World of Fantasia

神代 コウ

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弱体化の薬

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 変貌したアズールが身動きの取れない状況になった事により、その場にいた者達の手が空く。そこでケツァルは、数人の獣人達に巨大樹へ戻りとある薬を持ってくるよう指示を出す。

 「何をするにも、まずはアズールの強化状態を解除する必要がある!おい、お前達はアジトのラボに戻り、“弱体化の薬“を持ってきてくれ!」

 「え・・・?だがそれは議会で開発が中止になった筈だろ!?」
 「そんな物いつの間に・・・」

 ケツァルの言う弱体化の薬とは、その名の通り獣人達の間では物議を醸し出す効果を持つ薬で、彼らの肉体強化状態を強制的に元の状態へと戻す薬だった。

 だが、獣人達の言うようにその薬の開発は、獣人達の方針や今後の動きについて話し合う議会において、ケツァルのやり方をあまりよく思わない連中やガレウス派の者達の反対多数により、開発自体の計画が中止へと追い込まれてしまう。

 と言うのも、そんな物が完成でもしたら獣人族の特徴であり強みでもある強靭な身体を失う事になり、他族からの攻撃やモンスター達との対抗手段を失う事になる。

 万が一、一族の中に裏切り者でも出たりすれば、その薬を使い他の勢力に寝返る強力な力となってしまうからだ。

 弱体化の薬に関しては、ケツァルと幼き頃から共にいるアズールであっても、反対するほどの計画だった。自分達の強みを、みすみす無くすような薬の有用性など、幾ら言葉を並べ連ねられたところでとても容認できることではなかった。

 それでもケツァルは、自身の強化を制御できない者や、肉体強化の薬によって半ば強制的に強化の力を得た者達の身体を気遣い、溢れる力を制御する薬も必要だと唱え続けた。

 これは偏に、自身の経験から来るものだったのだろう。何の才能にも恵まれず、平均的な獣人よりも弱い個体としてこの世に生を受けたケツァルは、力を持たぬ者が受ける仕打ちや迫害を嫌というほどよく知っている。

 見ず知らずの人間により与えられた薬で、自身の身体になかった魔力を有し、その者から受け継いだ物や知識で、一族の中に戻ることのできた彼は自分の居場所を確立することができた。

 一族の事を思うのは当然だが、その中に生まれた弱き者にも救いの手を差し伸べたいと思っていたケツァルは、例え自分が裏切り者と罵られようとも、議会で大勢の同志達に反対された弱体化の薬の開発を、密かに手を結んでいたエルフ族と共に進めていたのだ。

 当然、そんな物の存在を知らされていなかったガレウスは、身勝手な行動をしていたケツァルを問いただす。

 「お前と言う奴はッ・・・!やはり聞く耳など持たなかったか!!」

 「誰に何と言われようと、その薬を必要とする者がいる限り、私は歩みを止めるつもりはない。初めから“強かった“お前には分からんだろう?ガレウス。自分ではどうしようもない壁を持って生まれた者達の苦悩や挫折など・・・」

 「くッ・・・!」

 その場にいた者達が意外だと感じたのは、捲し立てられたガレウスが反論したり暴力に突き動かされなかったという事だった。ケツァル自身も、彼を挑発すれば争いになるのを覚悟しての発言だったが、やはりガレウスは人間の少年であるツバキを助けた時から、どこか心の中に芽生えたものがあるのかもしれない。

 「ちょっと!今はそんなこと言い合ってる場合じゃないんじゃない!?手が必要なら私も手伝おう。このままシンがアズールさんを抑え続けられるとも限らないんだからさ!」

 妙な空気が漂い始める彼らの間を切り裂くように踏み込んだのは、同じくシンの身体を心配するツクヨだった。彼らもまた獣の力を身につけて普段では扱えない力を手に入れたが、それが何のデメリットもなしに使い続けられるとは考えられなかった。

 現に、シンのスキルによる影の拘束力は、アズールの戦闘力を鑑みてもこれまでのシンのスキルでは到底抑えられるような力ではなかった。そして何よりも、アズールの身体はまだ更に上の強化状態を残している。

 それは森の中で魔獣と化した獣と戦ったアズールの肉体強化を目にしたシンが一番よく分かっている。何の拍子に彼が肉体強化を始めてしまったら、今の状態を保っていられるか分からない。

 それに今は、どれほど拘束する力に加わっているか分からないが、ダラーヒムの錬金術による木の根もある。ただでさえアズールの力に振り解かれそうになっていた彼の術が解けて仕舞えば、事態が急変してしまわないとも限らない。

 無駄な議論に時間を割いている場合ではないと、心境の変化があったと思われるガレウスが獣人達に意外な指示を出した。

 「急ぎその薬とやらを持って来い!」

 「ガレウス・・・」

 「勘違いするなよ。先ずはアズールの身が第一だ。お前が勝手な行いをしていた事についての質問や罰則は、全てが済んだその後だ・・・」

 他者の意見に理解を示すようになったガレウスに、ケツァルは驚きと共に今は自分の意見に従ってくれた事に対し感謝した。

 「あぁ、ありがとう。どんな罰でも、甘んじて受け入れよう」

 指示のまとまった獣人達は、派閥など関係なくガレウスの号令ですぐにケツァルの言う弱体化の薬を取りに向かった。

 その場に残った者達は、依然として自分の意思とは関係なく取り憑かれたように暴れるアズールの様子について、他に手の施しようはないのかと考える。

 「シン、さっきもちょろっと言ったけど、このままアズールさんを抑えられそう?」

 「今のままなら何とか・・・。でも、アズールの本当の強化は、まだ上がある。もしその段階に入ったら・・・」

 ツクヨが心配していた通り、シンがアズールを抑えていられるのも時間の問題だった。アジトに薬を取りに行った獣人達が戻ってくるのに、それほど時間は掛からないだろうが、その間にアズールの強化状態が進んでしまわない保証はない。

 「彼、まだ強くなるの!?攻撃も手を貸す事もできないんじゃ、私達はどうしたら・・・。ケツァルさん、何かないのかい?」

 「正直今は、薬の到着を待つ他ない・・・。そういえば・・・」

 ケツァルは現場に到着して、ダラーヒムから聞いた報告の事を思い出した。彼の感じたという違和感は、確証のないものだがこの状況において何かの糸口になるかもしれない情報でもあった。

 シン達にそれを伝えてどうなる訳でもないとは思ったが、些細なことでも伝えておくに越したことはないと、その時の会話を彼らに話した。

 すると、シンは人の中にある意思に触れる方法があると言い出したのだ。それはダラーヒムのボスであるキングや、大海賊のエイヴリーらと共に大海原を渡ったフォリーキャナルレースで戦った、パイロットのクラスに就くロッシュ・ブラジリアーノの能力から着想を得たスキルだった。
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