World of Fantasia

神代 コウ

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柔軟な発想

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 シンが危惧していた通り、ミアやツクヨのいる戦場に現れたバッハの血族達も、ベルンハルトと同じく例の楽譜を所持していた。今の彼らがそれを知る由もないが、奇しくも各々の戦場にてバッハの血族の霊魂達が楽譜を使用し始めたタイミングが重なっており、まるで連動でもしているかのように飛躍的に彼らの能力と性能を引き上げていた。

 場面は最も戦力の集まっている司令室へと戻ってくる。楽譜を取り出したベルンハルトの演奏は、それまでとは比較にならないほどの異常なバフ効果を周囲に撒き散らしていた。

「ねぇ・・・何か、息苦しくない・・・?」

「あっあぁ・・・何もしてないのに。何だか胸が苦しいような・・・」

 戦闘能力を持たない、音楽学校の生徒であるジルとカルロスにも、ベルンハルトの演奏の影響が現れ始めていた。だが演奏の効果が継続しているものだとしたら、この二人の反応には何か違和感がある。

「君達もこちらへ!オイゲン氏に守ってもらいましょう」

「ご期待に応えられるかは分からないが・・・全力を尽くすと約束しよう」

 ケヴィンもベルンハルトの演奏の影響を長く受けていたせいか、少しおぼつかない足取りで二人の元へと近づいていく。聡い彼は苦しそうにしている二人の様子を見て、すぐにその違和感に気がついた。

「彼の演奏の効果だね。人の身体っていうのは、何もしていなくてもエネルギーを消費するものなんだ。彼のあの演奏は、私達の身体にあるエネルギーをより多く消費させようとしてくる」

「あぁ?んー・・・何か分かりずらいっスね」

「要するに、強制的に疲労させられてるって事でしょ?何も難しくないじゃない・・・」

「じゃぁその余分に消費したエネルギーはどうなっちまってるんだよ?」

「それは戦える人とそうでない人で、仕様が違うみたいなんだ。オイゲン氏やあそこにいるシンという冒険家の人達は、軽く足を踏み出すつもりでも、身体は大きな一歩を踏み出してしまう。炎の魔法で蝋燭に火をつけようとすれば、たちまち大きな火炎を噴き出してしまう・・・」

 ケヴィンの言葉の意味を、ジルもカルロスもベルンハルトと前線で戦うバルトロメオの様子からも把握していた。だがそんな中でも、バルトロメオは次第にバフ効果を考慮した力のコントロールを身につけ始めていた。

 だがその話になると、一部の真実を知る人間以外はベルンハルトの演奏の中でも平然と動けているブルースに疑問を抱く。楽譜を取り出したベルンハルトの攻撃は更にその苛烈さを増し、本来の動きで動けるブルースを持ってしても、バルトロメオの援護無しには全ての攻撃を避けることは不可能となっていた。

 ツバキのガジェットを用いるシンも、ベルンハルトの側にまるで護衛のように現れる謎の人物達の糸を用いた連携に苦戦している様子。お得意の影のスキルは、ツバキやアカリ達を守る為の手段として決して無駄には出来ない。

 オイゲンも力の使い所を見極め、シン達の危ない場面を陰ながら何度も救っている。自身の身体を弦に変え、アクティブに動きながら攻防一体の戦闘を披露していた。

 しかし、彼らの戦いは素人目にも善戦しているとは言えなかった。

「じゃぁ俺達はただ、指を咥えて見てるしかねぇってのかよッ・・・!」

「そんな事言ったって、あの楽譜をどうにかする他に手なんて・・・ッ!」

 戦えない者に何もすることは出来ないという状況に手をこまねいていると、ジルは楽譜という点から自分達にしか出来ないとある提案をする。それは彼らにしか出来ないことであり、この状況においてジルの提案する作戦のような事を思いつく者もそうはいなかった。

「そうよ!私達には演奏があるわ!」

「演奏・・・?お前こんな時に何を呑気な・・・」

「違うわよ、バカ!」

「バッ・・・!?」

「楽譜よ。あれって私達にも演奏出来るんじゃない?」

「ッ!?」

 ジルの思わぬ発想にケヴィンも目を丸くして驚いた。確かにそれだけベルンハルトを強化する楽譜と演奏ならば、こちらがそれを利用してやるとどうなるのだろう。一歩間違えれば、ただバフの効果を乗算させるだけで、寧ろ自分達の首を絞める結果になり兼ねない。

 だが何もしないで、このまま体力の限界まで彼らの戦いを見ているだけよりかは、可能性を見出すことができる。しかし後にも先にも、問題になってくるのはその楽譜をどうやって覗くかというかだった。

 当然、戦えない彼らが渦中の中へと飛び込み、楽譜を奪ってくるなどというのは無謀だろう。そこで彼女の提案に現実味を帯びさせたのは、ケヴィンの持ち込んだカメラだった。

「これを使いましょう!」

「これは・・・?」
「カメラ?」

「そうです。宮殿の外の様子を見る為に街へ送り込んだのですが、謎の電波に妨害されてしまいましてね・・・」

「謎の電波・・・?」

「ですが、あそこの少年に直していただいていたのです。まさかこんなに早く出番が来るなんて、彼も思っても見なかったでしょうね」

 ケヴィンは司令室の中を見渡し、まだ生きているモニターを見つけると蜘蛛型のカメラと接続し、カメラの映像を共有させる。カメラはまるで本物の蜘蛛のようにキョロキョロと周囲を見渡す。

「やだ!気持ち悪ッ!」

「おいおいジル・・・。お前にはこの美しい形状が理解できねぇのかぁ?」

「出来ないわよ!だって虫よ!?」

「虫じゃねぇ!蜘蛛は節足動物っていう立派な“動物“何だよ」

「なんでそんな事に詳しいのよ・・・」

 ジルとカルロスが互いの感性を押し付け合っている間に、ケヴィンはカメラの準備を済ませる。動作の確認の際に気がついた事だが、どうやらツバキに修理を頼んだ時に、彼は故障の原因となった妨害電波に強い細工を施してくれていたようだった。
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