716 / 1,646
新たな目的と道標
しおりを挟む
道標を失うと、別のものを道標に見立て行動する。それが生き物の本能だ。対して人は、目標にしていたものや信じていたものが突然失われると、不安に駆られ盲目的になり、他者からは予期せぬ行動や思想に至るケースがある。
そんな心理状態に陥った時、人はどんなに怪しい話や嘘のような話にでも縋りたくなる。道を失った者が、新たな道を提示されれば現状から抜け出そうと、それを新たな道とし歩んでしまう。
シンに記された道標は、どこの誰かもまだ判明していない者についていき、敵の内情視察をするという危険な者だった。しかし、それ以外に生きる道がないのなら、誰でもそうする他ないだろう。
ましてや自分と同じ境遇にある者の勧めであれば尚のこと。唯一共感できるものがあれば、それだけで安心感を抱いてしまうものだ。
現に、その者はシンを騙そうと近づいた訳ではなく、来る時に備え戦力となり得る者を味方につけようとしていた。彼自身にとっても、シンは見ず知らずの者ではあるが、同じ境遇であるが故に話を持ちかけたところが大きい。
「返事が来た。アンタについていくことにする。俺の力でどこまで協力できるか分からないけど・・・」
「何を言ってるんだ。一緒に来てくれるだけで感謝してるよ。戦闘に関してはさっき見せてもらった限りだと十分過ぎるほどだ。何せ本当に人手が足りなかったから、戦えるだけでも即戦力だ」
モンスターから逃げるのに必死で、方角なんてものはとっくに分からなくなっていた。だが、彼が向かっている先が敵部隊のところであるのなら、恐らく施設とは反対方向なのだろう。
施設は敵の部隊により包囲され、邪魔する者を迎え撃つため厳戒態勢に入っているとのこと。そこへ新入りを連れていくなど考えづらい。
既に電力の復旧へ向かってしまっている朱影には、白獅の方から連絡を取るという話になっている。間に合っていれば、彼も戦闘に突入する前に撤退という方向に転換していることだろう。
下水道の壁に隠された通路を進む二人、いくつかの階段を登り、出口へと近づいていることを予感させる。
「そういえば名前を聞いてなかった。俺は“イヅツ“だ。勿論ゲーム内での名前だけど、本名は隠しておいた方がいいだろ?」
彼は意外にも冷静であった。本名を語るのは非常に危険である。ハッキングが横行する現代において、実名を明かすのはそれだけで個人情報を特定するヒントになってしまう。
イヅツのおかげで、シンも冷静になることが出来た。見えている風景と自身の格好から、ここが現実の世界であること忘れてしまいそうになる。イヅツがユーザーネームを言ってくれたおかげで、無意識にシンも本名ではなくユーザーネームを答えていた。
「俺はシン」
「そうか、シンって言うのか。よろしくな」
階段の先で行き止まりに着くと、イヅツは壁の窪みに指を入れて引いた。すると、行き止まりだと思っていた正面の壁が動き出し、外の光が中へと入ってきた。
「さぁ外だ。言っておくがキャラクターの投影は解くなよ?このまま街の外れにある待機場所へ向かう」
「そこにアンタらのリーダーがいる・・・?」
「まぁそんなところだ。監視役に上層部の奴がいる。そこにいるのは比較的真っ当な奴だが、中には狂ってる奴もいる。入って火の浅い奴がそいつと一緒になると、それっきり姿を見なくなるってこともザラにある・・・」
やはり彼らのいる組織は、仲間という感覚で人を集めている訳ではなさそうだ。これでは謀反を起こしても仕方がない。シンももし、アサシンギルドに見つけられるよりも先に、その組織に入っていたのならイヅツと同じことを考えていただろう。
上の者の扱いが酷ければ酷いほど、下の者達の不平や不満は加速する。それは組織の崩壊や、統率力に大きく関わってくる。
彼らが慎重に戦力を集めているところから察するに、以前にも謀反を起こした者達がいたのだろう。そしてそれは、恐らく失敗に終わった。少数であったのか大所帯であったのかは定かではないが、単純に逃走するだけではきっと上手くいかなかったのだろう。
街にはサイレンの音が鳴り響き、現実に生きる警察や関係者による警備と誘導が行われていた。恐らく施設の方にも向かっており、電力の復旧に努めているに違いない。
「思ったより静かだな・・・。アンタらの組織の目的は何なんだ?」
シンは東京を包囲した組織が、電力を奪った後に暴れ回り襲撃を行う者とばかり思っていたが、街並みは至って落ち着いており、騒ぎになっている様子は見当たらなかった。
「さぁな・・・。俺達みたいな兵隊には目的なんて説明されないさ。それに、きっと騒ぎにはならない。今の俺達と同様、普通の人には何が起きているのかなんて分かりっこないんだから・・・」
言われてみればその通りだった。だが、こちらの見ている景色で建物の崩壊や爆発が起きれば、それに相応しい事故が起きている筈なのだ。
それは東京へ向かう途中の高速道路で、朱影達によって説明され確かに視認している。
これだけ多くの警察が出動していれば、妙庵のようなサイバーエージェントもどこかにいるのではないかと、シンはまるで未知の世界に迷い込んだように仕切りに周囲を見渡しながら、イヅツの後をついていった。
そんな心理状態に陥った時、人はどんなに怪しい話や嘘のような話にでも縋りたくなる。道を失った者が、新たな道を提示されれば現状から抜け出そうと、それを新たな道とし歩んでしまう。
シンに記された道標は、どこの誰かもまだ判明していない者についていき、敵の内情視察をするという危険な者だった。しかし、それ以外に生きる道がないのなら、誰でもそうする他ないだろう。
ましてや自分と同じ境遇にある者の勧めであれば尚のこと。唯一共感できるものがあれば、それだけで安心感を抱いてしまうものだ。
現に、その者はシンを騙そうと近づいた訳ではなく、来る時に備え戦力となり得る者を味方につけようとしていた。彼自身にとっても、シンは見ず知らずの者ではあるが、同じ境遇であるが故に話を持ちかけたところが大きい。
「返事が来た。アンタについていくことにする。俺の力でどこまで協力できるか分からないけど・・・」
「何を言ってるんだ。一緒に来てくれるだけで感謝してるよ。戦闘に関してはさっき見せてもらった限りだと十分過ぎるほどだ。何せ本当に人手が足りなかったから、戦えるだけでも即戦力だ」
モンスターから逃げるのに必死で、方角なんてものはとっくに分からなくなっていた。だが、彼が向かっている先が敵部隊のところであるのなら、恐らく施設とは反対方向なのだろう。
施設は敵の部隊により包囲され、邪魔する者を迎え撃つため厳戒態勢に入っているとのこと。そこへ新入りを連れていくなど考えづらい。
既に電力の復旧へ向かってしまっている朱影には、白獅の方から連絡を取るという話になっている。間に合っていれば、彼も戦闘に突入する前に撤退という方向に転換していることだろう。
下水道の壁に隠された通路を進む二人、いくつかの階段を登り、出口へと近づいていることを予感させる。
「そういえば名前を聞いてなかった。俺は“イヅツ“だ。勿論ゲーム内での名前だけど、本名は隠しておいた方がいいだろ?」
彼は意外にも冷静であった。本名を語るのは非常に危険である。ハッキングが横行する現代において、実名を明かすのはそれだけで個人情報を特定するヒントになってしまう。
イヅツのおかげで、シンも冷静になることが出来た。見えている風景と自身の格好から、ここが現実の世界であること忘れてしまいそうになる。イヅツがユーザーネームを言ってくれたおかげで、無意識にシンも本名ではなくユーザーネームを答えていた。
「俺はシン」
「そうか、シンって言うのか。よろしくな」
階段の先で行き止まりに着くと、イヅツは壁の窪みに指を入れて引いた。すると、行き止まりだと思っていた正面の壁が動き出し、外の光が中へと入ってきた。
「さぁ外だ。言っておくがキャラクターの投影は解くなよ?このまま街の外れにある待機場所へ向かう」
「そこにアンタらのリーダーがいる・・・?」
「まぁそんなところだ。監視役に上層部の奴がいる。そこにいるのは比較的真っ当な奴だが、中には狂ってる奴もいる。入って火の浅い奴がそいつと一緒になると、それっきり姿を見なくなるってこともザラにある・・・」
やはり彼らのいる組織は、仲間という感覚で人を集めている訳ではなさそうだ。これでは謀反を起こしても仕方がない。シンももし、アサシンギルドに見つけられるよりも先に、その組織に入っていたのならイヅツと同じことを考えていただろう。
上の者の扱いが酷ければ酷いほど、下の者達の不平や不満は加速する。それは組織の崩壊や、統率力に大きく関わってくる。
彼らが慎重に戦力を集めているところから察するに、以前にも謀反を起こした者達がいたのだろう。そしてそれは、恐らく失敗に終わった。少数であったのか大所帯であったのかは定かではないが、単純に逃走するだけではきっと上手くいかなかったのだろう。
街にはサイレンの音が鳴り響き、現実に生きる警察や関係者による警備と誘導が行われていた。恐らく施設の方にも向かっており、電力の復旧に努めているに違いない。
「思ったより静かだな・・・。アンタらの組織の目的は何なんだ?」
シンは東京を包囲した組織が、電力を奪った後に暴れ回り襲撃を行う者とばかり思っていたが、街並みは至って落ち着いており、騒ぎになっている様子は見当たらなかった。
「さぁな・・・。俺達みたいな兵隊には目的なんて説明されないさ。それに、きっと騒ぎにはならない。今の俺達と同様、普通の人には何が起きているのかなんて分かりっこないんだから・・・」
言われてみればその通りだった。だが、こちらの見ている景色で建物の崩壊や爆発が起きれば、それに相応しい事故が起きている筈なのだ。
それは東京へ向かう途中の高速道路で、朱影達によって説明され確かに視認している。
これだけ多くの警察が出動していれば、妙庵のようなサイバーエージェントもどこかにいるのではないかと、シンはまるで未知の世界に迷い込んだように仕切りに周囲を見渡しながら、イヅツの後をついていった。
0
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
────────
自筆です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる