950 / 1,646
灯(アカリ)
しおりを挟む
「待て待て待てッ!何でそうなる?今知り合ったばかりの人間だぞ?それにアタシらとしても、得体の知れないアンタを連れて行く訳には・・・」
すると彼女は、藁にもすがるような様子でミアを引き留め、その曇りのない綺麗な瞳に涙を浮かべて訴えかけた。
「お願いです!知らない場所で一人にしないで下さい!今の私にあるのは、あなた方とのこの僅かな繋がりだけなのです・・・」
「繋がりはこれからも出来ていくモンだ。何ならこの宿屋の主人にも事情は説明してやるし、ここがアンタの故郷かも知れないだろ?思いつきでそんなこと言うもんじゃない」
「思いつきではありません!それにもしこの街が私の故郷というのなら、記憶に何らかの変化がある筈ではありませんか?きっと私は何処かからここへ“やって来た“のです」
「だったとしてもだなッ・・・」
ミアが言わんとしてることは、シンもツクヨも理解しているようだった。しかし、シンの中では彼女の姿が、このWoFの異変に巻き込まれ最初に訪れた街パルディアで出会った、街中から忌み嫌われていたアンデッドの少女“サラ“の面影を感じていた。
最初の頃に心に決めていた気持ち。助けを求める人がいるのなら、手を差し伸べられる、寄り添うことのできる人間でありたいという思いが、シンの中で強く蘇り始めていた。
偽善と言われることなのかも知れない。ミアのいう通り、得体の知れないものを受け入れるのは危険であるのも確かな事だ。
だが彼のその気持ちは、嘗て彼が受けてきた仕打ちから生まれるものであり、一切の曇りのない純粋なものであり、損得感情でくるようなものではなかった。
「ミアさん・・・でしたよね?貴方が思うほど、この世界の人は皆が皆、優しく接してくれる人ではないのです・・・。私の中にある、何かに対する怯えのような気持ち。それもおそらく・・・」
ミアを引き留める手と反対の手を胸にあて、俯きながら涙をこぼす彼女の姿を見て、それまで何とか振り払おうとしていたミアの口も、流石に止まってしまった。
本当は根の優しいミアの事だ。散々突き放すような言葉を言ってきたが、ここまで必死にせがんでくる彼女をどうしたものかと、困り顔で迷うミアの背中を押すようにシンが口を開く。
「なぁ、いいんじゃないか?ミア。本人がそう願ってるんだ。彼女の記憶の手掛かりを掴むまでの間だけでも、一緒に旅しても」
シンの出した助け舟に追い風を立てるように、ツクヨも迷うミアの気持ちを捲し立てる。
「私もそう思うよ。ミアのいう通り、私達への危険を危惧することは大切な事だし、正しい事だとは思う。それに優しいミアの事だ。私達について来る事で降り掛かる火の粉に、彼女を巻き込みたくないんだろ?」
シン達はただ自由奔放にWoFの世界を旅してる訳ではない。自分達を取り巻く異変の謎を追う中で、彼らはその対象である“黒いコートの者達“と接触する機会もあった。
今後同じような事がないとも限らない。或いは何かの差金を向けられることもあるだろう。
本来のWoFの世界とは異なった地域の事情やイベント、見知らぬNPCキャラや人物達との遭遇を考えると、か弱そうな彼女を連れていては守り切れるという自信も、今のミアにはなかったのかも知れない。
「それは・・・」
「ならいいじゃないか。ミアを含め、私達は彼女の助けになってあげたいと思い始めてるってことだろ?それに案外、にぎやかな旅になっていいかも知れないし・・・ね?」
そう言ってツクヨは、シンの方を向いて一瞬だけ片目を瞑る。口下手なシンに変わり、ミアの気持ちを動かす後押しをしてくれるツクヨに、シンは頭が上がらなかった。
軽く頷いて返事を返したシンは、みんなの事を心配してくれているミアへの配慮を忘れないように、ツクヨに習い言葉を選んだ。
「ミアだけが気負う必要はない。みんなで乗り越えればいいんだ」
暫く黙って二人の言葉を聞いていたミアが、まるで肩の荷を下ろすかのように溜息を吐く。
「あのなぁ。気を使うならもうちょっと相手に分からないようにするモンだろ・・・。分かったよ、この子も連れて行こう」
すっかり話し込んでしまった彼らは、酒場で乗せてもらえると話をこぎつけたリナムル行きの馬車の時間に遅れてしまった。
ミア達は再度、リナムル行きの馬車を探す為、女性を連れて街へ繰り出すことにした。
すると、女性は徐に口を開き、未だ聞けていなかったその名前を口にする。
「そうだ。まだ私の名前、言っていませんでしたよね?」
「何だ、もう思い出せたのか?」
「いえ、あの・・・色々とあって言い出す機会を失ってしまって・・・。皆さんも聞いてかなかったですし・・・」
「それは、てっきり記憶がないって言うから名前も忘れちまってるもんだとばかり・・・」
「私、“アカリ“と言います。灯と書いてアカリです」
「そうか、アカリか。よろしくな」
アカリは特にミアに懐いているようだった。まるで姉を慕う妹のようについて周り、その側を離れなかった。
「そう言えば、君の持っていたあの“燃える羽“は?」
一緒に街を散策していたシンが、繭の中からアカリが姿を現した際に手にしていた、周りの繭や彼女の手を燃やすことのない、小さく燃える炎で出来た羽の事について問う。
するとアカリは、思い出したかのようのその燃える羽を取り出すと、羽はいつの間にか卵へと姿を変えていたのだ。
「あれ?これって・・・」
「“卵“・・・だな。羽の他にも持ってたのか?」
「いえ、確かに手に持っていた羽をしまっていたのですが・・・。それがいつの間にか卵に・・・」
アカリの様子から、どうやら燃える羽はいつの間にか、卵へと変化していたようだった。彼女もその変化について身に覚えがないようで、羽についても彼女はただ温かかったからという理由で大事に抱えていただけなのだと言う。
不思議な模様の入った赤い卵を三人で眺めていると、突然その卵に亀裂が入る。
すると彼女は、藁にもすがるような様子でミアを引き留め、その曇りのない綺麗な瞳に涙を浮かべて訴えかけた。
「お願いです!知らない場所で一人にしないで下さい!今の私にあるのは、あなた方とのこの僅かな繋がりだけなのです・・・」
「繋がりはこれからも出来ていくモンだ。何ならこの宿屋の主人にも事情は説明してやるし、ここがアンタの故郷かも知れないだろ?思いつきでそんなこと言うもんじゃない」
「思いつきではありません!それにもしこの街が私の故郷というのなら、記憶に何らかの変化がある筈ではありませんか?きっと私は何処かからここへ“やって来た“のです」
「だったとしてもだなッ・・・」
ミアが言わんとしてることは、シンもツクヨも理解しているようだった。しかし、シンの中では彼女の姿が、このWoFの異変に巻き込まれ最初に訪れた街パルディアで出会った、街中から忌み嫌われていたアンデッドの少女“サラ“の面影を感じていた。
最初の頃に心に決めていた気持ち。助けを求める人がいるのなら、手を差し伸べられる、寄り添うことのできる人間でありたいという思いが、シンの中で強く蘇り始めていた。
偽善と言われることなのかも知れない。ミアのいう通り、得体の知れないものを受け入れるのは危険であるのも確かな事だ。
だが彼のその気持ちは、嘗て彼が受けてきた仕打ちから生まれるものであり、一切の曇りのない純粋なものであり、損得感情でくるようなものではなかった。
「ミアさん・・・でしたよね?貴方が思うほど、この世界の人は皆が皆、優しく接してくれる人ではないのです・・・。私の中にある、何かに対する怯えのような気持ち。それもおそらく・・・」
ミアを引き留める手と反対の手を胸にあて、俯きながら涙をこぼす彼女の姿を見て、それまで何とか振り払おうとしていたミアの口も、流石に止まってしまった。
本当は根の優しいミアの事だ。散々突き放すような言葉を言ってきたが、ここまで必死にせがんでくる彼女をどうしたものかと、困り顔で迷うミアの背中を押すようにシンが口を開く。
「なぁ、いいんじゃないか?ミア。本人がそう願ってるんだ。彼女の記憶の手掛かりを掴むまでの間だけでも、一緒に旅しても」
シンの出した助け舟に追い風を立てるように、ツクヨも迷うミアの気持ちを捲し立てる。
「私もそう思うよ。ミアのいう通り、私達への危険を危惧することは大切な事だし、正しい事だとは思う。それに優しいミアの事だ。私達について来る事で降り掛かる火の粉に、彼女を巻き込みたくないんだろ?」
シン達はただ自由奔放にWoFの世界を旅してる訳ではない。自分達を取り巻く異変の謎を追う中で、彼らはその対象である“黒いコートの者達“と接触する機会もあった。
今後同じような事がないとも限らない。或いは何かの差金を向けられることもあるだろう。
本来のWoFの世界とは異なった地域の事情やイベント、見知らぬNPCキャラや人物達との遭遇を考えると、か弱そうな彼女を連れていては守り切れるという自信も、今のミアにはなかったのかも知れない。
「それは・・・」
「ならいいじゃないか。ミアを含め、私達は彼女の助けになってあげたいと思い始めてるってことだろ?それに案外、にぎやかな旅になっていいかも知れないし・・・ね?」
そう言ってツクヨは、シンの方を向いて一瞬だけ片目を瞑る。口下手なシンに変わり、ミアの気持ちを動かす後押しをしてくれるツクヨに、シンは頭が上がらなかった。
軽く頷いて返事を返したシンは、みんなの事を心配してくれているミアへの配慮を忘れないように、ツクヨに習い言葉を選んだ。
「ミアだけが気負う必要はない。みんなで乗り越えればいいんだ」
暫く黙って二人の言葉を聞いていたミアが、まるで肩の荷を下ろすかのように溜息を吐く。
「あのなぁ。気を使うならもうちょっと相手に分からないようにするモンだろ・・・。分かったよ、この子も連れて行こう」
すっかり話し込んでしまった彼らは、酒場で乗せてもらえると話をこぎつけたリナムル行きの馬車の時間に遅れてしまった。
ミア達は再度、リナムル行きの馬車を探す為、女性を連れて街へ繰り出すことにした。
すると、女性は徐に口を開き、未だ聞けていなかったその名前を口にする。
「そうだ。まだ私の名前、言っていませんでしたよね?」
「何だ、もう思い出せたのか?」
「いえ、あの・・・色々とあって言い出す機会を失ってしまって・・・。皆さんも聞いてかなかったですし・・・」
「それは、てっきり記憶がないって言うから名前も忘れちまってるもんだとばかり・・・」
「私、“アカリ“と言います。灯と書いてアカリです」
「そうか、アカリか。よろしくな」
アカリは特にミアに懐いているようだった。まるで姉を慕う妹のようについて周り、その側を離れなかった。
「そう言えば、君の持っていたあの“燃える羽“は?」
一緒に街を散策していたシンが、繭の中からアカリが姿を現した際に手にしていた、周りの繭や彼女の手を燃やすことのない、小さく燃える炎で出来た羽の事について問う。
するとアカリは、思い出したかのようのその燃える羽を取り出すと、羽はいつの間にか卵へと姿を変えていたのだ。
「あれ?これって・・・」
「“卵“・・・だな。羽の他にも持ってたのか?」
「いえ、確かに手に持っていた羽をしまっていたのですが・・・。それがいつの間にか卵に・・・」
アカリの様子から、どうやら燃える羽はいつの間にか、卵へと変化していたようだった。彼女もその変化について身に覚えがないようで、羽についても彼女はただ温かかったからという理由で大事に抱えていただけなのだと言う。
不思議な模様の入った赤い卵を三人で眺めていると、突然その卵に亀裂が入る。
0
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる