1,234 / 1,646
音の都からの鳩
しおりを挟む
「おう!調査は順調かい?」
席に戻った彼女はウェイターに皿を置くよう指示すると、チップを渡して下がらせる。シンがテーブルの一角を占領していた資料をまとめて端に寄せると、なんと意外な事にミアは料理を小皿に盛り付け、シンとケヴィンの分を取り分けたのだ。
「えっ!?くれるの?」
「ん」
「ありがとうございます、レディミア。その心遣いに感謝します。丁度一仕事終えてお腹も空いてきましたし、少し休憩でもしますか」
調査はいいのかとミアが尋ねると、ケヴィンは食べながらでも耳と目は動かせるといい、手を上げてウェイターを呼ぶと、再び最初にミアに振る舞ったワインに似た野菜ジュースを注文した。
「シンさんは何か飲みますか?」
「それじゃぁ同じものを・・・」
ミアのグラスには既に別の飲み物が注がれている。今度こそミアの好きな酒が注がれているのだろう。色合い的にはワインのようにも見える。先程飲み損ねた事を覚えていたのか。
「ぇえ!?シンもあれを飲むのかぁ?」
「何があるのか分からないし、面倒だから彼と同じのでいいかなって・・・」
「あんまり甘くみて掛かるなよ?あれ・・・結構くるからな」
彼女が注意を促してくるほどの物に、シンは思わず固唾を飲んだ。全然身構えるような物じゃないと笑顔で語るケヴィンの表情が、彼の読めぬ心理をより強調させる。
シンはケヴィンから教わった映像と音声の切り替え方をミアに教え、VIPルームの盗聴を共有する。耳障りだなと愚痴をこぼしながらも、ミアは音声を切り替え二人と同じようにジークベルトの会話を聞き始めた。
これまでの会話の流れから、恐らく語られるであろう内容を大まかにミアに説明するシン。今のところシン達が望むような教団の話題は出てこない。そして彼女もシンと同じく、とりあえず聞き流しておくかという結論に至り、そのまま食事を再開した。
三人はミアの持ってきた料理を堪能しながら聞こえてくる音声に耳を傾ける。すると、一通り挨拶回りが終わったのか、ジークベルトは次にマティアス司祭の元へと向かったようだった。
それに気づいたのは、彼の声が聞こえ始めたからだった。聞き覚えのある声が何かを求めるようにジークベルトへ話しかけた事により、三人の手は一瞬だけ止まった。
「大司教様、一体何故このような事になったのか詳しく聞かせて頂けませんか?」
マティアス司祭の声だと分かった途端に、シンとミアは黙って視線を合わせる。教団の者同士の会話であれば、その話題に教団の事が挙がる可能性は高い。チラリとシンがケヴィンの方を見てみると、どうやら彼も話題が切り替わるのを察したようで、食器をテーブルに置くとグラスに注がれた飲み物を口にしながら、視線が一箇所を見つめ固定化されていた。
二人の会話に集中したいのだろう。シンとミアは彼に声をかける事はせず、一緒に二人の会話へと意識を集中させた。
「上からの指示だと、言ったはずだろ?マティアス君」
「それでは説明になっていません!」
「・・・そうか、そうだね。君には話しておいてもいいかもしれない。少し場所を変えようか」
すると二人は、無言のまま何処かへと移動を開始したようだ。シンはカメラを切り替えVIPルームの全体像を確認する。どうやら二人は、人の少ない部屋の端へと向かったようで、近くに立っていた護衛に人払いをするように指示すると、二人の座った席の周りから人気が遠退く。
「何故人を?」
「察したまえ。あまり公にできぬ話だ」
「公にできない話・・・?」
「正直、今回私がアルバへやって来たのは偶然が重なった事による要因が大きい。元々別の用事があったのだが、忙しくて中々向かう機会がなかったのだが、どうやら教団の本部の方へアルバから“鳩“が来ていたようなんだ」
ジークベルトが人払いをしてまで彼に話したということは、その鳩というのは文字通りの鳥のことではなく、密書などを秘密裏にやりとりする為に使う何らかの手段の事だろう。
秘密裏に教団の本部に密書を送っていた者がいたことを聞いて、マティアス司祭は驚いた様子を見せる。司祭という立場にある彼ですら、その事には気づいていなかったようだ。
すぐに何者が送っていたのかと問うマティアスだったが、教団の方からその人物についた明かされることはなかったようで、ジークベルト自身も誰がどのような内容で教団本部とやりとりをしていたのかまでは知らされていなかったと語る。
「恐らくその一件で、数人の大司教の立場にある者達に左遷の話が持ちかけられたと私は思っている。大したメリットもない要件だったが故に断る者も多かったが、私の用事と重なることもあり、丁度時間の欲しかった私はその依頼を受けることで、仕事を他の者に任せアルバへやって来ることができた」
「しかし、それではフェリクス氏の降板と一体何の関係が・・・」
「フェリクス君が多方面から必要とされている才能を持っているのもあるが、代役を務めるアルミン君というのは、教団の本部とも深い関わりがある人物でね。簡単にいうと諜報員として配置されるのではないかと私は考えている」
「ちょ・・・諜報員?私もルーカス氏も、本部への報告は怠っていません。それなのに何故そのようなものを・・・」
「アルバから送られていたという“鳩“に何か関係があるのだろう。それ以上は私も分からない。上からの依頼を受けてから聞かされた事だが、この一件が上手くいった際には、私にも“乗船券“が与えられる。何としてもこの依頼は果たさなければならない・・・」
乗船という今までの会話からは一見関係のない単語が、ジークベルトの口から語られる。恐らく何らかの隠語なのだろうが、それを聞かされたマティアス司祭も聞きなれない言葉の数々に困惑している様子だった。
席に戻った彼女はウェイターに皿を置くよう指示すると、チップを渡して下がらせる。シンがテーブルの一角を占領していた資料をまとめて端に寄せると、なんと意外な事にミアは料理を小皿に盛り付け、シンとケヴィンの分を取り分けたのだ。
「えっ!?くれるの?」
「ん」
「ありがとうございます、レディミア。その心遣いに感謝します。丁度一仕事終えてお腹も空いてきましたし、少し休憩でもしますか」
調査はいいのかとミアが尋ねると、ケヴィンは食べながらでも耳と目は動かせるといい、手を上げてウェイターを呼ぶと、再び最初にミアに振る舞ったワインに似た野菜ジュースを注文した。
「シンさんは何か飲みますか?」
「それじゃぁ同じものを・・・」
ミアのグラスには既に別の飲み物が注がれている。今度こそミアの好きな酒が注がれているのだろう。色合い的にはワインのようにも見える。先程飲み損ねた事を覚えていたのか。
「ぇえ!?シンもあれを飲むのかぁ?」
「何があるのか分からないし、面倒だから彼と同じのでいいかなって・・・」
「あんまり甘くみて掛かるなよ?あれ・・・結構くるからな」
彼女が注意を促してくるほどの物に、シンは思わず固唾を飲んだ。全然身構えるような物じゃないと笑顔で語るケヴィンの表情が、彼の読めぬ心理をより強調させる。
シンはケヴィンから教わった映像と音声の切り替え方をミアに教え、VIPルームの盗聴を共有する。耳障りだなと愚痴をこぼしながらも、ミアは音声を切り替え二人と同じようにジークベルトの会話を聞き始めた。
これまでの会話の流れから、恐らく語られるであろう内容を大まかにミアに説明するシン。今のところシン達が望むような教団の話題は出てこない。そして彼女もシンと同じく、とりあえず聞き流しておくかという結論に至り、そのまま食事を再開した。
三人はミアの持ってきた料理を堪能しながら聞こえてくる音声に耳を傾ける。すると、一通り挨拶回りが終わったのか、ジークベルトは次にマティアス司祭の元へと向かったようだった。
それに気づいたのは、彼の声が聞こえ始めたからだった。聞き覚えのある声が何かを求めるようにジークベルトへ話しかけた事により、三人の手は一瞬だけ止まった。
「大司教様、一体何故このような事になったのか詳しく聞かせて頂けませんか?」
マティアス司祭の声だと分かった途端に、シンとミアは黙って視線を合わせる。教団の者同士の会話であれば、その話題に教団の事が挙がる可能性は高い。チラリとシンがケヴィンの方を見てみると、どうやら彼も話題が切り替わるのを察したようで、食器をテーブルに置くとグラスに注がれた飲み物を口にしながら、視線が一箇所を見つめ固定化されていた。
二人の会話に集中したいのだろう。シンとミアは彼に声をかける事はせず、一緒に二人の会話へと意識を集中させた。
「上からの指示だと、言ったはずだろ?マティアス君」
「それでは説明になっていません!」
「・・・そうか、そうだね。君には話しておいてもいいかもしれない。少し場所を変えようか」
すると二人は、無言のまま何処かへと移動を開始したようだ。シンはカメラを切り替えVIPルームの全体像を確認する。どうやら二人は、人の少ない部屋の端へと向かったようで、近くに立っていた護衛に人払いをするように指示すると、二人の座った席の周りから人気が遠退く。
「何故人を?」
「察したまえ。あまり公にできぬ話だ」
「公にできない話・・・?」
「正直、今回私がアルバへやって来たのは偶然が重なった事による要因が大きい。元々別の用事があったのだが、忙しくて中々向かう機会がなかったのだが、どうやら教団の本部の方へアルバから“鳩“が来ていたようなんだ」
ジークベルトが人払いをしてまで彼に話したということは、その鳩というのは文字通りの鳥のことではなく、密書などを秘密裏にやりとりする為に使う何らかの手段の事だろう。
秘密裏に教団の本部に密書を送っていた者がいたことを聞いて、マティアス司祭は驚いた様子を見せる。司祭という立場にある彼ですら、その事には気づいていなかったようだ。
すぐに何者が送っていたのかと問うマティアスだったが、教団の方からその人物についた明かされることはなかったようで、ジークベルト自身も誰がどのような内容で教団本部とやりとりをしていたのかまでは知らされていなかったと語る。
「恐らくその一件で、数人の大司教の立場にある者達に左遷の話が持ちかけられたと私は思っている。大したメリットもない要件だったが故に断る者も多かったが、私の用事と重なることもあり、丁度時間の欲しかった私はその依頼を受けることで、仕事を他の者に任せアルバへやって来ることができた」
「しかし、それではフェリクス氏の降板と一体何の関係が・・・」
「フェリクス君が多方面から必要とされている才能を持っているのもあるが、代役を務めるアルミン君というのは、教団の本部とも深い関わりがある人物でね。簡単にいうと諜報員として配置されるのではないかと私は考えている」
「ちょ・・・諜報員?私もルーカス氏も、本部への報告は怠っていません。それなのに何故そのようなものを・・・」
「アルバから送られていたという“鳩“に何か関係があるのだろう。それ以上は私も分からない。上からの依頼を受けてから聞かされた事だが、この一件が上手くいった際には、私にも“乗船券“が与えられる。何としてもこの依頼は果たさなければならない・・・」
乗船という今までの会話からは一見関係のない単語が、ジークベルトの口から語られる。恐らく何らかの隠語なのだろうが、それを聞かされたマティアス司祭も聞きなれない言葉の数々に困惑している様子だった。
0
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
────────
自筆です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる