World of Fantasia

神代 コウ

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音の都からの鳩

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 「おう!調査は順調かい?」

 席に戻った彼女はウェイターに皿を置くよう指示すると、チップを渡して下がらせる。シンがテーブルの一角を占領していた資料をまとめて端に寄せると、なんと意外な事にミアは料理を小皿に盛り付け、シンとケヴィンの分を取り分けたのだ。

 「えっ!?くれるの?」

 「ん」

 「ありがとうございます、レディミア。その心遣いに感謝します。丁度一仕事終えてお腹も空いてきましたし、少し休憩でもしますか」

 調査はいいのかとミアが尋ねると、ケヴィンは食べながらでも耳と目は動かせるといい、手を上げてウェイターを呼ぶと、再び最初にミアに振る舞ったワインに似た野菜ジュースを注文した。

 「シンさんは何か飲みますか?」

 「それじゃぁ同じものを・・・」

 ミアのグラスには既に別の飲み物が注がれている。今度こそミアの好きな酒が注がれているのだろう。色合い的にはワインのようにも見える。先程飲み損ねた事を覚えていたのか。

 「ぇえ!?シンもあれを飲むのかぁ?」

 「何があるのか分からないし、面倒だから彼と同じのでいいかなって・・・」

 「あんまり甘くみて掛かるなよ?あれ・・・結構くるからな」

 彼女が注意を促してくるほどの物に、シンは思わず固唾を飲んだ。全然身構えるような物じゃないと笑顔で語るケヴィンの表情が、彼の読めぬ心理をより強調させる。

 シンはケヴィンから教わった映像と音声の切り替え方をミアに教え、VIPルームの盗聴を共有する。耳障りだなと愚痴をこぼしながらも、ミアは音声を切り替え二人と同じようにジークベルトの会話を聞き始めた。

 これまでの会話の流れから、恐らく語られるであろう内容を大まかにミアに説明するシン。今のところシン達が望むような教団の話題は出てこない。そして彼女もシンと同じく、とりあえず聞き流しておくかという結論に至り、そのまま食事を再開した。

 三人はミアの持ってきた料理を堪能しながら聞こえてくる音声に耳を傾ける。すると、一通り挨拶回りが終わったのか、ジークベルトは次にマティアス司祭の元へと向かったようだった。

 それに気づいたのは、彼の声が聞こえ始めたからだった。聞き覚えのある声が何かを求めるようにジークベルトへ話しかけた事により、三人の手は一瞬だけ止まった。

 「大司教様、一体何故このような事になったのか詳しく聞かせて頂けませんか?」

 マティアス司祭の声だと分かった途端に、シンとミアは黙って視線を合わせる。教団の者同士の会話であれば、その話題に教団の事が挙がる可能性は高い。チラリとシンがケヴィンの方を見てみると、どうやら彼も話題が切り替わるのを察したようで、食器をテーブルに置くとグラスに注がれた飲み物を口にしながら、視線が一箇所を見つめ固定化されていた。

 二人の会話に集中したいのだろう。シンとミアは彼に声をかける事はせず、一緒に二人の会話へと意識を集中させた。

 「上からの指示だと、言ったはずだろ?マティアス君」

 「それでは説明になっていません!」

 「・・・そうか、そうだね。君には話しておいてもいいかもしれない。少し場所を変えようか」

 すると二人は、無言のまま何処かへと移動を開始したようだ。シンはカメラを切り替えVIPルームの全体像を確認する。どうやら二人は、人の少ない部屋の端へと向かったようで、近くに立っていた護衛に人払いをするように指示すると、二人の座った席の周りから人気が遠退く。

 「何故人を?」

 「察したまえ。あまり公にできぬ話だ」

 「公にできない話・・・?」

 「正直、今回私がアルバへやって来たのは偶然が重なった事による要因が大きい。元々別の用事があったのだが、忙しくて中々向かう機会がなかったのだが、どうやら教団の本部の方へアルバから“鳩“が来ていたようなんだ」

 ジークベルトが人払いをしてまで彼に話したということは、その鳩というのは文字通りの鳥のことではなく、密書などを秘密裏にやりとりする為に使う何らかの手段の事だろう。

 秘密裏に教団の本部に密書を送っていた者がいたことを聞いて、マティアス司祭は驚いた様子を見せる。司祭という立場にある彼ですら、その事には気づいていなかったようだ。

 すぐに何者が送っていたのかと問うマティアスだったが、教団の方からその人物についた明かされることはなかったようで、ジークベルト自身も誰がどのような内容で教団本部とやりとりをしていたのかまでは知らされていなかったと語る。

 「恐らくその一件で、数人の大司教の立場にある者達に左遷の話が持ちかけられたと私は思っている。大したメリットもない要件だったが故に断る者も多かったが、私の用事と重なることもあり、丁度時間の欲しかった私はその依頼を受けることで、仕事を他の者に任せアルバへやって来ることができた」

 「しかし、それではフェリクス氏の降板と一体何の関係が・・・」

 「フェリクス君が多方面から必要とされている才能を持っているのもあるが、代役を務めるアルミン君というのは、教団の本部とも深い関わりがある人物でね。簡単にいうと諜報員として配置されるのではないかと私は考えている」

 「ちょ・・・諜報員?私もルーカス氏も、本部への報告は怠っていません。それなのに何故そのようなものを・・・」

 「アルバから送られていたという“鳩“に何か関係があるのだろう。それ以上は私も分からない。上からの依頼を受けてから聞かされた事だが、この一件が上手くいった際には、私にも“乗船券“が与えられる。何としてもこの依頼は果たさなければならない・・・」

 乗船という今までの会話からは一見関係のない単語が、ジークベルトの口から語られる。恐らく何らかの隠語なのだろうが、それを聞かされたマティアス司祭も聞きなれない言葉の数々に困惑している様子だった。
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