World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
801 / 1,646

覚醒者指南

しおりを挟む
 男のクラスはマーシナリー。機械を用いた戦闘や機械の修復、装置の設置など機械に関するスキルを持った、少々癖のあるクラス。

 武器についても様々で、機械仕掛けの剣や変形する小手など、機械を搭載したものが主になる。そして目の前の男が手にしているのは、ミアと同じく銃。

 ただ、ミアのものよりも射撃や狙撃に特化しているというよりも、多様性や電力に応じて威力の変わる、やや大きめのものとなっていた。

 「と、いっても見た目が好きで選んだだけなんで、まんまり戦闘には慣れてなくて・・・」

 「そうだろうな。結構ゲームの特性や相手のことなどを理解した人が就くようなクラスだ。珍しいクラスだと思ったよ」

 「機械の変形とか音とかが好きで、自分でそういった事のできるクラスを選んだんです。実際じゃぁ知識とか資格とかいっぱい必要だし、リアルで出来ない事したくて・・・」

 勿論、武器を持って戦う事や魔法を使うことなども、現実で出来ないような体験だが、機械の造形や変形などは現実にもあり得る、他のクラスにはないリアリティがある。

 他にも戦闘向けのクラスではないものはたくさんある。それらのクラスに就き、WoFの世界で穏やかに日々を過ごすのも、このゲームの醍醐味でもあった。彼はそういったものを求めて、このクラスに就いたのだろう。

 「最近WoFはやった?武器の使い方、覚えてる?」

 「え・・・。そりゃぁ勿論、ゲームでの使い方は分かるけど・・・」

 そう言って武器の銃を取り出すと、にぃなが試しに何かを撃ってみてと告げる。恐る恐る銃口を、道路にある標識へ向ける男。

 「これって・・・他の人には見えてないんですよね?銃声も聞こえない?」

 黙って頷くシンとにぃな。当然初めての経験なのだから、躊躇うのも無理のないことだ。彼が見ているのは、紛うことなき彼の生きてきた現実の世界の光景。その中で、それも人の多い街中で引き金を引くなど、正気ではない。

 ただこれは、彼にとって今体験していることが現実か否かを判断する重要な、運命の分かれ目でもあった。もし夢なら引き金を引いて目が覚める。でももしもこれが現実なら、その先のことは分からない。

 その先は、この世界で生きてきた者達の理解の範疇の外のこと。全く未知の世界への入り口なのだから。

 街を行き交う人々の話し声。道路を走る車の音。ドローンが飛び交う機械の音。空気中に漂う料理の匂いや風の感触が、ここが現実の世界であることを強調してくるようだ。

 彼もきっとそんなことを思っているのだろう。引き金に指をかける彼の手が震えている。額から大粒の汗を垂らし、唾を飲み込む音がシン達にも聞こえそうな程だった。

 そして、目を逸らさずその時を待つシンとにぃなの表情を見て、やるしかないと意を結した彼は、ついに引き金を引いた。

 大きく鳴り響いた銃声と、標識を貫いた弾丸の音。そして、これが夢か現実か、火薬の匂いが彼らの鼻をつく。

 思わず目を閉じていた彼が、固く閉じたその瞳を開くと、あれ程の銃声が鳴り響いていながらも、それまでと何ら変わらない日常を送る人々の生活がそこにあった。

 「馬鹿な・・・誰も気づいてないのか?これ、本当に現実?」

 「現実と言うべきか、幻であると言うべきか。少なくともこれまで通りの生活を送ることは出来なくなった、そう言うことだ・・・」

 「そんな・・・。ただライブを観に来ただけなのに」

 気の毒ではあるが、それはシンやにぃな、それに他の異変に巻き込まれたWoFユーザー達も同じ。どんな事情があれは、こうなってしまっては手の施しようがない。

 二人は彼をどうしたものかと悩んでいた。目覚めたばかりで、どこにも属していないのはいいのだが、このまま蒼空のいる赤レンガ倉庫のライブ会場に向かわせて良いものかどうか。

 彼を一人で蒼空の元に預けてしまえば、敵になりかねない事態にもなり得る。漸く見つけた仲間候補の人材を、みすみす手放してしまって良いものか。

 「どうする?ライブ観に来たってことは、蒼空とも会うことになるけど・・・。先に行かせるのは不安だよね?」

 「あぁ、まだちょっと信用しきれない部分もある。それにこのまま襲われずに会場まで行けるかどうかも分からない・・・」

 「じゃぁ戦いに慣れてもらうって意味でも、暫く一緒にいてもらおうか」

 頭を抱える彼を前に、二人はこっそりとこちらの都合について話をまとめていた。彼をライブ会場にいる蒼空の元へ向かわせてもいいが、それでは二人にとって不安要素となるものが増える。

 それならば手元に置いて、一緒にいる方がまだ安心できるし、力にもなる。

 「ねぇ!ライブまでまだ時間はたっぷりあるから、少し私達と近くを回らない?」

 「回る・・・?そういえば貴方達は随分と慣れているみたい・・・ですね」

 「貴方もいつさっきみたいに、モンスターに襲われるか分からないから、私達と一緒に戦いに慣れておいた方がいいと思う。それとも、一人で大丈夫そう?」

 にぃなが彼を試すような口ぶりで、これからどうするかの選択を委ねる。しかし、結局のところ彼に選択肢などなかった。彼は慌てるようににぃなの案に賛成する。

 「まっ待って!うん・・・分かった。一緒に行きたい。ただその・・・」

 彼はまだ悩んだような表情で、何かを伝えようとするも、喉元で言葉が出てこないでいた。にぃなは彼の表情を伺い、もしかしてこれの事を気にしているのかと言葉を口にする。

 「あ、大丈夫大丈夫!ライブには間に合うようにするから。私達もユッキーのライブ観たいし・・・ね?」

 そう言ってシンの方を振り返るにぃな。シンはどちらでも良かったが、にぃなは内心本当にライブも楽しみたいと思っているに違いない。

 蒼空との話でも、その岡垣友紀というアイドルのライブで一悶着が起きるかもしれないと言う事だった。目的は同じ。どっちにしろライブには参加することになるのだ。その点については彼やにぃなの意見に反論は全くない。

 「あぁ、どの道ライブには参加するから安心して欲しい」

 「なるべく早めに会場入りしてたいんだ。気持ちも高めておきたいし・・・」

 何故、命の危機があるというのに、そこまでライブのことを大事にするのかシンには分からなかったが、少しでも気持ちが前向きであるのならそれに越した事はない。

 いつまでも戦闘に対しネガティブでは、彼もきっと一人では生きていけない。もしフィアーズに引き入れたとしても、シンやイヅツらの謀反チームと行動を共にできるとは限らない。

 出来ればプレジャーフォレストの彼らのような、信頼できる別の組織に預けておきたいのが正直なところだった。横浜にもそう言った組織やグループがあればいいのだが・・・。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。  ─── からの~数年後 ──── 俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。  ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。 「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」  そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か? まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。  この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。  多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。  普通は……。 異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話。ここに開幕! ● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。 ● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

処理中です...