World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
924 / 1,646

止まっていた時間

しおりを挟む
 ハッチの全体像が明らかになる。よくよく見てみると、ハッチにしてはやや手の込んだ構造になっている。ただ単に取っ手に手を掛け開けるのでは開かなそうな装いに守られているようだった。

 「なぁ、おい。これって・・・普通には開かないよな?」

 呆けていたイクセンがハッと我に帰り、ミアが掘り起こしたハッチのところまへ向かう。そしてざっとその全体像を見る限り、かつてこのハッチが利用されていた頃は、入り組んだ仕掛けによって開閉されていた事が窺える。

 「あ・・・あぁ、確かにこりゃぁ手の込んだ仕掛けがあったようだ。それも今となっては、動いてねぇようだがな・・・」

 長きに渡り放置されてきた装置。しかも建物自体が崩れており、雨や風にも曝されていたことが容易に想像できる。如何に優れた技術であろうと、劣化や錆びなどには勝てないだろう。

 「なぁ、すまねぇが・・・」

 「あぁ、分かってる。修復はアタシがやるから、修理は任せた」

 ミアは錬金術により、ハッチの仕掛けを止めているであろう汚れや錆び、機器の劣化を治していく。同じ錬金術による修復を行なっていたニコラ程ではないが、徐々に当時動いていた頃の姿へと戻っていく。

 「ほう、こいつは驚いた。どんだけ古い構造かと心配していたが、今の技術にも用いられる構造をしてやがる。これなら・・・!」

 どれくらい古いものかは定かではないが、技術的には彼らの暮らす現代で用いられる構造や技術が使われていた。

 このハッチが作られた当時から、既に未来の技術力を持っていたことが窺える。これも技術力の発展した当時のアークシティの機材や技術力といったところなのだろうか。

 ミアの修復が終わり、綺麗な見た目に復活したハッチの扉。ここからはイクセンによる修理が施される。構造を見て理解していき、新しい部品に取り替えたり、より機能しやすいように今の技術力に合わせた開閉機能へと、彼なりに改造していく。

 「よし!順調だぜ。このままいけば修理できそうだ」

 「治れば中に入れそうか?ただの扉にしては、随分と仕掛けが施されているようだが・・・」

 「大丈夫だ。当時にすりゃぁ最新鋭の未来の技術だったかもしれねぇが、今となっちゃぁ何にも珍しくない仕掛けよ。そこに俺の技術を付け加えりゃ・・・ホラよ!」

 そう言って彼が何かのスイッチを入れると、ハッチの周りに取り付けられた仕掛けが動き出し、徐々にその扉を持ち上げていった。

 「おぉ!器用なもんだ、流石ジャンク屋を開いているだけのことはある」

 「・・・アンタ、俺を馬鹿にしてる?」

 扉が開くと、中には更に下へと続く階段が現れた。中は強固な扉に守られていたおかげか、わりかし綺麗な状態で残っており、魔石による照明が真っ暗な地下への道を照らしていく。

 「魔石だ・・・。地下でずっと放置されてたから、十分な魔力を蓄えていたんだろう」

 「魔石の照明とは・・・。なかなか洒落た趣味してるな」

 「そうか?・・・まぁ、電気や火に比べれば安全だがよぉ。地下の照明にしちゃぁ珍しくないがな」

 地下という場所において、火や電気といったものよりも魔力を使った照明が使われるという話は、如何やら珍しいことではないようだった。

 勿論、火や電気といったものの方が明るく鮮明に見えるのは確かだが、それを用意する準備や手間、安全性を考慮すれば、地中で魔力を集めることの出来る石を用いた魔石を使うのは、とても理にかなっている。

 未知の領域に足を踏み入れる時にするような会話ではない話をしながら、階段を降りていくミアとイクセン。意識せずとも、二人ともその空間に漂う異様さに気持ちを保とうと、無意識に気を逸らしていたのかもしれない。

 そして狭い階段を抜けた先に、短めの通路が続く。脇道はなく、一本道の通路を歩いていくと、ハッチの時に使っていた技術とは対照的に、一般的なごく普通の扉が見えてくる。

 「おい、あれ・・・」

 「他に道や部屋もない。恐らくここが終着地だろうな・・・」

 二人は地上で見た、人形に供えられたカメラの映像のことを思い出していた。この先に通じる場所は、その映像に残されていた研究所なのではないか。そういった答え合わせをするような気持ちと、何があるか分からない不気味な雰囲気に胸の鼓動が早まる。

 そして、戦闘向きのクラスに就くミアが先に行き、扉のドアノブに手を掛けてゆっくりと開く。すると、階段を降りた時に点いた照明と同じ、魔石の照明が真っ暗な部屋の中で点灯していく。

 「ここは・・・」

 「あの映像にあった部屋と似てるな。研究に用いていた部屋だろう。内装はやや違っているが、映像で見た装置や機材がある」

 そこは大きな研究スペースではなく、こじんまりとした一人用の研究ラボといった印象を受ける部屋だった。

 イクセンの言うように、人形で確認したかつての施設にある部屋と似たような装置があるが、何があったのかそれらは壊されたような傷が残されており、既に機能していないようだった。

 「随分と大きな装置だな。まるでホルマリン漬けの生き物でも入れてたかのような・・・」

 ミアが見つけた装置は、それこそコールドスリープに用いられるように、人が入れるくらいのカプセルがおいてあったが、中身は空っぽで機械の損傷も激しい。

 「何かが暴れたのか・・・?劣化したと言うよりも、“壊された“の方がしっくりくる荒れようだな」

 二人はじっくり見渡しながら、部屋の様子とそこで行われた研究や、この部屋で何が起きたのかの手掛かりを探す。

 するとイクセンが、崩れた棚の奥にまだ壊れていない別の大きなカプセルを見つける。外からでは中の様子が見えず、ガラス張りのところは酷く汚れたいた。

 別々で部屋の中を探索していた為、イクセンはミアをすぐに呼ぶことはなく、まずは中身を確認しようと、カプセル容器の入り口と呼ぶべきか、蓋を探す。

 雪のように積もった埃を払い、容器の蓋らしき取手に指をかけて引っ張ると、それほど力を込めていないにも関わらず、取手部分が壊れてしまった。

 その音を聞いたミアが反応したが、イクセンは何でもないとだけ言い、他に蓋を開ける方法がないかと探る。

 調べるうちに分かったのは、如何やらこのカプセルは人力や力づくでは開かないような仕組みになっているようで、それこそハッチの扉を開いた時のような特殊な構造をしているようだった。

 イクセンはそこで初めてミアを呼ぶと、再び二人の力による修復と修理が行われる。

 「他のに比べて、随分と汚れてるな・・・。中に何が入ってるんだ?」

 「分からねぇな・・・。それに、あまり想像もしたくないってのが、正直なところだ。如何するよ?中から実験で生まれた怪物なんかが入ってたら・・・」

 「馬鹿言ってないで、早く修理いてくれ。それに、そんな怪物が中に入ってたら、自力で壊して脱出しそうなもんだろ?中に何かが入ってたとして、それはもう今では如何しようもないモノに変わっちまってるだろうな・・・」

 似たような見た目をしたカプセルは他にもあり、そちらはミアの言った話のように脱出した何かが暴れたかのように壊されている。

 中身が何にせよ、部屋の様子と機材の劣化を考慮すれば、既に使い道のない物や如何しようもない物が入っているだけだろう。

 ミアの修復によって治されたカプセルを、イクセンが修理していき、そしていよいよカプセルの蓋が開けられる。

 すると、蓋を開けたイクセンが突然声を上げて飛び退き、床に尻餅をついた。

 「うッ・・・!!」

 「如何したッ!?」

 イクセンの見せた異様な反応に、ミアがカプセルの方へ駆け寄りその中を覗くと、中には人間のミイラのようなものと、とてつもない異臭が解き放たれた。

 「なッ・・・これは!?」

 「人だ・・・!中に人が入れられてる!!やっぱりただの研究施設じゃなかったんだッ!」

 しかし、更に二人を驚かせたのはそれだけではなかった。彼らがそのカプセルを起動し開けてしまったことによって、中から異臭だけではなく、何か良くない気配と強力な魔力が外へと飛び出していった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。  ─── からの~数年後 ──── 俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。  ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。 「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」  そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か? まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。  この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。  多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。  普通は……。 異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話。ここに開幕! ● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。 ● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

処理中です...