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神代 コウ

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事件と騒動

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 ベルヘルムの死の報告がシン達の部屋に届けられて間も無く、近くの部屋で大きな物音と共に言い争う声が廊下に響き渡る。宿泊していた者達は、その声を聞いてすぐに誰が暴れているのか想像がついた。

 これまでも幾度となく警備隊や教団の護衛らと口論を繰り広げてきた、ブルース・ワルターの護衛バルトロメオだ。

 だがいつもの口論と違ったのは、他にも捜査に進展のない時間を過ごしていた警備隊や教団にうんざりしていた者達が声を上げたのだ。特に今回、主人の側にいながら犯人によってその主人を殺害されてしまったベルヘルムの護衛らだった。

 「お前らが部屋にいろと指図してきたからだぞ!だからベルヘルム卿は最期までお前らの指示に従ったんだ!僕はもうお前らが犯行の手助けをしているとしか思わないッ!!」

 ベルヘルムの部屋の前で騒いでいたのは、彼の護衛であるドミニクという青年だった。以前、ベルヘルムの部屋を訪れた際に、教団の護衛と共に部屋の前でミア達と会話をしていた人物の一人である。

 少しいい加減な様子もあったが、ベルヘルムに対する忠誠や尊敬といった感情は確かなものだったらしい。

 そして彼の側にはもう一人、執事のように立派なスーツに身を包んだ初老の男が立っていた。彼については、シンとケヴィンがベルヘルムと対談をしていた場面で共に同じ部屋で話を聞いていた人物だったらしく、その風貌から護衛というよりも宮殿側の使用人と勘違いしてしまうほど、風景に溶け込んでいたことでシンの印象には残っていなかった。

 「失礼ながら、私もドミニクの意見には賛成です。主人を守りきれなかった事に関しては私の不徳であるのは認めます。しかし、この状況を作り上げていたのは他ならぬ貴方達だ。しっかり落とし前はつけて頂きたい」

 「“オルヴェル“さんの言う通りだ。僕達もただ殺されてしまいましたじゃ帰れない・・・。この事は教団本部に報告させてもらう」

 「・・・できる限りのことは尽くします。まずは遺体の捜査を・・・」

 警備隊と教団側の護衛達は彼らの言い分を聞いたと、遺体の調査を行いたいと申し出るも、部屋の中へ歩みを進めようとしたところをドミニクが眼前に立ち塞がる。

 「いらないんだよ、そんなの。それとも、何か処分しなきゃならないものでも?」

 挑発を繰り返し、立ち入りを拒否するベルヘルムの護衛達。調査は任せられない。それどころか遺体を引き渡したら、大切な証拠をもみ消されかねないと、ベルヘルムの遺体は自分達で保管し、現場への立ち入りすら断っていた。

 すると、別の部屋の前でもその様子を見ていた者達がいた。それが例のバルトロメオだったのだ。

 「へ!テメェらを不甲斐ねぇと思ってんのは、俺達だけじゃねぇみてぇだなぁ!これで決定だ。もうテメェらの指示に従う義理はねぇ!何せ、テメェらの方が俺らより怪しいんだからなぁ」

 バルトロメオは教団の護衛を突き飛ばし、これ以上宮殿に留まる必要はないと暴れ出したのだ。大人しくできないのなら実力行使に出るしかないと、教団側も抗戦する姿勢を見せると、バルトロメオは嬉しそうな表情を浮かべて臨むところだと一触即発の空気になる。

 周りにいた警備隊や教団の護衛も集まりだし、一気に険悪なムードに包まれる中、騒ぎに耳を立てていたケヴィンが話をしてくると部屋を飛び出していってしまう。慌ててその様子を見に行ったシンは、部屋の扉を開けると廊下にいるはずの警備の者達がいなくなっていた。

 部屋から身を乗り出し、左右へ首を振ったシンは廊下を確認すると、騒ぎに集まる人だかりを目にする。それを掻き分けるように中へ入っていくケヴィン。様子を見に後を追おうとするも、ミアにその腕を掴まれる。

 「よせ、シン」

 「けどケヴィンが・・・」

 「奴は奴だ。アタシらは関わらず、このまま様子を見た方が身の為だ」

 「身の為って・・・どう言う事だよ?」

 「相手は得体のしれない組織。それもバックにはあのキングの組織すら手が出せないっていうアークシティの連中が関与してるんだ。下手に刺激して教団も目に留まれば、今度こそ本当に命を狙われ兼ねない」

 ミアはシンよりもずっと冷静で周りが見えていた。とても昨晩、晩酌をしていた者とは思えないアドバイスに、シンも返す言葉がなかった。

 もし自分達だけが狙われるのなら、百歩譲っても自分達の責任だと割り切れるが、今はツバキやアカリもいる。何よりもシンは一度、仲間達に内緒でケヴィンと共に宮殿内への潜入という、危険な行為をしてしまっている。

 その事もあり、シンは彼女の言葉に従い今回は大人しくその様子を見ているだけに留めた。だがこれだけ多くの人間を集めるくらいの挑発行為を行ったバルトロメオが大人しく引き下がるのだろうか。

 警備隊と教団の護衛はすっかりブルースとベルヘルムの部屋の前に人員を割かれていた。しかし、他の宿泊している音楽家や護衛達も、騒ぎの様子を部屋から眺めるだけで誰も今のうちに逃げ出そうとはしていなかった。

 そしてアンドレイの陣営からは、シアラとアンドレイ自ら騒ぎの様子を眺めており、シン達に気が付くと笑顔で手を振るなど余裕が伺えた。バルトロメオの騒ぎを目の当たりにし、周りの野次馬達の視線に気が付いたのか、ベルヘルム陣営は頭を冷やし何やら教団の護衛らと会話を始めると、暫くして彼らを部屋の中へ招き入れた。

 恐らく何かしらの条件をつけて、調査に協力する運びとなったのだろう。騒ぎの発端となった事件は、漸く落ち着きを取り戻し、事件の解決へと動き始めたようだが、飛び火した火種の方は未だ鎮火する様子はない。
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