1,203 / 1,646
騎士団長の名前
しおりを挟む
大司教にケヴィンと呼ばれる男は、教会内部を見渡しながるジークベルトの元まで歩み寄る。二人は顔見知りなのだろうか、フェリクスやアルミンがジークベルトと接する時とは態度がだいぶ違うように感じられる。
「教団の方から貴方のことを“見守って欲しい“と頼まれましてね」
「見守る・・・?一体誰にそんな事を頼まれた?」
「そこは守秘義務がありますので、私からは口にできません」
「ふん。君はいつもそうだな。肝心なところはダンマリだ・・・。だが教団の内部に私の事を面白く思っていない者がいるのは確かだろうがね・・・」
ジークベルトの話から、教団内部でも小競り合いが起こっているようだ。彼は聞いてもいないのに、ケヴィンの前で教団の内部で起きている権力や地位を手にせんとするそれぞれの思惑について口にする。
大司教はジークベルトの他にも数人おり、それぞれが自らの力をつけようと水面下で動いていたようだ。どこの組織も同じような事が起きるものだ。権力を持った者は、更なる権力と力を欲しその根を広げていく。
くだらない権力者の戯言を聞き流していたケヴィンと、未だ姿を隠しはあなしを盗み聞きしていたシン。どうやら教団関係者の名前をあげ、ジークベルトは自分に探偵を差し向けた人物を、ケヴィンの反応を見て探ろうとしていたようだ。
だが当然、探偵である彼からそんな情報が漏れるはずもなく、シンの目から見てもジークベルトの話に全く彼は反応を見せなかった。
「まぁいい。それならば君が頼まれたという“見守り“を有効的に使わせてもらうとしようじゃないか。遠征で私も安全とは言えぬ状況だ。君の目と耳で私を“守って“貰おうじゃないか」
「貴方直々の許可が下りたと受け取らせて頂きますよ」
皮肉を込めた彼の言い方に、ジークベルトは一瞬だけ表情を歪める。掴みたい情報が掴めず、思い通りにいかない様子に苛立ちを覚えるかのように。
「ご安心を。私は貴方の邪魔をするつもりは一切ありませんよ。それに、貴方を“守る“のは私の仕事ではありません。優秀な教団の護衛隊の方々がいらっしゃるじゃありませんか。彼らは今どこに?」
最も知りたかった情報へと話がシフトしたことで、それまで下を向いていたシンの顔が上がる。そのまま護衛隊長の名前が上がれば、そこでルーカスの依頼は達成される。
あわよくば隊長の名が上がらないかと祈りつつ、シンは二人の会話に更に集中して耳を傾ける。
「護衛隊は各地に配置している。近衛兵も教会の外や隣の部屋に待機してもらってるよ」
「不用心ではありませんか?何故すぐ側で護衛させておかないのです?」
ケヴィンの話は最もな話だろう。護衛すべき対象を一人にしておくなど、危険極まりない。最低でも視認できる場所にとらえておくようなものではないのだろうか。
「ははは。私の襲撃を心配してくれているのかね?安心したまえ。私は“守護神の加護“を受けている。そう簡単には狙えない上に、私が襲撃されればすぐに護衛隊に包囲される。要は私自身が囮のようになっていて、暗躍する者を暴く罠になっている訳だ」
「なるほど。通りで不用心だと思いましたよ。貴方の行方を探すのは難しいことじゃなかった。それどころか、誰も特に隠そうとするような素振りもなく、簡単に口を割るもんだから、教団の管轄内にあるアルバだからと油断しているのかと・・・」
「当然、私はこの街の者達を信頼しているとも。芸術の歴史が豊富であるこの街で、そんな物騒なことは起きないさ」
護衛隊の話になり、隊長の名前が出るかと思い、身を引き締めて話を盗み聞きしていたシンだったが、このままでは二人の話は終わってしまいそうだ。期待していたがここでも情報は得られなかったかと落胆するシンだったが、ここで幸運が訪れる。
なんとケヴィンはまるでシンの手助けをしているかのように、護衛隊の話を深掘りし始めたのだ。
「私も教団関係の仕事は初めてではありません。今回貴方の護衛を務めている隊長さんは誰ですか?もし知っている方なら、是非とも挨拶をしておきたいのですが・・・」
ピンポイントで欲しい名前を聞き出そうとするケヴィン。顔見知りで教団の護衛隊にも通じる彼を信用してのことだろうか。ジークベルトは今回のアルバへの遠征に連れてきた護衛隊を指揮する人物の名前を口にした。
「オイゲンだよ。騎士団最強の盾とも名高い“オイゲン・フォン・エーレンフリート“だ」
シンはジークベルトの口から発せられたその名をすぐに記憶し、メモに残した。といっても、紙も書くものも持ち合わせていなかったシンは、針で自身の指を刺し、血で衣類にその名を刻んだ。
「オイゲン氏でしたか。なるほど、それで“守護神の加護“という訳ですか。納得です。彼ほどの人物であれば貴方が安心しきっているのも頷ける。彼は今どこに?」
「教会の奥の部屋だ。そこでアルバの現状について調べている」
「ありがとうございます。“おかげで助かりました“。久々に彼の顔が見れると思うと楽しみです。では私はこれで・・・」
この場で最もお礼を述べたかったのは、間違いなく護衛隊の隊長の名前を探りに来ていたシンだった事だろう。まだその名がルーカスの依頼に必要な名であるのかは確定していないが、大司教自らが口にしたのだから可能性としては限りなく正解に近いだろう。
早速仲間達の元へ戻るため、シンは教会の椅子の影から外へと脱出する。
「教団の方から貴方のことを“見守って欲しい“と頼まれましてね」
「見守る・・・?一体誰にそんな事を頼まれた?」
「そこは守秘義務がありますので、私からは口にできません」
「ふん。君はいつもそうだな。肝心なところはダンマリだ・・・。だが教団の内部に私の事を面白く思っていない者がいるのは確かだろうがね・・・」
ジークベルトの話から、教団内部でも小競り合いが起こっているようだ。彼は聞いてもいないのに、ケヴィンの前で教団の内部で起きている権力や地位を手にせんとするそれぞれの思惑について口にする。
大司教はジークベルトの他にも数人おり、それぞれが自らの力をつけようと水面下で動いていたようだ。どこの組織も同じような事が起きるものだ。権力を持った者は、更なる権力と力を欲しその根を広げていく。
くだらない権力者の戯言を聞き流していたケヴィンと、未だ姿を隠しはあなしを盗み聞きしていたシン。どうやら教団関係者の名前をあげ、ジークベルトは自分に探偵を差し向けた人物を、ケヴィンの反応を見て探ろうとしていたようだ。
だが当然、探偵である彼からそんな情報が漏れるはずもなく、シンの目から見てもジークベルトの話に全く彼は反応を見せなかった。
「まぁいい。それならば君が頼まれたという“見守り“を有効的に使わせてもらうとしようじゃないか。遠征で私も安全とは言えぬ状況だ。君の目と耳で私を“守って“貰おうじゃないか」
「貴方直々の許可が下りたと受け取らせて頂きますよ」
皮肉を込めた彼の言い方に、ジークベルトは一瞬だけ表情を歪める。掴みたい情報が掴めず、思い通りにいかない様子に苛立ちを覚えるかのように。
「ご安心を。私は貴方の邪魔をするつもりは一切ありませんよ。それに、貴方を“守る“のは私の仕事ではありません。優秀な教団の護衛隊の方々がいらっしゃるじゃありませんか。彼らは今どこに?」
最も知りたかった情報へと話がシフトしたことで、それまで下を向いていたシンの顔が上がる。そのまま護衛隊長の名前が上がれば、そこでルーカスの依頼は達成される。
あわよくば隊長の名が上がらないかと祈りつつ、シンは二人の会話に更に集中して耳を傾ける。
「護衛隊は各地に配置している。近衛兵も教会の外や隣の部屋に待機してもらってるよ」
「不用心ではありませんか?何故すぐ側で護衛させておかないのです?」
ケヴィンの話は最もな話だろう。護衛すべき対象を一人にしておくなど、危険極まりない。最低でも視認できる場所にとらえておくようなものではないのだろうか。
「ははは。私の襲撃を心配してくれているのかね?安心したまえ。私は“守護神の加護“を受けている。そう簡単には狙えない上に、私が襲撃されればすぐに護衛隊に包囲される。要は私自身が囮のようになっていて、暗躍する者を暴く罠になっている訳だ」
「なるほど。通りで不用心だと思いましたよ。貴方の行方を探すのは難しいことじゃなかった。それどころか、誰も特に隠そうとするような素振りもなく、簡単に口を割るもんだから、教団の管轄内にあるアルバだからと油断しているのかと・・・」
「当然、私はこの街の者達を信頼しているとも。芸術の歴史が豊富であるこの街で、そんな物騒なことは起きないさ」
護衛隊の話になり、隊長の名前が出るかと思い、身を引き締めて話を盗み聞きしていたシンだったが、このままでは二人の話は終わってしまいそうだ。期待していたがここでも情報は得られなかったかと落胆するシンだったが、ここで幸運が訪れる。
なんとケヴィンはまるでシンの手助けをしているかのように、護衛隊の話を深掘りし始めたのだ。
「私も教団関係の仕事は初めてではありません。今回貴方の護衛を務めている隊長さんは誰ですか?もし知っている方なら、是非とも挨拶をしておきたいのですが・・・」
ピンポイントで欲しい名前を聞き出そうとするケヴィン。顔見知りで教団の護衛隊にも通じる彼を信用してのことだろうか。ジークベルトは今回のアルバへの遠征に連れてきた護衛隊を指揮する人物の名前を口にした。
「オイゲンだよ。騎士団最強の盾とも名高い“オイゲン・フォン・エーレンフリート“だ」
シンはジークベルトの口から発せられたその名をすぐに記憶し、メモに残した。といっても、紙も書くものも持ち合わせていなかったシンは、針で自身の指を刺し、血で衣類にその名を刻んだ。
「オイゲン氏でしたか。なるほど、それで“守護神の加護“という訳ですか。納得です。彼ほどの人物であれば貴方が安心しきっているのも頷ける。彼は今どこに?」
「教会の奥の部屋だ。そこでアルバの現状について調べている」
「ありがとうございます。“おかげで助かりました“。久々に彼の顔が見れると思うと楽しみです。では私はこれで・・・」
この場で最もお礼を述べたかったのは、間違いなく護衛隊の隊長の名前を探りに来ていたシンだった事だろう。まだその名がルーカスの依頼に必要な名であるのかは確定していないが、大司教自らが口にしたのだから可能性としては限りなく正解に近いだろう。
早速仲間達の元へ戻るため、シンは教会の椅子の影から外へと脱出する。
0
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
────────
自筆です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる