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記憶の違和感
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耳鳴りとは、聴神経中枢の障害で様々な原因が考えられるが、そのほとんどは内耳の感覚細胞の障害と言われている。
原因不明の感音性難聴、加齢に伴う老人性難聴。環境音などが原因とされる騒音性難聴や、突然起きる突発性難聴などケースは様々あるが、それらの主な発病のきっかけになるのは、ストレスや過労、寝不足などが挙げられる。
ミアが資料館を後にし、イクセンのいるジャンク屋を目指している途中、彼女は突然耳鳴りに襲われた。
症状としてはそれほど酷いものではなかったが、少しだけ目眩がして壁にもたれ掛かり、治るのを待っていた。暫くすると耳の中に響いていた音が治り、何事もなかったかのように回復した。
「・・・何だ、今の・・・。長時間こっちの世界に居るせいか?」
不思議な感覚だった。これまでに感じたことのないような違和感。だが、それほど胸をざわつかせるものでもなかった。この時ミアが感じていたのは、シンが杞憂していた現実世界との関わりだった。
ここまで何事もなくWoFの世界に接続できてきていたが、普段のゲームの時とは違い、攻撃を受けた時の痛みや、所謂NPCと呼ばれるプレイヤーが操作していない人物の生死が、知らぬ間により現実的に感じるようになっていた。
今更彼女が思い返すこともなかったが、その耳鳴りを経て少しだけ今の自分が置かれている状況を考える時間を得た。
気付かぬ間に疲労が蓄積されているのかもしれない。慣れないことをやったせいか、自分の身体に起きた僅かな異変に、休息も必要だという概念が、ミアの中に生まれる。
「何・・・しようとしてたんだっけ・・・。そうだ、エディさんの言ってたジャンク屋に行く途中だった・・・」
一瞬、自分が何をしようとしていたのかを見失うものの、すぐに自分の目的を思い出すミア。壁に手をついて身体を離すと、自分の足で歩き始めた。
前日に向かったように同じ道へ出ると、その時の記憶を頼りにジャンク屋を目指す。徐々に近づくにつれ、エディから聞いていた通りのガラクタの山が見えてくる。
商売を行なっているかのような古屋は設けてあるが、主人が何処かへ行ってしまっているのか人は見当たらない。
勝手に入るのは悪いと思いながらも、山積みになっているとても商品とは思えないガラクタの山の方へと歩みを進めると、そこで何者かがガラクタを漁っているのが目に入って来た。
その男はただ黙々と瓦礫の山を漁り、使えそうなものはないかと一つ一つ手に取っては、別の場所へ放り投げている。
「なぁ、アンタここの人か?」
ミアは一見怪しく見えるその男に声をかける。男は下の方から聞こえてくるミアの声に手を止めて、彼女の方を向く。
「あ?誰だアンタ。見ない顔・・・いや、どっかで・・・」
男はミアの顔を見るや否や、何か思い当たる節でもあるかのような反応を見せる。男の反応に、ミアの方もその男を前にし、何処かで会ったことがあるような感覚に陥っていた。
「・・・いや、気のせいだろう。アタシはここに来るのは初めての筈だ」
「・・・そうか・・・悪かったな。俺は“イクセン・リングホルム“という。ここでしがないジャンク屋をやっている者だ」
二人は記憶のどこかにある、嘗て見た光景を思い出せぬまま互いに何者であるかを名乗る。
そしてミアはここを訪れた理由と、イクセンはここが元々どんな場所であったのかを説明する。だが、言葉とは裏腹に前にも同じような話を他の誰かにしたような記憶が、脳裏にチラついていた。
ミアが錬金術を使えるということを口にするよりも前に、イクセンは彼女にガラクタの修理を依頼した。二人とも違和感なく話を進めていき、それぞれの作業へと入っていったが、イクセンがミアのクラスを知っていること自体、本来はおかしな話なのだ。
それは当事者の彼らには知る由もないことだったが、ミア達がオルレラの街に来て数日、彼らの記憶は彼らの意識しないところで混濁とし、妙に辻褄が合うように変わっていたのだ。
記憶という糸を一度は繋ぐも、数日間という時の中で解かれ、再び結び直されていくような現象。ミアやツクヨが、眠ったっきり目を覚さないツバキに違和感を感じないのも、それが原因だった。
しかし、その現象が何によるものなのか。何を目的としたものなのか。その手掛かりは一切掴めていない。それどころか、彼らもおかしいと感じながらも、まるで些細なことのようにそれを忘れ、オルレラでの時間を過ごしていた。
本当はミア達がオルレラの街に来て三日目の出来事だったのだが、まるで二日目に体験したことを繰り返すかのように、無意識にミアはイクセンと共にガラクタの修理へ勤しみ、その中で見つけた機械人形に内蔵されたカメラの存在を知る。
そしてイクセンの見つけたメモリーカードにより、嘗ての映像を確かめていた。
一方、ギルドの者達と一緒にオルレラ近郊で発見された、大穴に埋められていた物の撤去作業を防衛するクエストに赴いていたツクヨ達は、前日と同じように作業の邪魔にならぬよう近づくモンスターを排除していた。
だが、こちらでもやはり、彼らの記憶に関する異変やこれまでのクエスト内容とは異なる異変が起き始めていた。
原因不明の感音性難聴、加齢に伴う老人性難聴。環境音などが原因とされる騒音性難聴や、突然起きる突発性難聴などケースは様々あるが、それらの主な発病のきっかけになるのは、ストレスや過労、寝不足などが挙げられる。
ミアが資料館を後にし、イクセンのいるジャンク屋を目指している途中、彼女は突然耳鳴りに襲われた。
症状としてはそれほど酷いものではなかったが、少しだけ目眩がして壁にもたれ掛かり、治るのを待っていた。暫くすると耳の中に響いていた音が治り、何事もなかったかのように回復した。
「・・・何だ、今の・・・。長時間こっちの世界に居るせいか?」
不思議な感覚だった。これまでに感じたことのないような違和感。だが、それほど胸をざわつかせるものでもなかった。この時ミアが感じていたのは、シンが杞憂していた現実世界との関わりだった。
ここまで何事もなくWoFの世界に接続できてきていたが、普段のゲームの時とは違い、攻撃を受けた時の痛みや、所謂NPCと呼ばれるプレイヤーが操作していない人物の生死が、知らぬ間により現実的に感じるようになっていた。
今更彼女が思い返すこともなかったが、その耳鳴りを経て少しだけ今の自分が置かれている状況を考える時間を得た。
気付かぬ間に疲労が蓄積されているのかもしれない。慣れないことをやったせいか、自分の身体に起きた僅かな異変に、休息も必要だという概念が、ミアの中に生まれる。
「何・・・しようとしてたんだっけ・・・。そうだ、エディさんの言ってたジャンク屋に行く途中だった・・・」
一瞬、自分が何をしようとしていたのかを見失うものの、すぐに自分の目的を思い出すミア。壁に手をついて身体を離すと、自分の足で歩き始めた。
前日に向かったように同じ道へ出ると、その時の記憶を頼りにジャンク屋を目指す。徐々に近づくにつれ、エディから聞いていた通りのガラクタの山が見えてくる。
商売を行なっているかのような古屋は設けてあるが、主人が何処かへ行ってしまっているのか人は見当たらない。
勝手に入るのは悪いと思いながらも、山積みになっているとても商品とは思えないガラクタの山の方へと歩みを進めると、そこで何者かがガラクタを漁っているのが目に入って来た。
その男はただ黙々と瓦礫の山を漁り、使えそうなものはないかと一つ一つ手に取っては、別の場所へ放り投げている。
「なぁ、アンタここの人か?」
ミアは一見怪しく見えるその男に声をかける。男は下の方から聞こえてくるミアの声に手を止めて、彼女の方を向く。
「あ?誰だアンタ。見ない顔・・・いや、どっかで・・・」
男はミアの顔を見るや否や、何か思い当たる節でもあるかのような反応を見せる。男の反応に、ミアの方もその男を前にし、何処かで会ったことがあるような感覚に陥っていた。
「・・・いや、気のせいだろう。アタシはここに来るのは初めての筈だ」
「・・・そうか・・・悪かったな。俺は“イクセン・リングホルム“という。ここでしがないジャンク屋をやっている者だ」
二人は記憶のどこかにある、嘗て見た光景を思い出せぬまま互いに何者であるかを名乗る。
そしてミアはここを訪れた理由と、イクセンはここが元々どんな場所であったのかを説明する。だが、言葉とは裏腹に前にも同じような話を他の誰かにしたような記憶が、脳裏にチラついていた。
ミアが錬金術を使えるということを口にするよりも前に、イクセンは彼女にガラクタの修理を依頼した。二人とも違和感なく話を進めていき、それぞれの作業へと入っていったが、イクセンがミアのクラスを知っていること自体、本来はおかしな話なのだ。
それは当事者の彼らには知る由もないことだったが、ミア達がオルレラの街に来て数日、彼らの記憶は彼らの意識しないところで混濁とし、妙に辻褄が合うように変わっていたのだ。
記憶という糸を一度は繋ぐも、数日間という時の中で解かれ、再び結び直されていくような現象。ミアやツクヨが、眠ったっきり目を覚さないツバキに違和感を感じないのも、それが原因だった。
しかし、その現象が何によるものなのか。何を目的としたものなのか。その手掛かりは一切掴めていない。それどころか、彼らもおかしいと感じながらも、まるで些細なことのようにそれを忘れ、オルレラでの時間を過ごしていた。
本当はミア達がオルレラの街に来て三日目の出来事だったのだが、まるで二日目に体験したことを繰り返すかのように、無意識にミアはイクセンと共にガラクタの修理へ勤しみ、その中で見つけた機械人形に内蔵されたカメラの存在を知る。
そしてイクセンの見つけたメモリーカードにより、嘗ての映像を確かめていた。
一方、ギルドの者達と一緒にオルレラ近郊で発見された、大穴に埋められていた物の撤去作業を防衛するクエストに赴いていたツクヨ達は、前日と同じように作業の邪魔にならぬよう近づくモンスターを排除していた。
だが、こちらでもやはり、彼らの記憶に関する異変やこれまでのクエスト内容とは異なる異変が起き始めていた。
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(本作品はAIを活用して構成・執筆しています)
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