の守りが硬くなったことにより、チン・シー海賊団の援護射撃が多少少なくなろうとも持ち堪えられるポテンシャルを得た。
その隙に、シー・ギャングの特にトゥーマーン部隊の船にダメージを与えられれば、ミア達だけでなくチン・シー海賊団自体も順位を上げることに繋がる。
約束のその姿勢は見せた。ミア達には暫しの間耐えてもらい、攻勢に出ようというのだ。信頼しているシュユーの進言であれば、断る理由などない。それに彼女も同意見だった。
このまま勝負に出ないチン・シー海賊団ではない。火矢による攻撃を一時中断するチン・シー海賊団。ミア達の迎撃は一段と厳しいものになったが、その間にシュユー達はこれまでの炎の鳥よりも貫通力に特化した、火矢を一直線に連ねて放つ連繋弓技・炎槍えんそうを披露する。
甲高い鳥の鳴き声が、砲撃や波の音、会場の歓声の中を突き抜ける一筋の光明のように突き抜ける。
その音に気がついた一同は、何事かと周囲へ視線を送る。しかし、その時には鳴き声の主の姿は何処にもなく、トゥーマーンの乗る海賊船の後方に風穴を開けていた。
穴の周囲には、焦げたような匂いと煙だけが残り、一体何がその穴を通ったのかさえ想像が出来ないほど壮絶なものだった。
思わず声を飲み込んでしまう船員達。すぐに我へと帰った者達が、船に開いた穴からの被害状況を確認しに走る。穴は船内を突き抜けたかのように、一直線上に壁や床を貫いている。
鋭い角度で撃ち込まれた火矢は船底に穴を開けており、そこから海水が流れ込んできていた。砲撃や魔法による攻撃を行なっていた船員達は、すぐにその手を止めて急ぎ船の修復作業に取り掛かる。
他の箇所からは火の手も上がっている。じわじわと焼けるような匂いが船内に漂っている。
シュユーの提案は、見事に想定以上の深傷をトゥーマーンの部隊に与えた。そして恐るべきは、彼らの放つ連繋弓技は単発の大砲にあらず、チン・シーのリンクによってすぐに次弾が放たれるところにあったのだ。
チン・シー海賊団のそれぞれの船から、先ほどと同じような鳥の鳴き声が次々に聞こえてくる。まるで銃弾の雨を受けたかのように、トゥーマーンの船団は一気に窮地へと追い込まれる。
「火はどうにでもなるわ!船に開いた穴を最優先に塞ぎなさい!・・・なんてこと。鼠を追っていたその隙を突かれるなんてッ・・・!不覚・・・」
瞬く間に起きた出来事の一部始終を見ていたスユーフとダラーヒムも、その一変した光景に目を奪われていた。騒がしくなるトゥーマーンの船団にダラーヒムは、自身の部隊の船を数隻彼女の船の元へ向かわせる。
「・・・スユーフ。悪りぃがやっぱり攻撃には参加出来ねぇな・・・。あんなのの標的にされたんじゃ、ボスの命令を全う出来ねぇ」
「わ・・・分かっている。トゥ・・・トゥーマーンの方は任せた」
そういうとスユーフは、自身の船団を従えダラーヒムの元を離れていく。そして、火矢を放ち続けるチン・シー海賊団の元へ船を向かわせる。
「そ・・・そっちが直接、ふ・・・船を狙うなら。こ・・・こっちも狙うまでッ・・・!」
スユーフは船尾の縁に立つと、抜刀術の構えをとり静かに瞼を閉じる。そして心の中に起きている波を沈めると、静寂を切り裂くように目にも止まらぬ一閃を放つ。
彼の斬撃は、チン・シーの船団の中でも特に大きな船を、まるで中心に線を引いたかのように一刀両断した。その船はまさしく、総大将であるチン・シーが乗っている船だった。
攻勢に乗っていたチン・シー海賊団の者達に、不穏な予感が走る。雷が光ったかのような刹那の光が彼らの視界をも両断するように駆け抜ける。
「なッ・・・何だ・・・?今のは・・・」
シュユーが忙しなく首を動かし、周囲に異変が起きていないかを確認する。しかし、見渡す限りこれといっておかしな事は起こっていないように見える。だがそれは、意識して見ていなければ気づかないような変化で、ゆっくりと姿を見せる。
主人であるチン・シーが乗っている筈の船が、中心からゆっくりズレるように左右でそのシルエットを分けたのだった。
だが、速度を落とすことなく走り続ける、ツバキの見事な操縦捌きによってミア達はゴールへと近づく。ツクヨの加勢を見たシュユーが主人であるチン・シーへ、妨害攻撃から追撃を行うことを提案する。
ミア達の守りが硬くなったことにより、チン・シー海賊団の援護射撃が多少少なくなろうとも持ち堪えられるポテンシャルを得た。
その隙に、シー・ギャングの特にトゥーマーン部隊の船にダメージを与えられれば、ミア達だけでなくチン・シー海賊団自体も順位を上げることに繋がる。
約束のその姿勢は見せた。ミア達には暫しの間耐えてもらい、攻勢に出ようというのだ。信頼しているシュユーの進言であれば、断る理由などない。それに彼女も同意見だった。
このまま勝負に出ないチン・シー海賊団ではない。火矢による攻撃を一時中断するチン・シー海賊団。ミア達の迎撃は一段と厳しいものになったが、その間にシュユー達はこれまでの炎の鳥よりも貫通力に特化した、火矢を一直線に連ねて放つ連繋弓技・炎槍えんそうを披露する。
甲高い鳥の鳴き声が、砲撃や波の音、会場の歓声の中を突き抜ける一筋の光明のように突き抜ける。
その音に気がついた一同は、何事かと周囲へ視線を送る。しかし、その時には鳴き声の主の姿は何処にもなく、トゥーマーンの乗る海賊船の後方に風穴を開けていた。
穴の周囲には、焦げたような匂いと煙だけが残り、一体何がその穴を通ったのかさえ想像が出来ないほど壮絶なものだった。
思わず声を飲み込んでしまう船員達。すぐに我へと帰った者達が、船に開いた穴からの被害状況を確認しに走る。穴は船内を突き抜けたかのように、一直線上に壁や床を貫いている。
鋭い角度で撃ち込まれた火矢は船底に穴を開けており、そこから海水が流れ込んできていた。砲撃や魔法による攻撃を行なっていた船員達は、すぐにその手を止めて急ぎ船の修復作業に取り掛かる。
他の箇所からは火の手も上がっている。じわじわと焼けるような匂いが船内に漂っている。
シュユーの提案は、見事に想定以上の深傷をトゥーマーンの部隊に与えた。そして恐るべきは、彼らの放つ連繋弓技は単発の大砲にあらず、チン・シーのリンクによってすぐに次弾が放たれるところにあったのだ。
チン・シー海賊団のそれぞれの船から、先ほどと同じような鳥の鳴き声が次々に聞こえてくる。まるで銃弾の雨を受けたかのように、トゥーマーンの船団は一気に窮地へと追い込まれる。
「火はどうにでもなるわ!船に開いた穴を最優先に塞ぎなさい!・・・なんてこと。鼠を追っていたその隙を突かれるなんてッ・・・!不覚・・・」
瞬く間に起きた出来事の一部始終を見ていたスユーフとダラーヒムも、その一変した光景に目を奪われていた。騒がしくなるトゥーマーンの船団にダラーヒムは、自身の部隊の船を数隻彼女の船の元へ向かわせる。
「・・・スユーフ。悪りぃがやっぱり攻撃には参加出来ねぇな・・・。あんなのの標的にされたんじゃ、ボスの命令を全う出来ねぇ」
「わ・・・分かっている。トゥ・・・トゥーマーンの方は任せた」
そういうとスユーフは、自身の船団を従えダラーヒムの元を離れていく。そして、火矢を放ち続けるチン・シー海賊団の元へ船を向かわせる。
「そ・・・そっちが直接、ふ・・・船を狙うなら。こ・・・こっちも狙うまでッ・・・!」
スユーフは船尾の縁に立つと、抜刀術の構えをとり静かに瞼を閉じる。そして心の中に起きている波を沈めると、静寂を切り裂くように目にも止まらぬ一閃を放つ。
彼の斬撃は、チン・シーの船団の中でも特に大きな船を、まるで中心に線を引いたかのように一刀両断した。その船はまさしく、総大将であるチン・シーが乗っている船だった。
攻勢に乗っていたチン・シー海賊団の者達に、不穏な予感が走る。雷が光ったかのような刹那の光が彼らの視界をも両断するように駆け抜ける。
「なッ・・・何だ・・・?今のは・・・」
シュユーが忙しなく首を動かし、周囲に異変が起きていないかを確認する。しかし、見渡す限りこれといっておかしな事は起こっていないように見える。だがそれは、意識して見ていなければ気づかないような変化で、ゆっくりと姿を見せる。
主人であるチン・シーが乗っている筈の船が、中心からゆっくりズレるように左右でそのシルエットを分けたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~
黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
─── からの~数年後 ────
俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。
ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。
「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」
そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か?
まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。
この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。
多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。
普通は……。
異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話。ここに開幕!
● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。
● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる