841 / 1,646
お互いの過去
しおりを挟む
友紀は彼女の口から漏れた言葉に、驚きを隠せなかった。彼女が自分の前に現れた理由。それは、岡垣友紀の殺害だったのだ。
勿論、それが全てではないことは、友紀にも分かった。もし命を取ることだけが目的なら、わざわざこんな所にまで連れて来る理由はないし、自分達が現地へ赴く必要もなかっただろう。
彼女の言う通り、直接友紀と会うまで自分の本当の感情に気がつかなかったのだろう。
しかし、彼女の感情の動きを見て、今ならまだ彼女を止められるかも知れない。そう思った友紀は、これ以上彼女に罪を重ねさせない為にも、何とかこんな馬鹿な真似は止めるようにと説得を試みる。
「なぎさ・・・貴方だって本当は、こんな事望んでいないんじゃないの?」
「・・・・・」
彼女は友紀の言葉に、自分の過去の行いを振り返っているのか黙ってしまう。だが、彼女の中に巣食う闇は、友紀の想像する以上に根深いところまで浸透してしまっている。
その憎悪に今、彼女が飲み込まれていないのは、既にピークが去っていたという所が大きかった。なぎさは既に、最も復讐を果たしたい人物達を、粗方始末してしまっていたからだ。
友紀を最期にと考えていたのも、彼女へ抱く感情は他の者達と違っていたから。彼女に抱いていた感情は復讐ではなく、自分の目指した道の先に到達したという、友紀への嫉妬心だったからだ。
「私・・・貴方に合わせる顔がなかった。貴方と道を違えたあの日から、私は何度も貴方と夢見たアイドルになることを、諦めようとしてたの・・・」
「・・・どうして?」
なぎさが初めて友紀の話に、興味を持ち始めた。それまで自分の事ばかり話し、一方的に感情をぶつけるだけだった彼女。
友紀自身も、あまり自分の過去について周りの者達に話したことはなかった、それこそ、彼女の人生を立て直すきっかけともなったマネージャー天沢武臣にさえ、その全てを話してはいない。
思い出すのも怖かったのだ。過去を振り返ると、彼女を蹴落とそうとした者達や上からの圧力を掛けてきた者達に、再びあの時の心理状態へ引き摺り落とされそうになるからだ。
折角追い風が吹き始めているのに、後ろを振り返って立ち止まりたくなかった。止まって仕舞えば間を向けなくなる。まるでそう言わんとしているかのように、嘗てのなぎさが彼女の背中を押してくれているように思っていた。
それは彼女の中に居た、勝手ななぎさのイメージだったが、それがなければ今もこうして正しい道を歩けていなかったかも知れない。
友紀もまた、今のなぎさと同じような境遇にあってもおかしくなかっただろう。
だから友紀は、あのオーディション以来どんな日々を過ごす事になったのかを、包み隠さずその時の自身の思いも乗せて、なぎさに全て話した。
意外なことに彼女は、友紀の話を終始大人しく聞いていた。
自分が憧れていたアイドルの世界がどんなものだったのか。羨ましかった彼女がどんな日々を過ごしていたのか。アイドルになる夢を諦め、すっかり忘れてしまうほど辛い日々を過ごしている時、嫉妬という感情を向けていた友紀に何があったのか。
それを聞いたなぎさの目からは、復讐心に取り憑かれ残虐な行いをしていたという彼女からは想像も出来ないほど、綺麗な涙が零れ落ちていた。
「えっ・・・」
驚いた表情でなぎさの方を見つめる友紀。その視線に気づいた彼女は、自分の頬に伝う感触に気づき、慌てて拭う。手についた雫に驚いたのは、なぎさも同じだった。
友紀の話を聞いている内に、彼女も自身の過去を振り返り、辛い時に友紀の事を思い出していればこんな事にはならなかったのかと、別の未来の可能性を想像していた。
こんなにも彼女は、自分の事を思い支えにしていてくれたのだという事実に、なぎさの中の感情は後悔と僅かな良心がここぞとばかりに溢れ出し、ぐちゃぐちゃになっていた。
「これは・・・アタシ・・・なんで!?」
彼女の目から零れ落ちた涙を目にした時、友紀は内心ホッとした。なぎさの中にはまだ、嘗ての彼女がいる。過去を清算する為に、自身を追いやった者達を始末して回っていたなぎさだが、そんな非道な行いを続けている中でも、友紀のことだけは捨て切れずにいた。
それが今、形となって見えたような気がして、友紀は嬉しかった。
勿論、それが全てではないことは、友紀にも分かった。もし命を取ることだけが目的なら、わざわざこんな所にまで連れて来る理由はないし、自分達が現地へ赴く必要もなかっただろう。
彼女の言う通り、直接友紀と会うまで自分の本当の感情に気がつかなかったのだろう。
しかし、彼女の感情の動きを見て、今ならまだ彼女を止められるかも知れない。そう思った友紀は、これ以上彼女に罪を重ねさせない為にも、何とかこんな馬鹿な真似は止めるようにと説得を試みる。
「なぎさ・・・貴方だって本当は、こんな事望んでいないんじゃないの?」
「・・・・・」
彼女は友紀の言葉に、自分の過去の行いを振り返っているのか黙ってしまう。だが、彼女の中に巣食う闇は、友紀の想像する以上に根深いところまで浸透してしまっている。
その憎悪に今、彼女が飲み込まれていないのは、既にピークが去っていたという所が大きかった。なぎさは既に、最も復讐を果たしたい人物達を、粗方始末してしまっていたからだ。
友紀を最期にと考えていたのも、彼女へ抱く感情は他の者達と違っていたから。彼女に抱いていた感情は復讐ではなく、自分の目指した道の先に到達したという、友紀への嫉妬心だったからだ。
「私・・・貴方に合わせる顔がなかった。貴方と道を違えたあの日から、私は何度も貴方と夢見たアイドルになることを、諦めようとしてたの・・・」
「・・・どうして?」
なぎさが初めて友紀の話に、興味を持ち始めた。それまで自分の事ばかり話し、一方的に感情をぶつけるだけだった彼女。
友紀自身も、あまり自分の過去について周りの者達に話したことはなかった、それこそ、彼女の人生を立て直すきっかけともなったマネージャー天沢武臣にさえ、その全てを話してはいない。
思い出すのも怖かったのだ。過去を振り返ると、彼女を蹴落とそうとした者達や上からの圧力を掛けてきた者達に、再びあの時の心理状態へ引き摺り落とされそうになるからだ。
折角追い風が吹き始めているのに、後ろを振り返って立ち止まりたくなかった。止まって仕舞えば間を向けなくなる。まるでそう言わんとしているかのように、嘗てのなぎさが彼女の背中を押してくれているように思っていた。
それは彼女の中に居た、勝手ななぎさのイメージだったが、それがなければ今もこうして正しい道を歩けていなかったかも知れない。
友紀もまた、今のなぎさと同じような境遇にあってもおかしくなかっただろう。
だから友紀は、あのオーディション以来どんな日々を過ごす事になったのかを、包み隠さずその時の自身の思いも乗せて、なぎさに全て話した。
意外なことに彼女は、友紀の話を終始大人しく聞いていた。
自分が憧れていたアイドルの世界がどんなものだったのか。羨ましかった彼女がどんな日々を過ごしていたのか。アイドルになる夢を諦め、すっかり忘れてしまうほど辛い日々を過ごしている時、嫉妬という感情を向けていた友紀に何があったのか。
それを聞いたなぎさの目からは、復讐心に取り憑かれ残虐な行いをしていたという彼女からは想像も出来ないほど、綺麗な涙が零れ落ちていた。
「えっ・・・」
驚いた表情でなぎさの方を見つめる友紀。その視線に気づいた彼女は、自分の頬に伝う感触に気づき、慌てて拭う。手についた雫に驚いたのは、なぎさも同じだった。
友紀の話を聞いている内に、彼女も自身の過去を振り返り、辛い時に友紀の事を思い出していればこんな事にはならなかったのかと、別の未来の可能性を想像していた。
こんなにも彼女は、自分の事を思い支えにしていてくれたのだという事実に、なぎさの中の感情は後悔と僅かな良心がここぞとばかりに溢れ出し、ぐちゃぐちゃになっていた。
「これは・・・アタシ・・・なんで!?」
彼女の目から零れ落ちた涙を目にした時、友紀は内心ホッとした。なぎさの中にはまだ、嘗ての彼女がいる。過去を清算する為に、自身を追いやった者達を始末して回っていたなぎさだが、そんな非道な行いを続けている中でも、友紀のことだけは捨て切れずにいた。
それが今、形となって見えたような気がして、友紀は嬉しかった。
0
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~
黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
─── からの~数年後 ────
俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。
ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。
「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」
そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か?
まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。
この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。
多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。
普通は……。
異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話。ここに開幕!
● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。
● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる