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体内の腕の正体
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アズールとの戦闘でダメージを負ったのか、シン達が到着してから魔獣は彼らに手を出してこない。その動向を伺うと、片側の前足に異常が出ているのか、小刻みに震えるその足で何度も体勢を崩している。
魔獣にやられた同胞達の事はケツァルに任せ、アズールは動きの鈍る魔獣への攻撃を再開する。素早い動きで接近していくのは、魔獣がダメージを抱えていると思われる負傷した前足。
戦いにおいて相手の弱点を徹底的に狙う。人間の世界では、時としてそれを“卑怯“と罵ることもあるだろう。神聖な戦いや正々堂々の勝負事において、一見して同じ条件下にあるように見えても、全てにおいて同じ性能など決してない。
必ず何処かに欠陥があり、それを見つけた者こそ勝利へと近づく。生死を賭けた戦いなら尚の事。アズールは自分よりも格上で未知数の能力を隠す魔獣が相手であっても、一対一という勝負に拘ろうとしている。
一度捕らえられた時には同胞の助けもあったが、彼の勝負魂に火をつけたのは自分一人しか戦えぬ者がいなくなってからだった。仲間を助けるという意識が魔獣との戦いを経て、この者に勝ちたいという意識に変わったのだろう。
アズールの接近を目にした魔獣も、自身の身体に鞭を打ち奮い立たせると、強引に前足を立たせ臨戦態勢へと入る。弱点部位となっていた前足に向けて、アズールは素早い体術を放つが、魔獣は前足を上げてそれを避ける。
だがどんなに虚勢を張っていても、強い意志で痛みをねじ伏せることはできなかったようで、地面に接触した魔獣の前足はその瞬間にガクッと折れ曲がった。
弱点を理解し攻撃を仕掛けたアズールがその僅かな隙を見逃す筈もない。避けられることも織り込み済みだったと言わんばかりに身を翻し、前足を庇うように身体のバランスを取る魔獣に、アズールは再び折れる前足に攻撃を仕掛ける。
同じ回避は通用しないだろう。それに魔獣自身の身体も、もう一度負傷した前足に体重をかけては耐えられないことを理解していたのか、今度はあえてその前足を深々と折り畳み、背中に生える悍ましい獣の腕でできた羽を使ってアズールを迎え打つ。
駆け寄るアズールに覆い被さろうと暗い影を地面に落とす魔獣。しかし、アズールの身体は更に低い体勢になると、そこからもう一段階加速し、無数の腕を掻い潜り隠すように守られた前足の下まで辿り着く。
潜り込んだ勢いをそのままに、アズールは強化された爪を刃のように鋭く並べ、まるで侍の抜刀術かのように身体を丸めて捻り、脇から一気にその腕を振り抜いた。
木々の間から差し込む陽の光を反射し、閃光のような一筋の光が魔獣の足元で駆け抜ける。アズールの放った一閃は、その攻撃が表す音と結果をその場に置き去りにし、遅れて現象として光景に反映された。
魔獣の大きな前足にゆっくりと切れ込みが入ると、一気に黒々とした血飛沫が噴き出し、アズールに斬られた前足はゴロリとその場に倒れ込んだ。バランスを崩した魔獣は頭から地面へと倒れそうになるのを、羽を代わりに使って凌ぐ。
大きなチャンスを作り出したアズールは、すかさず魔獣の喉元へ鋭い爪を振りかざす。隆々と膨れ上がった首にアズールの爪が、体毛を斬り裂き体表、そして肉を裂いて斬り込んでいく。
しかし、前足の時とは違って彼の刀身のようになった爪は道半ばでその勢いを失い、ピクリとも動かなくなる。これはアズールの腕が魔獣の身体を貫いた時によく似ている。
以前に同じ出来事を経験していた彼は、その後に何が起きるのかを思い出し、すぐに魔獣の首から爪を引き抜く。すると、アズールの爪を追いかけるように傷口から別の獣の腕が現れたのだ。
「うッ・・・!これはまさかッ!?」
アズールが魔獣の体内に感じていた違和感の正体。それは魔獣の中に別の何者かの腕が複数存在するということではなく、その腕自体に見覚えがあるということだった。
そして今、彼は魔獣の首から現れた複数の腕の内の一つに、アズールの側近を務めていた獣人の腕と思われるものを発見したのだ。その獣人は最近行方不明になった者であり、腕には特徴的な傷跡が残っていた。
獣人族を攫う樹海の中に潜む人間らしき人物につけられた傷であり、彼はその傷を人間に対する怒りや憎しみ、油断させようと言葉巧みに近づく恐ろしさを忘れない為の教訓として、敢えて隠すことなく周りの者達の目に触れるようにしていた。
魔獣の中から現れたその腕は彼のものであり、今アズールが対峙している魔獣の中には彼がいるのか、或いは取り込まれて絶命してしまっているのか。
つまり、魔獣の中から現れている獣の腕とは、この者が取り込んだ獣人族のものから作り出したものだということに、アズールは気が付いてしまったのだ。
魔獣にやられた同胞達の事はケツァルに任せ、アズールは動きの鈍る魔獣への攻撃を再開する。素早い動きで接近していくのは、魔獣がダメージを抱えていると思われる負傷した前足。
戦いにおいて相手の弱点を徹底的に狙う。人間の世界では、時としてそれを“卑怯“と罵ることもあるだろう。神聖な戦いや正々堂々の勝負事において、一見して同じ条件下にあるように見えても、全てにおいて同じ性能など決してない。
必ず何処かに欠陥があり、それを見つけた者こそ勝利へと近づく。生死を賭けた戦いなら尚の事。アズールは自分よりも格上で未知数の能力を隠す魔獣が相手であっても、一対一という勝負に拘ろうとしている。
一度捕らえられた時には同胞の助けもあったが、彼の勝負魂に火をつけたのは自分一人しか戦えぬ者がいなくなってからだった。仲間を助けるという意識が魔獣との戦いを経て、この者に勝ちたいという意識に変わったのだろう。
アズールの接近を目にした魔獣も、自身の身体に鞭を打ち奮い立たせると、強引に前足を立たせ臨戦態勢へと入る。弱点部位となっていた前足に向けて、アズールは素早い体術を放つが、魔獣は前足を上げてそれを避ける。
だがどんなに虚勢を張っていても、強い意志で痛みをねじ伏せることはできなかったようで、地面に接触した魔獣の前足はその瞬間にガクッと折れ曲がった。
弱点を理解し攻撃を仕掛けたアズールがその僅かな隙を見逃す筈もない。避けられることも織り込み済みだったと言わんばかりに身を翻し、前足を庇うように身体のバランスを取る魔獣に、アズールは再び折れる前足に攻撃を仕掛ける。
同じ回避は通用しないだろう。それに魔獣自身の身体も、もう一度負傷した前足に体重をかけては耐えられないことを理解していたのか、今度はあえてその前足を深々と折り畳み、背中に生える悍ましい獣の腕でできた羽を使ってアズールを迎え打つ。
駆け寄るアズールに覆い被さろうと暗い影を地面に落とす魔獣。しかし、アズールの身体は更に低い体勢になると、そこからもう一段階加速し、無数の腕を掻い潜り隠すように守られた前足の下まで辿り着く。
潜り込んだ勢いをそのままに、アズールは強化された爪を刃のように鋭く並べ、まるで侍の抜刀術かのように身体を丸めて捻り、脇から一気にその腕を振り抜いた。
木々の間から差し込む陽の光を反射し、閃光のような一筋の光が魔獣の足元で駆け抜ける。アズールの放った一閃は、その攻撃が表す音と結果をその場に置き去りにし、遅れて現象として光景に反映された。
魔獣の大きな前足にゆっくりと切れ込みが入ると、一気に黒々とした血飛沫が噴き出し、アズールに斬られた前足はゴロリとその場に倒れ込んだ。バランスを崩した魔獣は頭から地面へと倒れそうになるのを、羽を代わりに使って凌ぐ。
大きなチャンスを作り出したアズールは、すかさず魔獣の喉元へ鋭い爪を振りかざす。隆々と膨れ上がった首にアズールの爪が、体毛を斬り裂き体表、そして肉を裂いて斬り込んでいく。
しかし、前足の時とは違って彼の刀身のようになった爪は道半ばでその勢いを失い、ピクリとも動かなくなる。これはアズールの腕が魔獣の身体を貫いた時によく似ている。
以前に同じ出来事を経験していた彼は、その後に何が起きるのかを思い出し、すぐに魔獣の首から爪を引き抜く。すると、アズールの爪を追いかけるように傷口から別の獣の腕が現れたのだ。
「うッ・・・!これはまさかッ!?」
アズールが魔獣の体内に感じていた違和感の正体。それは魔獣の中に別の何者かの腕が複数存在するということではなく、その腕自体に見覚えがあるということだった。
そして今、彼は魔獣の首から現れた複数の腕の内の一つに、アズールの側近を務めていた獣人の腕と思われるものを発見したのだ。その獣人は最近行方不明になった者であり、腕には特徴的な傷跡が残っていた。
獣人族を攫う樹海の中に潜む人間らしき人物につけられた傷であり、彼はその傷を人間に対する怒りや憎しみ、油断させようと言葉巧みに近づく恐ろしさを忘れない為の教訓として、敢えて隠すことなく周りの者達の目に触れるようにしていた。
魔獣の中から現れたその腕は彼のものであり、今アズールが対峙している魔獣の中には彼がいるのか、或いは取り込まれて絶命してしまっているのか。
つまり、魔獣の中から現れている獣の腕とは、この者が取り込んだ獣人族のものから作り出したものだということに、アズールは気が付いてしまったのだ。
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