World of Fantasia

レンズに写ったノイズ

　次にこのような機会が訪れるとは限らない。故に出来る時に最善を尽くすのが、今後の彼らの行動においても重要となるだろう。黙っていると眠気にやられそうになるようで、何とか言葉を捻り出そうと思考を働かせていると、映像を確認していたケヴィンがベルヘルムの部屋の通気口に仕掛けたカメラから何かを発見した。

　「ん？」

　「どうしたんだ、ケヴィン？」

　「何でしょう・・・見間違いではないと思うんですが・・・」

　どうも歯切れの悪い返事をするケヴィンに、彼の返事を待つよりも自分で映像を覗き込んだ方が早いと判断したシンは、彼の持つタブレットの映像を確認した。

　sしかし、そこには彼が疑問を抱くような異変は見当たらなかった。その上、ベルヘルムの部屋の通気口に仕掛けたということで、てっきりベルヘルムの部屋を監視する映像なのかと思っていたシンだったが、そこにあった映像は宮殿の廊下を映したものだったのだ。

　「何だこれ？ベルヘルムの部屋を映していたんじゃなかったのか？」

　「通気口ですからね。彼の部屋と繋がる別の場所にも移動させられるんですけど、部屋の前の廊下を映しに行ってみたら・・・ほら！」

　そう言ってケヴィンが指を刺して見せたのは、廊下に小さく映像の乱れのような現象が起きている映像だったのだ。カメラの不具合ではないかと問うと、ケヴィンはそれはないとすぐに答えた。

　「カメラのレンズ部分は強化ガラスによって守られています。それこそ意図的に傷つけようとしない限り、このような映像にはならないと思いますが・・・。それにそのノイズのようなもの、暫くすると消えて別の場所へと移動しているんです」

　ケヴィンに言われ注意深く確認してみると、確かに彼の言う通り消えたり現れたしている。それなら一体そのノイズは何なのかとケヴィンに聞くと、どうやらそれはサウンドサーチャーが拾っている音の波長だったようだ。

　「音？」

　「はい。音とは本来物がぶつかったり擦れたりする事によって生じる空気の震え。所謂“振動“です。それをこのカメラは人間の目にも見えるように可視化しているのです」

　「音を可視化・・・」

　「でも、音なら他のも聞こえるけど。それは可視化されないの？」

　話を聞いていて興味を持ったのか、いつの間にかツクヨもその映像を覗き込んでいた。彼のいう通り、音を可視化させているのなら、他にも多くの音がその映像からも確認できる。

　しかし、その振動を可視化させているのは、僅かに検知しているそのノイズのようなものだけだったのだ。

　「これは一部を抜粋させて表示しているに過ぎません。全ての振動を可視化させるとなれば、あちこちから振動を拾ってしまいどれがどの反応かわからなくなっちゃいますよ。このカメラには指向性のマイクが搭載されていて、ある程度向きと方向を限定して、その音の発信源を突き止めることができます」

　ケヴィンはそのカメラに搭載されたマイクを操作して、通気口の中から宮殿の廊下の音を調べていた最中だったことを彼らに説明する。だが、そのノイズのような反応は他に類を見ない反応だったようで、気になって調べていたところ、どうにも不自然であることを突き止めたらしい。

　「とても小さな反応ですが、他にこんな反応はありませんでした。強いていうなら、この街特有の音のシャボン玉の反応に似ているかもしれません」

　「ずっと気になっていたんだが、あれは一体どういう仕組みで発生しているんだ？ここの街ではまるで名物のようになっているようだが・・・」

　「厳密には理由は分かっていないようですが、どうやらあれは微量な魔力によって音を運んでいるものだそうです。確かにシャボン玉からは微量の魔力反応も検知できますが、この量だとスキルによる検知は非常に難しいでしょうね・・・」

　「ならそのノイズも魔力を帯びているのでは？」

　似ている反応ともなれば、その結論に至るのも自然なことだろう。勿論ケヴィンもそのノイズの反応について調べてみたようだが、魔力の反応は検知されなかったらしい。

　単に機材やスキルの熟練度の影響もあるかもしれないと、宮殿内にあるシャボン玉を試しに調べてみたところ、そちらは僅かに魔力の反応を拾えたらしい。

　要するにそのノイズからは魔力の反応は出てこず、アルバのシャボン玉とは別物なのではないかという方向で考えを進めていたらしい。

　「魔力検知にも引っかからず、肉眼では見ることさえ出来ない・・・。まるで今起きている事件の犯行そのもののようだな」

　ケヴィンとの会話で何気なく感じたことを口にしたシン。だがその言葉を聞いた瞬間、ケヴィンの目はゆっくりと見開き、何かを閃いたような反応を示した。

　「そうか・・・！これが犯行の手口だったのかッ！」

　「？」

　突如声を挙げるケヴィンに、シンとツクヨは彼がどんな手掛かりを掴んだのか。どんな犯行手口を想像しているのか全く検討もつかなかった。