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新しい友達
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彼女の言葉に一瞬、その場が凍り付いたかのように静まり返り停止した。モンスターが人間を喰うなど、聞いたことがない。
ただそれは、シン達の主観や周りの状況下での話に過ぎない。各地を渡り歩いていたというアナベルが、彼らの知らない情報を持っていたとしても不思議ではないのだから。
「どういう事だ・・・喰ったって・・・?」
「ん?言葉の通りそこのウルフちゃんが、彼の連れ出した女の子を食物のように食べたって・・・」
「そういう事じゃなくてッ・・・!」
シンが知りたかったのは、現実世界にやって来たWoFのモンスター達は、WoFのユーザーであり異変に巻き込まれた、所謂“目覚めた者“を襲い殺すだけでなく、食べることもあるのかということだ。
フィアーズの連中がそれを知っているのか詳しく聞いた訳ではないが、少なくとも食べるなどという言葉は使っていなかったように思える。
この場ににぃなが居れば詳しく聞けるのかもしれないが、何より目の前のアナベルが何かを知っている素振りだったことから、聞き出せる情報があるのならここで聞き出しておかなければと、無意識にシンは彼女に問いただしていた。
「モンスターが人を喰うなんて聞いたことがないッ!そもそも、モンスターに食事の概念があるのか?俺らでも、この姿の間は空腹に見舞われることなんて無いのに・・・」
「・・・そうだねぇ、腹を満たす為の行為じゃぁない」
「だとしたら!?ただの娯楽の為とでも?・・・まさか、ゲーム内のモンスターという概念とは違って、俺達のように現実世界特有の何かが・・・」
彼らのように、現実の世界でWoFと同じような戦闘を繰り広げる彼らだが、実際は全く同じ仕様という訳ではない。ゲームには無い痛みがあったり、敗北時には現実と同じように死亡や消滅という概念がある。
しかし、これまで見てきた現実世界にやって来たモンスター達には、WoFでのモンスターと何ら変わりない生態や性質をしているように見える。
唯一シンが知っている限りでは、東京のセントラルで戦った、人の言葉を話す下水のモンスターや駐車場のモンスターがいる。
あれらの個体が、どうして人の言葉を発することが出来るのか。それは恐らく、目の前の変異種となったウルフにも通じるものがあるのかもしれない。
すると、そこへ上空から周囲を警戒していたにぃなが、アナベルのドラゴンに乗って彼らの元へ合流する。
「お~い!周りにモンスターはいないみたい!・・・あれ!?アナベルさん?」
「おぉ~、おかえりぃ~。見回りご苦労さん」
「にぃな・・・」
「さて・・・。こんなところで話すような内容じゃないからさぁ~。取り敢えずホビーエリアの拠点へ移動しないかい?」
治療を終えたとはいえ、未だダメージを負ったままの鎧の男と、何によって変異種へと姿を変えたのか分からないウルフ。そして、今到着したばかりで話の見えないにぃなに一から説明するのでは、ここではまたモンスターに襲われないとも限らない。
「分かった、場所を変えよう・・・」
アナベルは口笛を吹き、先程助けたウルフを二体呼び寄せる。それぞれ、鎧の男とシンのところへやってくると、背中の鞍に跨らせる。しかし、アナベル自身のウルフがいないのではないかと、シンが周囲を見渡していると、彼女は変異種のウルフの元へと歩み寄り語りかけていた。
「どういう要因でこのような結果になったのかは、私にも分からない・・・。でも、きっと君は運が良かったんだろうね。私にテイムされれば、仲間として君を迎え入れることが出来る。守ってあげることが出来る」
「・・・テイム・・・?」
頭を傾げる変異種のウルフに、アナベルは優しく微笑みかけ、もっと直接的で子供にも分かりやすい言葉に言い換えて伝える。
「私と友達になろうってことさ。きっと仲良くなれるよ?」
「・・・トモダチ・・・ウン・・・」
動物の表情の変化というのは分からなかったが、何となく嬉しそうにしていることだけは伝わってきたような気がする。変異種のウルフは首を一度だけ縦に振る。
「これで今日から私達は友達だ。じゃぁ私は君に乗せてもらうとしようかな?いいかい?」
ウルフの承諾を得た彼女は、その背中に鞍を乗せて跨ると、先導するように走っていく。そして彼女の合図で、にぃなのドラゴンとシン達のウルフも、アナベルを追うように動き出し、雑木林の中を駆け抜けていった。
「拠点まではそう遠くないからさぁ。今の内に聞きたいことまとめておいてねぇ~」
乗ったまま振り返らず、手だけをシンに向けて振るアナベル。だが、聞きたいこととは何だと考えれれば、彼女の知りうる全てという他ない。まずはスタートを教えてもらわなければ、そもそも何を聞きたいのかも分からないというもの。
地上を走る彼らを見て、一人だけ話し相手のいないにぃなは、仕方がなく言葉は恐らく分からないであろう、乗っているアナベルのドラゴンに話しかけていた。
「ウルフって速いんだねぇ~。でも、見晴らしじゃぁ私達の勝ちだね!・・・ちょっと寂しいけどね」
一行はホビーエリアを上がって行き、高い位置にある山の方へと登っていく。人々の声は徐々に小さくなっていき、人気のない山の中にある高台に聳える木造の建物へと辿り着く。
これは、遊園地エリアで見たアナベルの居住地にもよく似た小屋だった。恐らく、彼女の言っていたクラフタークラスの仲間に立ててもらった小屋は、プレジャーフォレスト内の各地に点在しているのだろう。
ただそれは、シン達の主観や周りの状況下での話に過ぎない。各地を渡り歩いていたというアナベルが、彼らの知らない情報を持っていたとしても不思議ではないのだから。
「どういう事だ・・・喰ったって・・・?」
「ん?言葉の通りそこのウルフちゃんが、彼の連れ出した女の子を食物のように食べたって・・・」
「そういう事じゃなくてッ・・・!」
シンが知りたかったのは、現実世界にやって来たWoFのモンスター達は、WoFのユーザーであり異変に巻き込まれた、所謂“目覚めた者“を襲い殺すだけでなく、食べることもあるのかということだ。
フィアーズの連中がそれを知っているのか詳しく聞いた訳ではないが、少なくとも食べるなどという言葉は使っていなかったように思える。
この場ににぃなが居れば詳しく聞けるのかもしれないが、何より目の前のアナベルが何かを知っている素振りだったことから、聞き出せる情報があるのならここで聞き出しておかなければと、無意識にシンは彼女に問いただしていた。
「モンスターが人を喰うなんて聞いたことがないッ!そもそも、モンスターに食事の概念があるのか?俺らでも、この姿の間は空腹に見舞われることなんて無いのに・・・」
「・・・そうだねぇ、腹を満たす為の行為じゃぁない」
「だとしたら!?ただの娯楽の為とでも?・・・まさか、ゲーム内のモンスターという概念とは違って、俺達のように現実世界特有の何かが・・・」
彼らのように、現実の世界でWoFと同じような戦闘を繰り広げる彼らだが、実際は全く同じ仕様という訳ではない。ゲームには無い痛みがあったり、敗北時には現実と同じように死亡や消滅という概念がある。
しかし、これまで見てきた現実世界にやって来たモンスター達には、WoFでのモンスターと何ら変わりない生態や性質をしているように見える。
唯一シンが知っている限りでは、東京のセントラルで戦った、人の言葉を話す下水のモンスターや駐車場のモンスターがいる。
あれらの個体が、どうして人の言葉を発することが出来るのか。それは恐らく、目の前の変異種となったウルフにも通じるものがあるのかもしれない。
すると、そこへ上空から周囲を警戒していたにぃなが、アナベルのドラゴンに乗って彼らの元へ合流する。
「お~い!周りにモンスターはいないみたい!・・・あれ!?アナベルさん?」
「おぉ~、おかえりぃ~。見回りご苦労さん」
「にぃな・・・」
「さて・・・。こんなところで話すような内容じゃないからさぁ~。取り敢えずホビーエリアの拠点へ移動しないかい?」
治療を終えたとはいえ、未だダメージを負ったままの鎧の男と、何によって変異種へと姿を変えたのか分からないウルフ。そして、今到着したばかりで話の見えないにぃなに一から説明するのでは、ここではまたモンスターに襲われないとも限らない。
「分かった、場所を変えよう・・・」
アナベルは口笛を吹き、先程助けたウルフを二体呼び寄せる。それぞれ、鎧の男とシンのところへやってくると、背中の鞍に跨らせる。しかし、アナベル自身のウルフがいないのではないかと、シンが周囲を見渡していると、彼女は変異種のウルフの元へと歩み寄り語りかけていた。
「どういう要因でこのような結果になったのかは、私にも分からない・・・。でも、きっと君は運が良かったんだろうね。私にテイムされれば、仲間として君を迎え入れることが出来る。守ってあげることが出来る」
「・・・テイム・・・?」
頭を傾げる変異種のウルフに、アナベルは優しく微笑みかけ、もっと直接的で子供にも分かりやすい言葉に言い換えて伝える。
「私と友達になろうってことさ。きっと仲良くなれるよ?」
「・・・トモダチ・・・ウン・・・」
動物の表情の変化というのは分からなかったが、何となく嬉しそうにしていることだけは伝わってきたような気がする。変異種のウルフは首を一度だけ縦に振る。
「これで今日から私達は友達だ。じゃぁ私は君に乗せてもらうとしようかな?いいかい?」
ウルフの承諾を得た彼女は、その背中に鞍を乗せて跨ると、先導するように走っていく。そして彼女の合図で、にぃなのドラゴンとシン達のウルフも、アナベルを追うように動き出し、雑木林の中を駆け抜けていった。
「拠点まではそう遠くないからさぁ。今の内に聞きたいことまとめておいてねぇ~」
乗ったまま振り返らず、手だけをシンに向けて振るアナベル。だが、聞きたいこととは何だと考えれれば、彼女の知りうる全てという他ない。まずはスタートを教えてもらわなければ、そもそも何を聞きたいのかも分からないというもの。
地上を走る彼らを見て、一人だけ話し相手のいないにぃなは、仕方がなく言葉は恐らく分からないであろう、乗っているアナベルのドラゴンに話しかけていた。
「ウルフって速いんだねぇ~。でも、見晴らしじゃぁ私達の勝ちだね!・・・ちょっと寂しいけどね」
一行はホビーエリアを上がって行き、高い位置にある山の方へと登っていく。人々の声は徐々に小さくなっていき、人気のない山の中にある高台に聳える木造の建物へと辿り着く。
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