World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
1,303 / 1,646

優先したもの

しおりを挟む
 「お前達じゃ表立って行動できねぇだろ。学校の優等生が、それも大層な家柄の奴らがこんな揉め事に首を突っ込んだらどうなるか。俺にだって想像がつくぜ」

 「だがカルロス!お前だって“オルブライト家“の名に傷がつくことになるかもしれないんだぞ!?」

 カルロスの家系もジルやレオンと同じく、アルバの中でも名家の内の一つ。ただ彼らと違い、カルロスの家庭は兄弟が多い。カルロスはそんなオルブライト家の末っ子として誕生した。

 二人の兄は、それぞれカルロスと同じ音楽学校を卒業し、今では別の国や街で音楽家としての活動をしている。優秀だった兄らに比べ、それなりの成績は収めていたもののジルやレオン、その他にも数名の実力者達と同級生になってしまったのが彼の運のつきだった。

 才能自体は決して無い訳ではなかったが、やはり他のライバル達と比べてしまうと見劣り部分がいくつかある。初めはそれを父親に厳しく叱られたが、兄らの活躍により次第にカルロスを構う機会がなくなっていき、今ではすっかり相手にされなくなってしまった。

 謂わばカルロスは、オルブライト家の落ちこぼれとして生まれたのだ。故に学校で同じ思いをしているクリスに親近感を覚えていたのだが、一つ彼の気に入らない部分があり、それがマティアス司祭に媚びを売るように手伝いをしている姿だった。

 「俺は・・・もういいんだよ。どうせ期待なんてされてねぇし・・・。親父もこんな出来損ないとは、縁を切りたいとでも思ってんだろうしな」

 彼の自虐的な言葉は、ジルやレオンの心にも刺さるものがった。もし自分が評価を受けない子供だったらどうなっていたのだろうか。自分に音楽の才能がなくても愛してくれただろうか。

 実力や能力を評価されてきた者達にとって、それ以外の部分というものが一体何の役に立つのだろう。音楽家を目指す者が聴力に障害をきたすという話も珍しいことでは無い。

 音楽家に限ったことではない。その道で活躍する者達にとって重要となる要素に支障があれば、今までそれに頼ってきた者は何に縋ればいいのか。そんな事を一度も考えなかった訳ではない。

 だからだろうか。他者との関わりを極力嫌い、周りのものを見ないようにして、自分の道をただひたすらに走り抜けてきたジルやレオンは、唐突にフェリクスやカタリナ、そして同級生であるカルロスらの事情を聞かされた事により、将来への不安や今後の未来のビジョンというものに霧が掛かり始めてしまったかのような感情に陥っていた。

 「人は人、自分は自分・・・だろ?お前らはそれでいい。それを間違ってるなんて俺は言わねぇし、気にもしてねぇよ。だから止めるなよ・・・俺を憐れむな・・・」

 そんな言葉を残し、カルロスは二人の元を去り、教会から出て行った。恐らく彼はこのまま宮殿へと向かい、警備隊と一悶着起こすつもりなのだろう。そして二人から聞いた大司教の事件をネタに、宮殿内に潜り込むことになるかもしれない。

 カルロスに言い放たれた言葉に言葉を失ったジルとレオンは、暫くの間無言で教会の椅子に座る続けていた。

 結局その日はジルもレオンも、音楽学校の方には顔を出さなかった。式典の勅語ということもあり、数日は学校の方も自由登校という形になっていた。成績が優秀な者ほど、こういった時に独自の練習や師匠と仰ぐ音楽家の元へ行ったりと自由に過ごすものだが、この時の二人はフェリクスやカタリナの事が気掛かりで、とても音楽には集中できなかった。

 「俺・・・そろそろ帰るよ。カルロスの言ってた事、間違ってない・・・。俺にはあそこまでの行動力はなかった。恩人の身よりも、自分を選んだんだ・・・」

 「私もそう・・・。わざわざ私の事を気に掛けてくれて、アドバイスまでもらったのに、それでも今の自分を変えるのが少し・・・怖い・・・」

 「すぐにどうこうなる事はないだろう。今日のところは家に帰って休もうぜ。ついでにこの辛気臭さもどうにかしないとな・・・」

 どれだけの時間を教会で過ごしたのだろうか。二人には僅かな時間のように感じたが、目に入る景色はそれなりに時間の経過を感じさせる。傷心した心に染みるような歌声と楽器の音を聞きながら、レオンが先に夕暮れの教会を去り、暫くしてジルも自宅へと向かった。

 帰り際に宮殿の前を通ったレオンは、チラリと敷地内の方を覗き見るように視線を送る。カルロスが向かったはずだが、警備隊の様子は以前の様子と全く変わらず、騒ぎになっていた様子も見受けられない。

 徹底して大司教の件を隠そうとしていたのだ。一人の人間が抗議にやってきたところで、何事もなかったかのように済ませることなど造作もないのだろう。

 結局、我が身可愛さに行動できなかった者達には、結果を待つしかないのだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。  ─── からの~数年後 ──── 俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。  ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。 「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」  そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か? まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。  この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。  多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。  普通は……。 異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話。ここに開幕! ● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。 ● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

処理中です...