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差し出される命
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獣人達の間を抜け、玉座に座るボスの前に連れて行かれたダラーヒムは、そこで引かれていた手綱を離される。
「・・・いいのか?押さえつけてねぇで」
「その必要はない。貴様には何もできん」
「ほう?試してみるか?」
「・・・・・」
ダラーヒムは腰を落とし、本気で暴れてやろうとする姿勢を取る。彼の向けた視線は、冗談などで言っているようなものではなく、本気の殺意が込められた鋭いものだった。
あまりの剣幕に、周囲を取り囲んでいた獣人族は一斉に武器を構え臨戦態勢を取り始める。
仲間達への信頼か、自分の力に揺るぎない自信があるのか、玉座に座る獣人族のボスは肘を着いて表情ひとつ変える事なく彼を凝視していた。
肌がピリピリするほどの緊張感が暫く続くと、静寂が支配していた空間に風穴を開けるように、ボスの声がまるで音の響きが視認できるかのようにハッキリと響き渡る。
「ハッ!度胸は誉めてやるよ。それに・・・あながち冗談って訳でもなさそうだしよぉ」
大きく笑い飛ばすように表情を変えたかと思えば、その視線は依然として鋭くダラーヒムを刺し、決して目を離す事はなかった。拘束され、人質を取られていても、この人間はそれを切り捨て戦う覚悟が出来ている。
獣人族のボスは、彼の本質的なものを見抜いていた。この男に脅しもハッタリも通用しない。例え捕らえた他の者達を殺そうと、暴れることを止める事なく、一人で脱出を成し遂げてしまうような、彼の強さとも冷徹さとも捕らえられる本性がボスには分かったのだろう。
「どうやら貴様も一匹狼らしいな。他の奴らを殺したところで止まる奴じゃねぇな」
「買い被り過ぎだ。俺ぁ暴れる気はねぇよ」
「だろうな。それならとっくに暴れて、こんなところにはいねぇ筈だ」
挨拶のような互いの力量を測る一幕を終え、ボスは仲間達に矛を収めるよう合図する。多少ざわめきはすれど、ボスの指示に従わぬ者はいなかった。
「さて・・・。そんな独り身の一匹狼が、わざわざこんな所へ何をしに来た?巷で噂の“珍しい木“でも採りに来たか?」
「まぁそんなところだ。それに、今まで見つからなかったそんなものが、どうして今更見つかり話題になっているのか。その近辺調査も兼ねてる」
ダラーヒムは、シン達に説明したような事を獣人達のボスにも話していく。だがそれはあくまで表向きの理由。本当は目の前の獣人達を捕まえて何かの実験に使っていたと思われる、生物実験の研究所の存在だった。
「俺の前で嘘は通用しねぇぞ?人間。貴様ほどの奴が、単独でそんなチンケな事をしに来てる訳がねぇだろ」
「これは驚いたな・・・。ただ力任せに暴れる猿山の王かと思っていたが・・・」
「前置きはこの辺でいいだろ。俺が貴様に聞きてぇことは・・・分かってるよなぁ?」
それまでの空気がまるで茶番だったかのように、空気が張り詰めるのがその場の誰もが分かるほどハッキリ変わる。彼らにとっての悲願であり怨敵であり、諸悪の根源である者達の情報を、獣人族に囲まれた人間が持っている。
これだけの恨みや憎しみを人間に抱いていながら、何故行動に移さないのか。それは恐らく、相手があまりに強大であるか、そもそもその居場所を掴めずにいるかのどちらかだと、ダラーヒムは推測していた。
獣人達の追う諸悪の根源と、キングが目をつけている非道な実験を行なっている組織は同じであると踏んだ彼は、その組織がキングも手を焼くほどの相手だということを隠したまま、獣人達の王に交渉を持ちかける。
「俺の持ってる情報だろ?アンタらが欲しいのは。俺としても、こいつを何とかしねぇとならねぇ・・・。そこで取引がしたい」
「取引ぃ?」
「俺の狙ってる連中と、アンタらに非道な行いをしたっつぅ人間達は恐らく同じだ。それに協力してもらいたい」
彼にとって、本当に獣人達の力が必要だったという訳ではない。研究所一つ潰すくらいなら、キングの組織力を持ってすれば容易な事だろう。
それでも手を焼いているのは、その相手がキングらの立場では手を出しづらい相手であるからだった。
それ故に、道中で偶然に出会ったシン達と協力関係を結び、彼らにその研究所を潰してもらおうという算段だった。だが当然、そうなれば研究所を潰した人間を、その組織は決して許すことはないだろう。
そんな組織の目を欺く為に、キングが根回しをしてやろうというのが、シン達と結んだ協力関係だった。
しかし、予期せぬところから現れたこの獣人族を使えば、そんな根回しも必要なくなる。
非道な実験で恨みを買った事による復讐劇。そう仕立てるのがダラーヒムの目的だったのだ。
「協力だぁ?・・・そんなもの、俺達が飲むとでも思ってるのか?」
「しないのなら俺ぁ喋らんぞ?」
「“喋りたくなる方法“など、いくらでもある・・・。それに俺達が人間を信用する訳ねぇだろうが!」
「なら、これならどうだ?対等な立場での協力関係じゃない。俺には道中で再会した協力者がいる。今、アンタらが捕らえてる連中の中に、だ」
彼が交渉の場に持ち出したのは、彼を信用し協力関係となったシン達だった。なんと彼は、自分自身と彼らの命を人質として、獣人達の差し出そうと言うのだ。
「・・・いいのか?押さえつけてねぇで」
「その必要はない。貴様には何もできん」
「ほう?試してみるか?」
「・・・・・」
ダラーヒムは腰を落とし、本気で暴れてやろうとする姿勢を取る。彼の向けた視線は、冗談などで言っているようなものではなく、本気の殺意が込められた鋭いものだった。
あまりの剣幕に、周囲を取り囲んでいた獣人族は一斉に武器を構え臨戦態勢を取り始める。
仲間達への信頼か、自分の力に揺るぎない自信があるのか、玉座に座る獣人族のボスは肘を着いて表情ひとつ変える事なく彼を凝視していた。
肌がピリピリするほどの緊張感が暫く続くと、静寂が支配していた空間に風穴を開けるように、ボスの声がまるで音の響きが視認できるかのようにハッキリと響き渡る。
「ハッ!度胸は誉めてやるよ。それに・・・あながち冗談って訳でもなさそうだしよぉ」
大きく笑い飛ばすように表情を変えたかと思えば、その視線は依然として鋭くダラーヒムを刺し、決して目を離す事はなかった。拘束され、人質を取られていても、この人間はそれを切り捨て戦う覚悟が出来ている。
獣人族のボスは、彼の本質的なものを見抜いていた。この男に脅しもハッタリも通用しない。例え捕らえた他の者達を殺そうと、暴れることを止める事なく、一人で脱出を成し遂げてしまうような、彼の強さとも冷徹さとも捕らえられる本性がボスには分かったのだろう。
「どうやら貴様も一匹狼らしいな。他の奴らを殺したところで止まる奴じゃねぇな」
「買い被り過ぎだ。俺ぁ暴れる気はねぇよ」
「だろうな。それならとっくに暴れて、こんなところにはいねぇ筈だ」
挨拶のような互いの力量を測る一幕を終え、ボスは仲間達に矛を収めるよう合図する。多少ざわめきはすれど、ボスの指示に従わぬ者はいなかった。
「さて・・・。そんな独り身の一匹狼が、わざわざこんな所へ何をしに来た?巷で噂の“珍しい木“でも採りに来たか?」
「まぁそんなところだ。それに、今まで見つからなかったそんなものが、どうして今更見つかり話題になっているのか。その近辺調査も兼ねてる」
ダラーヒムは、シン達に説明したような事を獣人達のボスにも話していく。だがそれはあくまで表向きの理由。本当は目の前の獣人達を捕まえて何かの実験に使っていたと思われる、生物実験の研究所の存在だった。
「俺の前で嘘は通用しねぇぞ?人間。貴様ほどの奴が、単独でそんなチンケな事をしに来てる訳がねぇだろ」
「これは驚いたな・・・。ただ力任せに暴れる猿山の王かと思っていたが・・・」
「前置きはこの辺でいいだろ。俺が貴様に聞きてぇことは・・・分かってるよなぁ?」
それまでの空気がまるで茶番だったかのように、空気が張り詰めるのがその場の誰もが分かるほどハッキリ変わる。彼らにとっての悲願であり怨敵であり、諸悪の根源である者達の情報を、獣人族に囲まれた人間が持っている。
これだけの恨みや憎しみを人間に抱いていながら、何故行動に移さないのか。それは恐らく、相手があまりに強大であるか、そもそもその居場所を掴めずにいるかのどちらかだと、ダラーヒムは推測していた。
獣人達の追う諸悪の根源と、キングが目をつけている非道な実験を行なっている組織は同じであると踏んだ彼は、その組織がキングも手を焼くほどの相手だということを隠したまま、獣人達の王に交渉を持ちかける。
「俺の持ってる情報だろ?アンタらが欲しいのは。俺としても、こいつを何とかしねぇとならねぇ・・・。そこで取引がしたい」
「取引ぃ?」
「俺の狙ってる連中と、アンタらに非道な行いをしたっつぅ人間達は恐らく同じだ。それに協力してもらいたい」
彼にとって、本当に獣人達の力が必要だったという訳ではない。研究所一つ潰すくらいなら、キングの組織力を持ってすれば容易な事だろう。
それでも手を焼いているのは、その相手がキングらの立場では手を出しづらい相手であるからだった。
それ故に、道中で偶然に出会ったシン達と協力関係を結び、彼らにその研究所を潰してもらおうという算段だった。だが当然、そうなれば研究所を潰した人間を、その組織は決して許すことはないだろう。
そんな組織の目を欺く為に、キングが根回しをしてやろうというのが、シン達と結んだ協力関係だった。
しかし、予期せぬところから現れたこの獣人族を使えば、そんな根回しも必要なくなる。
非道な実験で恨みを買った事による復讐劇。そう仕立てるのがダラーヒムの目的だったのだ。
「協力だぁ?・・・そんなもの、俺達が飲むとでも思ってるのか?」
「しないのなら俺ぁ喋らんぞ?」
「“喋りたくなる方法“など、いくらでもある・・・。それに俺達が人間を信用する訳ねぇだろうが!」
「なら、これならどうだ?対等な立場での協力関係じゃない。俺には道中で再会した協力者がいる。今、アンタらが捕らえてる連中の中に、だ」
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