World of Fantasia

神代 コウ

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新たな目的地を見据え

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 考えれば考えるほどアークシティへの潜入が困難であることが浮き彫りになっていく。沈黙が多くなる一行に対し、ケヴィンはアークシティのマイナスな面ばかりではなく、プラスの面や楽しめる要素もある事をシン達につたえる。

「暗い話ばかりで気が滅入っちゃいますね。でも嫌なことばかりでもないんですよ?」

「どういう事だ?」

「言葉の通りです。アークシティでは他では出来ない体験や、自分には出来ないと思っていた事でも実現化させるような技術の進化を体験出来ます。私の持ち込んだカメラのようにね」

 多機能を兼ね備えたアークシティのカメラは、生物の形を模して自然界に溶け込むように作られた物もあるようで、ケヴィンが購入したのは潜入捜査に優れた小型の蜘蛛の形状をしたカメラだった。

 大まかな性能は同じだが、大きさや内部容量の違いで値段や様々な機能の違いもあるらしい。小型の種類で言えば、他にもサルの形状をした物もあり、映像を記録するカメラは勿論、戦闘では相手からアイテムなどを盗む働きもしてくれる。

 他にも大型となれば、主人を護衛する用心棒としても使える程だ。勿論戦闘型の中には近接戦闘タイプや遠距離タイプ、更にはアシストサポートタイプもあり、戦闘を行う者達のにとっても良き相棒のように従えている冒険者もいるのだという。

「そうなのか?その割にはあまりそんな奴を見かけないが・・・」

「ははは、そりゃぁいい値段しますからね。それこそ一生物のパートナーになったりもするくらいですから、住居を買うくらいの大出費になりますよ」

「おいおい、そんな物俺達に勧めるなよ」

「でも夢があるでしょ?今はまだ一般には手の届かない値段がする物でも、技術の進化で誰でも手にすることが出来るようになります。それがいつになるかは分かりませんが、アークシティの技術の進化は他の国や街とは比べ物にならない程、早く進んで行ってます」

 話が明るい未来のものになると、技術に興味津々のツバキや未知の未来の話に夢を膨らませるアカリの表情は明るくなっていった。互いに夢の話を語り始める中、ツクヨはケヴィンに話題を変えてくれた事に対し感謝していた。

「ありがとうございます、ケヴィンさん」

「何がですか?」

「みんなの不安を逸らしてくれたんでしょ?」

「そんな事はありませんよ。私はただ、今後この世界に広まっていくであろう未来の話をしたまでです」

「未来・・・」

 ポロッと言葉を漏らしたツクヨの声は、寂しそうで今にも消えてしまいそうな程小さかった。彼がこの世界にやって来た目的は、現実世界で消えた妻と愛娘を探す為だとシンは聞いている。

 どうやら退っ引きならない事情があるようで、彼もまたミアと同じように目的を果たすまで現実の世界には戻りたくないと言っている。そんな彼が想像する未来とは、きっと恐らく妻子と共に描く幸せな光景なのだろう。

 彼らとの出会いで、現実世界では得られなかった絆を手に入れた今のシンなら、彼の失ったものの大きさと辛さが少しは理解出来るような気がしたのだろう。

 そしてそんな思いを胸に秘め、一行を明るく支える彼の強さに感服せざるを得なかった。

「誰もが何処でも安心して暮らせる世界。それを実現させようと頑張っているのも、アークシティの研究者達です。諸悪が何処にあるかは分かりませんが、純粋に未来に突き進む彼らを責める事は難しいですね・・・」

 すると今度は暫く口を噤んでいたミアが、力強い自分の意思を彼らに語る。

「先の事はいくら考えても仕方がない。いくら目標を掲げようと夢を見ようと、それに近づけば近づくほど目を覆いたくなる現実が見えてくるだけという事も、大いにあり得る話だろ。だから今は、邪魔するなら排除する。立ち塞がるなら越えていくだけだ・・・」

 いつにもなく言葉に想いが篭っていた。ミア自身、目標の為に努力し続け、漸く辿り着いた先が、くだらぬ人間関係に左右され、理不尽な待遇を受けるという現実に打ちのめされた過去がある。

 先を見据えた努力の時間が、全てゴミ箱に捨てていただけなのだと思った時、彼女は目の前とその先に広がる未来と現実に絶望してしまったのだろう。

 そんな彼女の言葉に、いつもは茶化しを入れるツクヨも、思わずその言葉の意味やミアのいう分からない未来について悩む事をやめた。

「皆さんの知りたがっていたアークシティに関しては、私の知る限りの事は話しました。正直、内部事情については詳しくは分かりません。私自身、深く調べた訳ではありませんので・・・。後は皆さんの目と肌で感じてもらう他ありませんね!」

「何だぁ?急に語尾を強めて。また難しい話でもしてたのかよ?」

 再び話が暗くなっていく流れを断ち切るケヴィンに、明るい未来の話をしていたツバキが反応する。ツバキとアカリが話すような明るい話をしながら、アルバでの最後の食事を楽しもうと、一行は今度こそ観光地での優雅なひと時を満喫する。

 食事を終えると、今回は事件に協力してくれたお礼だと言ってケヴィンが会計を済ませてくれた。店主と軽い挨拶を交わした後に、店先でケヴィンとはここで別れる事となった。

「さて、皆さんに伝えるべき事は伝えましたし、私はそろそろ別件の調査に戻るとします」

「別件?」

「前に話した、アルバでの失踪事件の件ですよ。ただこっちも殆ど解決に向かっているようですがね」

 宮殿で落ち合う前に、ケヴィンは既にアルバの警備隊に連絡を取り、クリストフの起こした宮殿での事件とは別に、以前からアルバで起きていた失踪事件についての調査を依頼していたのだが、どうやらそちらもクリストフの証言から彼が計画の決行を試みる前の実験として、引き起こしていた事件であった事が明かされた。

 後はその証言が正しいのかどうかの事実確認だけだった。その調査結果を確認する為に警備隊の詰め所へと向かうのだと言う。

「そうか。今回は色々と世話になったな」

「なんの、こちらこそですよ。またお会いする機会があれば、その時はよろしくお願いします。あと依頼があればいつでも連絡して下さい。その時こそ、探偵としての実力を遺憾なく発揮してみせますとも!」

「現金な奴だな。でも頼もしいよ、機会があれば依頼するとしよう」

 ケヴィンは一人ずつとしっかり握手をしながら、一言ずつ言葉を送る。そうして彼らの元から去っていった彼は、雑踏の中へと消えていく。

 彼と別れ朝食を済ませた一行は、ケヴィンの話にあった北の山を次なる目的地として、準備を整える為アルバの街で武具の購入と、各種必要なアイテムの購入をする事にした。
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