1,102 / 1,646
蝕毒の道に活路あり
しおりを挟む
ムカデの毒にはセロトニンやヒスタミン、活性ペプチド等の成分が含まれている。咬みつくことで毒素を流し込み、激痛や腫れ、発赤などの症状を引き起こし、全身の症状として発熱が見られる場合もある。
繰り返し何度も噛まれればアナフィラキシーショックを引き起こす場合もあり、呼吸困難や動悸、悪寒に吐き気、頭痛や眩暈など症状が現れ生命の危機に陥る場合もあると言われている。
咬まれた場合は、患部を綺麗な水で洗い流し、水や氷などで冷やすことで毒の拡散を抑える効果がある。だがあくまで毒素の拡散を防ぐだけであり、除去するには抗ヒスタミン剤やステロイドなどを用いる場合が多い。
嘗ての書物ではムカデの毒は酸性と記されている物もあり、アンモニアを使う事が有効とされていたが、実際のところムカデの毒成分が詳細にはわかっておらず、アンモニアによる皮膚炎を引き起こす懸念もあることから、今では有効性のある対処法とはされていないようだ。
急ぎ溶かされた防具を外して捨てると、液体の付着した衣服の部分も引き裂き、皮膚に触れぬように対処するエイリル。しかし完全には防ぎ切れておらず、身体の複数箇所に撒き散らされたムカデの毒液が僅かに付着していた。
それを触れる事なく、身を守っていた風の魔法を使い、毒液の除去を試みる。風の魔法を毒の排除に回した事により、これまでのような機転の効く動きは取れなくなってしまった。
一度センチとの距離を取り、大穴の外壁の方へと飛び退いていくと、そこで体勢を整える。しかし、エイリルの勢いを挫いたセンチが、そのまま彼が体勢を整えるのを黙って見ている筈がなかった。
「さぁ!回復しながらこの毒の雨が防げるかぁ!?」
退避したエイリルよりも高い位置へ触手を使って登って行ったセンチは、エイリルの上方の壁からムカデを出現させ、彼の防具を溶かしたものと同じ毒素を含む液体を撒き散らさせる。
センチの言うように、エイリルの風は一度に別々の用途で扱うことが難しい。身体の毒を取り除きながら降り頻る毒の雨を吹き飛ばそうとすると、勢いの強い風圧に影響され別の用途で用いていた風が乱されてしまう。
そして何より、大穴という閉ざされた空間である事が、更にその効果に拍車をかけてしまっているのだ。
「チッ・・・やむを得んッ!」
エイリルは自身の身体に付着した毒液の排除を一時中断し、迫る毒の雨を退ける為に風を放出し吹き飛ばす。除き切れていない毒液がエイリルの身体に激痛を与える。
皮膚は赤く変色し、扱う魔法に影響を与え始めた。彼の手から放出される風は、時折途切れたり歪な軌道で風を巻き上げ、毒の雨をあらぬ方向へと吹き飛ばしてしまう。
自身の方へ毒液を飛ばしてしまい、辛うじてそれを避けるエイリルの表情は身体を蝕む毒による激痛と眩暈に歪んでいた。
「クソッ・・・まさかこれしきの事で・・・!」
「たっぷりと味わってくれよぉ?こいつぁ俺が研究に研究を重ねてブレンドした一級品だ。特別な個体にしか与えてねぇ猛毒よぉ」
「そうか・・・“特別“、なのか・・・」
ムカデから飛び散る毒の雨を、退けるように吹き荒んでいたエイリルの風が突如として止まる。上空へ巻き上げられていた毒液が勢いをつけて降り注ぐ。エイリルは風を放つことを止め、指を銃口のようにセンチへと向ける。
「・・・何のつもりだ?」
「“最後の足掻き“・・・と、でも言っておこうか」
エイリルの指先に魔力が集中し、風の塊が渦巻く。高速回転しながら凝縮された風の球は、宛ら銃弾のように彼の指から撃ち放たれた。発射される寸前に魔力の動きを読んでいたセンチは、それが自分に向けられた銃口なのだと察し前もって動く事が出来た。
間一髪のところでエイリルの放つ風の銃弾を躱したセンチ。しかしエイリルは次から次へと指先に魔力を集め、一発また一発と風の銃弾を撃ち放っていく。
壁に触手を突き刺しながら器用に移動していくセンチに、狙いを定めて打ち込んでいくも、素早い身のこなしは風を纏ったエイリルのように飛び回り、彼の風の銃弾が命中することはない。
「ハハハハハッ!どうしたぁ!?最後の足掻きが何も出来てねぇぞぉ?」
「・・・・・」
センチの挑発に動じることなく、エイリルはただ黙々と指先に魔力を集めてはそれを飛び回るセンチに向けて撃ち放つ。だが魔力は無尽蔵ではない。無駄撃ちをすればエイリルの魔力が消耗するばかりで、自らの首を絞めるようなもの。
風の防壁が失われた事により、毒の雨がエイリルの身に降り注ぐ。だが彼はそれを避けることも防ぐ事もせず、全身に猛毒を浴びながら一心に風の銃弾を撃ち続けている。
その真っ直ぐな眼差しは覚悟の表れか、それとも何か策があるが故の勝利への確信か。風の弾は暴れまわり毒液を撒き散らすムカデ達に命中する。狙って撃ったものではないだろうが、攻撃を避ける流れ弾が何匹かのムカデを貫きその動きを鈍らせる。
「ムカデ達を減らしたところで、この雨が止まることはねぇぞ?動かなくなった連中の身体からも毒液は出る!それこそ散らすよりももっと広範囲に効率的になぁ!?」
「猛毒を扱うのであれば、自身に降りかかる危険性もまた考慮しなければならない・・・」
「・・・あぁ?」
猛毒を扱えば、誤って自身にも襲い掛かることを考慮して解毒を所持するというのは当然のこと。元よりその身体が毒に対する抗体を持っているのであれば話は別だが。
「まさか解毒薬を期待してるのかぁ?ブッハハハハハ!!馬鹿か!?俺ぁ元よりそんなモン、持っちゃいねぇよ!必要ねぇからなぁ!この身体は毒に対する抗体を持ってる。毒の研究をするなら当然のことよ」
「そうか・・・。お前が解毒を持っていないと分かれば話は早い。ならば俺の“目的“は果たされた・・・」
「・・・何言ってやがる・・・?」
表情を隠すように俯いたエイリルの口角は吊り上がり、次に不気味な笑みを浮かべたのは毒液に塗れたエイリルの方だった。
繰り返し何度も噛まれればアナフィラキシーショックを引き起こす場合もあり、呼吸困難や動悸、悪寒に吐き気、頭痛や眩暈など症状が現れ生命の危機に陥る場合もあると言われている。
咬まれた場合は、患部を綺麗な水で洗い流し、水や氷などで冷やすことで毒の拡散を抑える効果がある。だがあくまで毒素の拡散を防ぐだけであり、除去するには抗ヒスタミン剤やステロイドなどを用いる場合が多い。
嘗ての書物ではムカデの毒は酸性と記されている物もあり、アンモニアを使う事が有効とされていたが、実際のところムカデの毒成分が詳細にはわかっておらず、アンモニアによる皮膚炎を引き起こす懸念もあることから、今では有効性のある対処法とはされていないようだ。
急ぎ溶かされた防具を外して捨てると、液体の付着した衣服の部分も引き裂き、皮膚に触れぬように対処するエイリル。しかし完全には防ぎ切れておらず、身体の複数箇所に撒き散らされたムカデの毒液が僅かに付着していた。
それを触れる事なく、身を守っていた風の魔法を使い、毒液の除去を試みる。風の魔法を毒の排除に回した事により、これまでのような機転の効く動きは取れなくなってしまった。
一度センチとの距離を取り、大穴の外壁の方へと飛び退いていくと、そこで体勢を整える。しかし、エイリルの勢いを挫いたセンチが、そのまま彼が体勢を整えるのを黙って見ている筈がなかった。
「さぁ!回復しながらこの毒の雨が防げるかぁ!?」
退避したエイリルよりも高い位置へ触手を使って登って行ったセンチは、エイリルの上方の壁からムカデを出現させ、彼の防具を溶かしたものと同じ毒素を含む液体を撒き散らさせる。
センチの言うように、エイリルの風は一度に別々の用途で扱うことが難しい。身体の毒を取り除きながら降り頻る毒の雨を吹き飛ばそうとすると、勢いの強い風圧に影響され別の用途で用いていた風が乱されてしまう。
そして何より、大穴という閉ざされた空間である事が、更にその効果に拍車をかけてしまっているのだ。
「チッ・・・やむを得んッ!」
エイリルは自身の身体に付着した毒液の排除を一時中断し、迫る毒の雨を退ける為に風を放出し吹き飛ばす。除き切れていない毒液がエイリルの身体に激痛を与える。
皮膚は赤く変色し、扱う魔法に影響を与え始めた。彼の手から放出される風は、時折途切れたり歪な軌道で風を巻き上げ、毒の雨をあらぬ方向へと吹き飛ばしてしまう。
自身の方へ毒液を飛ばしてしまい、辛うじてそれを避けるエイリルの表情は身体を蝕む毒による激痛と眩暈に歪んでいた。
「クソッ・・・まさかこれしきの事で・・・!」
「たっぷりと味わってくれよぉ?こいつぁ俺が研究に研究を重ねてブレンドした一級品だ。特別な個体にしか与えてねぇ猛毒よぉ」
「そうか・・・“特別“、なのか・・・」
ムカデから飛び散る毒の雨を、退けるように吹き荒んでいたエイリルの風が突如として止まる。上空へ巻き上げられていた毒液が勢いをつけて降り注ぐ。エイリルは風を放つことを止め、指を銃口のようにセンチへと向ける。
「・・・何のつもりだ?」
「“最後の足掻き“・・・と、でも言っておこうか」
エイリルの指先に魔力が集中し、風の塊が渦巻く。高速回転しながら凝縮された風の球は、宛ら銃弾のように彼の指から撃ち放たれた。発射される寸前に魔力の動きを読んでいたセンチは、それが自分に向けられた銃口なのだと察し前もって動く事が出来た。
間一髪のところでエイリルの放つ風の銃弾を躱したセンチ。しかしエイリルは次から次へと指先に魔力を集め、一発また一発と風の銃弾を撃ち放っていく。
壁に触手を突き刺しながら器用に移動していくセンチに、狙いを定めて打ち込んでいくも、素早い身のこなしは風を纏ったエイリルのように飛び回り、彼の風の銃弾が命中することはない。
「ハハハハハッ!どうしたぁ!?最後の足掻きが何も出来てねぇぞぉ?」
「・・・・・」
センチの挑発に動じることなく、エイリルはただ黙々と指先に魔力を集めてはそれを飛び回るセンチに向けて撃ち放つ。だが魔力は無尽蔵ではない。無駄撃ちをすればエイリルの魔力が消耗するばかりで、自らの首を絞めるようなもの。
風の防壁が失われた事により、毒の雨がエイリルの身に降り注ぐ。だが彼はそれを避けることも防ぐ事もせず、全身に猛毒を浴びながら一心に風の銃弾を撃ち続けている。
その真っ直ぐな眼差しは覚悟の表れか、それとも何か策があるが故の勝利への確信か。風の弾は暴れまわり毒液を撒き散らすムカデ達に命中する。狙って撃ったものではないだろうが、攻撃を避ける流れ弾が何匹かのムカデを貫きその動きを鈍らせる。
「ムカデ達を減らしたところで、この雨が止まることはねぇぞ?動かなくなった連中の身体からも毒液は出る!それこそ散らすよりももっと広範囲に効率的になぁ!?」
「猛毒を扱うのであれば、自身に降りかかる危険性もまた考慮しなければならない・・・」
「・・・あぁ?」
猛毒を扱えば、誤って自身にも襲い掛かることを考慮して解毒を所持するというのは当然のこと。元よりその身体が毒に対する抗体を持っているのであれば話は別だが。
「まさか解毒薬を期待してるのかぁ?ブッハハハハハ!!馬鹿か!?俺ぁ元よりそんなモン、持っちゃいねぇよ!必要ねぇからなぁ!この身体は毒に対する抗体を持ってる。毒の研究をするなら当然のことよ」
「そうか・・・。お前が解毒を持っていないと分かれば話は早い。ならば俺の“目的“は果たされた・・・」
「・・・何言ってやがる・・・?」
表情を隠すように俯いたエイリルの口角は吊り上がり、次に不気味な笑みを浮かべたのは毒液に塗れたエイリルの方だった。
0
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
────────
自筆です。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる