World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
648 / 1,646

姿なき攻撃

しおりを挟む
 腹部から熱く赤いものが衣服に染み渡る。その中心には鋼の刃が、ベルシャーの身体から突き出している。全く予想だにしていなかったところからの攻撃で唖然としていたベルシャーだったが、すぐにその刃を素手で掴む。

 刃は前にも後ろにも動かない。誰の攻撃かを確かめるため振り返るベルシャー。だが、そこには誰の姿もなかった。振り返りが甘く、視界に入らなかったのかと更に腰を捻り背後を確かめるが、何者かの気配すら感じないのだ。

 それでも腹部を貫く刃は、彼の手によって引き抜くことも押し戻すことも出来ないほど、力が込められているのだ。

 すると、ベルシャーが目を離した隙に正面に立っていたはずの男が、一気に距離を詰めてきた。今身に起きている問題すら解決していないまま、男は袖の中から先程のものとよく似たブレードを投げ放つ。

 ベルシャーは、身体を貫く刃を握る手とは反対の方の腕で、槍を正面で回転させ飛んで来るブレードを弾く。槍の柄を握り回転を止めるも、男はもう目の前にまで迫っていた。

 懐に潜られてしまっては、槍の本領を発揮できる攻撃が打ち出せない。何を考えてか、ベルシャーは槍の矛先を床に突き立てる。男との間に障害物を作り、動きを制限するつもりなのだろうか。

 しかし、次に笑みを浮かべたのはベルシャーだった。彼が、床に突き立てた槍から手を離すと、足元のベルシャーの影から無数の槍が突き出して来たのだ。

 黒く澱んだ影の中から、光る何かを視界に捉えた男はベルシャーの前で急停止し、床から男を狙う無数の槍を柔軟な動きで蛇のように躱していく。

 その間、ベルシャーの身体を貫いた刃に動きがあった。誰に突き刺されたわけでもない筈なのに、その刃は彼の腹部を切り裂きながら上へと上がって来ようとしていたのだ。

 刃を掴む手に力を込め、刃の上昇を止める。吐血や手からの出血も多くなり、このままでは刃は致命的な箇所に至ってしまう。

 するとベルシャー、意を決したように刃を握ったまま目を閉じる。それを境に、彼の身体は突然ノイズが走ったかのようにザラつき始めたのだ。

 一体何を始めたのかは分からないが、突如彼の身体を貫いた刃が力を失ったように動きを止める。その隙にベルシャーは目を開き、床に突き刺した槍を引き抜き、自身の背後スレスレに槍を回転させ、刃に繋がる何かを振り払った。

 そこで初めて、槍に手応えがあった。背中に付いていた何かをはたき落とす感覚を得た後、ベルシャーは槍を使って刃を後ろへ押し返した。

 彼の身体を貫いていた刃が、床に落ちる。鮮血を床に散りばめながら、鉄製のものを落としたような甲高い音が部屋に響く。その音に紛れ、別の何かが床に落ちたような音が聞こえた。

 急ぎその音を確認するベルシャー。そこには機械で作られたような蜘蛛が、床に這いつくばっていた。

 「なッ・・・何だこりゃぁッ!?」

 丁度その頃、男がある程度後退すると、ベルシャーの槍による攻撃は止まった。ベルシャーの意表をつくため忍ばせた機械蜘蛛を回収する為、近づこうとする男だったが突如視界に入った、目を凝らさなければ見えないほど細いワイヤーによって行く手を阻まれる。

 「あぁ・・・?」

 それはベルシャーが路地裏で見た攻撃と全く同じだった。あの二人がここに来ているのか。すぐに槍を手に取り、床でもがいている機械蜘蛛を仕留めんと矛先を突き立てる。

 辛うじてベルジャーの一撃を躱した蜘蛛は、ワイヤーによって身動きを封じられている男を確認すると、素早く動き男の元を目指す。突き立てた槍をそのままスライドさせ、床ごと蜘蛛を切り裂くように振り抜くベルシャー。

 「ギギギッ・・・!」

 蜘蛛は彼の一撃によって、真っ二つに両断された。ように見えたが、矛先が蜘蛛を両断する刹那、機械蜘蛛はその身体を自らバラし男の方へと、各部品に散らばって吹き飛んでいった。

 その蜘蛛の足は、まるでベルシャーを襲ったブレードのようにくるくると回りながら飛んでいき、男の動きを制限するワイヤーを切り裂いた。

 自らの身体に突き刺さるように部品を回収した男は、分が悪いとふんだのかベルシャーに背を向け通路の方へと逃げていった。

 「逃すかよッ・・・ボケェッ!!」

 逃げる男の動きを先読みし、渾身の投擲を披露するベルシャー。大きく前に出した足と身体の捻り、そして振りかぶった体勢から全身の力を使い、壁ごと貫かんとする凄まじい槍が放たれた。

 自身に向けられた殺意の籠った攻撃を察知し、振り返る男。だが、男が見せた表情は驚愕でも焦りでもなかった。身体は既に前へと踏み出してしまっている。

 行動の先を読んだベルシャーの一撃は、もう避けられない。しかし男は、彼のその一撃でさえも利用して、窮地を乗り切って見せた。

 まさに一瞬の中の出来事だった。男は飛んでくる槍を、上半身を捻りながら掴んだのだ。引っ張られるように宙を舞う男の身体。だが当然、目にも止まらぬ速度で放たれたものを掴んでいては、腕ごと引きちぎられてしまう。

 男はその槍の加速度だけを利用し、すぐに手を離したのだ。軽快に身体を回転させながら通路を飛び抜けた男は、不敵な笑みをこぼしながらその場を去っていった。

 通路を逃げた男を追うように、ワイヤーが後を追うもそれをベルシャーは止めた。

 「よせッ!深追いすんじゃぁねぇ・・・!」

 「なんでッ!?」
 「俺達ならやれますよ!三人で畳み掛ければッ・・・」

 男と直接対峙したベルシャーには、屈辱的であったが身にしみてよく分かっていた。最後に笑みを見せて去っていったあの男は、まだ本来の力を見せてはいなかったことを。

 例え二人の少年と男を追ったところで、奴に勝てるビジョンが見えなかった。

 「・・・それよりアジトを調べるぞ。誰かいねぇか探せ。死体でもいい。そいつのメモリーを調べる」

 「・・・了解です」
 「了解・・・」

 二人の少年は、透過して潜んでいた壁の中から姿を現すと、渋々ベルシャーの指示に従った。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。 彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。 だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。 自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。 「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」 契約解除。返還されたレベルは9999。 一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。 対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。 静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。 「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」 これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。 (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

【めっさ】天使拾った【可愛ぃなう】

一樹
ファンタジー
酔っ払いが聖女を拾って送迎する話です。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

異世界に流されて…!?

藤城満定
ファンタジー
東京発沖縄着の船で修学旅行に出港した都立東品川高等学校2年4組の生徒35人は出港して2時間が過ぎた頃に突然の嵐に巻き込まれてしまい、船が転覆してしまって海に投げ出されてしまった。男子生徒の宮間景太郎が目を覚ますと、そこはどこかの森の中だった。海に投げ出されたのに、何で森の中にいるんだ?不思議に思って呆然としていたら、森の奥から聞き覚えのある女子生徒達の悲鳴が聞こえてきた。考えるより先に体が動いた。足元にあった折れて先端が尖った木の枝と石コロを取って森の奥へと駆け出した。そこには3人の女子生徒が5匹の身長160cmくらいの緑色の肌色のバケモノに襲われていた。そのバケモノは異世界アニメやコミックでお馴染みのゴブリン?だった。距離は10mはある。短剣を持ったのと木製の棍棒を持ったゴブリンの内、棍棒を持ったのがソレを振り下ろすのを防ぐのは無理な距離。ならばと、拾っておいた石コロを全力投球投。全くの無警戒だった場所からかならの威力で投げられた石コロが頭に命中して、そのまま倒れてしまったので他のゴブリン共も動揺した。その隙に女子生徒達とゴブリン共の間に立ち塞がり、拾った木の枝(棒?)を振り回して距離を置き、斃したゴブリンから棍棒を拾ってそこからはタコ殴りに殴りまくった。棍棒や短剣を弾くと、頭、首、肩、腕、足と、それはもうフルボッコのボッコボコにして斃してから暫くして女子生徒達に「大丈夫か?」と声をかけると、3人ともポカーンと口を開けて呆然としていた。まあ、無理もない。何故なら景太郎はクラスでは寡黙で、いつも1人で行動しているそれは、ぶっちゃけて言うと、完全な『ボッチくん』だったからだ。そんな景太郎が自分達の命を助けてくれた。それも今まで誰も見た事のない熱く必死な戦い方でだ。これは謂わゆる『吊り橋効果』ではあるが、こうまで男らしい姿を見せられては惚れるなというほうが無理だろう。その瞬間から女子達による景太郎の取り合い合戦が始まった。 【毎週火曜日に投稿します】

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥
ファンタジー
ある世界、ある時代、ある国で、一人の若者が領地を取り上げられ、誰も人が住まない僻地に新しい領地を与えられた。その領地をいかに発展させるか。周囲を巻き込みつつ、周囲に巻き込まれつつ、それなりに領地を大きくしていく。 ざまぁっぽく見えて、意外とほのぼのです。『新米エルフとぶらり旅』と世界観は共通していますが、違う時代、違う場所でのお話です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...