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与えられた力と知識
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幾つかある注射器の内の一つを手に取り、中身に薬品を入れていくケツァル。これが彼の言う“強制強化“の薬であり、人間に取り込まれた獣の力を制御する為に必要な要素なのだろう。
現状、身体の自由を失った状態のシンには、ケツァルの言葉を鵜呑みにし信じるしかなかった。現にミアやツクヨ達も同じ薬品を投与された事により、獣人族特有の気配を察知する能力や、自らの気配を僅かに抑える事ができるという付与効果を得ていることから、効果は確かにあるのかも知れない。
「そ・・・それが“例“の薬品か・・・?」
「そうだ。・・・何だ?注射は嫌いか?」
「そう言う訳じゃないが・・・。やはりその・・・」
不安そうな表情を浮かべるシンを見て、ミアやツクヨは茶化すように笑っていたが、ケツァルだけは彼の表面上の反応ではなく心の動揺を察して、何かと重ね合わせるかのように親身になって語ってくれた。
「まぁ信じろと言うのは難しい話だろう。・・・私も以前に、同じような思いをした事があったから分かるよ・・・」
「同じような思い・・・」
彼が話してくれたのは、彼が多種族との同盟を目指すようになったキッカケとも言えるような出来事だった。
ケツァルはガレウスとは違い、元からアズールのいた獣人族の群れの中に幼い頃から一緒にいた。アズールの家系が族長を引き継ぐ家系なら、ケツァルの家系は彼の族長への道のりを支えるべくして存在した家系とも言えるものだった。
代々族長を支える側近として特別な立場にあったケツァルの家系は、一族を守る剣として武術や危険察知能力など、他の者達よりもより強力な力を身につける必要があった。
嘗ては今のガレウスのように強靭な肉体に、圧倒的な武力を有していた者や、獣人族には珍しい豊富な魔力を有して兵力の増強や奇抜な策を用いて、族長となるアズールの先代を支えてきたという。
だが、そんな様々な能力に優れた先代達の能力は、不思議な事にその血統には受け継がれる事がなかったのだ。故に、生まれてくる子孫の中には、そういった優れた血統を何も受け継がれずに生まれて来る者もいた。
ケツァルはそんな、血統に恵まれない子供の内の一人だったのだ。
彼が生まれ、魔力がない事は既に調べ上げられた。後に目覚めるであろう戦闘のセンスもケツァルには現れず、いくら鍛錬に勤しんでも他の子孫には見られた類まれなる才能の兆しが一切現れる事はなかった。
指導にあたっていた者達からも、血統が受け継がれていないと知らされた彼の父親は、我が家系の汚点としてケツァルを扱い、他の者達に悟られぬよう信頼のおける友人の家系へと預けられる事になる。
養子として育てられる事になった彼は、実の子ではないことからも愛情を与えられずにまるで奴隷と変わらぬ扱いの中育っていった。
そんなある日、ケツァルの家系から類稀なる魔力を持って生まれた子がいると話題になる。その子供はケツァルと数日違いで生まれた子であり、当初はそのような魔力の片鱗は見えなかったのだが、成長するに連れその身に宿す魔力の頭角を表し始めたのだという。
そしてある日、その魔力は急激に成長し、彼らの一族の中でも類を見ないほど強力な魔力を有するようになった。だが、有り余る魔力はあれど、それを教えられる者が彼らの一族の中にはいなかったのだ。
何とかして強力な魔法を身につけさせる為、彼らは別の種族からその技術を手に入れようと考えた。当時から他の種族と同盟のような関係性を築かずに生きてきた彼らに、教えを乞うような相手などいなかった。
ならば魔力に優れた種族から書物を盗んだり、教えられる者を連れてこようと考えたのだ。そこで目をつけたのが、魔法を使ってモンスターと戦う人間の冒険者だったのだ。
彼らの一族が隠れ住む森の近くに、冒険者の狩場となるようなモンスターの豊富な場所があった。そこへ来る冒険者達を観察いていた彼らは、パーティーも組まずに一人で狩りに勤しむ、とある魔道士のクラスに就く冒険者に目をつけえた。
彼らもいきなり襲い掛かるような事はせず、戦う気のない事を証明しながら、その冒険者に交渉を持ち掛けたのだ。するとその冒険者は、すぐに魔法を習得する事はできない。暫くの間、その魔法を習得させたい者を自分に預けるようにと申し出てきたのだ。
初めは交渉を持ち掛けた獣人達もそれは出来ぬと断ったが、冒険者の条件として魔法の習得はこの森のこの場所で行うという条件を提示してきたのだった。
目の届く場所での修行であれば、飲めぬ条件ではないとその場での交渉は一旦そこで持ち越しとなった。冒険者は暫くの間、この森を拠点に狩りをすると言っており、次の拠点に行くまでの期間であればまたここで狩りを続けているから、準備が整い次第声を掛けてくれと残し、その日はそのまま街の方へと帰って行った。
魔法習得の目星をつけた獣人族は、その話を一族の元へと持ち帰る。しかし、いくら目の届くところとはいえ、人間という種族にいずれ強者となる才能を持った子を預けることは出来ぬという話になった。
ならばどうやって、その才能に溢れる獣人の子に魔法を習得させるのだと口論になると、その子の父親は別の者に行かせて習得させてはどうかと言い出したのだ。
だが、他の者では魔力自体を持たない者が殆ど。そのような状態でどうやって魔法を習得するのかという話になると、覚えられぬ場合、その冒険者を使って街のギルドや店で売られているという、魔法をストックしたアイテムを持って来させてはどうかと提案した。
無論、そのような方法で魔法が習得出来るのかは分からなかったが、それ以外に手段はないかと話はまとまる。すると次は、ならば誰がその影武者をやるのかという話題になる。
そこで名前が上がったのが、年も近く失っても何のデメリットもない、才能に恵まれずに生まれたケツァルだっ
現状、身体の自由を失った状態のシンには、ケツァルの言葉を鵜呑みにし信じるしかなかった。現にミアやツクヨ達も同じ薬品を投与された事により、獣人族特有の気配を察知する能力や、自らの気配を僅かに抑える事ができるという付与効果を得ていることから、効果は確かにあるのかも知れない。
「そ・・・それが“例“の薬品か・・・?」
「そうだ。・・・何だ?注射は嫌いか?」
「そう言う訳じゃないが・・・。やはりその・・・」
不安そうな表情を浮かべるシンを見て、ミアやツクヨは茶化すように笑っていたが、ケツァルだけは彼の表面上の反応ではなく心の動揺を察して、何かと重ね合わせるかのように親身になって語ってくれた。
「まぁ信じろと言うのは難しい話だろう。・・・私も以前に、同じような思いをした事があったから分かるよ・・・」
「同じような思い・・・」
彼が話してくれたのは、彼が多種族との同盟を目指すようになったキッカケとも言えるような出来事だった。
ケツァルはガレウスとは違い、元からアズールのいた獣人族の群れの中に幼い頃から一緒にいた。アズールの家系が族長を引き継ぐ家系なら、ケツァルの家系は彼の族長への道のりを支えるべくして存在した家系とも言えるものだった。
代々族長を支える側近として特別な立場にあったケツァルの家系は、一族を守る剣として武術や危険察知能力など、他の者達よりもより強力な力を身につける必要があった。
嘗ては今のガレウスのように強靭な肉体に、圧倒的な武力を有していた者や、獣人族には珍しい豊富な魔力を有して兵力の増強や奇抜な策を用いて、族長となるアズールの先代を支えてきたという。
だが、そんな様々な能力に優れた先代達の能力は、不思議な事にその血統には受け継がれる事がなかったのだ。故に、生まれてくる子孫の中には、そういった優れた血統を何も受け継がれずに生まれて来る者もいた。
ケツァルはそんな、血統に恵まれない子供の内の一人だったのだ。
彼が生まれ、魔力がない事は既に調べ上げられた。後に目覚めるであろう戦闘のセンスもケツァルには現れず、いくら鍛錬に勤しんでも他の子孫には見られた類まれなる才能の兆しが一切現れる事はなかった。
指導にあたっていた者達からも、血統が受け継がれていないと知らされた彼の父親は、我が家系の汚点としてケツァルを扱い、他の者達に悟られぬよう信頼のおける友人の家系へと預けられる事になる。
養子として育てられる事になった彼は、実の子ではないことからも愛情を与えられずにまるで奴隷と変わらぬ扱いの中育っていった。
そんなある日、ケツァルの家系から類稀なる魔力を持って生まれた子がいると話題になる。その子供はケツァルと数日違いで生まれた子であり、当初はそのような魔力の片鱗は見えなかったのだが、成長するに連れその身に宿す魔力の頭角を表し始めたのだという。
そしてある日、その魔力は急激に成長し、彼らの一族の中でも類を見ないほど強力な魔力を有するようになった。だが、有り余る魔力はあれど、それを教えられる者が彼らの一族の中にはいなかったのだ。
何とかして強力な魔法を身につけさせる為、彼らは別の種族からその技術を手に入れようと考えた。当時から他の種族と同盟のような関係性を築かずに生きてきた彼らに、教えを乞うような相手などいなかった。
ならば魔力に優れた種族から書物を盗んだり、教えられる者を連れてこようと考えたのだ。そこで目をつけたのが、魔法を使ってモンスターと戦う人間の冒険者だったのだ。
彼らの一族が隠れ住む森の近くに、冒険者の狩場となるようなモンスターの豊富な場所があった。そこへ来る冒険者達を観察いていた彼らは、パーティーも組まずに一人で狩りに勤しむ、とある魔道士のクラスに就く冒険者に目をつけえた。
彼らもいきなり襲い掛かるような事はせず、戦う気のない事を証明しながら、その冒険者に交渉を持ち掛けたのだ。するとその冒険者は、すぐに魔法を習得する事はできない。暫くの間、その魔法を習得させたい者を自分に預けるようにと申し出てきたのだ。
初めは交渉を持ち掛けた獣人達もそれは出来ぬと断ったが、冒険者の条件として魔法の習得はこの森のこの場所で行うという条件を提示してきたのだった。
目の届く場所での修行であれば、飲めぬ条件ではないとその場での交渉は一旦そこで持ち越しとなった。冒険者は暫くの間、この森を拠点に狩りをすると言っており、次の拠点に行くまでの期間であればまたここで狩りを続けているから、準備が整い次第声を掛けてくれと残し、その日はそのまま街の方へと帰って行った。
魔法習得の目星をつけた獣人族は、その話を一族の元へと持ち帰る。しかし、いくら目の届くところとはいえ、人間という種族にいずれ強者となる才能を持った子を預けることは出来ぬという話になった。
ならばどうやって、その才能に溢れる獣人の子に魔法を習得させるのだと口論になると、その子の父親は別の者に行かせて習得させてはどうかと言い出したのだ。
だが、他の者では魔力自体を持たない者が殆ど。そのような状態でどうやって魔法を習得するのかという話になると、覚えられぬ場合、その冒険者を使って街のギルドや店で売られているという、魔法をストックしたアイテムを持って来させてはどうかと提案した。
無論、そのような方法で魔法が習得出来るのかは分からなかったが、それ以外に手段はないかと話はまとまる。すると次は、ならば誰がその影武者をやるのかという話題になる。
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