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北の山、初戦闘
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変わり映えのしない捜索は、彼らの体感を狂わせ実際に過ぎ去る時間が何倍にも長く感じ始めていた。捜索に手を抜いている訳ではない。ただ一行の口数が減り、一つ一つの作業や行動が精錬されたからなのであろう。
前日よりも早いペースで捜索は続き、まだ日中でありながら登山道に中腹にあたる五合目の目印まで辿り着いた一行。ギルドの隊員らが失踪したのは五合目よりも手前であり、捜索隊はこれ以上先へは踏み入らない。
つまり今回の捜索では、五合目以降ギルドの協力は無いと言う事になる。整備された登山道の方へ戻れば、ギルドの捜索隊が設営する休憩所で夜を明かす事ができる。
陽が沈む度に戻っていては殆ど捜索する時間が確保出来ない。そこで麓のテントから五合目に設営するキャンプ間で、魔力感知を行いながら随時行方を確認しながら範囲内の捜索を行うのが、今回のギルドの捜索隊の任務だ。
協力関係にあるシン達一行とアクセルらは、その範囲の端である五合目のキャンプを借りて更に奥地を捜索する事になる。そこでギルドの隊員の物らしき物や痕跡が見つかれば提供するという約束になっている。
「さぁもう直ぐ五合目だ。登山道も中腹って訳だな」
「まっまだ中腹なのかよ・・・。山ってのは海と違って退屈だし身体の疲労がすげぇな・・・」
「その分、海は常に命の危機を感じたけどね」
「アレはレースだったからだろ?普通の船旅ならそうでもねぇよ」
「レース?アンタ達はあの海の大レースに参加したのか?」
ツバキとツクヨの話を聞き、ケネトはシン達が参加した大海を渡るレースこと、フォリーキャナルレースの事について尋ねて来た。ただの道中の気晴らしか、それともその大きなレースに興味があったのだろうか。
「何だ、アンタも知ってるのか?そりゃぁそうか、世界全土に放送されてたんだもんな。結果くらい見たかよ?」
「いや、噂に聞く程度であまり詳しくは知らない。それに近年はマンネリ化してたんだろ?上位の順位が入れ替わるくらいで、ほぼ同じ顔ぶれが首位を独占するとか・・・」
「かぁ~ッ!勿体ねぇなぁ。今回はその不動の上位勢に食い込んだ、大型ルーキーが颯爽と現れ賞金を掻っ攫って行ったんだぜ」
興奮するように話すツバキに、少し引き気味のケネトはその彼の言う大型ルーキーとは誰のことだと、聞いて欲しそうな顔で語るツバキの期待に応えた。
「その大型ルーキーってのは・・・?」
「よくぞ聞いてくれたぁッ!それは・・・」
ツバキは嬉しそうに自分達の活躍をケネトとアクセルに語り出す。初めは驚いていた二人だったが、ツバキの話は次第に自分の開発した船の話や、造船所での発明の話へとシフトし始める。
丁度ツバキの自分語りが始まったところで、次なる目的地である五合目の目印のついた木の元へと到着する。だがこれまでの場所と違い、周囲の魔力の感知に長けるケネトやシンは、不穏な気配が彼らの捜索範囲内で動いているのを察知する。
「この気配・・・」
「ほう、アンタも分かるのかい?精気とは違った別の禍々しい気配」
「魔物か?」
「そうだ。生命エネルギーの集まる資源の豊かなところには、同時に豊富な魔力や魔力を帯びた植物や動物も生息する。それらを狙って魔物が集まるんだ。ここからは戦闘も考慮して行動する事になるだろうから気を付けてくれ」
これまでの道中が不気味なほど平穏だったという事もあり、すっかり気の抜けていた一行に緊張感が広まる。
捜索の方法についてはこれまでと同じで、シン達のチームとアクセルとケネトのチームで分かれて捜索を開始する。シン達のチームはこれまでの間隔を空けて各々で捜索する形式から、まとまって行動する方法に切り替えての捜索になった。
ツバキとアカリを守るようにシン達WoFのユーザーが前と後ろに着いて歩いていく。戦闘を行くのはシンとツクヨ、そして殿はミアが務めることとなった。
「シンの感じた魔物の気配って、どれくらいの気配だったの?」
「それ程大きなものじゃない。何処にでもいるようなモンスターと変わらない。それに少し妙な気配が混じってる感じだな」
「妙な気配?」
「多分それが・・・」
シンが言葉を続けようとしたところで、その気配について気がついたミアが割って入る。
「光脈の精気、だろ?」
「あっあぁ、気が付いてたのか?」
「そりゃぁここで感じる妙な気配ってなりゃ、光脈の精気しかないだろ。それにアタシには精霊もいるしな」
今は姿を見せてはいないが、いざとなればミアには錬金術のクラスで呼び出せる四大元素の精霊がいる。彼女らの力があれば、山の精気についても詳しく調べられるかも知れない。
「そうだよ!ミアの精霊に聞けば光脈についてもッ・・・」
「待て!何かこっちに向かって来る!」
シンの声に、一行は彼が向いている方向に武器を構えて身構える。すると奥の方から草木を掻き分けて、音が近づいて来る。姿を現したのは、一回り大きな狼の姿をしたモンスターの群れだった。
ゆっくりと正面から威嚇をしながら歩み寄るモンスターと、そこから散開し一行を取り囲むように移動する数体のモンスターが立ちはだかる。
「へッ!何だよ、光脈に引かれて強化されてんのかと思ったが、別に変わんねぇじゃんよ」
「見た目では分からないだけかも知れない。ツバキは紅葉と一緒にアカリを守ってくれ。ミアは全体の援護をッ!」
「了解ッ!」
「任せろ!」
光脈と呼ばれる生命エネルギーを豊富に蓄えた山の中での初めての戦闘。シンの掛け声と共に向かって来るモンスターの群れを迎え撃つ一方で、アクセルらもまた彼らと反対の方角で、モンスターの群れに遭遇していた。
前日よりも早いペースで捜索は続き、まだ日中でありながら登山道に中腹にあたる五合目の目印まで辿り着いた一行。ギルドの隊員らが失踪したのは五合目よりも手前であり、捜索隊はこれ以上先へは踏み入らない。
つまり今回の捜索では、五合目以降ギルドの協力は無いと言う事になる。整備された登山道の方へ戻れば、ギルドの捜索隊が設営する休憩所で夜を明かす事ができる。
陽が沈む度に戻っていては殆ど捜索する時間が確保出来ない。そこで麓のテントから五合目に設営するキャンプ間で、魔力感知を行いながら随時行方を確認しながら範囲内の捜索を行うのが、今回のギルドの捜索隊の任務だ。
協力関係にあるシン達一行とアクセルらは、その範囲の端である五合目のキャンプを借りて更に奥地を捜索する事になる。そこでギルドの隊員の物らしき物や痕跡が見つかれば提供するという約束になっている。
「さぁもう直ぐ五合目だ。登山道も中腹って訳だな」
「まっまだ中腹なのかよ・・・。山ってのは海と違って退屈だし身体の疲労がすげぇな・・・」
「その分、海は常に命の危機を感じたけどね」
「アレはレースだったからだろ?普通の船旅ならそうでもねぇよ」
「レース?アンタ達はあの海の大レースに参加したのか?」
ツバキとツクヨの話を聞き、ケネトはシン達が参加した大海を渡るレースこと、フォリーキャナルレースの事について尋ねて来た。ただの道中の気晴らしか、それともその大きなレースに興味があったのだろうか。
「何だ、アンタも知ってるのか?そりゃぁそうか、世界全土に放送されてたんだもんな。結果くらい見たかよ?」
「いや、噂に聞く程度であまり詳しくは知らない。それに近年はマンネリ化してたんだろ?上位の順位が入れ替わるくらいで、ほぼ同じ顔ぶれが首位を独占するとか・・・」
「かぁ~ッ!勿体ねぇなぁ。今回はその不動の上位勢に食い込んだ、大型ルーキーが颯爽と現れ賞金を掻っ攫って行ったんだぜ」
興奮するように話すツバキに、少し引き気味のケネトはその彼の言う大型ルーキーとは誰のことだと、聞いて欲しそうな顔で語るツバキの期待に応えた。
「その大型ルーキーってのは・・・?」
「よくぞ聞いてくれたぁッ!それは・・・」
ツバキは嬉しそうに自分達の活躍をケネトとアクセルに語り出す。初めは驚いていた二人だったが、ツバキの話は次第に自分の開発した船の話や、造船所での発明の話へとシフトし始める。
丁度ツバキの自分語りが始まったところで、次なる目的地である五合目の目印のついた木の元へと到着する。だがこれまでの場所と違い、周囲の魔力の感知に長けるケネトやシンは、不穏な気配が彼らの捜索範囲内で動いているのを察知する。
「この気配・・・」
「ほう、アンタも分かるのかい?精気とは違った別の禍々しい気配」
「魔物か?」
「そうだ。生命エネルギーの集まる資源の豊かなところには、同時に豊富な魔力や魔力を帯びた植物や動物も生息する。それらを狙って魔物が集まるんだ。ここからは戦闘も考慮して行動する事になるだろうから気を付けてくれ」
これまでの道中が不気味なほど平穏だったという事もあり、すっかり気の抜けていた一行に緊張感が広まる。
捜索の方法についてはこれまでと同じで、シン達のチームとアクセルとケネトのチームで分かれて捜索を開始する。シン達のチームはこれまでの間隔を空けて各々で捜索する形式から、まとまって行動する方法に切り替えての捜索になった。
ツバキとアカリを守るようにシン達WoFのユーザーが前と後ろに着いて歩いていく。戦闘を行くのはシンとツクヨ、そして殿はミアが務めることとなった。
「シンの感じた魔物の気配って、どれくらいの気配だったの?」
「それ程大きなものじゃない。何処にでもいるようなモンスターと変わらない。それに少し妙な気配が混じってる感じだな」
「妙な気配?」
「多分それが・・・」
シンが言葉を続けようとしたところで、その気配について気がついたミアが割って入る。
「光脈の精気、だろ?」
「あっあぁ、気が付いてたのか?」
「そりゃぁここで感じる妙な気配ってなりゃ、光脈の精気しかないだろ。それにアタシには精霊もいるしな」
今は姿を見せてはいないが、いざとなればミアには錬金術のクラスで呼び出せる四大元素の精霊がいる。彼女らの力があれば、山の精気についても詳しく調べられるかも知れない。
「そうだよ!ミアの精霊に聞けば光脈についてもッ・・・」
「待て!何かこっちに向かって来る!」
シンの声に、一行は彼が向いている方向に武器を構えて身構える。すると奥の方から草木を掻き分けて、音が近づいて来る。姿を現したのは、一回り大きな狼の姿をしたモンスターの群れだった。
ゆっくりと正面から威嚇をしながら歩み寄るモンスターと、そこから散開し一行を取り囲むように移動する数体のモンスターが立ちはだかる。
「へッ!何だよ、光脈に引かれて強化されてんのかと思ったが、別に変わんねぇじゃんよ」
「見た目では分からないだけかも知れない。ツバキは紅葉と一緒にアカリを守ってくれ。ミアは全体の援護をッ!」
「了解ッ!」
「任せろ!」
光脈と呼ばれる生命エネルギーを豊富に蓄えた山の中での初めての戦闘。シンの掛け声と共に向かって来るモンスターの群れを迎え撃つ一方で、アクセルらもまた彼らと反対の方角で、モンスターの群れに遭遇していた。
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