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不確かな者の能力
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船内の様子は暗かったが、機材の効果により肉眼で見るよりも鮮明な映像として、その時の様子を伺うことが出来た。それでも、シンとデイヴィスの二人相手でも一歩も引くことのない黒コートの男の顔を伺うことはできなかった。
「肝心の顔が見えないな・・・。瑜那、解析結果は?」
「ダメです。予想していた通り、WoFというゲームのデータベース上にこの人物の記録やデータはありません。該当する痕跡も見当たりませんね・・・」
「んだよ、結局無駄足だってのかぁ?」
「まぁ、足は運んでいないがな・・・」
期待していた情報を得られず表情の曇る白獅。だが、情報はその姿だけではない。シンとデイヴィスによる戦闘のおかげで、黒いコートの男の能力が見えてきたのだ。
それは彼らにも馴染みのあるものであり、シンはその時感じた違和感の答えを知ることになる。
薄暗い船内で、シンとデイヴィスが放つ投擲武器を利用したり、物陰から突如として現れたりしていた能力。それらは移動や転移の能力によるものであり、それ自体はWoFのゲーム上に存在するスキルでもあった。
なので、有りもしない完全無敵の能力という訳でもなかった。通常、危機的状況から瞬時に離脱できるスキルは、強力が故に連続した使用が不可能であったり、消費魔力が尋常でなかったりする、大きなデメリットを抱えているものだ。
シン達の前に現れた黒いコートの男もその例外ではなく、移動後に大きな魔力消費の反応があったことを検知した。
だがその後の男の動きから、デメリットを補ってあまり有る魔力量を有していることがすぐに分かった。
黒いコートの男の動きに鈍りや違和感はなく、移動スキルを使う前と何ら変わらない様子で、シン達を追い込んでいた。ステータスという概念を持ちながら、その値は通常のものを凌駕しているのだろうか。正確な数値までは計測できない。
「数値は出て来ませんが、随分と余裕がありそうですね」
「だな。自ら既存のクエストに手を加えられるようなアクセス権限を持っているんだ。それくらいのことはやってきてもおかしくないだろう。正当な権限であるかも、まだ分からないが・・・」
既に存在しているクエストの内容と、そこに配置されたNPCや目的となるモンスターや設定に、“異変“と呼んでいる異物を混入させることで、本来攻略可能な対象のレベル帯を遥かに超える難易度にしている原因。
その原因にもし、この黒いコートの男が関与しているとするならば、自らもキャラクターの概念を持ちながら、プレイヤーには到底到達することの出来ない異常なステータスに設定されていることは、容易に想像できる。
何か目的があってやっているであろう“異変“と呼ばれる行為。これだけ派手にやっているのだ、邪魔が入らないはずがない。その時にプレイヤーや転移できる者達に簡単にやられるようでは、手間が増えるだけだ。
それならば、絶対に邪魔されないステータスや能力を付け加えておこうと考えるものだろう。
だがそう考えた場合、何故わざわざWoFのゲーム内容に合わせた魔力という概念を持ち合わせているのかが分からない。無尽蔵の魔力量に設定しておけば問題はないはず。余興として楽しんでいるとでもいうのだろうか。
シンの見ていた光景を振り返る中で、白獅は黒いコートのある能力に目をつける。シン自身、戦いの中で感じていた違和感の正体を口にした白獅の発言によって、確信へと変わる。
「この男の能力・・・。“影“を用いているのか?」
「ッ・・・!」
診察台のような少し大きめの椅子に寝かせられた慎は、その言葉に驚いたような表情を浮かべる。その変化に気づく白獅だったが、直接戦っていたのならそれに気づいていてもおかしくないだろうと、その反応について追及することはなかった。
彼自身、心のどこかで否定したい気持ちがあったのかもしれない。もし“異変“に関与しているかもしれない者達が、“自分と同じスキル“を使っているとするならば、向こう側はシン達を明らかに認識しているということに繋がる。
そんな訳の分からない者達に標的にされているのか、目をつけられているのか。そんな心臓を握られているかのような状態いで、日々を過ごすなど尋常な精神状態とは言えない。
しかし、シンが感じていた違和感は、第三者である白獅にも見て取れるものだった。その事が彼の中で、信じたくなかった出来事が真実であると突きつけられているようだったのだ。
彼が対峙した黒いコート男。その者はシンのクラスである“アサシン“の能力、影を用いたスキルを使っていたのだ。
当然、データベース上にある凡ゆるデータにアクセス出来るのであれば、クラススキルに縛られない能力を複数所持していてもおかしくない。なのにこの黒いコートの男は、シンとデイヴィスとの戦いにおいて、アサシンのスキルしか使っていなかったのだ。
「肝心の顔が見えないな・・・。瑜那、解析結果は?」
「ダメです。予想していた通り、WoFというゲームのデータベース上にこの人物の記録やデータはありません。該当する痕跡も見当たりませんね・・・」
「んだよ、結局無駄足だってのかぁ?」
「まぁ、足は運んでいないがな・・・」
期待していた情報を得られず表情の曇る白獅。だが、情報はその姿だけではない。シンとデイヴィスによる戦闘のおかげで、黒いコートの男の能力が見えてきたのだ。
それは彼らにも馴染みのあるものであり、シンはその時感じた違和感の答えを知ることになる。
薄暗い船内で、シンとデイヴィスが放つ投擲武器を利用したり、物陰から突如として現れたりしていた能力。それらは移動や転移の能力によるものであり、それ自体はWoFのゲーム上に存在するスキルでもあった。
なので、有りもしない完全無敵の能力という訳でもなかった。通常、危機的状況から瞬時に離脱できるスキルは、強力が故に連続した使用が不可能であったり、消費魔力が尋常でなかったりする、大きなデメリットを抱えているものだ。
シン達の前に現れた黒いコートの男もその例外ではなく、移動後に大きな魔力消費の反応があったことを検知した。
だがその後の男の動きから、デメリットを補ってあまり有る魔力量を有していることがすぐに分かった。
黒いコートの男の動きに鈍りや違和感はなく、移動スキルを使う前と何ら変わらない様子で、シン達を追い込んでいた。ステータスという概念を持ちながら、その値は通常のものを凌駕しているのだろうか。正確な数値までは計測できない。
「数値は出て来ませんが、随分と余裕がありそうですね」
「だな。自ら既存のクエストに手を加えられるようなアクセス権限を持っているんだ。それくらいのことはやってきてもおかしくないだろう。正当な権限であるかも、まだ分からないが・・・」
既に存在しているクエストの内容と、そこに配置されたNPCや目的となるモンスターや設定に、“異変“と呼んでいる異物を混入させることで、本来攻略可能な対象のレベル帯を遥かに超える難易度にしている原因。
その原因にもし、この黒いコートの男が関与しているとするならば、自らもキャラクターの概念を持ちながら、プレイヤーには到底到達することの出来ない異常なステータスに設定されていることは、容易に想像できる。
何か目的があってやっているであろう“異変“と呼ばれる行為。これだけ派手にやっているのだ、邪魔が入らないはずがない。その時にプレイヤーや転移できる者達に簡単にやられるようでは、手間が増えるだけだ。
それならば、絶対に邪魔されないステータスや能力を付け加えておこうと考えるものだろう。
だがそう考えた場合、何故わざわざWoFのゲーム内容に合わせた魔力という概念を持ち合わせているのかが分からない。無尽蔵の魔力量に設定しておけば問題はないはず。余興として楽しんでいるとでもいうのだろうか。
シンの見ていた光景を振り返る中で、白獅は黒いコートのある能力に目をつける。シン自身、戦いの中で感じていた違和感の正体を口にした白獅の発言によって、確信へと変わる。
「この男の能力・・・。“影“を用いているのか?」
「ッ・・・!」
診察台のような少し大きめの椅子に寝かせられた慎は、その言葉に驚いたような表情を浮かべる。その変化に気づく白獅だったが、直接戦っていたのならそれに気づいていてもおかしくないだろうと、その反応について追及することはなかった。
彼自身、心のどこかで否定したい気持ちがあったのかもしれない。もし“異変“に関与しているかもしれない者達が、“自分と同じスキル“を使っているとするならば、向こう側はシン達を明らかに認識しているということに繋がる。
そんな訳の分からない者達に標的にされているのか、目をつけられているのか。そんな心臓を握られているかのような状態いで、日々を過ごすなど尋常な精神状態とは言えない。
しかし、シンが感じていた違和感は、第三者である白獅にも見て取れるものだった。その事が彼の中で、信じたくなかった出来事が真実であると突きつけられているようだったのだ。
彼が対峙した黒いコート男。その者はシンのクラスである“アサシン“の能力、影を用いたスキルを使っていたのだ。
当然、データベース上にある凡ゆるデータにアクセス出来るのであれば、クラススキルに縛られない能力を複数所持していてもおかしくない。なのにこの黒いコートの男は、シンとデイヴィスとの戦いにおいて、アサシンのスキルしか使っていなかったのだ。
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