World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
882 / 1,646

新たな目的地

しおりを挟む
 ミアの帰りを外で待っていたツクヨ。しかし、その横にもう一人何者かのシルエットがあった。日本人にしては高身長な彼の横に並ぶと、さらに際立つその身長差。

 近づくに連れ見えてきたその人物とは、共に大海原を渡り、レースで結果を残す最大の要因となった物を作り出したツバキの姿だった。二人がミアに気づき、こちらへと歩いてくる。

 「お前ら仲間なんだろぉ?信用してねぇのかよ、ミア」

 「何のことだ?」

 突然嫌味を言うかのように絡んできたツバキ。最初彼女は何のことを言っているのか分からなかったが、ミアが外出した理由を聞いたツバキが、ミアを揶揄っていたのだ。

 「朝、話した件だよ。ほら、誰もあの人物のことを覚えてなかったって言うあの・・・」

 「あぁ、そうだったな。確かにツクヨの言う通りだった。街の連中もキングんとこの幹部も、誰も黒いコートの奴を見てねぇってよ・・・どうなってんだ?」

 二人の会話を聞いていたツバキが、その件について自分の見解を語る。

 「ツクヨからも聞いたけどよ、俺もそんな奴見てねぇぜ?いくらスポンサーだからって、そこまで謎に包まれた人物を公の場で語らせるかねぇ?」

 少年の言葉に顔を見合わせるミアとツクヨ。やはりこの世界の人間には、開会式に現れた黒いコートの男の記憶がなくなっているように思える。

 全ての人間がそうか確かめる術はないが、ツバキやジャウカーンという身近な存在で、レースの当事者でもある彼らが知らないというのだ。他を当たっても大抵は同じ返事になっていたことだろう。

 黒いコートの男は、WoFユーザーであるミア達の記憶にしか残っていない。奴が覚醒者である彼らと、何らかの関係があるのは確かだ。

 幸か不幸か、レースの開会式の様子は一部の回線で中継されていた。グラン・ヴァーグやホープ・コーストでなくても、他の街にこの中継を見た者がいて、黒いコートの男を目撃した記憶のある人物がいれば、それはミア達と同じWoFのユーザーであるか、何らかの関係者であることは確定となった。

 「あの映像は中継されてたろ?なら、当分はそれを見た奴の中に、アタシらと同じく奴を見たという人物を探すのが、旅の目的になりそうだな」

 「そうだね・・・。もしそれを知っている者がいれば、私達と同じ境遇にある者でもある。もしかしたら、いい協力関係になれるかもしれないしね?」

 「何だぁ?まだ見間違いって認めねぇのか?それなら情報が集まる街を目指すのがいいだろ。この辺で言うと・・・“アークシティ“か?」

 ツバキの口から、新たな場所の名前が提示された。彼の話では、どうやらそこは電子工学が発展した街で、情報の流通が多く、ミア達の暮らす現実世界の街並みを連想させるような技術がある街だという。

 それを聞いてミアも、何となく嘗てのWoFの記憶を辿り、そんな街もあったかと思い出した。

 「なるほど、確かにそこなら情報が集まりそうだし、中継を見ていた人間も多いかもしれない」

 「なぁ、ミア。その“アークシティ“ってどんなとこなんだ?君達と違って私は・・・」

 「あぁ~・・・簡単に言えば、現実世界みたいなところだよ。ファンタジー色の薄い科学の街って感じかな?」

 ミアの分かり易い例えのお陰で、WoFのことを何も知らないツクヨでも、そのアークシティと呼ばれる街がどんなところであるのか、ある程度の想像がついた。

 「正式には、“アーティフィシャル・アーク“って街なんだけど、その呼び方を嫌う人も多いんだ。だから“AA“とか“A2“、“アークシティ“や“エレクトロシティ“なんて言う呼び方の多い街でも有名なんだ」

 「嫌うって・・・どうして?」

 「アークってのは、ノアの箱舟から来てる名だ。箱舟ってのは神話に登場する神聖なモンだろ?それを人工的に作って神に近づこうっていう不届な行いを象徴するかのような名前に、嫌う人や良くないと思う人が多いって訳だ」

 技術の発展は、人間の生活を豊かする。しかしその反面、自然環境には悪影響を及ぼし、資源を食い潰す良くないものと考える人間は少なくない。そういった者達からすれば、技術の発展を助長するような街とその名前に、悪い印象を持つ人も多い。

 「でもそれって、そんなに悪いことなのかなぁ?」

 「まぁ、考え方の違いだろ?アタシらの使う魔法ってのも、この世界じゃ当たり前のように使えるものかもしれねぇけど、誰でも扱えるものじゃない。クラスによって使えないように、その辺の人達がポンポン使えるものでもないんだ。それを技術力で再現しようってんだろ?」

 「俺も反対だね!そんな思想の為に技術の進化を止めようってのは馬鹿げてる。資源を食わないエネルギーだってあるんだ。日光や風を利用したものや、人間やモンスターを動力にしたエネルギーだってある。何も資源を消費するだけじゃない、ちゃんと自分達で作って賄えるものだってあるんだからよ~」

 「それよりもアタシらは、黒いコートの奴だ。そんじゃぁ次の目的地はアークシティってことで」

 「ここからだと結構な距離になる。準備はちゃんと整えておけよ?二人とも」

 当たり前のように着いて来ようとしているツバキに、思わず顔を見合わせるミア達。

 「お前、着いて来る気か?」

 「いいのか?ウィリアムさんのところに戻らなくて」

 「おいおい!言ったろ!?俺ぁあのジジイを超える造船技師になるんだ。その為に世界中の技術や材料を、自分の目で見て回り、五感で感じる必要がある。あそこにいても、ジジイの真似事は出来ても超えることは出来ねぇよ」

 少年の割に随分と肝が据わっている。ミアやツクヨの暮らしていた現実世界では、彼くらいの年頃の者が旅に出るなど考えられない事だった。これも世界観の違いが生み出すものなのだろうか。

 「それよりよぉ・・・アイツがいねぇようだけど、いいのか?」

 「え?」

 「シンだよ、シン!どこ行っちまったんだ?」

 二人は思い出したかのように、目を丸くして驚く。彼が現実世界に戻っているのはいい。戻って来ても、おそらくパーティを組んでいるミア達の側に帰って来られる筈だ。

 だが、何も知らぬツバキにそれをどうやって説明したものかと、二人は頭を悩ませた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界に流されて…!?

藤城満定
ファンタジー
東京発沖縄着の船で修学旅行に出港した都立東品川高等学校2年4組の生徒35人は出港して2時間が過ぎた頃に突然の嵐に巻き込まれてしまい、船が転覆してしまって海に投げ出されてしまった。男子生徒の宮間景太郎が目を覚ますと、そこはどこかの森の中だった。海に投げ出されたのに、何で森の中にいるんだ?不思議に思って呆然としていたら、森の奥から聞き覚えのある女子生徒達の悲鳴が聞こえてきた。考えるより先に体が動いた。足元にあった折れて先端が尖った木の枝と石コロを取って森の奥へと駆け出した。そこには3人の女子生徒が5匹の身長160cmくらいの緑色の肌色のバケモノに襲われていた。そのバケモノは異世界アニメやコミックでお馴染みのゴブリン?だった。距離は10mはある。短剣を持ったのと木製の棍棒を持ったゴブリンの内、棍棒を持ったのがソレを振り下ろすのを防ぐのは無理な距離。ならばと、拾っておいた石コロを全力投球投。全くの無警戒だった場所からかならの威力で投げられた石コロが頭に命中して、そのまま倒れてしまったので他のゴブリン共も動揺した。その隙に女子生徒達とゴブリン共の間に立ち塞がり、拾った木の枝(棒?)を振り回して距離を置き、斃したゴブリンから棍棒を拾ってそこからはタコ殴りに殴りまくった。棍棒や短剣を弾くと、頭、首、肩、腕、足と、それはもうフルボッコのボッコボコにして斃してから暫くして女子生徒達に「大丈夫か?」と声をかけると、3人ともポカーンと口を開けて呆然としていた。まあ、無理もない。何故なら景太郎はクラスでは寡黙で、いつも1人で行動しているそれは、ぶっちゃけて言うと、完全な『ボッチくん』だったからだ。そんな景太郎が自分達の命を助けてくれた。それも今まで誰も見た事のない熱く必死な戦い方でだ。これは謂わゆる『吊り橋効果』ではあるが、こうまで男らしい姿を見せられては惚れるなというほうが無理だろう。その瞬間から女子達による景太郎の取り合い合戦が始まった。 【毎週火曜日に投稿します】

【めっさ】天使拾った【可愛ぃなう】

一樹
ファンタジー
酔っ払いが聖女を拾って送迎する話です。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

俺の家に異世界ファンタジーガチャが来た結果→現実世界で最強に ~極大に増えていくスキルの数が膨大になったので現実世界で無双します~

仮実谷 望
ファンタジー
ガチャを廻したいからそんな理由で謎の異世界ガチャを買った主人公はガチャを廻して自分を鍛えて、最強に至る。現実世界で最強になった主人公は難事件やトラブルを解決する。敵の襲来から世界を守るたった一人の最強が誕生した。そしてガチャの真の仕組みに気付く主人公はさらに仲間と共に最強へと至る物語。ダンジョンに挑戦して仲間たちと共に最強へと至る道。 ガチャを廻しまくり次第に世界最強の人物になっていた。 ガチャ好きすぎて書いてしまった。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。 彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。 だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。 自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。 「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」 契約解除。返還されたレベルは9999。 一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。 対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。 静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。 「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」 これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。 (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

処理中です...