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現場検証
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敵対しようとしている組織の規模や力の片鱗が垣間見え、シンは僅かに尻込みしていた。そんなものを相手にして、自分達がもし目をつけられたりでもしたら、無事でいられるのだろうか。
これまで彼らと接してきたアークシティの関係者で、独自の思想や理念を持って組織に歯向かうような行動をして来た者は、その悉くが始末されてきた。それは内部の情報を持つ身内の者でなくても同じこと。
邪魔をする者や研究を調べようとする者。相手の組織力や国などお構い無しに制裁を施すほどの常軌を逸した研究者集団。それがシン達が手を出そうとする者達だ。
だが、ツクヨはそんな事よりもオスカーが望んだ子供達の解放の事を考えていた。彼はこの世界の事や事情に疎いが、自分達に迫る危険に気付いていないほど鈍感ではない。
ただ、彼の中では自分達の身よりも子供達を救いたいという気持ちの方が前に出ていることの現れなのだろう。
「どっちにしろ私達の次の目的地も、その元凶であるアークシティだ。そこで何か情報が掴めるよね?」
「そうだな・・・うん、きっと見つかる」
ツクヨのそういった精神の在り方を目の当たりにして、シンもその意志に引っ張られるように影響を受け、ネガティブな事を考えがちな自分を変えたいとでもいうかのように、言葉にして自らを奮い立たせた。
一方、研究所へのポータルが隠されていた場所、ガレウスやケツァルらと別れた場所に到着したアズールら偵察隊は、エルフの話から聞いていた通りの凄惨な光景を目の当たりにして驚愕していた。
後方で嗚咽する者がいる中、アズールは周囲に潜んでいる者がいるかどうか気配を探す。周りに生物の気配はない。例え研究所の獣達が気配を消す術を持っていても、今彼らのいる近くには潜んではいない。
死線をくぐり抜けた事により、アズールの気配を感知する能力はより研ぎ澄まされていた。肉体的にも精神的にも、アズールは研究所内での戦闘や決断を経て、シン達でいうところのレベルアップを果たしたのだ。
周囲の安全を確認したアズールは、同族の獣人の仲間に周囲の警戒と何か手掛かりが残っていないかどうかを調べさせる。そして共について来た冒険者達は、回復魔法を行える者は引き続きアズールの回復を。他の者は痕跡を調べられるスキルを持つ者は、この場で何が起きたのかを調査する。
「ここにある血痕は、リナムルで治療を受けていた獣人族や人間のものと同じものだ。それとこれは・・・?」
「恐らく研究所で作られた獣のものだろう」
「そうか!獣人族が捕らえた獣の死体から採れた血液と類似してる。でもアレらとはちょっと違うような・・・」
リナムルを襲撃し、森の中でアズールらと戦闘になった獣達は、元は獣人族をベースにして改良された狂気に生物。しかしこの場で殿を務めた彼らが相手にしたのは、より人造された部分の多い謂わば純正の生物兵器に近いものだった。
故に戦った彼ら獣人族の者達でも、その獣達からは森の獣の気配を感じていなかった。
「アレは最早、この世の獣ではなかった。別の生物によって生み出された哀れな者の成れの果てだ・・・」
最早、ベースとなった個体の意思や面影すら残っていない。ただ役割を与えられたロボットのように、命令を忠実にこなすだけの屍。それが研究所で生み出された獣の完成形への段階の一部とは、何とも皮肉な話だ。
凄惨な現場に散らばる血痕から、この場に残った者達が壮絶な戦いを繰り広げた事は想像ができる。だが、本当にあのガレウスが作られた獣に討ち負けるのだろうか。
単純な力だけなら、ガレウスはアズール以上の身体能力を持っている。ポータルへ入り込む前にアズールが見た獣の姿からも、どうしてもガレウスらが負けたとは到底思えない。
そして何より、万が一獣達が殿を務めてこの場に残ったガレウスらを負かした獣達の血痕まで現場に残っているというのがおかしな点である。要するに敵味方関係なく、この場には血痕が残っており死体が残されていないという事だ。
周囲を調査していた者達によると、足跡や匂い、物品など第三者による痕跡のようなものは見当たらない。それこそ、この場にいた全員が突然血を撒き散らしながらそれ以外の一切の痕跡を残さぬまま死滅したという想像しかつかなかった。
しかし、そんな事を口にすれば必ずその根拠や方法を求められるだろう。誰もが想像しながらもそんなことが出来る筈がないと結論付けていた。そんな中、その想像が現実に起きたのではないかと思っていたのは、地下研究所で突如現れた黒い衣に身を包んだ謎の存在に軽くあしらわれたアズールだけだった。
何の気配もなく、人間よりも重量のある獣人の肉体を軽々と吹き飛ばして見せたその謎の人物。ただならぬ気配と力量を感じさせたその人物であれば、或いはそんな想像の域を出ない妄想まがいな仕業が可能かもしれない。
そんな事を考えたアズールは、他の者達がガレウスらの血痕こそ見つかれど他の痕跡が見つからない事から、何らかの方法で移動した或いは転移したのではないかと結論付けていく一方、彼はその黒い衣を纏った人物が地下研究所を訪れる前に始末したのではないかと想像していた。
「アズール、やっぱりガレウス達はどっかで生きてるに違いない。方法は分からねぇが、きっと上手く逃げたに違いねぇ」
「だがどうやって?別の場所へ向かう足跡や痕跡は見当たらないんだ。これも移動ポータルの仕業とでも?」
だが、アズール達が研究所のエリアへ飛ばされたポータルは、彼らを飛ばした後に機能を停止してしまっている。周囲に残留する魔力の気配にも、それらしい魔力の反応はなく、そもそも凄惨な光景に怯えてしまったエルフ達もいない。
尚更、謎の存在である黒い衣の人物以外、こんな状況は作り出せないと思い始めた。
これまで彼らと接してきたアークシティの関係者で、独自の思想や理念を持って組織に歯向かうような行動をして来た者は、その悉くが始末されてきた。それは内部の情報を持つ身内の者でなくても同じこと。
邪魔をする者や研究を調べようとする者。相手の組織力や国などお構い無しに制裁を施すほどの常軌を逸した研究者集団。それがシン達が手を出そうとする者達だ。
だが、ツクヨはそんな事よりもオスカーが望んだ子供達の解放の事を考えていた。彼はこの世界の事や事情に疎いが、自分達に迫る危険に気付いていないほど鈍感ではない。
ただ、彼の中では自分達の身よりも子供達を救いたいという気持ちの方が前に出ていることの現れなのだろう。
「どっちにしろ私達の次の目的地も、その元凶であるアークシティだ。そこで何か情報が掴めるよね?」
「そうだな・・・うん、きっと見つかる」
ツクヨのそういった精神の在り方を目の当たりにして、シンもその意志に引っ張られるように影響を受け、ネガティブな事を考えがちな自分を変えたいとでもいうかのように、言葉にして自らを奮い立たせた。
一方、研究所へのポータルが隠されていた場所、ガレウスやケツァルらと別れた場所に到着したアズールら偵察隊は、エルフの話から聞いていた通りの凄惨な光景を目の当たりにして驚愕していた。
後方で嗚咽する者がいる中、アズールは周囲に潜んでいる者がいるかどうか気配を探す。周りに生物の気配はない。例え研究所の獣達が気配を消す術を持っていても、今彼らのいる近くには潜んではいない。
死線をくぐり抜けた事により、アズールの気配を感知する能力はより研ぎ澄まされていた。肉体的にも精神的にも、アズールは研究所内での戦闘や決断を経て、シン達でいうところのレベルアップを果たしたのだ。
周囲の安全を確認したアズールは、同族の獣人の仲間に周囲の警戒と何か手掛かりが残っていないかどうかを調べさせる。そして共について来た冒険者達は、回復魔法を行える者は引き続きアズールの回復を。他の者は痕跡を調べられるスキルを持つ者は、この場で何が起きたのかを調査する。
「ここにある血痕は、リナムルで治療を受けていた獣人族や人間のものと同じものだ。それとこれは・・・?」
「恐らく研究所で作られた獣のものだろう」
「そうか!獣人族が捕らえた獣の死体から採れた血液と類似してる。でもアレらとはちょっと違うような・・・」
リナムルを襲撃し、森の中でアズールらと戦闘になった獣達は、元は獣人族をベースにして改良された狂気に生物。しかしこの場で殿を務めた彼らが相手にしたのは、より人造された部分の多い謂わば純正の生物兵器に近いものだった。
故に戦った彼ら獣人族の者達でも、その獣達からは森の獣の気配を感じていなかった。
「アレは最早、この世の獣ではなかった。別の生物によって生み出された哀れな者の成れの果てだ・・・」
最早、ベースとなった個体の意思や面影すら残っていない。ただ役割を与えられたロボットのように、命令を忠実にこなすだけの屍。それが研究所で生み出された獣の完成形への段階の一部とは、何とも皮肉な話だ。
凄惨な現場に散らばる血痕から、この場に残った者達が壮絶な戦いを繰り広げた事は想像ができる。だが、本当にあのガレウスが作られた獣に討ち負けるのだろうか。
単純な力だけなら、ガレウスはアズール以上の身体能力を持っている。ポータルへ入り込む前にアズールが見た獣の姿からも、どうしてもガレウスらが負けたとは到底思えない。
そして何より、万が一獣達が殿を務めてこの場に残ったガレウスらを負かした獣達の血痕まで現場に残っているというのがおかしな点である。要するに敵味方関係なく、この場には血痕が残っており死体が残されていないという事だ。
周囲を調査していた者達によると、足跡や匂い、物品など第三者による痕跡のようなものは見当たらない。それこそ、この場にいた全員が突然血を撒き散らしながらそれ以外の一切の痕跡を残さぬまま死滅したという想像しかつかなかった。
しかし、そんな事を口にすれば必ずその根拠や方法を求められるだろう。誰もが想像しながらもそんなことが出来る筈がないと結論付けていた。そんな中、その想像が現実に起きたのではないかと思っていたのは、地下研究所で突如現れた黒い衣に身を包んだ謎の存在に軽くあしらわれたアズールだけだった。
何の気配もなく、人間よりも重量のある獣人の肉体を軽々と吹き飛ばして見せたその謎の人物。ただならぬ気配と力量を感じさせたその人物であれば、或いはそんな想像の域を出ない妄想まがいな仕業が可能かもしれない。
そんな事を考えたアズールは、他の者達がガレウスらの血痕こそ見つかれど他の痕跡が見つからない事から、何らかの方法で移動した或いは転移したのではないかと結論付けていく一方、彼はその黒い衣を纏った人物が地下研究所を訪れる前に始末したのではないかと想像していた。
「アズール、やっぱりガレウス達はどっかで生きてるに違いない。方法は分からねぇが、きっと上手く逃げたに違いねぇ」
「だがどうやって?別の場所へ向かう足跡や痕跡は見当たらないんだ。これも移動ポータルの仕業とでも?」
だが、アズール達が研究所のエリアへ飛ばされたポータルは、彼らを飛ばした後に機能を停止してしまっている。周囲に残留する魔力の気配にも、それらしい魔力の反応はなく、そもそも凄惨な光景に怯えてしまったエルフ達もいない。
尚更、謎の存在である黒い衣の人物以外、こんな状況は作り出せないと思い始めた。
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