World of Fantasia

神代 コウ

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別れと決意の背中

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 「準備は出来たな。ならとっとと行きな。敵さんも気付いてない訳じゃねぇんだろうからな」

「しかし・・・」

 浅い付き合いだからとはいえ、死地に共に戦った仲間を置き去りにするのは気が引けるといった様子の潜入組。特にアズールは自分だけが向かうことに納得しているようではなかった。

 「ガレウス!ケツァル!何を勝手な真似をッ・・・!」

 「俺ぁよぉ、戦闘においてはお前より上だってずっと思ってたよ。だから自分より弱ぇ奴に従うなんざまっぴらだったぜ・・・。これでやっとその鎖から解き放たれるんだ、最後くらい我儘言わせてくれよ」

 「私も、自身の出生のせいで色々と苦労をして来た・・・。そんな私を側に置いてくれた事、今でも感謝しているぞ、アズール」

 普段では到底口にするような言葉では無い。二人をよく知るアズールだからこそ、様子がおかしいことにはすぐに気がついた。故に冷静ではない二人の言葉など受け入れる気はなかった。

 「駄目だ!俺もここに残る!潜入は人間とエルフ族に任せる。元より隠密など、我ら一族には向いていないからな・・・」

 「それじゃぁ俺らの恨みは誰が晴らすんだよ!?らしくねぇ事言ってんじゃねぇぜ?」

 「ガレウスのいう通りだ。我々だけじゃない。被害者である種族の者達、誰一人欠けることなく事を成さなければ意味がない。そしてそれは、私やガレウスではないんだ・・・分かるだろ?」

 「分かるか!大馬鹿者ッ!」

 アズールが仲間思いなのはガレウスにもケツァルにも痛いほど伝わっている。だからこそ、彼が駄々を捏ねれば捏ねるほど決心が鈍ってしまうのを恐れたガレウスは、ダラーヒムに準備の段階を訪ねると、アズールに気づかれぬように獣人族の仲間に指示を出し、彼をポータルの方へと後退させるようにわざと引き下がる。

 そしてある程度内側の者達をポータルの方へまとめると、現場で殿に残る者達の合意の元、獣人達による強硬手段が行われた。

 「さぁ、腕の見せ所だぜ?アサシンの兄ちゃん!施設の破壊の事、頼んだぜぇ?」

 元々シンとツクヨは潜入する事に躊躇はなかった。そしてそれは、エルフ族も同じだった。戦士のエルフは元より単独行動で彼らに同行しており、分からな施設の者達にガレウスと同じような強い恨みを抱え込んでいる。

 妖精のエルフ達は移動した先でも、最悪の場合転移が可能らしい。しかし不測の事態ともなればシン達や他の者達まで転移させることは出来ず、移動できるのは己の身だけになる。

 ダラーヒムから託されたものをそれぞれに受け取り、先にポータルの中へと入り込んでいく。

 「アズール・・・」

 「先に行っていろ!お前達を信用した訳ではない。後で必ず俺達もッ・・・」

 残ろうとするアズールの背中に言葉をかけるシン。しかし未だに彼は残る強い意志を見せている様子だった。同族同士の問題は同族同士でなければ理解できないと、アズールの事は彼らに任せ、先にポータルの中へと入る。

 「ん~・・・移動ポータルって初めてだから、ちょっと怖いなぁ・・・」

 「エルフの人達が先に向かったでしょ。馬鹿言ってないで俺達も」

 「あっ!ちょっと、まだ心の準備がッ・・・!」

 寒い日のプールにでも入るかのように、足先からゆっくりポータルの中へ入ろうとしているツクヨの背中を押し込むと、シンも後を追うように軽くジャンプして飛び込む。

 潜入組が入り込み、残すはアズールとなったところで、ガレウスが敵の攻撃を受け止めるフリをしながら、アズールへとぶつかる。強化状態で一回り大きくなったガレウスの身体はアズールの身体を弾き、ポータルの方へと押し込む。

 「なッ・・・おい!計ったな!?ガレウス!ケツァル!!」

 「言っても聞かないお前が悪い」

 「我々の分も・・・頼んだぞ」

 バランスを崩し、ポータルの中へと落ちていくアズールは、転移するその寸前まで彼らの姿を見つめていた。二人は満足そうな笑みを浮かべながら彼を見送る。

 あれほど歪みあっていた筈の二人が、こうも見事に連携するところなどアズールは一度も見たことがなかった。誰よりも一族や仲間を連れ去った施設の者達に怒りや憎しみを抱えていた筈のガレウス。

 人間に魔法を教わり、人間によって一族の中での地位を積み上げたケツァル。アズールらと共に森で生きて行く内に、そんな恩人である筈の人間に仲間を連れ攫われるという複雑な心境を抱えていたケツァル。

 そんな二人が自分の気持ちを押さえ込んでまで、アズールに全てを託した。例え死地に身を残そうとも、二人は後悔など無かった。そしてアズールなら、必ずや本懐を遂げてくれると信じていた。

 「さて、こっからが俺達の腕の見せ所だぜ・・・。勝算はあんだろうなぁ!?ケツァル!」

 「私とて無策で残った訳ではない。皆の者にも協力してもらうぞ!!」

 その場に残った一行を鼓舞するケツァル。潜入組が全員ポータルに入ったのを確認すると、獣達や他の追手の者に後を追わせぬ為、ポータルの扉を閉めた。これで彼らを全員始末しなければポータルを使う事はできない。

 エルフ族の転移の術の事を信じ、彼らの退路を断つことで潜入に集中してもらう目的もあった。

 残された者達は全体としての戦力を一部失う結果となり、強化済みの獣達による猛攻を更に浴びることになる。圧倒的な力を誇るガレウスですら苦戦を強いられる相手に、ケツァルはどんな策を披露するのか。策士としての腕の見せ所となる。
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