World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
1,460 / 1,646

静かなる脅威

しおりを挟む
 バルトロメオの大振りの一撃は、彼に避ける隙までは与えずとも、防衛手段を実行させるだけの間はあった。ベルンハルトはフラつきながらも謎の人物を二人側に召喚すると、左右に分かれさせその間に幾重にも重ねた糸を持たせて、さながらテニスのネットのようにバルトロメオの拳を受け止める準備を整えた。

「ハッ!無駄だぜそんな糸の束。焼き尽くす必要もなく、ぶち抜いてやるよぉッ!!」

 拳は風を纏って謎の人物の展開する糸の壁へと接触する。初めの方こそバルトロメオの生み出した腕の攻撃を受け止め、勢いを抑えているように見えたが、その間にも糸は次々に千切れ飛び弾けた糸には彼の青白い炎が引火し、跡形もなく消し去っていく。

 そして押し込むように体重を乗せたその拳は、遂に糸の壁を破壊しベルンハルトが伸ばす掌へと命中した。

「いった!」
「盾を貫いたぞ!」
「あれ程のパワー。あんな華奢な身体で受け止められるものではありません」

 一行の期待を一身に受け、バルトロメオの拳とベルンハルトの腕が触れようかという寸前のところで、激しい衝撃波を生み出し周囲へと広がっていく。司令室内に突風が巻き起こり、側にいた謎の人物達もまた吹き飛ばされて部屋の壁をすり抜けて姿を消していく。

「うッ・・・!どうなってる!?」
「すげぇ風で前が見えねぇよ・・・!」
「紅葉、おいで。吹き飛ばされちゃうよ・・・」

 アンドレイはシンとの約束通りアカリとツバキを支えて耐えてくれている。当然アンドレイは非戦闘員である為、生身の肉体でその突風を凌ぐには、大人であっても精一杯だった。それを支えていたのがガジェットを装備したツバキだった。

 だがその衝突の生み出した突風こそ、その場の流れを大きく変える結果を巻き起こす。

「うッ・・・!風で声が・・・!」

「マズイぞ、ケヴィンさん!ジルが・・・!」

「やむを得ません・・・!ジルさん!一時撤退です!これは一時的なもので長くは続きません。風が止み次第すぐに再開するとしましょう!」

「えっ・・・えぇ・・・!」

 バルトロメオとベルンハルトの衝突により、彼らの演奏の効果を打ち消していたジルの歌声が停止させられてしまったのだ。しかし突風の中で音が届けられないのは、ベルンハルト側にとっても同じこと。そう思っていた。

 ベルンハルトは、バルトロメオの召喚する腕を片手で受け止め、その間に受け止める自身の腕部分を鍵盤へと変化させ、あろうことかそのままの体勢で演奏を開始したのだ。

 その音は衝撃波の渦中にあったこともあり、風に乗って司令室全体へと瞬く間に広がっていく。激しい頭の痛みが一行を襲う。音の振動が鼓膜を揺らし、脳内に甲高い金属を擦り合わせるような音が響き渡る。

「クソッ・・・!んだよ、こんな時にぃッ!!」

 それはバルトロメオ自身にも見えていなかった。音の振動を間近に受けていた彼の背中に携えて逞しい六本の腕は、次々に崩れ去りベルンハルトに殴りかかった腕を除くとあと二本になってしまった。

 変化が起き始めたのはそれだけではない。周囲に飛んでいたシャボン玉が音の振動に流され、壁の方へと流される中、それに触れたブルースの身体にピリッとした衝撃が走る。

「・・・?」

 風やベルンハルトの演奏でかき消されているが、周囲に舞っているシャボン玉からも振動による衝撃が発生しているのだ。

「これはッ・・・!気気をつけろ!そこら中に舞っているそれにも、衝撃が入っているぞ!」

 ブルースの言葉に、すぐにその危険性に気がついた一部の者達は周囲のシャボン玉の位置を確認する。決して避けきれない数ではない。だが頭に響き渡る不快な音と痛みの中で、それらにも気をつけなければならないとなると、容易なことではなくなってくる。

 それは守る対象を抱えた者達には更に厄介なものとなっていたのだ。それを如実に受けていたのがオイゲンだった。彼はいち早くそのシャボン玉の危険性に気が付き、マティアスらのように戦えない者達の方へ近づいていくシャボン玉を、素早く発生する光の盾のスキルで守ってみせたのだが、シャボン玉が縦に接触することで破裂し、守るべき対象に追加で痛みを与えてしまっていた。

 要するに、音の振動を閉じ込め運んでいるシャボン玉は、割って防ぐことの出来ないものだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...