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感染する幻覚
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掘り起こした地面を周囲の葉っぱで覆い器のようにすると、そこにダラーヒムが周囲の草木や大地から集めた水が蓄えられていく。それと同時に、彼らを取り巻く光景が緑豊かなものから一気に枯れた大地へと変わっていった。
草木は枯れ、水分を失った枝はパキパキと音を立てて軋み折れていく。穴に十分な水分が溜め込まれると、ダラーヒムはできるだけ周囲への影響を小範囲に止めるため、スキルを中断しアズールに身体を洗い流すよう促す。
二人に促されるまま自身の身体に付着した魔獣の血液を洗い流していくアズール。急遽用意した浴槽の水はみるみる赤く染まっていく。全てを綺麗に洗いながせた訳ではなかったが、あらかた魔獣の血液を洗い流すとアズールにある変化が見られた。
それまで彼が獣人族の同胞にして、族長の座に着く前の恋人でもあったミルネだと言い張っていた肉塊を見て、言葉を失っていた。自分が何を恋人だと勘違いしていたのかを知ると、アズールは足の力が抜けてしまったかのようにその場で膝をついた。
「アズール・・・」
「そうか・・・そうだよな・・・。彼女がいる筈がない。何故こんなものをミルネだと・・・。俺は心のどこかでまだ・・・」
肉体強化が解除されたアズールは、すっかり元の獣人の大きさにまで戻ると、それまで魔獣と一人戦っていた勇ましさが嘘のように小さく見えた。
アズールの幻覚が解かれた今、ここに長居する理由はない。彼らはすぐにリナムルへと向かい、他の同胞達を助けなければならない。戦意喪失するアズールに、悲観するのは後だと話したケツァルは、すぐに彼の腕を取り立ち上がらせると、近くに避難させていた負傷した獣人達とシンの元へと戻る。
しかしその途中、倒れた魔獣の方へ視線を向けると、その大きな身体や悍ましい獣の腕は、アズールの抱いていた肉塊と同じような物へと変わり果てていたのだ。
「・・・?」
「おい、あれ・・・」
「“アンタも“か?なら、勘違いではない・・・か」
「だが今は・・・」
「分かってる。話は後だ、急ごう」
ケツァルもダラーヒムもその異変には気づいていたが、今は足を止めている暇はないとその場を後にする。アズールを連れた三人が、負傷した獣人達とシンの元へ戻ると、動ける者は負傷者を抱えながら、襲撃を受けているというリナムルを目指す。
その道中でケツァルは、魔獣の肉体強化や異様な変貌、そしてアズールが受けた幻覚の作用とその原因と思われる事柄について、情報共有を行う。最後には、ケツァルとダラーヒムが魔獣の遺体から感じた異変について語る。
彼らがアズールの幻覚とその対応に追われている間に、魔獣の遺体はいつの間にかその異様な変化が解除されており、ただの肉塊へと変わり果てていたのだ。
あの僅かな時間に風化したものとは考えられない。アズールの身に起きていた異変から考えると、魔獣の遺体を見たケツァルとダラーヒムにも何らかの影響、或いはアズールとは別の形の幻覚を見ていたのかもしれないと語る。
しかし二人は魔獣の血を浴びてもいなければ、触れてさえもいない。可能性として考えられるのは、魔獣の血液から直接感染するタイプの幻覚作用のあるウイルスだとするならば、その時の二人を襲ったのは空気感染による幻覚作用だったのではないかというものだ。
魔獣の血は周囲にも飛び散っていた。それが何らかの形で蒸発し、空気に混ざったものを吸い込んでしまったとも考えられる。
獣人族と同じ肉体強化、そして悍ましい変貌とアズールの見たミルネの姿。どこからどこまでが幻覚によるものなのか、当事者である彼らにはそれを確かめる術はない。
ただ確かなことは、大半の者が樹海に現れた獣の肉体強化を知らないということだ。全ての獣が同じ作用を引き起こすのだとしたら、非常に厄介なことになる。
そしてリナムルへ向かう中、彼らが感じたのはそのリナムルに多くの獣の気配が集まっている問うことだった。そこで彼らは初めて、獣達が一斉に移動を開始した先が獣人族のアジトでもあるリナムルであることを知る。
「おい!感じるか!?」
「あぁ、マズイことになった・・・。奴らが向かっていたのはリナムルだったのか」
「どうするんだ?もしアズールが戦っていたような魔獣が他にもいるのだとしたら、リナムルはもう・・・」
しかし、不幸中の幸いというべきか、彼らが感じ取ったのは獣の気配だけではない。リナムルに集まる気配の中には、獣だけではなく複数の獣人のものやシンやダラーヒムと同じ人間のものと思われる気配もいくつか感じていたようだ。
その中に魔獣と同じような悍ましく強大な気配はない。まだ最悪の事態には至っていない。そしてケツァル達は、獣が自己強化を果たした後に魔獣へと変わる事を知っている他、そうなる前に対処すれば始末することが可能だということも把握している。
要するに、獣を魔獣へ覚醒させる前に一気に仕留めることができれば、事態が悪化することを避けることができる。襲撃を受け、防戦一方となっているリナムルの獣人達にはこのまま獣達を抑えてもらい、彼らが獣の不意を突き暗殺するという作戦で同意した一行は、ケツァル達が行ってきた方法と道具を用いてリナムルを襲撃する獣を狙う。
そして未だ本調子ではない、獣の力を制御しきれないシンに、ケツァルはその作用を制御できる薬がリナムルにあることを伝えると、力を取り戻した暁にはアサシンのクラスの力を思う存分発揮することを彼に約束した。
草木は枯れ、水分を失った枝はパキパキと音を立てて軋み折れていく。穴に十分な水分が溜め込まれると、ダラーヒムはできるだけ周囲への影響を小範囲に止めるため、スキルを中断しアズールに身体を洗い流すよう促す。
二人に促されるまま自身の身体に付着した魔獣の血液を洗い流していくアズール。急遽用意した浴槽の水はみるみる赤く染まっていく。全てを綺麗に洗いながせた訳ではなかったが、あらかた魔獣の血液を洗い流すとアズールにある変化が見られた。
それまで彼が獣人族の同胞にして、族長の座に着く前の恋人でもあったミルネだと言い張っていた肉塊を見て、言葉を失っていた。自分が何を恋人だと勘違いしていたのかを知ると、アズールは足の力が抜けてしまったかのようにその場で膝をついた。
「アズール・・・」
「そうか・・・そうだよな・・・。彼女がいる筈がない。何故こんなものをミルネだと・・・。俺は心のどこかでまだ・・・」
肉体強化が解除されたアズールは、すっかり元の獣人の大きさにまで戻ると、それまで魔獣と一人戦っていた勇ましさが嘘のように小さく見えた。
アズールの幻覚が解かれた今、ここに長居する理由はない。彼らはすぐにリナムルへと向かい、他の同胞達を助けなければならない。戦意喪失するアズールに、悲観するのは後だと話したケツァルは、すぐに彼の腕を取り立ち上がらせると、近くに避難させていた負傷した獣人達とシンの元へと戻る。
しかしその途中、倒れた魔獣の方へ視線を向けると、その大きな身体や悍ましい獣の腕は、アズールの抱いていた肉塊と同じような物へと変わり果てていたのだ。
「・・・?」
「おい、あれ・・・」
「“アンタも“か?なら、勘違いではない・・・か」
「だが今は・・・」
「分かってる。話は後だ、急ごう」
ケツァルもダラーヒムもその異変には気づいていたが、今は足を止めている暇はないとその場を後にする。アズールを連れた三人が、負傷した獣人達とシンの元へ戻ると、動ける者は負傷者を抱えながら、襲撃を受けているというリナムルを目指す。
その道中でケツァルは、魔獣の肉体強化や異様な変貌、そしてアズールが受けた幻覚の作用とその原因と思われる事柄について、情報共有を行う。最後には、ケツァルとダラーヒムが魔獣の遺体から感じた異変について語る。
彼らがアズールの幻覚とその対応に追われている間に、魔獣の遺体はいつの間にかその異様な変化が解除されており、ただの肉塊へと変わり果てていたのだ。
あの僅かな時間に風化したものとは考えられない。アズールの身に起きていた異変から考えると、魔獣の遺体を見たケツァルとダラーヒムにも何らかの影響、或いはアズールとは別の形の幻覚を見ていたのかもしれないと語る。
しかし二人は魔獣の血を浴びてもいなければ、触れてさえもいない。可能性として考えられるのは、魔獣の血液から直接感染するタイプの幻覚作用のあるウイルスだとするならば、その時の二人を襲ったのは空気感染による幻覚作用だったのではないかというものだ。
魔獣の血は周囲にも飛び散っていた。それが何らかの形で蒸発し、空気に混ざったものを吸い込んでしまったとも考えられる。
獣人族と同じ肉体強化、そして悍ましい変貌とアズールの見たミルネの姿。どこからどこまでが幻覚によるものなのか、当事者である彼らにはそれを確かめる術はない。
ただ確かなことは、大半の者が樹海に現れた獣の肉体強化を知らないということだ。全ての獣が同じ作用を引き起こすのだとしたら、非常に厄介なことになる。
そしてリナムルへ向かう中、彼らが感じたのはそのリナムルに多くの獣の気配が集まっている問うことだった。そこで彼らは初めて、獣達が一斉に移動を開始した先が獣人族のアジトでもあるリナムルであることを知る。
「おい!感じるか!?」
「あぁ、マズイことになった・・・。奴らが向かっていたのはリナムルだったのか」
「どうするんだ?もしアズールが戦っていたような魔獣が他にもいるのだとしたら、リナムルはもう・・・」
しかし、不幸中の幸いというべきか、彼らが感じ取ったのは獣の気配だけではない。リナムルに集まる気配の中には、獣だけではなく複数の獣人のものやシンやダラーヒムと同じ人間のものと思われる気配もいくつか感じていたようだ。
その中に魔獣と同じような悍ましく強大な気配はない。まだ最悪の事態には至っていない。そしてケツァル達は、獣が自己強化を果たした後に魔獣へと変わる事を知っている他、そうなる前に対処すれば始末することが可能だということも把握している。
要するに、獣を魔獣へ覚醒させる前に一気に仕留めることができれば、事態が悪化することを避けることができる。襲撃を受け、防戦一方となっているリナムルの獣人達にはこのまま獣達を抑えてもらい、彼らが獣の不意を突き暗殺するという作戦で同意した一行は、ケツァル達が行ってきた方法と道具を用いてリナムルを襲撃する獣を狙う。
そして未だ本調子ではない、獣の力を制御しきれないシンに、ケツァルはその作用を制御できる薬がリナムルにあることを伝えると、力を取り戻した暁にはアサシンのクラスの力を思う存分発揮することを彼に約束した。
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