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樹海横行
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シンとケツァルが感じていた気配の変化は激しく、突然大きく膨れ上がる者が現れたと思えばそれに匹敵する気配が生まれ、鎬を削るように二つの気配がぶつかると二つの大きな気配には届かなくとも、その周囲にあった小さな気配までもが強まり線香花火のように僅かな力を発揮した後に、静かに消えようとしていた。
「何だ?この気配の変化は!?」
「アズールがあの獣と戦っているんだ。恐らく一対一の状況の中、同胞がチャンスを作る為に肉体強化を試みたのだろう。ただ・・・」
「ただ?」
「大きな気配の内、一つはアズールのもので間違いないが、もう一つのアズールに匹敵する気配・・・あの化け物のものにしてあまりに大きすぎる気が・・・」
実際に何体かの獣を処理してきた彼らなら、一体の獣が放つ気配の大きさはある程度把握していた。だが、今シンとケツァルの感じているアズールと同じくらい大きな、或いはそれ以上とも思える気配が本当に彼らの知る獣の気配なのか、とても信じられなかったのだ。
それこそ、今回のリナムル襲撃を目論んだ獣を束ねるボス、または獣を利用している黒幕であるのではないかと思えるほどだった。
ケツァルの脳裏では、それがリナムルに残ったガレウスなのではないかと考えていた。リナムルに残る獣人族を始末し終え、少数でアジトを離れたアズールを裏切り者達と結託し狙いに来たのではないか。
それが彼の考えるシナリオだった。
話を聞いていたシンやダラーヒムも、ケツァルの言い分を聞いている内にアズールと戦っているのはこれまでのような獣ではなく、彼らと敵対し獣人族を裏切った黒幕のものではないかと考察していた。
語らずとも彼らの中で、獣人族を裏切ろうとしているのはガレウスであるという考えで一致していた。実際、ガレウス自体に会ったことのないシンには彼を疑う他なく、拷問を受けたダラーヒムにとっては疑う余地しかないのは確かだった。
一つの気配が強まり、そして今にも消えそうになったところで、再び二つの大きな気配がぶつかり合う。やや差はあるものの、ほぼ互角の状態で始まった二つの気配のぶつかり合いは、彼らの危惧していた方向へと転がり出した。
僅かに劣っていたアズールの気配が、徐々に弱まり始めたのだ。共に獣人族を支えてきた長の危機に、ケツァルの表情からは焦りの様子が伺える。迂回する足取りにも力が入るのを感じたシンは、仲間を思う気持ちに種族など関係ないと、彼の気持ちを汲み取りアズールの元へ向かう為の時間短縮を図り、危険を犯して彼を送り出す判断をする。
「ケツァル!もういい、手遅れになる前にアンタは先に行け!」
「ッ・・・!しかしそれでは・・・」
「もう少しで獣のいる気配から離れる。一体くらいなら、俺達だけでも何とかなるさ!」
この時のシンもケツァルと同じく冷静さを欠いている状態にあった。だがこのまま迂回していてもアズールの救助に間に合わないかもしれない。
これまで彼らが獣を始末してこれたのは、獣との戦闘に入る前に暗殺、或いは囮を使って罠に嵌めていたからだ。もしこちらの気配に気づかれ、真正面からの戦闘になれば分が悪いのは明白。
当然ダラーヒムは賛成しなかった。ケツァルもシンの申し出には感謝しているが、最も多くの者達が生存できる未来を取るならば、ここで危険を犯すのは彼らだけでなく、多くの獣人族の命に関わることであることも理解していた。
ケツァルが自分の気持ちを優先するか、最も正しき判断を尊重するか葛藤していると、何故か周辺の獣達の気配が、一斉に同じ方角へと動き出した。
「ッ!?」
「何だ!?奴ら何処へ・・・?」
獣の力を有していないダラーヒムでさえ、獣達の移動する気配や音でこの樹海に起こり始める異変に気が付いていた。現在彼らの居る位置も、その獣達の進路上にあった為、一時的に移動を中止し通り過ぎるのを待つ為、気配を殺して茂みに身を潜める。
凄まじい速度で駆け抜けていく獣達に、周囲一帯に風が巻き起こる。息を殺しながら低い体勢で隠れる彼らのすぐ横を、まるでピッチングマシンから放たれる豪速球のように獣が通り過ぎていく。
獣達は道中の気配などお構いなしに、どこかへ向けて移動していた。僅かに辿れたその気配は、一直線上ではなく徐々にその進路を曲げている。どうやら獣達が目指している何かは、この樹海を移動しているようだ。
シン達を無視して駆け抜けていった獣達を見送った後、彼らは獣達の行方について答え合わせをするように口を開く。しかし当然ながら、彼らにそんなものを確認する方法や、何を狙っているのかなど検討もつかない。
しかしこれはチャンスと、一行は獣がいなくなった隙にアズールの元へと直行する。二つの気配は、依然として変わりなくその場にある。どうやら彼らは獣達の移動の影響を受けていないらしい。
獣達が彼らの戦いに足を止めなかったのも、シン達にとっては幸運と言えるだろう。だが、獣達を引きつけているものが何なのか、そしてそれらが何処へ向かっているのか、彼らはその行方をもう少し慎重に考えるべきだったのかもしれない。
今まさに獣達が向かって行っているのは、彼らが救おうとしている獣人達であり、それがミア達や他の獣人族が残るリナムルへ向かっている事を、シン達はまだ知らない。
「何だ?この気配の変化は!?」
「アズールがあの獣と戦っているんだ。恐らく一対一の状況の中、同胞がチャンスを作る為に肉体強化を試みたのだろう。ただ・・・」
「ただ?」
「大きな気配の内、一つはアズールのもので間違いないが、もう一つのアズールに匹敵する気配・・・あの化け物のものにしてあまりに大きすぎる気が・・・」
実際に何体かの獣を処理してきた彼らなら、一体の獣が放つ気配の大きさはある程度把握していた。だが、今シンとケツァルの感じているアズールと同じくらい大きな、或いはそれ以上とも思える気配が本当に彼らの知る獣の気配なのか、とても信じられなかったのだ。
それこそ、今回のリナムル襲撃を目論んだ獣を束ねるボス、または獣を利用している黒幕であるのではないかと思えるほどだった。
ケツァルの脳裏では、それがリナムルに残ったガレウスなのではないかと考えていた。リナムルに残る獣人族を始末し終え、少数でアジトを離れたアズールを裏切り者達と結託し狙いに来たのではないか。
それが彼の考えるシナリオだった。
話を聞いていたシンやダラーヒムも、ケツァルの言い分を聞いている内にアズールと戦っているのはこれまでのような獣ではなく、彼らと敵対し獣人族を裏切った黒幕のものではないかと考察していた。
語らずとも彼らの中で、獣人族を裏切ろうとしているのはガレウスであるという考えで一致していた。実際、ガレウス自体に会ったことのないシンには彼を疑う他なく、拷問を受けたダラーヒムにとっては疑う余地しかないのは確かだった。
一つの気配が強まり、そして今にも消えそうになったところで、再び二つの大きな気配がぶつかり合う。やや差はあるものの、ほぼ互角の状態で始まった二つの気配のぶつかり合いは、彼らの危惧していた方向へと転がり出した。
僅かに劣っていたアズールの気配が、徐々に弱まり始めたのだ。共に獣人族を支えてきた長の危機に、ケツァルの表情からは焦りの様子が伺える。迂回する足取りにも力が入るのを感じたシンは、仲間を思う気持ちに種族など関係ないと、彼の気持ちを汲み取りアズールの元へ向かう為の時間短縮を図り、危険を犯して彼を送り出す判断をする。
「ケツァル!もういい、手遅れになる前にアンタは先に行け!」
「ッ・・・!しかしそれでは・・・」
「もう少しで獣のいる気配から離れる。一体くらいなら、俺達だけでも何とかなるさ!」
この時のシンもケツァルと同じく冷静さを欠いている状態にあった。だがこのまま迂回していてもアズールの救助に間に合わないかもしれない。
これまで彼らが獣を始末してこれたのは、獣との戦闘に入る前に暗殺、或いは囮を使って罠に嵌めていたからだ。もしこちらの気配に気づかれ、真正面からの戦闘になれば分が悪いのは明白。
当然ダラーヒムは賛成しなかった。ケツァルもシンの申し出には感謝しているが、最も多くの者達が生存できる未来を取るならば、ここで危険を犯すのは彼らだけでなく、多くの獣人族の命に関わることであることも理解していた。
ケツァルが自分の気持ちを優先するか、最も正しき判断を尊重するか葛藤していると、何故か周辺の獣達の気配が、一斉に同じ方角へと動き出した。
「ッ!?」
「何だ!?奴ら何処へ・・・?」
獣の力を有していないダラーヒムでさえ、獣達の移動する気配や音でこの樹海に起こり始める異変に気が付いていた。現在彼らの居る位置も、その獣達の進路上にあった為、一時的に移動を中止し通り過ぎるのを待つ為、気配を殺して茂みに身を潜める。
凄まじい速度で駆け抜けていく獣達に、周囲一帯に風が巻き起こる。息を殺しながら低い体勢で隠れる彼らのすぐ横を、まるでピッチングマシンから放たれる豪速球のように獣が通り過ぎていく。
獣達は道中の気配などお構いなしに、どこかへ向けて移動していた。僅かに辿れたその気配は、一直線上ではなく徐々にその進路を曲げている。どうやら獣達が目指している何かは、この樹海を移動しているようだ。
シン達を無視して駆け抜けていった獣達を見送った後、彼らは獣達の行方について答え合わせをするように口を開く。しかし当然ながら、彼らにそんなものを確認する方法や、何を狙っているのかなど検討もつかない。
しかしこれはチャンスと、一行は獣がいなくなった隙にアズールの元へと直行する。二つの気配は、依然として変わりなくその場にある。どうやら彼らは獣達の移動の影響を受けていないらしい。
獣達が彼らの戦いに足を止めなかったのも、シン達にとっては幸運と言えるだろう。だが、獣達を引きつけているものが何なのか、そしてそれらが何処へ向かっているのか、彼らはその行方をもう少し慎重に考えるべきだったのかもしれない。
今まさに獣達が向かって行っているのは、彼らが救おうとしている獣人達であり、それがミア達や他の獣人族が残るリナムルへ向かっている事を、シン達はまだ知らない。
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