1,054 / 1,646
もう一度記憶の中へ
しおりを挟む
前回の木の根のように何処かにヒントが隠されているかもしれないと、一行はその地下への扉の周りを捜索し始める。地中に隠されていたこともあり、血面を中心に調べるダラーヒムら人間達と嗅覚の効く獣人族。エルフ族はその魔力活かし、広範囲にわたる探知を行う。
シンは再び周囲の状況と扉の様子、そしてパネルの接写などのデータを白獅へと送り、現実世界の手を借りていた。
しかし、今回ばかりはシンが望むような情報が得られず、地下へのパスワードを得ることは出来なかった。パネル式の入力ということもあり、指紋や触れられた回数の多い箇所などの分析も行ったようだが、現実世界のそれとは違い土の中で埋まっていた事によりその痕跡も残ってはいなかったという。
「駄目だッこればかりは何処かにヒントがあるとは思えない・・・」
「そりゃぁそうだ。セキュリティーを解除するパスワードをわざわざ外に記しておくようなモンだからな。期待は出来ない・・・」
「シン、お前のクラスで何とかならないのか?アサシンなら開錠系のスキルを覚えていても不思議ではなさそうだが?」
盗賊や忍者にも通じるスキルを持つアサシンというクラスだが、下位のクラスである盗賊やシーフと呼ばれるものの方が、開錠や罠解除などのダンジョンを補助するスキルは長けている。
戦闘に特化し始めてしまった上位クラスは、下位のクラスのスキルを全て網羅できる訳ではないのだ。故に、サブクラスとして盗賊のクラスに就くというケースも多く、メインのクラスで戦闘に特化し、サブで足りぬところを補強するという組み合わせがWoFの中ではメジャーとなっていた。
「悪いがこれは無理だ・・・。出来るのは鍵穴のあるような簡単なものの開錠だけで、複雑なものやこういったキーを入力するタイプのものは開錠出来ない」
「なら今回はお手上げだな。こんなもの関係者でもない限り分からんだろう。それか別の関係施設でも調べないと、ヒントなんて分かる筈もない・・・」
ダラーヒムの会話から、シンはとある事を思い出した。それは彼が現実世界へ帰っている間に、彼の仲間達が経験した不思議な出来事。旅の途中で訪れたオルレラの街で経験したという、無意識の内に同じ日を繰り返すというループに囚われた話だ。
その現象を引き起こしていた首謀者がオルレラの街に嘗てあったと言われる、人体実験を行なっていた施設の研究者である“オスカー“という人物だった。
彼もまたそういった研究を行う組織の被害者の一人で、その研究の中で実験体として使われていた子供達を守る為、そのような現象を引き起こしていたようだ。
直接施設に潜り込んだ訳ではないが、その組織の関係者と接触したであろうツクヨであれば何かを目撃していてもおかしくはない。同行した仲間の中にいる彼に、シンは当時の記憶を思い出せないか尋ねる。
「そういえばツクヨは、オルレラの件でここの施設に関係する何かを目にしていないか?もしかしたらその中の解除のパスワードに関する情報が・・・」
可能性としてはなくもない話だったが、事前にこのようなパスワードが必要と分かっていなければ、中々パスワードらしき数字や文字の羅列を覚えようとは思わないものだろう。
それに加え直近の出来事という訳でもない。大まかな出来事自体は覚えていたとしても、細かなところは抜け落ちているだろう。一行の期待や各種族の運命を委ねるにはあまりにも重い。
「済まないが・・・あまり当時の記憶はハッキリしていないんだ。記憶に干渉されていた事もあるのか、正直自信を持って話せるような内容じゃないんだ・・・」
「そうか、それじゃぁしょうがないか」
「シン、彼を責めるなよ?例えパスワードを目にしていたとしても、寧ろ覚えていて正確に言える方が異常だ」
「分かってるさ。ただ少しでも情報があればと思っただけで・・・。これじゃぁ当事者のツバキに聞いたところで分かるはずもないか」
皆が扉を開けるパスワードに頭を悩ませていると、アズールがシン達の元へやってきて最もパスワードを知っているであろう可能性のある人物の名を挙げる。
「いるだろ。俺達の中に関係者が。そいつに吐かせればいい」
そう言って指を刺したのはシンだった。とはいってもアズールのいう人物というのはシンではなく、彼の持つ小瓶に入れられた人物だった。それはダマスクであり彼ならば施設への入り方を知っている筈。
協力すると申し出た彼からならば聞き出すのも容易い。しかし、当の本人は意外な言葉を彼らに返したのだ。会議の時にも話に上がっていた通り、ダマスクは以前の記憶がない。
それは研究者としてローズらを使った生物実験をしていた頃の記憶もそうであるように、施設に出入りしていた時の記憶もだった。彼にあるのは今の身体になってからの記憶と、実験体として容器に入れられていた時の新しく目覚めた時の記憶しかない。
そして新たな能力を手にして生まれ変わったダマスクは、どういった理由か施設の外へ放たれ、自分の力だけで生き抜く他なかった。
要するに今のダマスクには、施設へ出入りしていた時の記憶はなく、このような扉があった事さえ覚えていないのだ。
唯一の手掛かりすら消えたと思われた時、アズールは言葉の意味を訂正しその真意を彼らに話す。
「そうではない。俺の中でそいつの記憶を見たと言ったろ?なら、もう一度お前がそいつの記憶を探ってこい。施設にいた頃の記憶が見れたのなら、その中にヒントが・・・或いはパスワード自体を見つける事だって出来るかもしれないだろ」
すると、瓶の中のダマスクが話を続ける。
「俺じゃぁ俺自身の記憶は分からない。だが、お前が俺の記憶を見れるのならお前に見てきてもらうしかない。そいつの中にいた時とは違って、直接俺の記憶を探ればもっと他の記憶も見えてくるのだろうか・・・」
アズールの中でダマスクの記憶を見ていた時は、アズールの記憶の奥にあったダマスクの記憶を見ていたので、景色に制限が掛かっていた。直接ダマスクの記憶を探るのであれば、彼のいう通りより多くの、より鮮明な記憶を覗けるかも知れない。
シンは再び周囲の状況と扉の様子、そしてパネルの接写などのデータを白獅へと送り、現実世界の手を借りていた。
しかし、今回ばかりはシンが望むような情報が得られず、地下へのパスワードを得ることは出来なかった。パネル式の入力ということもあり、指紋や触れられた回数の多い箇所などの分析も行ったようだが、現実世界のそれとは違い土の中で埋まっていた事によりその痕跡も残ってはいなかったという。
「駄目だッこればかりは何処かにヒントがあるとは思えない・・・」
「そりゃぁそうだ。セキュリティーを解除するパスワードをわざわざ外に記しておくようなモンだからな。期待は出来ない・・・」
「シン、お前のクラスで何とかならないのか?アサシンなら開錠系のスキルを覚えていても不思議ではなさそうだが?」
盗賊や忍者にも通じるスキルを持つアサシンというクラスだが、下位のクラスである盗賊やシーフと呼ばれるものの方が、開錠や罠解除などのダンジョンを補助するスキルは長けている。
戦闘に特化し始めてしまった上位クラスは、下位のクラスのスキルを全て網羅できる訳ではないのだ。故に、サブクラスとして盗賊のクラスに就くというケースも多く、メインのクラスで戦闘に特化し、サブで足りぬところを補強するという組み合わせがWoFの中ではメジャーとなっていた。
「悪いがこれは無理だ・・・。出来るのは鍵穴のあるような簡単なものの開錠だけで、複雑なものやこういったキーを入力するタイプのものは開錠出来ない」
「なら今回はお手上げだな。こんなもの関係者でもない限り分からんだろう。それか別の関係施設でも調べないと、ヒントなんて分かる筈もない・・・」
ダラーヒムの会話から、シンはとある事を思い出した。それは彼が現実世界へ帰っている間に、彼の仲間達が経験した不思議な出来事。旅の途中で訪れたオルレラの街で経験したという、無意識の内に同じ日を繰り返すというループに囚われた話だ。
その現象を引き起こしていた首謀者がオルレラの街に嘗てあったと言われる、人体実験を行なっていた施設の研究者である“オスカー“という人物だった。
彼もまたそういった研究を行う組織の被害者の一人で、その研究の中で実験体として使われていた子供達を守る為、そのような現象を引き起こしていたようだ。
直接施設に潜り込んだ訳ではないが、その組織の関係者と接触したであろうツクヨであれば何かを目撃していてもおかしくはない。同行した仲間の中にいる彼に、シンは当時の記憶を思い出せないか尋ねる。
「そういえばツクヨは、オルレラの件でここの施設に関係する何かを目にしていないか?もしかしたらその中の解除のパスワードに関する情報が・・・」
可能性としてはなくもない話だったが、事前にこのようなパスワードが必要と分かっていなければ、中々パスワードらしき数字や文字の羅列を覚えようとは思わないものだろう。
それに加え直近の出来事という訳でもない。大まかな出来事自体は覚えていたとしても、細かなところは抜け落ちているだろう。一行の期待や各種族の運命を委ねるにはあまりにも重い。
「済まないが・・・あまり当時の記憶はハッキリしていないんだ。記憶に干渉されていた事もあるのか、正直自信を持って話せるような内容じゃないんだ・・・」
「そうか、それじゃぁしょうがないか」
「シン、彼を責めるなよ?例えパスワードを目にしていたとしても、寧ろ覚えていて正確に言える方が異常だ」
「分かってるさ。ただ少しでも情報があればと思っただけで・・・。これじゃぁ当事者のツバキに聞いたところで分かるはずもないか」
皆が扉を開けるパスワードに頭を悩ませていると、アズールがシン達の元へやってきて最もパスワードを知っているであろう可能性のある人物の名を挙げる。
「いるだろ。俺達の中に関係者が。そいつに吐かせればいい」
そう言って指を刺したのはシンだった。とはいってもアズールのいう人物というのはシンではなく、彼の持つ小瓶に入れられた人物だった。それはダマスクであり彼ならば施設への入り方を知っている筈。
協力すると申し出た彼からならば聞き出すのも容易い。しかし、当の本人は意外な言葉を彼らに返したのだ。会議の時にも話に上がっていた通り、ダマスクは以前の記憶がない。
それは研究者としてローズらを使った生物実験をしていた頃の記憶もそうであるように、施設に出入りしていた時の記憶もだった。彼にあるのは今の身体になってからの記憶と、実験体として容器に入れられていた時の新しく目覚めた時の記憶しかない。
そして新たな能力を手にして生まれ変わったダマスクは、どういった理由か施設の外へ放たれ、自分の力だけで生き抜く他なかった。
要するに今のダマスクには、施設へ出入りしていた時の記憶はなく、このような扉があった事さえ覚えていないのだ。
唯一の手掛かりすら消えたと思われた時、アズールは言葉の意味を訂正しその真意を彼らに話す。
「そうではない。俺の中でそいつの記憶を見たと言ったろ?なら、もう一度お前がそいつの記憶を探ってこい。施設にいた頃の記憶が見れたのなら、その中にヒントが・・・或いはパスワード自体を見つける事だって出来るかもしれないだろ」
すると、瓶の中のダマスクが話を続ける。
「俺じゃぁ俺自身の記憶は分からない。だが、お前が俺の記憶を見れるのならお前に見てきてもらうしかない。そいつの中にいた時とは違って、直接俺の記憶を探ればもっと他の記憶も見えてくるのだろうか・・・」
アズールの中でダマスクの記憶を見ていた時は、アズールの記憶の奥にあったダマスクの記憶を見ていたので、景色に制限が掛かっていた。直接ダマスクの記憶を探るのであれば、彼のいう通りより多くの、より鮮明な記憶を覗けるかも知れない。
0
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
────────
自筆です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる