1,141 / 1,646
決死の覚悟に魅せられて
しおりを挟む
陽に変わり月がリナムルの街を照らし始めた頃、先に帰って来たのはツクヨだった。遠目で見える彼の姿は、シン達からは暗がりであまり表情は見えなかった。どこかいつものツクヨとは違うような雰囲気を醸し出している。
一行はツクヨの浮かない表情を見ると、思わず上げようとした手を止めて顔を見合わせる。
「アイツ・・・なんかあったのかな?」
「どうでしょう。いつもより元気がないようですわ。シンさん、心当たりはありますか?」
アカリとツバキよりも、彼と一緒にいた時間の長いシンならば何か知っているのではないかと、アカリはシンにツクヨの表情の意味を問う。
しかし、シンも分かれてクエストへ向かう以前の彼の様子しか知らず、何故あんなに落ち込んだようにも見える暗い表情をしているのか分からなかった。
「いや、俺にも分からない・・・。別行動になってから何かあったのかもしれないけど・・・」
「そうですか。では私達だけでも、明るく迎えて差し上げましょう!」
「しけたツラは、アイツらしくねぇしな!俺が気合い入れてきてやらぁ!」
そういうと、一人ツクヨの元へ走り出したツバキ。それを遅れて追いかけるアカリも楽しそうな表情で彼の元へと向かっていった。二人の無邪気な姿に、たまには自分も童心へ帰ろうと、シンも一緒になって二人の後を追った。
大きな声で呼びながら手を振って近づくツバキに気づいたツクヨは、彼らの姿を見ていつもの優しい笑みを浮かべると、大きく腕を振ってツバキに答えた。
クエストで起きた異例の事態に巻き込まれツクヨは、そこで獣の自害を目の当たりにした。残される者達へ送る獣の最期のメッセージは、彼に死というものを思い出させていた。
脳裏に浮かんだのは最愛の家族の顔。真っ暗な部屋で、目を見開いた状態で血溜まりに倒れていたその姿は、彼の中でまるで写真に撮ったかのように鮮明に残っている。
ふとした瞬間にフラッシュバックするその光景は、彼の内に眠るデストロイヤー という制御不能のクラスを呼び覚ますスイッチのようになっていた。
初めの内は愛娘と同じように子供の受ける悲惨な状態を見たり、女の人が恐怖に怯える姿を見ることで勝手にクラスが目覚めていたが、次第にそのスイッチの判定は緩くなっていた。
獣の意を決した自害の姿を見ても、ツクヨはかつての光景をフラッシュバックしてしまっていた。まだ自分が抑えきれぬことはないが、いずれこの症状は悪化していき、スイッチが入力されずとももう一つのクラスを呼び覚まし暴走しかねない。
ツクヨは自分でも薄々分かっているようでもあった。自分の中に眠る別のもう一人の自分が表に出て、勝手に身体を使っているのではないか。そしてそれは、完全に別人という訳ではなく、彼の中に隠された彼自身の本性の姿なのではないかと。
今までにも死を目の当たりにすることは何度もあった。だが今回ばかりは、それらとは事情が全く違う。自らの死を持ってツクヨや獣人達に一矢報いた獣。覚悟のある死とは、そこまで強い意志なのか。
ならばツクヨの妻や娘も、生きたいと願う強い願いで死を超えてこちらの世界へやって来ているのではないか。妄想に過ぎないかもしれないが、ツクヨの中で死は、相手の中に自分という存在を刻み込む強烈な一撃なのだと理解した。
しかし、そんな事に心を覆われていて上の空だった彼をWoFの世界という現実に引き戻したのは、同じ境遇を共有する仲間と、この世界で出会った若き者達。
彼らの存在は、ツクヨの中で仲間であり同志であり、まるで家族のような存在になりつつあった。笑顔を向けるあどけない少年と、楽しそうに街の雰囲気に染まる少女。そして苦楽を共にしてきた同志の青年。
ツクヨには帰るところも、自分を止めてくれる者もいる。今だけは少しだけ暗いことは忘れ、今一度舞踏会の仮面を付け、束の間の休息を謳歌する事にした。
「何だよ、しけたツラしやがって。なんかあったのかよ?」
「ん?いやぁ、何でもないよ。ただ森の中で獣の残党を見つけたんだ」
「獣の残党!?それで大丈夫だったのか?」
「見ての通りだよ、大丈夫!それに手負だったみたいでね。リナムルを襲ってきた連中ほど強くはなかったよ」
彼らが知ることではないと、ツクヨは実際に起きた出来事を偽り、脚色を加えてクエスト内容を話した。獣は自害ではなく討伐したことに。ダマスクの時と同様に血液感染などの恐れもあり、連れ帰ることはなかったと。
「討伐隊の方々じゃなくても、森に出向けばそういった事に出会してしまうのですね・・・」
「あぁ、今は少しずつ活気を取り戻しつつあるが、一歩外へ出ればモンスターや生き残った獣達がどこに潜んでいるとも知れない。だからアカリもツバキも、勝手に出かけるなよ?」
「黙って出かけて行ったアンタがそれ言うのかよ!」
「うっ・・・それは・・・」
他愛のない会話が、ツクヨの心を穏やかにさせていった。街を出発した時とは違い、祭りのように賑わうリナムルを見渡して、彼も心機一転、童心に戻り屋台へ何かを食べに行こうと元気に提案する。
「だから!俺達は全員揃うまで待ってんの!ミアがまだ帰ってきてねぇだろ?」
「そうですわ!ミアさんがまだ戻ってません。戻ったらみんなでお祭り!ですわよね!?」
「お祭りってね。まぁでも雰囲気あるし、みんなで楽しみたいね!」
まるで子供達をまとめる父親のように、ツバキとアカリの話に乗っかるツクヨ。実際彼自身も、今回の一件では大いに働いた。
そして研究所では、新たなる力を宿した不思議な刀剣を手に入れた。今だにそれが何なのかは分からないが、何にせよ、彼の力になる事には変わりない。剥き出しの刀身のままで装備することはできないが、リナムルの復興が進み次第、鍛冶屋で刀にしてもらうと考えていた。
一行はツクヨの浮かない表情を見ると、思わず上げようとした手を止めて顔を見合わせる。
「アイツ・・・なんかあったのかな?」
「どうでしょう。いつもより元気がないようですわ。シンさん、心当たりはありますか?」
アカリとツバキよりも、彼と一緒にいた時間の長いシンならば何か知っているのではないかと、アカリはシンにツクヨの表情の意味を問う。
しかし、シンも分かれてクエストへ向かう以前の彼の様子しか知らず、何故あんなに落ち込んだようにも見える暗い表情をしているのか分からなかった。
「いや、俺にも分からない・・・。別行動になってから何かあったのかもしれないけど・・・」
「そうですか。では私達だけでも、明るく迎えて差し上げましょう!」
「しけたツラは、アイツらしくねぇしな!俺が気合い入れてきてやらぁ!」
そういうと、一人ツクヨの元へ走り出したツバキ。それを遅れて追いかけるアカリも楽しそうな表情で彼の元へと向かっていった。二人の無邪気な姿に、たまには自分も童心へ帰ろうと、シンも一緒になって二人の後を追った。
大きな声で呼びながら手を振って近づくツバキに気づいたツクヨは、彼らの姿を見ていつもの優しい笑みを浮かべると、大きく腕を振ってツバキに答えた。
クエストで起きた異例の事態に巻き込まれツクヨは、そこで獣の自害を目の当たりにした。残される者達へ送る獣の最期のメッセージは、彼に死というものを思い出させていた。
脳裏に浮かんだのは最愛の家族の顔。真っ暗な部屋で、目を見開いた状態で血溜まりに倒れていたその姿は、彼の中でまるで写真に撮ったかのように鮮明に残っている。
ふとした瞬間にフラッシュバックするその光景は、彼の内に眠るデストロイヤー という制御不能のクラスを呼び覚ますスイッチのようになっていた。
初めの内は愛娘と同じように子供の受ける悲惨な状態を見たり、女の人が恐怖に怯える姿を見ることで勝手にクラスが目覚めていたが、次第にそのスイッチの判定は緩くなっていた。
獣の意を決した自害の姿を見ても、ツクヨはかつての光景をフラッシュバックしてしまっていた。まだ自分が抑えきれぬことはないが、いずれこの症状は悪化していき、スイッチが入力されずとももう一つのクラスを呼び覚まし暴走しかねない。
ツクヨは自分でも薄々分かっているようでもあった。自分の中に眠る別のもう一人の自分が表に出て、勝手に身体を使っているのではないか。そしてそれは、完全に別人という訳ではなく、彼の中に隠された彼自身の本性の姿なのではないかと。
今までにも死を目の当たりにすることは何度もあった。だが今回ばかりは、それらとは事情が全く違う。自らの死を持ってツクヨや獣人達に一矢報いた獣。覚悟のある死とは、そこまで強い意志なのか。
ならばツクヨの妻や娘も、生きたいと願う強い願いで死を超えてこちらの世界へやって来ているのではないか。妄想に過ぎないかもしれないが、ツクヨの中で死は、相手の中に自分という存在を刻み込む強烈な一撃なのだと理解した。
しかし、そんな事に心を覆われていて上の空だった彼をWoFの世界という現実に引き戻したのは、同じ境遇を共有する仲間と、この世界で出会った若き者達。
彼らの存在は、ツクヨの中で仲間であり同志であり、まるで家族のような存在になりつつあった。笑顔を向けるあどけない少年と、楽しそうに街の雰囲気に染まる少女。そして苦楽を共にしてきた同志の青年。
ツクヨには帰るところも、自分を止めてくれる者もいる。今だけは少しだけ暗いことは忘れ、今一度舞踏会の仮面を付け、束の間の休息を謳歌する事にした。
「何だよ、しけたツラしやがって。なんかあったのかよ?」
「ん?いやぁ、何でもないよ。ただ森の中で獣の残党を見つけたんだ」
「獣の残党!?それで大丈夫だったのか?」
「見ての通りだよ、大丈夫!それに手負だったみたいでね。リナムルを襲ってきた連中ほど強くはなかったよ」
彼らが知ることではないと、ツクヨは実際に起きた出来事を偽り、脚色を加えてクエスト内容を話した。獣は自害ではなく討伐したことに。ダマスクの時と同様に血液感染などの恐れもあり、連れ帰ることはなかったと。
「討伐隊の方々じゃなくても、森に出向けばそういった事に出会してしまうのですね・・・」
「あぁ、今は少しずつ活気を取り戻しつつあるが、一歩外へ出ればモンスターや生き残った獣達がどこに潜んでいるとも知れない。だからアカリもツバキも、勝手に出かけるなよ?」
「黙って出かけて行ったアンタがそれ言うのかよ!」
「うっ・・・それは・・・」
他愛のない会話が、ツクヨの心を穏やかにさせていった。街を出発した時とは違い、祭りのように賑わうリナムルを見渡して、彼も心機一転、童心に戻り屋台へ何かを食べに行こうと元気に提案する。
「だから!俺達は全員揃うまで待ってんの!ミアがまだ帰ってきてねぇだろ?」
「そうですわ!ミアさんがまだ戻ってません。戻ったらみんなでお祭り!ですわよね!?」
「お祭りってね。まぁでも雰囲気あるし、みんなで楽しみたいね!」
まるで子供達をまとめる父親のように、ツバキとアカリの話に乗っかるツクヨ。実際彼自身も、今回の一件では大いに働いた。
そして研究所では、新たなる力を宿した不思議な刀剣を手に入れた。今だにそれが何なのかは分からないが、何にせよ、彼の力になる事には変わりない。剥き出しの刀身のままで装備することはできないが、リナムルの復興が進み次第、鍛冶屋で刀にしてもらうと考えていた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に流されて…!?
藤城満定
ファンタジー
東京発沖縄着の船で修学旅行に出港した都立東品川高等学校2年4組の生徒35人は出港して2時間が過ぎた頃に突然の嵐に巻き込まれてしまい、船が転覆してしまって海に投げ出されてしまった。男子生徒の宮間景太郎が目を覚ますと、そこはどこかの森の中だった。海に投げ出されたのに、何で森の中にいるんだ?不思議に思って呆然としていたら、森の奥から聞き覚えのある女子生徒達の悲鳴が聞こえてきた。考えるより先に体が動いた。足元にあった折れて先端が尖った木の枝と石コロを取って森の奥へと駆け出した。そこには3人の女子生徒が5匹の身長160cmくらいの緑色の肌色のバケモノに襲われていた。そのバケモノは異世界アニメやコミックでお馴染みのゴブリン?だった。距離は10mはある。短剣を持ったのと木製の棍棒を持ったゴブリンの内、棍棒を持ったのがソレを振り下ろすのを防ぐのは無理な距離。ならばと、拾っておいた石コロを全力投球投。全くの無警戒だった場所からかならの威力で投げられた石コロが頭に命中して、そのまま倒れてしまったので他のゴブリン共も動揺した。その隙に女子生徒達とゴブリン共の間に立ち塞がり、拾った木の枝(棒?)を振り回して距離を置き、斃したゴブリンから棍棒を拾ってそこからはタコ殴りに殴りまくった。棍棒や短剣を弾くと、頭、首、肩、腕、足と、それはもうフルボッコのボッコボコにして斃してから暫くして女子生徒達に「大丈夫か?」と声をかけると、3人ともポカーンと口を開けて呆然としていた。まあ、無理もない。何故なら景太郎はクラスでは寡黙で、いつも1人で行動しているそれは、ぶっちゃけて言うと、完全な『ボッチくん』だったからだ。そんな景太郎が自分達の命を助けてくれた。それも今まで誰も見た事のない熱く必死な戦い方でだ。これは謂わゆる『吊り橋効果』ではあるが、こうまで男らしい姿を見せられては惚れるなというほうが無理だろう。その瞬間から女子達による景太郎の取り合い合戦が始まった。
【毎週火曜日に投稿します】
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
俺の家に異世界ファンタジーガチャが来た結果→現実世界で最強に ~極大に増えていくスキルの数が膨大になったので現実世界で無双します~
仮実谷 望
ファンタジー
ガチャを廻したいからそんな理由で謎の異世界ガチャを買った主人公はガチャを廻して自分を鍛えて、最強に至る。現実世界で最強になった主人公は難事件やトラブルを解決する。敵の襲来から世界を守るたった一人の最強が誕生した。そしてガチャの真の仕組みに気付く主人公はさらに仲間と共に最強へと至る物語。ダンジョンに挑戦して仲間たちと共に最強へと至る道。
ガチャを廻しまくり次第に世界最強の人物になっていた。
ガチャ好きすぎて書いてしまった。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収
ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。
彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。
だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。
自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。
「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」
契約解除。返還されたレベルは9999。
一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。
対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。
静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。
「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」
これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。
(本作品はAIを活用して構成・執筆しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる