World of Fantasia

神代 コウ

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力の暴走、影からの演奏

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 多少なりとも知性を携えたその男は一度動きを止めると、再び演奏の動きを取る。当然、これまで通りなら何も起こらない筈だった。だが何を仕込んだのか、聞こえる筈のない音が何処からともなく聞こえてくる。

「音が・・・消しきれない程のものなのか?」

 全身を影で覆い尽くされた男の演奏は、教会の時と同じようにシンの身体に変化をもたらす。しかしあの時と違うのは、シンの身体自体にその変化が訪れた訳ではなく、その能力に変化があったのだ。

 ヴァイオリンの男を包んでいた影は膨れ上がり、その周辺を飲み込むような黒い球体へと変化する。力は暴走するようにどんどんと膨れ上がり、辺りに散らばる椅子や机を飲み込みながら膨張していく。

 それは同時にシンの魔力を消費させる事に繋がる。

「なッ何だ!?勝手に力が・・・」

 影の力はシンの元を離れ暴走し、やがて術者であるシンですら飲み込んでいく。自身の影に飲みこまれるという不思議な体験をしたシンは、その影の中で目を開けるとヴァイオリンの男が真っ暗闇の中で演奏を続けていた。

「曲が違う・・・別の曲か?これが力の暴走の原因!」

 影に飲み込まれた二人は、真っ暗な空間の中で互いの場所が見えぬまま戦い始める。音の聞こえる方を頼りにシンが短剣を投擲する。演奏に多少のノイズが走ることで、シンの攻撃が命中したことが分かる。

 だがシンは大量の魔力を放出し続けると同時に、演奏による身体の暴走もこの空間では消し去ることが出来ない。否、出来ないというよりもシンが同じ空間に飲み込まれた事により、音の能力が外に漏れる事なく中に篭っている状態なのだ。

 距離を詰めようとするシンだったが、ここで教会の時と同じように身体の超強化が施されており、少し前に進んだつもりがヴァイオリンの男を通り過ぎ、扱えぬほどの力に振り回され転んでしまう。

「ぐッ・・・!そんなッ、音は封じた筈なのにどうして・・・」

 身体から力が抜けていくシンは、既に立ち上がる力すら無くなっていた。影のスキルを解除しようとしても、影の空間が不安定になるだけだけで元の家屋に戻る事すら出来なかった。

「一杯食わされたって訳か・・・。防音室を用意してやったっていうのに、自分にだけ聞こえる音を自分の為だけに使ったって訳か・・・」

 音はヴァイオリンの男の能力を引き上げ、シンの抑えたスキルでは消し切れない音量を実現し、漏れ出し演奏を聞いたシンの身体は暴走してしまった。自身で制御出来ないほどのパワーアップを施す演奏は、敵にだけではなく自分にも掛けられるという事だ。

 力を使い果たしてしまったシンはその場に倒れ、二人とその周辺を覆っていた影のスキルも徐々に解除されていく。朦朧とする意識の中、シンはヴァイオリンの男の方を見る。

 男はシンへの鎮魂歌と言わんばかりに音楽を奏でる。秘策を携えて挑んだシンだったが、ケヴィンの言う通り彼らが知り得る敵の情報は、まだ少なかったのだ。

 一方、家屋の外で逃げ道を作ろうと奮闘していたミアとケヴィンもまた、倒しても倒しても数の減らない無数の謎の人物達を相手に、一時的に物陰に姿を隠していた。

「流石にマズくなって来やがった・・・。それに何だ?消えてた音楽がまた・・・」

「シンさんの身に何かあったのでしょう」

「ケヴィン、今すぐあの家へ戻れ!」

「ここまで来ておいてですか!?」

「正直もう、アンタまで庇ってやれない状況でね・・・」

「ッ!?」

 ケヴィンが目にしたのは、ミアの身体に突き刺さるようにぶら下がる数本の腕だった。触れると体力を奪われる謎の人物の腕だけが、いつの間にかミアを捉えていたのだ。

「ミアさん!いつの間にッ!?」

「大したこたぁねぇよ・・・。それより早くシンの元へ!」

「・・・分かりました。恐らく我々はもう・・・」

 ミアは自身の身体に刺さる腕を握ると、力を込めて握り潰すと塵へと変える。最早彼女にこの場を切り抜けるだけの武力も魔力も、そして体力も残っていない。

 その上で戦えない者を守るなど、誰の目にも無謀である事は明らかだった。故にケヴィンも彼女の言葉の裏に込められた本当の意味を悟ったのか、余計な言葉は口にせずシンの元へと急いだ。

「どうかご無事で・・・」

「アンタもな。ありがとよケヴィン・・・」

 それぞれ建物の陰から飛び出し、それぞれの目的の為に動き出す。物音に誘われて周囲にいた謎の人物達がミアの元へと集まり始める。正面から向かってくる謎の人物の眉間に銃弾を撃ち込むミア。

 建物の壁を擦り抜け他の謎の人物達が腕を伸ばす。それを残された体力で可能な限り避けるミア。だが謎の人物の腕は地面からも彼女を捕らえんと現れた。

 地を蹴り飛び上がるも、宙を浮く謎の人物達は自在な動きで飛び回り、四方八方から彼女を取り囲むと、一斉に突撃を仕掛ける。彼らに繊細な作戦など必要ない。ただ対象に触れるだけと言う、何よりも単純な事こそが意思を持たぬ彼らの目的なのだから。
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