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神代 コウ

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囮と真打

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 下水の臭いが薄れたシンを追いかけ、周囲にいた小型モンスター達は一斉に走り出す。

 赤ん坊の手が、湿った地面を叩きような幾つもの軽い足音が響き渡る。その数は徐々に増えていき、近づいてくる。ここまではシンの狙い通りだった。

 思惑通り、朱影が戦線に復帰するまでの時間を稼ぎ、彼に大型のモンスターと一対一になる状況を作り出した。水中にいたモンスター達も釣り出せたのは好都合だった。どうやら運も彼らに味方しているようだ。

 「よし!上手くいった。やはり人間相手と違って、作戦を思い通りに運びやすい・・・!」

 後方から迫る音を気にしつつ、通路を走り抜けていくシン。この下水道がどのような作りになっているのかは分からない。だが、大抵の場合こういったものは、様々な場所に張り巡らされている筈。

 そう直ぐに行き止まりに行き着くということもあるまいと、シンは追って来るモンスターの群れを誘導するように、ジグザグと進路を変えていく。

 その度にチラリと後方に視線を送り、目視による距離の確認を図る。暫くの間は後方の通路の先に広がる暗闇に隠れその姿は伺えなかったが、次第に音が近づき蠢く影が見え始める。

 「クソッ・・・!そろそろ限界かッ・・・。だがこれだけ離れれば、あっちも戦いやすくなってる筈。そろそろ自分の心配もしなきゃな・・・」

 このままではいずれ追い付かれ、水中で文字通り蝕まれていた朱影と同じ道を辿ることになる。それに地上では、さっきのように血の霧で姿を眩ますこともできない。

 しかしそれでも、彼の足に迷いはなかった。行き着くところまで行ってやろう、そんな風にも感じさせる走りだった。

 間も無く、その時はやって来た。シンが角を曲がり通路を進むと、そこで道は途絶えていた。人が進める場所はなく、下水の流れる穴だけが水路に開いているだけだった。

 「ここまでか・・・。まぁ・・・上出来、だったかな?」

 息を整えながら、どこかまだ余力を残した様子で振り返るシン。辿ってきた真っ暗な通路の先から、無数の悍ましい足音が近づいてくる。

 姿が見え始めてからは一瞬のような出来事だった。まるでイナゴの大群のようにシンへと群がったモンスター達は、瞬く間に彼を飲み込むように取り囲み食らい付く。

 黒い肉の塊が群がり、暫くの間獲物を貪っているとモンスター達は動きを止め、その場を少し離れる。しかしその離れ方が妙に不自然であり、まるでシンのいた場所を確認するかのように中心を開けて下がっていったのだ。

 そこには、シンのいた痕跡などどこにも見当たらない。血の一滴さえも、どこにもなかった。唖然としたように動きの鈍るモンスターの大群は、その場でくるくると周囲を探すと、ゆっくりその場を去っていった。

 一方、シンを見送り大型モンスターの討伐を担った朱影は、シンに回復アイテムをかけてもらってからそれほど間を置かずして、これまで通りの動きができる程にまで回復していた。

 「さて・・・。アイツが逃げ回ってる間に、さっさと仕留めてやるか」

 朱影はシンの残した鉄柵の残骸を拾い上げると、まるで踊るように鮮やかなステップで、鉄柵を次々に壁に撃ち放っていく。鉄が石を砕きめり込む音が、下水道に響き渡る。

 徐々にテンポを上げていくその音が途絶えた時、朱影は最後の一本だけは少し溜めてから壁に投げ放つ。彼なりに気持ちを昂らせているのだろうか。

 綺麗に並べて壁に突き刺された鉄柵。彼は手を伸ばし、自身の槍を出現させると、矛先の方ではなく柄の方を使って、鉄柵を擦るように殴る。

 すると、こめかみが痛くなりそうなほどの高音が下水道に響き渡る。同時に、どこで隠れていたのか大型のモンスターが水中から飛び上がる。

 「遠くにいかねぇで止まっていたのは褒めてやるよ・・・。今度は逃がさねぇからなッ!」

 すかさず手にしていた槍を投げる朱影。今度はパワーよりも、逃がさないためにスピードを重視した一撃を放つ。しかしそこで、それまで見せたことのない動きを大型モンスターが見せ始めたのだ。

 朱影の槍が身体に命中しようかというその寸前、大型モンスターの身体の一部から小型のモンスターが、肉壁を突き破り現れ彼の槍を代わりに受けたのだ。

 だがそれで止まるほど彼の一撃は軽くない。それはこれまでの小型モンスターが身体を張って証明している。しかしその時は、たった一体の小型モンスターによって阻まれてしまったのだ。

 「なッ・・・!?」

 槍を受け止めた小型モンスターは、大きな金属音のようなものを響かせ、水中へ弾き飛ばされていった。命中する僅かな瞬間、衝突と同時に火花が飛び散ったのを朱影は見逃さなかった。

 暗さでハッキリとは見えなかったが、確実に外殻を強固なもので覆われていたであろう可能性が高い。これまでに生み出していたモンスターとは明らかに違うタイプのものだった。
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