World of Fantasia

神代 コウ

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二人の未知なる存在

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 しかし、全てのWoFユーザーが覚醒者になれる訳ではない。そもそもそんなことを知らないままモンスターに目をつけられ、殺されてしまうユーザーもいる。

 シンもミアに助けてもらわなければそうなっていたかもしれない。それならば、ミアはいつどうやって覚醒者となったのだろう。シンが現実の世界でミアと出会った時には、既に彼女はキャラクターのデータを自身の身体に投影していた。

 無論、自分自身で気づく者もいるが、それは稀なケースであり現実世界のことを嫌っている彼女が、その時現実世界にいたことも、疑問な点ではある。本当は下心など抜きにして、彼女のことをもっと聞いてみたいと思うシンだったが、きっと彼女に現実世界のことを聞くと、関係性にヒビが入るかもしれない。

 それを何よりも恐れていたシンは、漸く信頼し合えるような仲間と呼べる存在に出会えた彼らとその居場所を壊したくなく、直接聞くことも白獅らに調査を求めることも出来なかった。それは自分の辛い過去を掘り返されたくないのと同じだった。

 「覚醒者ねぇ・・・そんな呼び方してるのか」

 「ミアはその覚醒者って奴なの?」

 そこへ、何も知らないツクヨがシンの知りたかった事をミアに尋ねる。思わず目を丸くしてミアの返答に耳を傾けるシンだったが、ミアは意外にもあっさりと答えていた。

 「そうだな、アタシもあっちでも戦える。だがこっちの世界と違って危険だから、アタシは好きじゃない」

 「そっか・・・まぁそりゃそうだよね私も争いはちょっと・・・」

 「言っておくけど、俺も好きで戦ってた訳じゃないからね?」

 狙っていたのか偶然なのかは分からないが、ツクヨが上手く茶化してこの話題を畳んだ。

 ミアも合流して、借りてきた資料に目を通す三人。その中で、今後の動きについても話し合った。このままアークシティに対策なしに向かって良いものかどうか。

 こんな辺境の研究所にすら姿を見せた黒いコートの人物。アークシティなどという目立つ場所に向かえば、それこそ標的にされ兼ねない。何なら既に目を付けられており、今度こそ命を狙われてしまうかもしれない。

 危険を顧みず立ち向かう事と、危険と分かっていながら立ち向かうのは違う。打てる手は全て打ち、対策を考えることも抜かってはならないのが、今の彼らの現状であると自覚する三人だった。



 シン達がリナムルへ到着する少し前。地下研究所から姿を消した黒いコートの者達は、戦いの場を移して剣を交えていた。とはいうものの、二人の戦いは戦いと呼べるほどのものではなかった。

 地下研究所内にてシン達を襲った小さい方の黒いコートの人物が、長身の男の攻撃を軽くあしらっている状況だった。キングの船でシンとデイヴィスを圧倒していた黒いコートの男の仲間が、意図も容易くいなされ相手になっていないという、シン達にしたら信じられない光景が広がっていた。

 「くッ・・・これ程までに差があるのかッ!?」

 「当然だよ。僕らはこの世界の調停者のようなものなんだ。だから君程度じゃ話にもならないよ」

 「ならどうしてここまで移動してきた?あの場で消すことも出来ただろ!?」

 「“彼ら“に聞かれたら面倒になるかもしれないからね・・・。念には念を。人間の好きそうな言葉だよ。自分達命令した機械が完璧に算出したデータを、もう一度自分達で確かめるなんて、間抜けだとは思わないかい?」

 「・・・何を言っている?」

 「簡単な話じゃないか。自分で走るように命令したのに、ちゃんと走ってるのを何度も確認するんだよ?AIは人間のみならず、どんな生命体よりも忠実で完璧に指令をこなすのにさ」

 長身の男には、その者が言っていることが鮮明には分からなかった。どうやら長身の男は、シン達のようなWoFのユーザーが暮らす現実世界の事について詳しくないのだろうか。

 AIという言葉に聞き覚えのない長身の男は、眉を潜ませ表情を歪める。同時に小さい方の黒いコートの人物が、長身の男を蹴り飛ばし大きく後方へと吹き飛ばした。

 「君のような存在は珍しいけど、もう一つの世界についての知識は浅いのかな?」

 「どうだかな・・・」

 含みを持たせた言い方をして時間稼ぎを行う長身の男。彼はこうなるであろうことを覚悟してやって来ていた。このまま見逃されるとも思えない中で、少しでも可能性を見出そうと必死に足掻いている。

 しかし、それすらも茶番だと言わんばかりに、立ち上がろうとする長身の男の側に一瞬にして移動してくると、頭にそっと手を置いて贈る言葉を掛ける。

 「すぐには消さないよ。ただサンプルとして拘束させてもらうね。・・・君から辿れそうなデータもいくつか出てきた。何で邪魔するのかについてはおいおい知れるだろうしね・・・」

 長身の男は床に膝をついたまま、瞬きをするよりも早い一瞬の間にその場から姿を消した。二人は互いに互いの存在について無知だった訳でもなかった。

 少なくとも長身の男は、目の前の黒いコートの人物がどういった存在なのかは理解していたようだ。
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